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リンクライン  作者: 伊月
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Episode__10

 常から膨大な数の利用者を抱え比類なき賑わいを見せている中央会館、冒険者ギルドの本部だが、今日はいつにも増して酷い混雑具合だった。


 凶報に職員が慌ただしく動き回り、それを見た冒険者が何事かと状況の説明を求めて受付に詰め寄っている。中には薄々事情を察している者もいるのか深刻な表情で仲間と話し合いをしている所もあった。


 怒号が乱れ飛ぶ中、俺は建物の片隅に置かれた長椅子に腰を下ろしてこの様相を招く原因となった出来事を思い返していた。


 数時間前に発見したあの血みどろの光景。初めて見る人間の死体とその惨たらしさに呆然と突っ立っているしかできなかった俺に対し、フィオナはさすがの行動力で迅速にギルドへと連絡を入れた。ウィンドウを介した通信には距離制限があるため直接会館の方に乗り込んだのだが、戸を比喩でなく蹴破って登場した彼女の姿はその場に居たものに強烈な印象を与え、事の重大さを伝えたに違いない。


 ――冒険者六名がイレギュラーとの戦闘により死亡。


 彼女が受けていた依頼はそれなりに大規模で、高ランクの実力者のみを対象としたものだったと言う。それが突然の全滅。平和な街に衝撃を与えるには十分な内容だった。


 フィオナの調査によると、死体の損壊状態などから見て敵対したのは大型の肉食獣であり、特に可能性が高いのは獅子に似た形状のモンスターである〈ヴァイス〉だそうだ。群れに奇襲を受け、ろくな抵抗も許されずに殺されたというのが彼女の見解だ。


 以前、ギリアムとの会話の中でも出てきたそれは、人間的に言えば大体レベル20相当の力を持っている。そのような強力な個体は本来森の奥深くに住んでいるはずなのだが、最近の生息域変化の影響がここまで出てきてしまったらしい。


 死亡した六人がギルドの警告を無視し、対策を怠っていた訳ではない。


 むしろ彼らはその話を誰よりも熱心に聞いていた。装備を整え、変化した危険地帯について情報を集め、その上で依頼に当たっていたと証言も出ている。


 問題は、異変が準備を凌駕していたことだ。


 今まではいくら何でもヴァイスのような敵が森の隅にまで出てくるといった話はなかったのだ。そうであればもっと事は大きくなって、早急に討伐隊が組まれている。


 事態が加速している。


 原因が分からないそれのことを考えてみるも、つい先日まで平凡な高校生をやっていた俺が何かを閃くわけもなく、ただ焦りだけが募っていく。苛立ちから人差し指でこつこつとテーブルを叩いていると、ふと背後から近づいてくる気配を感じた。


「や、ずいぶん大変な目に合ったみたいだね」


「クロノ……」


 街中を歩き回っていたからだろう、戦闘用のローブではなく、こちらに来てから購入した布の平服に身を包んだクロノが俺の肩を叩いてくる。


 隣に座りつつ、どこかで買ってきたらしい飲み物を渡される。礼を言って一口含むと熱く苦い液体が喉を通っていった。この味は確か、精神安定作用があるとされるお茶だったか。


 その効能によって、というよりはその気遣いによって俺は多少落ち着きを取り戻した。


「で、メールで送ってきた内容は全部本当なのかい?」


 できれば嘘や冗談の類であってほしい。そんな感情のこもった問い掛けに、俺は時間の経過と共に混迷具合を深める冒険者たちを示すことで応えた。クロノは疲れたような溜息を零し、指で眉間を揉んだ。


「まったく、ようやくこっちでの生活が落ち着いてきたと思ったのに……なんでこう次から次へと問題が起きるのかなあ」


 心の底から同意する。波乱万丈な人生は第三者の視点だからこそ楽しめるものであり、自分がそうなるのは面倒以外の何物でもない。波に呑まれた状況を楽しむような人種もいるにはいるのだろうが、少なくとも俺たちはそれに当てはまらない。


「ギリアムさんに軽く話を聞いただけだけど、ギルドの上層部は大分慌てているみたいだよ。前々から噂されてた大規模討伐部隊の編成を急いでる」


「まあ、そうだろうな。これ以上放っておいたらそれこそ街にまで押し寄せられかねない。俺たちの扱いについてはなんて?」


「分からない。忙しそうだったからね、あまり引き止めてはおけなかった。けど多分どこか適当な部隊に組み込まれるんじゃないかな」


「独立して裏で暴れ回るんじゃなくてか?」


「そうすれば確かに戦況は変わるだろうけど、それこそモンスターが追い立てられるように動くだろ。下手な無双は混乱を呼んで余計な被害を出すだけだよ」


 相方の冷静な判断を聞き、奥歯を噛む。レベル87といえど所詮は個人。単にモンスターを殲滅するだけならばともかく、街全体の守りを気にしながら戦う力はない。


「仮に人目を気にせず広域殲滅魔法を連発したとしてもなあ、やっぱり微々たるものだよ。そもそもMMORPGってのは一人のプレイヤーが何でもできるような万能さを持たないようバランス調整されてるんだから」


「結局、ギルドからの指示を待って動くのが一番いいってことか」


 きっとギリアムならば、俺たちなどよりもずっと戦いに慣れている彼ならば効率的な駒の配置を行ってくれる。今はそう信じるしかない。


 それからさらに数時間を俺たちは会館の中で過ごした。俺が外に出ている間クロノは例の調べ事をしていたはずだが、どうしても目先の面倒事に注意が向く状態では成果を聞き出す気にはなれず、手元の茶をちびちびと啜りながらギルドの動きを待った。


 やがて職員の一人が出てきて簡単な状況説明を行い、同時に、四日後に動ける人員全てを投入する大規模作戦の発表がなされた。ちなみにこれに関して今現在ハイムズに居る冒険者に参加拒否権はない。滞在中の都市で大きな問題が起きた場合は必ず助力するようにと、登録時の誓約条項に記されているのだ。


 街に近づきつつあるモンスター全てを討ち取り、強引に侵攻を止める。あまりにも暴力的な、けれど確かに効果の期待できる手段だった。


 それ以外の方策がない、とも言えるが。



     ▼



「ではこれより、三日後の作戦に関しての説明を行う」


 翌朝、俺たちは再び中央会館へと集まっていた。理由は今しがた部屋の前方で指揮官――ギリアムが述べた通り、件の作戦について細かいところを詰めるためだ。


 会議室にはおよそ三十人といった数の冒険者が席についている。作戦参加が強制である以上はこの会議も強制なのだが、パーティーを組んでいる場合は代表者一人を出せば構わないことになっているため実質的な人数はこの二、三倍程度と見ていいだろう。


 あとは国に所属する兵士と、外部に依頼を出して集めた冒険者を加えてハイムズの全戦力だ。無論、作戦中に街を空にするわけにもいかないためその全てを当てられる訳ではないが、それでも数百人規模の人員が動く。


 ゲームでも多人数が参加するイベントはあったものの、ここまでの規模となるとさすがに数えるほどの経験しかない。俺は正面のボードに張られた周辺地域の地図をやや緊張しながら見つめた。


「やることは単純だ。森の外側に出てきたモンスター共を全て討つ、それだけだ。連携訓練なんてしている時間はないからな、無理に足並みを揃えようとするよりは各々の考えで動いてもらう方が効率がいいと判断した」


 指示を出すのは担当する区画のみだ、そう言って指示棒で正面の地図を叩く。A、B、C、とほぼ等間隔に並ぶアルファベットの位置がその担当とやらを示しているのだろう。


「それぞれ二パーティー、十人程度を目安に入ってもらう。それぞれの実力と戦闘スタイルを考慮してこちらで決めた。質問があれば手を上げてくれ」


 ギリアムの指示により部屋の隅に控えていた職員たちが用紙を配り始める。回ってきた一枚を眺めてみると、どうやら編成表のようだった。コピー機による印刷ほど便利ではないが、写本用の魔法というものがあるから多分それでつくったのだろう。グループ別に名前と、それからランクに主要武器について記されている。


 上から順に見ていき自分の名前を探す。Fグループの欄で見つかった。西洋風世界観の中で日本語とアルファベットが混じって記載されている様は何となく違和感を覚えるものの、今はそんなことを気にしている場合ではない。


 パーティー登録をしているクロノがきちんと同じグループに入っていることを確認し、俺は他に誰が入っているのだろうかと視線を走らせた。どうせ知らない名前が並んでいるのだろうと思いながらの行動だったが、なんと、その内の一人はフィオナだった。


「ふうん、彼女と同じグループか。そういえばユト、昨日はフィオナさんと一緒に居たんだよね。どんな感じなんだい」


「強いよ。レベルはともかく、身のこなしは攻略組と遜色なかった」


 偶然か、それともギリアムが手を回したのかは知らないが、彼女と共に動くならば何も心配はいらないだろう。そう安堵しつつ俺は再びリストに目を向けた。フィオナの他はやはり見覚えのない者ばかりだ。とりあえずは戦闘スタイルだけ覚えることにして適当に眺める。


 そうやって最後の欄を見ようとした、まさにそのとき。


「質問がある」


 後方からそんな声が上がった。


 聞き覚えのありすぎる声だった。


「何だ、ウェスリー。編成に不満でもあったか」


 恐る恐る背後を見てみると、あからさまに機嫌の悪そうな顔をしたウェスリーの姿があった。用紙を叩き示し、怒りのこもった口調で問い掛ける。


 今度は一体どんな面倒事を持ち込んでくるのだろうか。半ば反射的に身構えるが、俺の予想は意外にも外れることとなる。


「ええ、大有りです。なぜ我々のチームにたったランク2の冒険者が名を連ねているのか、理由をお聞きしたい」


 相変わらず他者を見下している風なところはあるものの、それは思いの外まっとうな問いだった。


 実力差の大きい人員で組まれたパーティーは弱い。レベルの低い人間が足枷になるのだから、これは至極当然の事だ。性格に難があるとはいえウェスリーの強さは確かなものであり、この大事な作戦においてそのようなことをする意味が分からない。


 さすがにレベル30と同格の冒険者は存在しないにしろ、それに近い実力者をつけるべきではないのだろうか。ランク2と言えば、こう言ってはなんだが初心者に毛が生えた程度のものでしかない。


 会議室がざわめきに包まれる中、しかしギリアムは何でもない事のように「ああそのことか」と頷いた。


「問題ない。彼らは最近登録を行ったばかりでな、ランクは低いが腕は確かだ」


 ざわめきがさらに大きくなる。


 へぇそんな人が居るのか、と俺はぼんやりと彼の言葉を聞いていた。隣でクロノが何やら納得したような様子を見せているが、もしかして誰だか知っているのだろうか。


「低ランクで実力者? そんなもの――」


「証拠ならあるぞ。というより、つい先日、お前のとこのシーフが決闘で負けた相手だ」


「……ッ!」


 最近ギルドに登録して、実力はあるけど実績がないせいでランクが低くて、ウェスリーの仲間と決闘した冒険者か。そんな奴が俺以外にもいたとは驚きだ。


 何故だかウェスリーが物凄い形相でこちらを睨んできている気がするが、きっと見間違いだろう。


 クロノが憐れむような視線と共に優しく肩を叩いてくるのも気のせいに違いない。


「いや、諦めて現実と向き合いなよ」


「駆け出し冒険者の設定とかどこ行った……」


 思わず呟いた愚痴に相棒が、いや君のせいだろ、自業自得だろ、と容赦のない突っ込みを入れてくる。言い返せないのが痛い。


 俺は深く、深く、本当に深い溜息をついてのろのろとギリアムの方へと視線を動かした。


「配置の変更を求める!!」


 ウェスリーが失礼極まりないことを叫ぶが、気持ちとしては俺もまったく同じだった。奴と共同で戦うなど想像すらできない。さすがに背後から襲われることはないと信じたいが、少なくとも息の合った行動というものは絶望的だろう。互いに互いをお荷物扱いするような険悪な道中が簡単に頭に浮かんだ。


 しかしギリアムは訴えをあっさりと撥ね返した。


「許可できない」


「なぜだっ……!?」


「レベル帯を合わせる都合上だ。お前たちのパーティーに合わせられる強さで、かつ人数的にも十に近くなるようにと組み合わせた場合これ以外にない。ずいぶんと仲が悪いみたいだが、まあ、その辺りは冒険者を名乗るなら適当に折り合いをつけろ」


 いきなり親友になれとは言わないが、足の引っ張り合いをしないくらいは簡単だろうと。


 プロ意識を刺激する言い方にウェスリーは悔しそうに黙りこみ、俺も渋々ながら了承する。奴の取り巻きも露骨に舌打ちを零すなどの悪態はつくものの、ギリアムの睨みを受けると慎み深く沈黙を守った。


「他に、編成について疑問のある者はいるか? ……居ないようだな。では次に各ポイントに現れると予想されるモンスターについて知らせておく――」


 その後、会議は特に問題が起きることなく淡々と進み一時間ほどで終わりを迎えた。


 グループごとで顔合わせをしておくようにという指示に反しとっとと部屋を出て行ったウェスリーの背を見送りつつ、椅子から立ち上がって大きく伸びをする。


 大口を開けて欠伸をしていると背中を軽く叩かれる感触。振り向くと、透き通るような蒼い瞳と目が合った。


「フィオナか。どうしたんだ?」


 問い掛けると、隣でクロノが呆れたように溜息をついた。


「どうしたって、顔合わせしとけって言われたばかりじゃないか」


「ああ、そっか。フィオナも同じグループなんだっけ。すっかり忘れてた」


「……すごく自然な表情で酷いこと言うわね」


 いや、ウェスリーの件が衝撃的過ぎてつい。


 ツンと顔をそむけて拗ねる姿に微笑ましさを感じつつ謝罪する。すると彼女は不安そうに目を伏せ、懸念を口にした。


「大丈夫かしら、三日後」


 何を指しての事かは、もはや言わずとも分かる。


「んー、僕は道具屋のときも決闘のときもその場にいなかったから彼の事をよく知らないんだけど。ギリアムさんがそうしたってことは、大丈夫ってことなんじゃないかい?」


 いささか楽観的なようにも思えるが確かに一理ある。決闘の件について触れていたのだ、俺と奴の衝突を忘れていた訳でもあるまい。その上で、居候二人だけでなく、実の娘であるフィオナをもメンバーに加えているという事は問題が起こらないと確信していなければできないはずだ。


「まあ確かに、ウェスリーは強さを笠に着る分、その源になってる冒険者業に関しては真面目に取り組んでいるのよね」


 命のかかった仕事の中で協力できない輩は三流と蔑まれても反論できない。完璧主義的な思想を持っている奴のプライドがそんなことを許すはずはない。


「なんだか疑念が一周回って信頼に変わったような歪さだけど、とりあえず依頼遂行中に不意打ちを受ける可能性は低いってことだね」


 一先ずそのような結論に落ち着いた。


 対モンスター戦よりも先に仲間内の裏切り行為を心配とは、どこか皮肉な感じがするが。


「まったくだね。じゃあ次は、もう少し建設的な話をしようか」


 くいっ、とクロノが気持ちを切り替えるように眼鏡のブリッジを指で押し上げる。


 提案は、今のうちに互いのできることをある程度教えあっておこうというものだった。ギリアムの言っていた通り今から息を合わせる練習をしている暇はないが、事前におおよその強さや戦闘スタイルを把握しておくだけでも大分異なってくる。


「情報の共有か……うん、そうね、賛成だわ。ユトを見る限り、私が考えていた以上に色々とできるみたいだし。駆け出しの冒険者だなんて信じられないんだけど……」


 派手にやらかした俺を怪しんでいる、というよりは単に疑問に思っているような表情でフィオナが尋ねてくる。


 あまり突っ込まれたくない話題だ。さてどう返答しようかと思案を巡らせていると、それよりも早くクロノが対応した。


「別に嘘はついてないさ、登録から一ヶ月も経っていないルーキーだよ。ただ僕らの生まれた村には隠居した騎士が住んでいてね、彼に無理を言って訓練をつけてもらっていたんだ」


 肩を竦め、


「それで、ある程度強くなった自信ができたからユトと二人で村を飛び出てきたんだけどね。初めての旅に悪戦苦闘している内にゴブリンの群れみたいのに出会っちゃって」


「逃げていたところを父さんに助けられた?」


「そういうこと」


 しみじみとした語り口に、危うく張本人である俺までもが「ああそうだよな、あのときは大変だったよな」と有りもしない苦労を振り返ってしまいそうになった。


 ゲーム能力がなくてもその口だけで生き抜けそうな演技力には感心すればいいのか呆れればいいのか。とりあえず今後なにか交渉事があったなら全てクロノに丸投げしようと決めておく。


「ま、昔語りはこの辺にしておいて。本題に入ろう。僕は普段の格好を見てれば分かるとは思うけど、魔術師だ。得意なのは攻撃魔法。レベルは――」


 一瞬の間。


 冒険者は普通、具体的な数字を他者に明かさない。自分たちの戦力を正確に把握されては狙われる危険性が増えるためだ。よってクロノは「ユトと同じくらいと思ってくれればいい」と答えるに留めた。


「と、いうことは結構期待していいみたいね」


 フィオナが感心したように言う。意外と俺の力は高く買われているらしい。


 怪我の功名だが、悪目立ちしない程度に認められるのは自由に動ける幅が増えるという意味で良いことだろう。


「使える属性は?」


「下級魔法なら一応は全部。中級は今のところ火属性だけだね」


「優秀なのね」


「器用貧乏なだけさ」


 肩をすくめて言うが、全七種ある主要属性魔法スキルのうち実に三つの熟練度を限界まで育て上げ、残りもそれに迫る値を出している男をそんな風に表すとこの世の魔術師は全員が初心者以下になってしまうだろう。


 本人曰く使える魔法の幅は増えてもレベルの低さから威力が出ないとのことだが、69という数字は最前線以外の場所ならば力不足はあり得ない。


 しかしそんな事はおくびにも出さず、クロノは笑顔を張り付けたまま質問を返した。


「それでそっちは、銃を使うんだっけ?」


「ええ。専門は狙撃なんだけど、今回の森みたいな場所では射程の短いものを使ってるわ。パーティーを組んでいるときは基本的に後方支援に徹してる」


「うん、かなりの腕だって聞いてるよ」


 それから銃の威力や持ち込める弾丸の数、魔法の刻まれた特殊弾についてなどの説明を受け、次はいよいよ俺の自己紹介の番となったが――よくよく考えるとフィオナとは昨日一緒に戦った際にある程度の事は伝えているし、クロノについては今更だ。


 特に語ることもなく、少し寂しいがそのまま話を進める。


「現地での動き方も決めておかないとな。といっても三人だから大して悩むことでもないか。剣士と銃士と魔法使い、そのまま前衛中衛後衛でいいか?」


「ええ。ウェスリーの方も勝手に動くだろうし、問題ないわ」


 その後も俺たちは会議室が閉めきられるまで延々と話し合いを続けた。集団戦や奇襲時の対応など、様々なパターンを想像する。実際の戦闘でそれを思い出す余裕があるかといえば正直怪しいものの、ゲームとは違うセオリーで物事を考えるフィオナの話が興味深かったため止め時を見失ってしまったのだ。


 わいわいと、効率的な敵の殺し方といった物騒な内容に反し意見を交わしあう俺たちの表情は明るかった。


 けれど、それはきっと表面上だけのものであって。


 本音では、すでに六名もの死亡者が出ているこの事件に、皆恐怖を感じていたのだと思う。


 俺たちはレベルが、基礎能力値が高い。例え森の真ん中で何もせず突っ立っていたとしてもHPバーが削り取られることはないだろう。


 そう、理屈では分かっている。


 けれど俺の頭からはあのときの、血塗れた光景がこびり付いて離れなかった。


 いつあの死体の首が自分の、あるいは仲間のそれに変わってもおかしくないのだと、改めてこの世界における命の軽さを突きつけられた気分だった。


 恐怖に囚われてしまわないよう、そっと、拳を握りしめる。


 大規模討伐開始まであと、三日。

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