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真珠の実  作者: 秋花
閑話
9/14

真珠の道筋

 今日は我らが姫の誕生した日。

 予想以上に増えてしまった意志を導くための愛し子だ。

 よって、形は意志と同じ形にする。まずは意志が何を望むかを知るためだ。意志の中にとけこめるように丁寧に、美しく作った。我ながら己の才能が恐ろしい。最高傑作である。うっかり生殖器もつけてしまったが、問題はないだろう。

 あとは知識を詰め込むだけだが、悲しいことに我は忙しい。よって、その役割は意志たちに任せることにする。

 運命は何にもわからず、(ゆだ)ねるのみだ。

 できれば、それが我々にとっての愉悦であることを祈る。





 ――起きて起きて。

 ――早く早く。

 木がざわめく。風が囁く。

 巨大な真珠の殻を割れと声をあげる。

 パキ、とひび割れた音が世界を揺らした。

 ――生まれる。

 それは喜びで。

 ――変化を及ぼす生命が。

 それは戸惑いで。

 透き通るほどに白い手が、すべらかな白陶に入った亀裂から外へと生まれ出でた。

 指先から水を滴らせながら、自身を守ってきた殻を宙へと振り落とす。

 また一本、見事外界へと顔を出した腕の片割れが殻の隙間から覗いた。パキ、と押し出した殻が大きくのけぞり外側に剥ける。

 腰まである白い髪で顔を覆った、眩しいほどまでの美しい裸体が殻の外へと這い出た。

 白い吐息が洞窟に木霊する。

 赤子のような白く瑞々しい肌に、細くうねる白髪がはりついているのが神聖な色香をかきたてた。

 見苦しくないほどにある二つに実った果実。女性特有の細い腰つき。それは、まるで偶然できた美しい彫刻のように完璧だった。

 カリカリと風で飛んできた石が地面に傷をつけた。できあがった幾つもの傷は文字のように見える。

 傷一つない白い指が、地面にできた文字をなぞるように動いた。

「おは、よう……。わたしたちの、いとしいむすめ……」

 地面に描かれた文字を呟いて、白い少女は嬉しそうに笑う。

 銀色の瞳は砂のように柔らかく細められた。

「――おはよう、みんな」


 こうして、真珠は生まれた。






 ――右に果物が実ってる。

 ――左に行っちゃだめ。崖があるよ。

 ――今日雨が降るから外でちゃだめ。

 ――木に登ってみて、綺麗な虹が見えるよ。

 ――この果実、毒がある。食べてはいけない。

 自然は全てを教えてくれた。

 少女が道を歩けば、少女が楽しむものを全てくれた。

 何も変わらない日常。何も変わらない優しさ。

 少女はその毎日が楽しかった。変化があるということすら知らなかったがゆえに、少女は変化を求めなかったのだ。

 そんなある時、白い少女は出会った。己の運命の分かれ道を作ったといえる偶然に。

 初めて、人間と顔を合わせた日だった。

 もちろん、少女は驚いた。そして喜びに花を咲かせた。


 あなたは何? 王? どこから来たの? あ、わたし? わたしはここにいるの。ええ、ずっとよ。あら、これは何? 服というのね、くれるの? ありがとう。


 初めて会話した男性はとても可愛らしかった。

 少女の美しい姿を見るなり、すぐに赤面をしたりで初々しい。

 どうやら偶然迷い込んだらしく、従者が見つけてくれるまでここに置いてほしいとまで言われた少女は喜んで了承した。

 それからは驚きの毎日だ。

 青年は数え切れないほどに少女を驚かせ、笑顔にさせることに長けていた。

 最初に出会ったころにあった王という殻はそこにはなく、自由に伸び伸びと生きる少年のようだとも思える。

 いつしか、少女は青年を愛するようになっていた。


 そんなあるとき、青年は告白した。

 私は貴女を愛してしまった。どうか、共に来てはくれないか。

 共にということは、この森を、少女を愛する森を離れるということ。

 もちろん、少女を第一に思っている森は少女を引き留めた。行ってはならない。外は危険だと。

 しかし、少女もまた青年を愛してしまった。

 外の世界を知ってしまった今、少女を止められるものはどこにもいない。

 森に立ち去ることを伝えた少女に、風は静かに責めた。

 ――愛しい子よ。あなたは後悔する。

 後悔などしない。わたしが幸福を求める限り、幸福は途切れることはないのだと少女は笑った。

 しかし、水は線を描き、少女の言葉を否定する。

 ――いいや、後悔する。それがあなたの運命。

 木は木の葉を散らして、風はそれを正しい場所へと運ぶ。

 ――人間が異物を受け入れることは難しい。

 いくつかの小石が地面に転がり、文字の形に固まった。

 ――辛くなったら帰っておいで。我々はあなたをいつでも歓迎する。

 ――――いつまでも。

 少女はその言葉だけでも嬉しいと微笑み、森に背を向けた。


 その後、少女は王であった青年の妃となり、二人の子を産んだ。傾国の美を持つ王妃と噂される少女は、その慈愛の精神で人々に慈しまれた。

 後に、人々は言う。

 あれほど恐ろしいまでの美しい女は、どこにもいないだろうと。

 一先ず先にこれ投稿しときます。道筋の話は一旦ここでおしまいですが、後々にまたでますのでよろしくお願いします。

 亀更新ですが、それでも読んでくださる方に感謝です。

 一週間後に本編前半を予約投稿しときましたが、理由は後編がまだ書き終わってないからなんです。作者の都合で申し訳ない……。

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