水木粗鋼の場合 07
第十七節
冷めた目で出来レースを見ている橋場。
「ん…はぁ…あああっ!」
なーにが「はぁ」だっての…と思った。自分だって食らった時は似たような声が出てしまうもんだが、こいつは自ら望んでお願いしてるんじゃないか。
斎賀のセンスは流石で、あちこちに汗じみが浮き出し、小汚い服が塩を吹いてぴっちぴちに引っ張られていた様なみっともない身体がみるみる内に縮んでいく。
見慣れた光景だが、いつもならば「乳房が飛び出す」格好になるのが、「身体がしぼんで行って乳房が残る」形になったのが新鮮だった。
斎賀の能力は変身後が「ショートカット」なので髪は思ったほど伸びない。だが、「ショートカット」というのは、単に髪が短いというものではない。あくまでも「短い髪の女の子の髪形」なのだ。
見苦しいデブだった水木は、今や似合わない薄汚くダブダブのオタクファッションを無理やり着せられて、くりっとした瞳できょとんとする美少女となっていた。
そこから、「黒ベストに赤いネクタイ、黒のプリーツスカートのブレザー」への変身模様の描写は省略する。
「わあ…わあああああっ!」
目をキラキラさせて身体を見下ろし、ひねってお尻を見下ろしたりスカートを広げたりしている水木。
「む~ん…やってることはいつもと同じなんですが、やっぱり張り合いが無いですな」
不謹慎なことを言う斎賀。
きゅっ!と小首を傾げてにっこりしながら自分を指さす水木。
「どうです?ボク、可愛いですか?」
「…そりゃ、そういう風にしましたから」
第十八節
「有難うございます!有難うございます!」
まるでグラビアアイドルみたいに両手握手を求めてくる水木。
「ちょ!ちょっと!」
メタモルファイト中のメタモルファイターと気楽に握手をするバカはいない。少なくとも何度も試合を経験しているメタモルファイターなら反射的に避けるに決まっている。
「あ、ごめんなさ~い!でも大丈夫!変えようと思わないと変わりませんから!」
物凄くハキハキと爽やかに話す水木。
天真爛漫という表現がぴったりの爽やか美少女だ。よくよく見るとさっきと挙動は変わらないのかも知れない。なるほど彼に関して言うならば、「器」の問題は大きいのかも知れない。
事情を知らなければまるで撮影で制服を着たグラビアアイドル並みの可愛らしさなのだ。
「えっとですね!えっとですね!写真!写真お願いします!」
一瞬ムカつくのも忘れるほど可愛らしく荷物を漁って、デジカメを取り出して来る。
一挙手一投足が「美少女となっている自分」への自信と誇らしさが滲み出る様だ。
「はは…水木さん嬉しそうですね…」
若干引き気味で冷や汗が流れている斎賀だった。
「はい!嬉しいです!」
弾けるような笑顔だった。
場の空気が一気に明るく爽やかになる。これが先ほどまでのデブだとは到底思えない。
なるほど高度消費社会たる現代日本において「美少女である」というのは絶対的なアドバンテージであるらしい。少なくとも「冴えない男」との差は歴然だ。
ここまで付き合わされた斎賀は、電池の心配をするレベルで大量に撮りまくった。
ぶりっ子ポーズは勿論のこと、きわどくセクシーに見えかねないショットまでだ。
(続く)