水木粗鋼の場合 12
第二十七節
「なんか俺もう、毒気にあてられちまって気分が悪いわ」
思わず橋場がもらした。
「そうだな」
同じくぐったりしている武林。
「有難うございます。では名残惜しいですけど、勝負を付けましょうか」
ジャージ姿となると流石のスク水美少女となっている斎賀も野暮ったい。フレッシュな制服を着こなしている現在の水木とはかなり違う。
「お二人とも、よく聞いて下さい。大事なことです」
ブレザーに促されて仕方なく身体を起こす。
美少女二人と男二人がテーブルを挟んで向かい合う様な恰好となった。
「「メタモル・ファイト」は、始めるのは簡単なんですが、終わり方は結構ややこしい法則が沢山あります」
キリッとして真面目な口調になっている水木…であるブレザー美少女。
普通に高校生の女子と話している恰好なので照れていいんだか何だか分からない。
「相手の精神を折るのが条件ですよね?」
これはジャージ斎賀。
「勿論それもそう。それが基本にして第一です」
「…それ以外もあるのか?」
「結論から言うとあります」
女子高生の瞳が光った気がした。
「…あのさあ。出来たら元に戻って男の状態で話してくれないかな?どうも落ち着かん」
「そうですか?せっかくだから可愛い女の子の方がいいんじゃ」
男の自分が見苦しい自覚はあるのか。
「中身が男と知ってる以上見た目が若い女の方が落ち着かねえよ」
「むーん、でもそれって差別ですよね?」
「先天的に問題ある人はそりゃ気の毒だとは思うが、少なくともお前は違うからな。差別だとは全く思わんね」
「古いなあ。まあいいです。戻るにしても説明がてら戻るからもう少し我慢してください」
第二十八節
「さっきも話が出ましたが、メタモルファイトは『敗北条件』がまずあって、どちらかが『敗北』したことで自動的に反対側が勝利となる…という論理で決着します」
「…そりゃそうだろ」
「あ、いやこれは結構違いますよ」
何故かメガネのままのジャージ美少女斎賀がメガネをくいっと上げる。
「乱暴に言えば『脱落型』ゲームは自分以外が全員脱落する…つまり『敗北条件』が満たされることで『勝者』が確定します。大勢でしりとりをした時を想像してください」
「…はあ」
「それに対して『勝利条件』が設定されている場合は『勝者』が先に決まります。スゴロクで先に上がれば勝ち…と言う具合ですね」
「その通り。流石ですね」
「それで?」
「メタモル・ファイトは前者にあたります。つまり対戦相手が『敗北条件』を満たしたならば相対的に自分が勝利となります」
「…分からんな。相手を屈服させるんだったよな?精神的に。それをやるのはどうせ自分なんだから同じことなんじゃねえの?」
「あくまでも基本はそうなんですが、『敗北条件優先』なので、攻める側が「まだまだ」と思っていても、対戦相手が「もう駄目だ」と思えばそこで終了しちゃうんです」
「はあ、なるほど」
そういえば思い当たることがある。
これまでは相手構わず女にして唇を奪っては来たが、今日試したところではスカートをめくるだけで試合が終了した。『敗北条件を満たす』ってのはそういうことか。
(続く)