一話「地獄行き」
ほら、なんか最近流行ってるやつ。あれなんだったかな。なろう系?って言うんだったか。
死んだら異世界に転生して、剣と魔法で無双するとかなんとか……最近のアニメのほとんどはそんな感じらしいじゃないか。まぁ、詳しいことは知らないが。
部下にそういうの好きなやつがいて、そいつと飲みに行った時に色々聞いたっけな。
飲んでた時に聞いた話だから記憶が曖昧で、詳しく聞くことも、もうできない。その部下はこの前に退職したからだ。
「ちょっと寒いな。」
真夜中の、東京の夜景を初めて観たあの日を、よく覚えている。
会社に入ったばかりの頃、残業で夜遅くまで仕事して帰る時に、会社の窓から星空のような夜景を眺めた。
しかし、回数を重ねるごとにその星だと思っていた光というものが、人々の苦しみによって成り立っているものだと分かって。いつからか声が聞こえてくるように感じ始めて。そして今じゃあ、この景色はいわゆる地獄絵図というものである。
あの日よりもずっと高い、会社のビルの屋上から見る景色は、それはそれは恐ろしいものである。
そして俺は、そこに今から飛び込もうとしているというわけだ。正しく表現するのであれば「飛び降りる」ことになる。
「─────────さっさとやるか。」
あいつのなろう系ってやつの話を聞いて、それがここ最近ずっと頭に残っていた。
死んでから、ここじゃない場所で、思うがままに、自由に生きる。
そう、きっと俺は『異世界転生』に希望を抱いている。自分がそんなふうになれたら、なんていう幻想を、本気で抱いているのだろう。
そして俺は、いつかの星空へ飛び降りた。
次に目が覚めた時、目の前に広がっていたのはどこまでも白い空間だった。
「ここは…………どこだ……?」
右も左も、上も下も、本当に、何も、何もなかった。そこにあったのは絶対的な『無』のみであり、その中に自分は漂流したような感覚である。
「あぁ、もう起きていたのか。あと一秒ほど後に目覚めると記憶していたのだが。」
そこに現れたのは、これまた真っ白な服に身を包んだ、真っ白な青年……ちょうど自分が元々向いていた方向の正反対、つまりは俺の後ろに彼は現れた。
「お前は、一体誰だ…?」
右も左も、上も下も、そして目の前の男ですら真っ白で、ここが、そして目の前のこいつがただならぬものであることは直感的に分かった。これは明らかに異常な光景だ。
「オレか?そうだな、なんと説明するべきか……まぁ、ひとまず大天使ということにしていてくれ。死んだお前の魂の行き先を、オレが決めることになっている。」
大天使と名乗った男は懐から一冊の分厚い本を取り出す。言うまでもなく、真っ白な本を。
「悪趣味だな。」
無意識に、口から出ていた。気づけばそれを口にしていた。それが、俺の過ちの始まりだった。大天使が現れて、魂の行き先を決めると言ったあたりから俺は異世界転生を期待していた。しかし、それは叶わない。
「…………自殺、及び不敬の罪で地獄行きだ。罪人よ、地獄に落ちろ。」
そう、俺の魂の行き先は『地獄』だったからだ。




