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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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003 相談と食事と現在位置

 俺達は侍従(?)の案内で別室に移らされた。大きなテーブルとゴージャスな応接セットのある結構広めの部屋だ。


 侍従が扉の外で頭を下げ、扉がバタンと閉まった。


 俺らは顔を見合わせたが、特にする事はない。

 何となくバラけて、そこらにある椅子やらソファやらに座った。


「ねえねえ、アタシらこの後、どうなんの?」


 スカートが短く、少し濃い目の化粧の制服女子が隣に座った制服男子に言った。先、口を開いたガタイのいいヤツだ。


「俺だって分かんねえよ。」


 ガタイはいい加減に答え、空中を少し眺め、俺の方を向いた。


「あの~」

「うん?」


 俺も今や立派な社会人である。

 失礼にならない程度に、けど大人らしく年下に答えるラフな感じで答えた。


「一番、歳、上っすよね?」

「かもな。」

「えっと…名前とか聞いてもいいッスか?」

「…佐藤だ。」


 海野隆人、というのが本名だが、これからの事を考えれば、彼らに本名を名乗る気はない。


「サトー何スか?」


 最近の風潮だね。

 俺らが社会人なった頃までは名前を聞かれて名乗るのは苗字だけだ。そしてそこで大概終わりである。だが最近は名前も言わされる。そして同級生とかだと名前で呼び合っている。

 記憶にないので認識は薄いものの昭和の最後の方に生まれた最後の昭和世代としてはイマイチ馴染めないが、語学的には日本語の英語化が進んでいる、と言っていいのかも知れない。米国人とかが初対面から「ジョニーと呼んでくれ」と自己紹介し、ヘタすると特に仲が良くなくても「ポール、ムカつく」とか「くそったれジョージ、余計な事言いやがって」とかって名前で文句を言う様なものだ。


 思えば、英語化はそこかしこで進んでいた。

 電話1つとっても、正しい(?)日本語は「電話をかける」だが、今は「電話する」と言う。名詞が直接動詞化しているのだ。これは英語では普通で、「My Love」と言えば私の愛、あるいは私の大切な人という名詞だが「I love you」と言えば「愛している」という動詞になる。


「……サトータカシだ。」

「タカシ…さん、っすか。」


 俺のいい加減な知識に基づく言語学的な風潮の話はともかく、下の偽名まで考えてなかった俺はちょっと詰まった。

 挙句、何でか咄嗟に口走ったフル偽名ネームでの名乗りになったが、案の定、彼は下の名前だけを口にして納得(?)した。


「あたし、福井真衣です。」

「俺、米沢武人っす。」「えっと…江東美紀?…です…」「…堺高太郎。」「松本翔平です。」


 俺が口火を切った(?)のを皮切りにガタイ、女子高生、私服、ガタイじゃない方の制服男子もそれぞれ名乗った。

 あ、順番はジャージ女子、俺に名前を聞いたガタイ、女子高生、私服、ガタイじゃない方だ。


「タカシさん、スーツだから社会人っすか?」

「そうだね。」

「あ、俺ら3人、A大附属です。」「あたしはM大陸上部です。」「あ~俺は……フリーター、かな…」


 またも聞きもしないのに彼らは説明した。

 言われてみれば制服男子2人の制服は同じものだ。女子は当然違うが同じ学校と言ってるからそうなんだろう。

ジャージ女子の胸にはM大陸上部と小さく入ってる。体育会は学部は名乗らず部活を名乗るのは基本だよね(笑)。

 フリーター堺君は私服だからよく分からない。俺よりは年下に見えるから20代前半ぐらいかな。


「俺らこの後、どうするか決めといた方がよくねえか?」


 予期しない、俺からすれば不要な自己紹介の後、ガタイじゃない方の制服男子、松本君が唐突に言った。


 勿論、決めておいた方がいい。ガタイじゃない方、松本君の言う通りだ。


 だが別に俺らで決める必要はない。満場一致である必要もない。


 現に前回も特に満場一致ではなかった。

 イケメン君が勝手にOKをしてしまって、俺らは何か分からんまま反論する機会を失い、連れていかれただけだ。


 ちなみに俺個人の方針としては国王&ザ・家臣ズとの次の話し合いに出る気はない。

 次の話し合いも結局「魔王を倒してこい!」「イヤだ!」という押し問答になればいい方で、前回の経験から考えても、我々の、というより俺の言い分が通る可能性はまるでない。


 当たり前の話で、彼らとしては俺らを対魔王戦の切札として呼んだのだ。

 仕事をする為に購入したPCと同じである。PC側が「俺は性能的にゲームがしたいんだ!」と言ったところで通るはずもない。

 だが、これも当然だが、じゃあ、俺はここからサヨナラしますとPCが言ったところで、これまた通るはずもない。逃げない様に机に鎖で縛り付けられている会社のノートPC同様に、現状は窓もないこの部屋に我々は閉じ込められている。

 牢でないのはご機嫌取りに過ぎないし、牢ではないが扉の向こう側は衛兵がガッツリ固めているだろう。無論、俺らを守っているのではなく俺らが逃げ出さない様にだ。


 もっとも、6人もいれば意見が割れるのは前回の召喚で充分過ぎる程、経験済みだし、俺と他の5人は何の関係もない赤の他人だ。

 俺は魔王退治など受ける気はないが、他の5人がそうとは限らないし、仮に俺と同じく受ける気がない人間がいても、それも俺とは関係ない。無論、積極的に受ける気のあるヤツとは無関係を貫きたい。


 俺はそう思っていたが、口に出しては言わない。

 彼らと意見統一を図る気がない以上、言葉にする意味もないからだ。


 松本君の言葉に反応して、しかしフイッと横を向いて制服女子、江東さんが松本君ではなく米沢君の方を向いた。


「ねえ、武人、あたしらどうしたらいいんだろ?」

「あ~」


 話を再度振られてガタイ武人君は少し困った様に頭を掻いた。

 フラれた松本君の方の表情は、一瞬の苛立ち、そして諦め、最後に達観へと変化した。

 この短いやり取りで、同じ学校で、少なくとも知り合いではあるらしい3人のカースト状況が想像出来たが、まあ、彼らとは今、この瞬間だけの付き合いである。飲み屋で隣に座った客よりもどうでもいい。


話を振られたガタイ君は、俺が露骨に興味がない態度なのに、またも絡んできた。


「あ~タカシさん、これってどうなんスかね?何かやっぱし方角的にヤバいんスかね?」

「さあ?俺に言われても何とも。」

「いや、だって、先、タカシさん、いきなしお断り入れてたじゃないスか?」

「そりゃ見ず知らずの人から、いきなり訳の分からない話をお願いされたって取り敢えず断るだろ。」

「いや、でも、この中じゃタカシさんが一番年上っぽいし…」


 話が微妙に噛み合ってないが、要は米沢君は俺に話を丸投げにかかりたいらしかった。


 会社にもこういう手合いはいた。

 困難な交渉、判断はこちらに丸投げで、こちらも判断つかない、あるいは交渉が纏まらないと、何故かこちらを責める。

 挙句、実際に実務が上手くいかなくなると、「やっぱり最初の判断がマズったんじゃねえか?」とやっぱりこちらを責める。


 交渉のベテランとかでも何でもないが、仮にも社会人で左遷子会社とはいえ対外交渉がメインの営業マンであるこの俺が、この話法の稚拙な高校生バージョンに引っかかるはずもなかった。


 俺は涼しい顔で肩を竦めた。


「いきなり連れて来られたのは俺も同じでね。何か聞かれても分からないのは同じだよ。」

「つかえねー。」


 俺のにべもない言葉に江東さんが小声で呟いた。


 聞こえてるって。

 というか、聞かせてるのか。


 昔から小意地が悪いのは女の子の得意技だ。

 現に彼女はさりげなく俺の腕の届かない範囲に下がっており、しかも体半分、米沢君に隠れている。安全圏から小声で、しかも聞こえる様に、かつ相手が突っ込んでくればバックレられる悪口は女子の基本技だ。


 まあ、もっとも、客観的事実としては正しい。

 俺は彼らに使われる気がないから、彼らからすれば「つかえねー」のだ。


 が、彼女の声は小声にしては少し大きかった。かつ彼女が普段暮らしている教室とは違いこの場に女子は2人しかおらず、小声で言ったからといって誰が呟いたかは丸分かりだ。

 俺は涼しい顔でシカトしただけだが、何となく空気が悪くなったところにナイスタイミング(?)で「失礼します」という掛け声と共に扉が開き、侍女数人が入ってきた。ラノベとかでたまにある胸のデカい綺麗どころのネエチャンとかではなく、落ち着いた感じの中年の侍女達だ。


「お食事をご用意致しました。」

「お、結構、豪勢?」


 並べられている皿を見ながらフリーター君が呟く。


 俺は運び込んで並べられた食事を眺めた。

 白いシチューに、ローストビーフ(まあ肉はビーフじゃない可能性も高いが)、それにパンで、取り立てて豪勢とは言えない気がしたが、大皿に沢山あって、量だけならそれなりに豪勢だった。


「冷めないうちにお召し上がり下さい。」


 侍女の1人に言われて、特に腹が減っている様子は誰にも無かったが、我々の話は途切れ、各々席に着いた。


 席に着くと目の前に侍女がナイフとフォークを並べ、「お召し上がり下さい」と繰り返した。

 フリーター君が何の警戒もなくパンに齧り付き、高校生3人はお互いに目を見合わせ、ガタイじゃない方…松本君が、普段は碌に食事をしてないのか早くも二つ目のパンに齧り付くフリーターの方にチラリと視線を走らせた後に、恐る恐るパンに口をつける。


「…結構、旨えな!」

「マジ?」

「おう!米沢も江東も食ってみろよ。結構イケるわ。」


 言われて2人もパンに口をつけ、「おお!」と言うのを見ながら俺もパンに齧り付く。ジャージさんはパンではなく肉の方をフォークに突き刺して食べて言った。


「お肉、美味しい!」


 俺を除く5人は食事に夢中になりつつあった。

 まあ、俺達の主観では、時間帯的にはそろそろメシの時間と言えなくもないからヘンではない。なので、俺も食う事にした。


 が、一口食ってしまってから、薬でも入れられてたらヤだな、と思い付いた。この世界の連中なら、そのくらいは平気でやりかねないし、現に前回はやられた経験もある。


 けど食べてしまってから思い付いても今更手遅れだ。

 マターリな時期が続くとやっぱり鈍るもんだな。


「ちょっと宜しいか?」

「何でしょう?」


 暫く食事をしたところで、俺はタイミングを見計らい、モグモグしながら不自然にならない程度に小声で、食事を運んできた侍女を呼び止めた。


「この肉、旨いな。何て肉だ。」

「マリラの肉です。」

「マリラ?」

「マリラですよ……ああ、勇者様方はお知りにならないんですね。マリラはこのザンビアナの特産品で、他所よりも比較的、手に入りやすいんですよ。」


 話の流れをコントロールする必要もなく、こちらのタームに入った。


「ザンビアナ?」


 人が好さそうで少しふっくらした体型の中年侍女は笑顔になった。


「……ああ、そうですわね。地名もお分かりではないんですね。ここはザンビアナと言う土地です。皆様の今、おられるのはザンビアナ王国の首都、ザンビーの王城ですよ。」

「へえ、そうなんだ。ありがとう」

「いえいえ、どう致しまして。」


 聞くべき事を聞いた俺は礼を言い、侍女は笑顔で離れた。

 今の会話に注視している者はいない。


 沢山の事が分かった。


 まず、ここの位置だ。サンビアナのザンビー。俺の知っている地名だ。来た事はないが、北の方にある中堅ぐらいの国だった記憶がある。

 と、いう事は最初から根拠なく確信してはいたが、ここは俺が前回来たワールドだ。因みに前回呼び出された国ではない。


 そして土地、国、首都の名前が変わっていない。俺の知った時代か、極めて近い、可能性が高い。


 そしてマリラ。俺がいた頃も旨い肉の代表だった。


 マリラは元々は南方辺りの広い草原に住む大型草食獣だが、マジ超臆病でちょっとでも危険を感じると何も考えずに一目散に逃げ散る習性がある。

 大型な割に凄い勢いで一目散に逃げるのだが、目があまり良くないのか、立木の少ない草原が住処だからなのか、障害物があると簡単にぶつかる。挙句、アタマを自分で強打して死ぬ、というのもいる。

 これだけ聞くと、バカか?バカなのか?とも思えるが、地球にだってこの手合いの動物はいる。

 野生のマリラを狩る場合には、この習性を利用した追い込み猟が使われる場合もある。


 だが、そもそもザンビアナにマリラが棲むような広い草原は少なく、気候も合ってないから野生のマリラはいないとは言い切れないが、そう多くなかったはずだ。だから自然環境ではなく、牧場で育てているのだろう。

 そして牧場とはいえ、その超臆病な習性故、草原より狭い土地で家畜として飼うには、人に慣らす前に、まずは周辺に敵がいない事が絶対条件だ。肉食獣も魔物もダメだ。


 そのマリラを特産として売れる量を確保出来ているということは、つまり、俺がいた頃よりこのザンビー周辺はずっと安全だと言う事を意味する。前回、北方のザンビアナがマリラの特産地とかって話は聞いたことがないから、全く同じ時代ではない可能性が高い。


 そして彼女は俺らを「勇者様方」と呼んだ。

 勇者召喚を侍女にも伝えられているという事は、特に大きな隠し事ではないか、機密保持が上手くいってないかのどちらかだが、俺が知っている頃より著しくレベルが落ちている場合を除けば、王城クラスの侍女はKY(空気読め)がキチンとデキる方だから、前者の可能性が高い。

(ちなみにコレは俺の考え過ぎだったが今は全く分からなかった。)


 つまり外部環境的にもそういう事だ。

 まあ、召喚術の方法から逆算すれば、思いつきでバンバンする、サクサク出来る様な話でもないはずなので、当然と言えば当然だが。


 いずれにせよ俺からすれば、目先の予定上は都合がいい、という事だ。


マイペースな主人公に合わせて進行はゆっくり目です。

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