006 初回に習い覚えた技
ようやく冒険者として踏み出します。
「おう、クリス。これなんかどうだ?」
クリスこと俺、海野隆人は無事にザンビアナからの脱出に成功し、今は隣国ヨリダムの国境近くにあるキッチュという町に滞在していた。
そのキッチュの冒険者ギルドで仕事の掲示板を眺めていたら、受付に手招きされたので顔を出すと、彼は1枚の依頼書を出してきた。
「目的ありの魔物狩り依頼だ。特に依頼人からの指名はないけど、お前さんが良さそうだと思ってな。」
「ふ~ん。依頼書、見てもいいかい?」
今はクリスな俺はカウンターで差し出された依頼書を手に取った。
サンビーでのチンピラからの逆カツアゲは嬉しい誤算が2つあった。
1つは1人がチンピラのクセに生意気にも冒険者の身分証を持っていた事、もう1つは逆カツアゲで巻き上げた金が、カツアゲメインのテンピラのクセに4人分にしても意外と多かった事だ。俺の前にも一仕事か二仕事した直後だったのかも知れない。
元々の計画では、冒険者ギルドでアル・ニージゲンという、こちらの世界では非常にありふれた名前を名乗る事で、人物特定を難しくしつつ移動する予定だったが、別の身分証も手に入った事で、もう一捻りが可能になった。
そして予想よりも多額の現金が手に入った事で、最初から思ったより遠くへ逃げる事が可能になった。これはかなり嬉しかった。
もっとも流石に4人分合わせてもポートガリア行きの駅馬車に乗る料金を払うと殆ど残らず、しかも馬車内で色々考え直した挙句、迷ったが俺はトクマーで途中下車した。
アタマを悩ませた問題とは、無論、追手がどのくらいの時間で迫ってくるか、である。
因みに折角、色々な意味で困難な召喚術まで使って召喚した俺が逃げ出したのを、ザンビーの連中がそのまま放置する事は想定していない。限度はともかく必ず追手は掛かる。
まず短時間で効率良くぶち殺した4人のチンピラ達の1人で、冒険者の身分証を持っていたアンジエラ・タマス君の死体は、如何に人目が少ない場所とはいえ1日か2日もすれば直ぐに見つかるだろう。ちなみに他の3人の名前は知らない。興味もない。
だが顔は簡単には判別がつかないまでに殴りつけ、身分証と財布は俺が奪ったから、身元バレするまで数日は稼げる。
冒険者ギルドに異世界人丸出しのスーツ姿で押しかけるわけにはいかない。ヘタすりゃ、その場で当局に通報されてしまう。
だから現地服を奪うのがそもそもチンピラ君達に絡まれにいった一番の理由だが、奪うだけでなく、わざわざこちらの服を着せた。それは、俺が服を奪われたと見せかけるためだ。
もっとも流石に最初はともかく、俺と服を交換したアンジエラ・タマス君を俺本人とずっと勘違いしたままでいる程、当局もアホではあるまい。
だが、もし俺が服を奪われたと思えば、裸で震えている兄ちゃん、あるいは震える事も出来ない、誰得でもない裸の成人男性の死体を街中で捜し回って更に1日か2日は稼げる。
逆に服だけ奪ってタマス君を裸で放り出した場合、俺がやったという確証はどこにも無くとも、犯人は奪った服を持って逃走中と誰でも思うだろう。普通に強盗の容疑者として手配も可能だから、俺を名指しでなくとも凶悪犯の捜査として、人目も憚らず、町中をひっくり返す様な捜索もやられる、かも知れない。
なので、敢えて彼と服を交換、という形にしたのだ。
オレ vs ミスタ・タマス&ザ・愉快な仲間達との試合は、極めて短時間かつ一方的な俺の勝ちだったわけだが、サッカーの国際試合後の様なエールの交換のつもりはない。
交換したのも、チェーンのスーツ屋のバーゲンで買った、1着税込み1万円ポッキリ、2着買ったら3着目は無料のスーツだから特に惜しくもない。
ザックリ考えれば、まず2~4日ぐらいはこの段階だ。
城の奴らは俺が、こちらの世界の知識のない無一文の素人だと思っているはずだ。だから最初に来る可能性は非常に低いが、犯罪者が冒険者ギルドで別名義の身分証をこしらえるのもよくある手段であるのは官憲筋も良く知っているだろうと思うので、そちらにも城兵の手が回るかも知れない。
だが、アル・ニージゲン氏が俺である事に気付くのは少し時間が必要だろう。
普通に考えれば国の首都にある冒険者ギルドは周辺に比べ大きい場合が多い。実際に結構大きなギルドだった。こういう大きなギルドには結構な人数の新規登録者が毎日来るし、それを1人づつ実存を確認して潰していくにしても、俺に辿り着くには、やはり1日や2日では済まない。この世界には顔写真とかもないのだ。
冒険者になったらそれだけで金が出るわけでもないので、登録が済めば速攻町の外に出ている冒険者も多いだろうから、全員の裏取りが終わるまで、まあ…そうだな…早くとも3日以上はかかるだろう。
しかもアル・ニージゲンはこの世界では極めてありふれた名前だから、市内の宿等に手配をかければ数人は必ず出てくる。
城兵側で俺の顔を判別出来る人間は殆どいないはずだから、こちらも1人づつ確認するのは時間がかかる。
そうは言っても、冒険者ギルドまで探索の手が伸びればバレるのは時間の問題だから、俺はザンビーの町からとっとと出るつもりだった。
徒歩で出てもいいが、遠くまでは行けないし、ソロキャンプは装備的にまだ厳しい。
騎馬を使って周辺を捜索した場合、徒歩で逃げる距離よりもずっと広範囲を調べることも出来るから、途中で見つかる可能性も高い。人気のない森の中で騎馬隊に発見された場合、最悪、全滅させて口を封じる手も残るが取り逃がす可能性もあるし、何よりそれだと本格的なお尋ね者になってしまう。国中をひっくり返す様な勢いで、しかも指名手配犯として探されれば、当然見つかる可能性はハネ上がる。
なので、出るならコッソリ駅馬車と決めていた。チンピラ君の逆カツアゲの目的は服と金を手にいれる事だったが、金の方の目的はギルド加入料とこの駅馬車の代金を手に入れる事である。
駅馬車に乗る時は、乗客名簿への氏名の記載と、それに基づく身分証の提示を求められる。
最初の計画では登録したてのアル・ニージゲン名義の身分証を使う予定だったが、ここで使ったのが、アル・ニージゲンじゃない方、アンジエラ・タマス君の身分証だ。
冒険者ギルドで、新人アル・ニージゲン氏が怪しいと当たりをつけ、この段階で町を離れた可能性を考えて駅馬車屋を調べても乗客名簿に出てくるのは、アンジエラ・タマス君の名前だ。アル・ニージゲン氏は出て来ない。
奴が既に死んでいる事と、名簿に載っている事の時系列的に不思議な関係に気が付かなければ、彼らはアル・ニージゲン氏はまだ町か、その周辺にいると考えて暫くは捜して回る可能性が高い。そうなれば最高に上手くいった場合、この段階で迷宮入りするかもしれない。
勿論、城兵は大勢いるので、これらが同時に行われる可能性はあるし、ともすれば確認過程をぶっ飛ばして、何でもいいから取り敢えず捕まえろ!と、いきなりアンジエラ・タマス、アル・ニージゲン、あるいは同時期に町を出た冒険者全てに追手がかかる可能性はある。相手は人的資源を無限ではないかも知れないが大量には投入可能なのだ。
それでも、いきなり駅馬車に手配をかけたりはすまい。
まずは町中を捜して回り、俺の服を着たアンジエラ・タマス君を見つけて、更に裸の兄ちゃんを捜すだろうから、駅馬車に行きつくまでには3、4日ぐらいは空く。追手が近場に来るまでには、更に時間が空く。
諸々の手段、相手が無限大に人的資源を、しかも同時並行的に投入してくる可能性、更には捜索がドンピシャで上手くいった場合を考え合わせても、まず1週間ぐらいはまず大丈夫だろうが、ポートガリアに着く頃の2週間後となると少し怪しい。
こちらは1週間程度先発しているとはいえ、早馬を国境まで飛ばされれば、追いつかれる可能性はある。
無事に駅馬車に乗り込んで、流石に少しホッとした所で、現実的に起きそうな可能性と捜査側が滅茶苦茶な幸運を続けた場合を掛け合わせて再検討した結果、俺にある時間は最短で10日程度と見た。
それで予定変更してトクマーで降りたのだ。
ボートガリアまでの残りの馬車代は(少しは払い戻しはあったが)無駄になってしまったが、そこはそれとして仕方がない。
もっとも早馬での手配が始まれば、同時に途中のトクマーにも手配は回るだろうから、トクマーにも長居は出来ない。
俺は、6日後に着いたトクマーの冒険者ギルドで、今度は「クリス・シーガイア」名義で冒険者登録をすると、直ぐに有り金で行ける最も遠い町である国境沿いのコッチイまで駅馬車で移動した。2日を消費した。
更にそこで流石に路銀が尽きた為、2日間、市場での荷物運びというEクラスの駆け出しのやる目立たない仕事を受けて路銀を作り、今度こそ国境を越えてこのキッチュまで移動して来た。万が一、手配書が回っている可能性を考え、国境だけは街道を避けて徒歩で山道を超えた為、2日がかかった。結局、国外脱出に12日を要した事になる。
ちょっと期限オーバーだが、もし追手が順調にトクマーまで追ってきていても、更に優秀過ぎてクリス・シーガイアまで辿りついたにしても、それには1日や2日はかかるだろうし、国境そのものは1日目に超えたし、なにはともあれ、無事に脱出出来たわけだ。
ザンビーがアメリカのど真ん中の様な場所ではなく比較的国境近くの町であるのも幸いだった。
それから1か月が経過している。
今頃はサンビアナ全土に手配書が回っているかも知れない。
だが、僅か半日程の滞在では、例え残った勇者(笑)達の手を借りてもまともな顔の載る手配書が作られるとは思いづらいし、出てくるであろう名前、タカシ・サトー、アル・ニージゲン、アンジエラ・タマスの何れも俺とは無関係な名前だ。今の名前、クリス・シーガイア(これもこの世界では特に特徴のない名前だ)にも全く繋がらない。
結局、俺と少し似てるかも知れないが、俺ではないと言い張れる程度の顔と、俺とは全く関係ない名前の手配書が出回るだけの話だ。
ザンビアナが高額の懸賞金を掛けて所謂賞金稼ぎ達を煽ってくる可能性もあるが、そうなると今度は「コイツ、何やったんだ?」ってな話になる。
懸賞金を狙いに来る冒険者の一形態でもある賞金稼ぎ達は、普通は自らの身を守る意味でも慎重で、ナイフが得意ともフォークが得意とも分からない相手を探したりはしない。まずはマトの履歴と特技を確認にくる。気になる額の賞金がかかっている者の大半は、警察も手を焼く凶悪犯揃いで、ヘタすりゃ返り討ちも珍しくないからだ。
当然、王城側は「コイツ、勇者です」とは説明出来ないはずだから、賞金のかかる類の手配書はないだろう。手配書は回っても、ザンビアナ各地の役所止まりのもので終わりだ。
(この考え方は流石に少し甘かった事はずっと後でだが明らかになる。)
最悪、罪をでっちあげて賞金を懸けるにしたって、高額であればあるほど、やはり賞金稼ぎは裏をとってから動くだろうから、裏の取れない程度の罪状しかかけられないはずで、それなら高額にはならない。賞金稼ぎ達が血眼で探す対象にはならない。
それにそもそも凶悪犯罪者の手配書はその国だけのものだから、国境を越えてこのヨリダムには回って来ない。
つまりザンビアナで警邏に捕まって取り調べでも受けない限り、脅威とはならない。
ザンビアナには今のところ用はないので戻るつもりはないから、無問題だ。
一応、目先の安全が確保出来たと考えている俺はここで少し金と経験値を貯めるつもりだった。
金が無ければ今回の最期の頃と同様に移動にも支障を来す。そして冒険者ランクもEクラスのままだと雑用しか受けられず金は貯まらない。
国境から比較的近場の町という事で多少の不安はあったが、ここらでDクラスにはランクを上げて、次の町に移動するつもりだった。EからDは俺の感覚的には比較的簡単に上がれるはずだ。魔物を1人で倒せるぐらいになればDは楽勝で、Dクラスの魔物を倒す態度なら今の俺なら楽勝だ。
だが、Cはかなり戦闘力のある魔物を倒さねばならず、多くの冒険者はCの壁で挫折する。だから逆にCクラスとなればいっぱしの冒険者と見られ、受けられる仕事の幅は広がる。
もっとも特技を使えばCクラスまでぐらいなら、まあ、楽勝なわけだがそうもいかない。
(S~Bクラスの魔物は滅多にいないので、Cランク以上に上がるのはそもそも難しい)
最近、ギルドや何やらで色々話をして分かったのだが、今いるこの世界、俺らがいた頃から20年だか30年だかが経っているらしい。地球の時間よりちと進んでるかな。
けど、当時の関係者が全員、完全に死に絶える程の時間ではない。そうなれば俺のテクを知ってるヤツがまだいるかも知れない。ヘタな証拠は残したくない。
特技を敢えて封印して使わない俺が、こっちでやっていたのは弓を使った待ち伏せ猟だ。
地面にエサっぽいもの(肉の塊)を仕掛け、寄ってきた魔物を木の上からボウガンで狙い撃つ、というやり方だ。
一見すると簡単そうだが、効率よく殺る為には色々工夫が必要だ。
まずは服を用意するところから始めた。
適当な服を用意して、それを森で採れるマグスタという木の葉で染める。これで染めると人間の匂いがかなり薄くなって、というかマグスタの香りになってハナのいい獣や魔獣に距離がある所から気付かれる事が少なくなる。素人丸出しでいい加減に染めるとちょうど緑の色違いな斑になって、迷彩服の様になるからなお良い。ちなみに洗濯の時も、この猟に使う迷彩服だけは匂いが落ちない様にマグスタを混ぜて別洗いする。
そしてボウガンの威力の問題がある。攻城戦で使われる様な大型のものならともかく、持ったまま木登り出来る大きさに限定されるから威力があまり大きくない。
それでも野生の猪や鹿ぐらいなら、上手く当てればボウガンの物理威力で死ぬ。
だがDクラスぐらいの魔物になってくると死なないし、物理耐性が強いヤツにはヘタすりゃ突き刺さりもしない。それ以下でも当たり所によっては一撃では死なず逃げ去ってしまう。逃げた先で死なれても探すのが大変だ。ややもすると逆に反撃してくる。むしろ魔獣だとこっちのが多いか。
なので毒を使う。
大型の魔獣でも30秒もすれば動けなくなる強力なヤツだ。
ちなみに食肉としての需要もある一般の野獣相手には当然使えない。
こちらは毒矢ではない方を使って矢の威力という普通の物理で倒すだけだ。
このあたりの魔獣狩りのやり方は、前回の召喚で俺ら勇者3人、お付きの騎士4人で魔王退治に行っていた時に、お付きの1人、ミリーから教わった。
「アタシは元冒険者でさ…」
ミリーは毒の調合をしながら言ってた。
「つか、元々は猟師の娘だからさ、こういうのは詳しいのさ。」
「猟師の娘から騎士とか、そういうのこの世界じゃアリなんだ?」
「普通じゃナシさ。でもアタシは冒険者だった頃にスタンピードに巻き込まれた事があってさ。そこでちっと活躍したら騎士団から目、つけられてスカウトされたんだ。」
ゴリゴリゴリゴリ
俺は、彼女がすり鉢で薬草、じゃなくて毒草を水を少しづつ足しながら丁寧に摺り下ろすのを黙って眺めていた。
「理由は知らないけど、大量の水をいきなり入れちゃダメなのさ。水で毒がダメになる。摺りつぶしながら少しづつ足してやるのがコツさ。」
「ふ~ん。」
「ピリピリ草もタイマル草もその辺にいくらでもある。それだけ食っても、ピリピリ草はちっと舌がピリピリするだけだし、タイマル草はマズくてハラ壊すだけだ。でも、こうして分量計って上手に組み合わせると猛毒になるってのはウチの家の秘伝さ。キッチリ分量を量って、こうして手間暇かけないとダメだけどね。」
ゴリゴリゴリゴリ
「タッカートも、でも、アレだね。勇者なのにこういうのに興味あんのかい?」
「いや、ほら、デキる事、増やしてかねえと…この後、勇者の力だけじゃキビしいところも出てくると思うし。」
「将来は狩人でもやんのかい?」
「そこまで考えてねえけど……まあ…俺の技って魔力喰うし、意外と使い勝手悪いとこもあるし。魔王倒した後は、冒険者とかはアリだと思うし。」
彼女は毒の調合が終わり、川で道具を洗って、手を流して、俺の隣に座った、
いや、近いっす…
「アンタ、平民なんだろ?」
「…まあ、貴族とかじゃないっすね。」
見たわけではないが、彼女が1cm程、こちらににじり寄ったのを体の側面全体で感じた。
鍛えられて固いけど、女らしい熱を持った彼女の躰が俺に優しく押し付けられる。
そして耳元で囁かれた。
「冒険者やんならさ、アタシが一緒に付き合ってあげてもいいんだぜ。」
彼女は肌は山育ちで浅黒いけど、野性的な美人だ。
俺は彼女の美しい顔が近場に寄ってきてドギマギした。
「あ、うん…考えとくよ。」
彼女は2秒程、俺の顔を見つめて、ニッコリ笑って立ち上がった。
立ち上がる時は笑顔だったが、立ち上がった後のその横顔はひどくつまらなそう、に見えた。
そして、毒を摺ったすり鉢やら道具を袋に入れた。
「戻ろっかね。」
「…うん。」
今、デキる事をやりながら、先でデキる事を増やす。生き残るにはそれしかない。
前回の召喚で学んだ事だ。そして目論見通り、今にして役立ってる。
彼女から教わった毒を、彼女が教えてくれた通りに、彼女が教えてくれた川傍で作り、矢に塗る。そして乾くのを待つ。乾いた矢の穂先を慎重にぼろ布でくるみ、ボウガンと一緒に背負って移動する。
彼女が教えてくれた、獣の足跡なんかを見ながら、罠を張るポイントを決めて、彼女がやっていた様にオトリのエサを仕掛ける。
後は木に登って、自分の体とボウガンは狙いやすい様に軽く木に固定して、待つだけだ。
ミリーなしで1人で本格的にやるのは初めてだったから、毒はともかく、最初は矢は外すは、魔物に気付かれて襲われるはで大変だったが(最悪の場合、特技で倒すので死にはしない)、1週間もすると俺は俺なりのやり方がある事も分かった。普通はそんなに早く上達はしないが、元々俺はこの種の経験者だし、俺にはおあつらえ向けに弓矢に向いた特技もある。そして徐々にコツを掴み、今では獲物を射程内に捉えれば大概の場合は倒せる。
キッチュでは、今度の新入りはなかなか腕のいい弓師と冒険者ギルドの担当者には知られるところまでなっていた。
内容は依頼書にも書いてあったが、受付は俺がキチンと読む前に言った。
「チマイの角が欲しいって依頼だ。お前さんなら狩れるんじゃないか?」
チマイはシカに近い形状の魔物だ。
見た目は似てるが、人間を見れば通常は逃げる草食の鹿と違い、肉食だから速攻襲い掛かってくるし、角は日本カモシカっつうより、アメリカ辺りにいるヘラジカみたいなデカさだから、正面から当たるのは結構危険だ。けど、弓を使う俺の場合、相手がハマれば危険は少ない。
問題は、罠猟は獲物を探してウロウロしないので、狙った獲物が狩れるとは限らない点だ。
俺の場合、罠で完全に仕留める訳ではなく、仕留めるのはあくまで俺のボーガンだから、狙った獲物でない場合、スルーするのは可能だが、その場合、オトリの肉は無駄になるし、チマイが来るまで辛抱強く待たねばならない。
「チマイ、そこらにいるんかね?俺は見た事がねえけど。」
「多いとは言わないが、全然いない訳じゃねえ。大丈夫だろ。」
人間が魔物を狩る理由は大きく3つある。
1つは周辺や隊商狙いで人間を襲ったりするので駆除する場合。
そして、2つ目はその予防として定期的、あるいは予め狩る場合。ゴブリン狩りなんかはこんなのが多い。
最後に今回のチマイの依頼の様に魔物の持つ希少部位が欲しい場合だ。
チマイの討伐証明部位にもなる角は魔力を帯びていて、薬なんかに使われるらしい。だから特に周辺に悪さをしてなくとも、討伐依頼はある。角は壊れると魔力が薄まるらしく、薬屋としては出来ればキレイな状態で欲しい。
「薬屋かい?」
依頼書の中身は流石に把握しているだろうから、本来は必要ないのだろうけど、ギルドの受付はカウンター越しに俺の手元の依頼書に目を走らせた。
「そうだな。ポールからだ。」
ギルドの受付が名前を挙げた依頼主ポールは、町の中堅の薬屋だ。
別におかしな依頼でもない。俺は頷いた。
「チマイ、キレイに仕留めればDランク昇格だな?」
「そうだな。薬に使うからなるべく状態がキレいな方がいいとよ。それでお前さんがいいと思ってな。」
俺は差し出された依頼書にクリス・シーガイアとサインして半券を受け取った。
「ま、行ってくるわ。」




