あとがき
■あとがき
まず最初に申し上げます。
成熟し、真っ当な判断力を有し、自らに責任を負える大人となったあなたは、このあとがきは、読まないほうがよろしい。
ここで引き返してください。
作者からの老婆心です。
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この物語は、もちろん、アサギという、二百年以上を生きる妖怪のような少女を描いた物語です。
しかし、そのモチーフは、人魚姫でした。
何かと引き換えに、一時の恋を得る。
では、人魚姫は、なぜ声を失わなければならなかったのか。
なぜなら、声は、届いてしまうからです。
そう、その、想いが。
届いた瞬間、それはひそやかで一途な恋ではなく、大人の駆け引きになります。
だから、本当の恋をするために、声を失わなければなりませんでした。
同じように、膨大な経験で合理的な判断が可能な、アサギは――あるいは、大人であるあなたは――本当の恋はできません。
説明不可能な衝動に身をゆだねることができません。
湧きおこるような情熱に身を焼かれることもできません。
海の底に沈む人魚は、老いを得て衝動も情熱も失った、あなたです。
人魚姫は、王子の幸福のために、泡となって消えました。
アサギの情熱は、初恋の人の幸福のために、泡となって消えました。
ともに、『隣国の姫君』あるいは『リョウコ』という、記号のような存在に、大切なものを奪われて。
あなたから情熱を奪ったものは、もはや記号でしかありません。
抗い戦う対象でさえありません。
あなたが、『経験を積み上げながら生きてきたこと』、そのものだからです。
そう、あなたは、エンディング後の、人魚姫。
ただ『生きる』という記号に、何もかもを奪われた、アサギ。
さて最後に。
あなたは、リョウコという『隣国の姫君』に、何を見たでしょうか。
もう一度だけ、引き返す余地を与えます。見ないで去ってもよいです。
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もし、リョウコが、その前世を、誰にも――ハルキにさえ――秘密にしている、カノコだったら?
……さあ、もう一度、ゲートポータルへ戻って。三つ目のゲートが、あなたを待っています。物語の意味が反転する恐怖を、どうぞお楽しみください。




