025 女組の謀議
色々あってちょっと投稿が遅くなりました。
勇者3人組が魔法で凍り付いたヒュドラを前にバカ丸出しで余裕こいていた頃、お付きの女4人組は閉じ込められた室内で睨み合っていた。
来た直ぐの食事で海野達と一緒に一服盛られ、気が付けば彼女達はこの部屋に閉じ込められていたのだ。当然、周囲にいるのは女組4人だけで、肝心の野郎3人衆は影も形もない。
歴戦の彼女達はすぐさまこの状況がどういう状況なのかを理解した。
村人の思惑も読み切っていた。
彼女達は手足も拘束されてないし、武装も解除されてない。
勇者組と同時に一服盛られたのに彼女達は拘束もされずにここに寝かされていて勇者達だけがいないのは、勇者達だけが先に起きて彼らだけでヒュドラ退治に行ったのではない。勇者達は村人達によって高品質の生贄としてヒュドラに差し出されてしまったに違いない。
武装も解除されずにいる理由はだいたい想像がつく。
仮にも勇者組とお付きの国の騎士を正面から拘束するなど村にとって物理では困難でバレた後のリスクも高過ぎる。大方、村人達はお疲れの彼女達が食事中に寝込んでしまったので、ここへお運びしたと主張するだろう。だから彼女達はご丁寧にベットに寝かされていた。
そして、彼女達がここで寝込んでしまった隙に、勇者達が「勝手に彼らだけで」ヒュドラ退治に向かったと言い訳するつもりなのだろう。彼女達はその補足証人役として生かされてる。彼女達まで含めて全員が全滅した場合、王に言い訳するのは村人だが彼女達が生きていれば、まずは彼女達の監視不行き届きという事で責任を擦り付けられる。
外から扉に掛かっているだろう鍵は「間違えて」掛かってしまっている、そういう筋書きだ。だから外に見張りを立てたりは敢えてしていないはずだ。
仮に彼女達が気付いた後に勇者達を追ったにしても、勇者組は既にヒュドラに食べられた後で、彼女達も同じ運命を辿るだけだ。村人の責任逃れには立たないが、その時はその時で死人に口無しで村は何とでも言い訳できる、と考えているのだろう。
村人達の唯一の誤算は彼女達があらゆる事態に備えて鍛えられた淑女騎士団の精鋭で、クスリに対しても耐性が強く、村人達が思ったよりずっと早く起きてしまったことだ。
「っち!どうすんのさ?」
ミリーはアイーシャを睨みつけた。
「どうするも、こうするもない。今からでも助けに行くしかないだろう。」
「そもそも、アンタがボーッとしてっから、こんな事になってんじゃねえの?ええ?アイーシャ隊長さんよ!」
普段の猫被った可愛らしい話し方はどこへやら、素のままの口調でレニが、自分も村人の企みに気が付かなかったのを棚に上げて、ナイフを片手で回しながら冷たく言った。
それに対し、アイーシャも負けじと冷たい眼差しで睨み返した。
「それは否定しない。けどタイス公がまさかこんな所でこんな風に勇者を使い潰すつもりだとは思わないだろう!?」
隊を率いるアイーシャも残りの3人も事態を完全に把握している。
こんな事、村の村長の一存で出来るはずがないし、前もって準備をしていなくては実行出来ない。つまり領主であるタイス公の指示または許可の上でやっているという事だ。
そうであれば、この場では隊長と言う立場であるとはいえ、一介の騎士に過ぎないアイーシャだって公的には何も出来ないと言って良かったが、周囲にいつものヤロウ3人組もおらず取り繕う必要の全くない残りの仲間達は、それで許す気は全くなかった。
「ま、そりゃそうだけど…隊長張ってる割にはちょーっと甘かったんじゃない?」
「それは済まなかったと言ってるだろう!」
元々は同じ1番隊出身のリリアにまで言われて、アイーシャが逆ギレ(しかも彼女は「済まなかった」などと一言も言ってない)、そして残る2人の目は増々冷たくなった。
「助けに行くって言ったって今更だろ?もう小半日近くが経ってる。アイツら今頃、心臓抉られて生贄の祭壇に捧げられてんじゃね?」
「そうと決まったもんじゃない。ヒュドラは蛇系列だから生で丸飲みがお好みだ。生贄は生きたまま差し出すと思うけど、どっちにしたって、もう祭壇送りになってんのは間違いねえな。」
ミリーの冷たい意見とレニの的を外した反論を聞き、アイーシャは喚いた。
「そんな事はどうでもいい!とにかくここから出て行ってみないと何も分からない!もしヤツラが何も出来ずにヒュドラの生贄になってたら、次はアタシらが陛下の前で心臓抉り出されかねないんだぞ!」
「んな、こた、分かってるよ。ならサッサと出ようぜ。」
レニの言葉にリリアは頷いたが、ミリーは違った。
ミリーは言った。
「その前にさ、この際だから、ちゃんと決めとかねえか?」
「何をだ?」
「誰が、誰を担当するとかを、さ。」
男3人の勇者達に対して女4人の護衛が組まれたのは極めて分かり易い理由からだ。
護衛任務も然ることながら、色香で勇者達を骨抜きにして、いざとなれば宥めすかしてでも魔王城へ向かわせる為だ。謂わば変型版ハニトラである。
淑女騎士団という組織にいる以上、そういう任務が全くの素人ではない彼女達だが、そうは言っても色々思う所はある。ストレートに言えば、好みの男にすり寄るのは楽な仕事だが、女である以上、感覚的に合わない、気に入らない男は通常なら視界に入れるのだって本人的には相当な我慢が必要で、社交、といっても朝の挨拶以上の口は利きたくないのが普通だ。
だが、仕事なら仕方がない。
仕事なら仕方がないが、相手は3人いるのだ。選ぶ余地はある。
そして彼女達も4人なので分担の余地もある。
ミリーが言ったのはそういう意味だ。
真っ先に口を開いたのはリリアだ。
「アタシ、マーサがいいなあ。」
アイーシャが異を唱えた。
「待て待て。年齢的には私がマーサは適任だ。」
「年齢、関係ねえだろ!?オレだってマーサがいい!」
ミリーも参戦してきた。
本人、そして残る勇者2人が聞いたら仰天するであろう、高校中退エロゲ専門フリーター正田のまさかのダントツ一番人気である。
「マーサだって私のムネをいつも見てる!私が一番、相手が出来る!」
「いや、アイツ、オンナなら何でもよさそうだぜ。オレが迫ったってイケるだろ?」
仮にも勇者の篭絡を王から直々に任されている面々である。4人はタイプの違う美女揃いだ。
正統派の凛々しくグラマラスな金髪美女騎士アイーシャを筆頭に、フワフワ茶髪の可愛い系統でどことなく上品な感じのする白魔法使いリリア、ボーイッシュで色黒だが野性的な健康美に溢れる剣士兼弓師のミリー、そして黒髪のショートカットがよく似合う一見すれば清楚な感じの実は巨乳な短刀使いのレニと、それぞれにタイプは違うが、誰が迫ってもどの3人もいけそうなのは確かだったし、4人の方も口には出さないが互いにそれは認めていた。
そんな美女集団でありながら、一方で騎士団という肉体派組織にいる彼女達の目からすれば、日本人としては普通でもこちらの騎士なんかと比べれば、明らかに体格が劣る椎名と海野は魅力に欠ける。
もっとも体格が劣るのは正田も同じで、しかも彼は少し太り気味だ。
だが、この世界では恰幅の良さは良いお育ちの証でもある。必ずしも悪くは見られない。正田がそうだと言う訳ではないが、彼女達の目にはそれ程悪くは映らなかったのも確かだ。
そして年齢が3人の中では高めなのも、年上男性との結婚の多いこの世界では悪くない。むしろ爵位や(勇者であることは置いておくとして)社会的立場があるわけでもない貧相な同年代や年下には何の魅力も感じない。
それに加えて得体の知れない死人使いの椎名、更に得体の知れないレーザー使いの海野に比べれば、正田は正真正銘の真性魔法使いである。この世界では魔法使い、特に高位の魔法使いは頭脳派エリートとして肉体派の代表格である剣士とはまた違った尊敬の的だ。
勿論、エロゲ帝王という個人的趣味趣向は脇に置くにしても、3流高校中退でアラサーのフリーターという日本での社会的立ち位置は全く目を向けられていない点も大きい。
3人の人気が正田に集中する中、レニ1人が違った。
「アタシはシーバ・ケータでもいいかな。」
レニの発言を聞いてリリアが訳知り顔でヘラっと笑った。
「レニ、ダメなタイプ好きだもんね!」
「違うわよ!」
リリアの言葉をレニは真っ向から否定した。
「アタシ、こう見えて尽くすタイプだから!弱っちい男の方が養い甲斐があるじゃんか!」
「ダメンズかよ!」
ミリーのツッコミに「何でそのネタを知ってる?」とツッコミ直しもしなければ否定もしないレニを残る2人は少し呆れ顔で見ていたが、アイーシャが、ううん、と咳ばらいをした。
「一応、あの3人の中じゃケータ・シーバ…いやシーバ・ケータか?…とにかくヤツがリーダーらしい。だから、3人を間違いなくコントロールする為にも彼は当面はガッチリ捕まえておく必要がある。」
これには残る3人も頷く。
「じゃあ、レニ、任せて大丈夫だな?」
上から目線のアイーシャの念押しに、自分から言い出したはずのレニはフンっとハナを鳴らした。
「1番隊だからって偉そうに上から目線で命令してんじゃねえよ。黙って任せておけば、あんなハゲのジジイの策にドップリ、アタマからハマってこの体たらくのくせに。」
「……ハンパ者の寄せ集めの4番隊のくせに、こちらこそ先から黙って聞いていれば口の利き方に気をつけろ!陛下よりこの隊の指揮を任されてるのは栄えある1番隊のこの私だ!」
「魔法も碌に出来ない脳筋1番隊が偉そうに!所詮は前線じゃヤロウの部隊に敵わないくせにさ!」
アイーシャが顔色を変えて腰に手をやった。
「おい!何なら格の違いをここで見せてやってもいいんだぞ…」
「よせよ、アイーシャ隊長さんよ。陛下から直接命令受けてんのは、アタシらみんな同じだ。レニにちょっとおちょくられたぐらいで毎回キレてて、この先やってけんのかよ?」
「レニもその辺にしときなさいよ。アイーシャが隊長ってのはアタシらも一応、一緒に聞いてるでしょ!」
ミリーがウンザリした口調で止めに入り、リリアもレニに向かって言うと、レニはフンっとまたハナを鳴らすとソッポを向いて言った。
「それで?アタシはシーバ・ケータ狙いでいいけどさ、マーサにばっかし集中してタッカートはどうすんのさ?」
3人は押し黙った。
女である以上、嫌な人間の相手はとことん嫌だ。
「オレはレニと違って養い甲斐とかははどーでもよくて、あんなガキんちょ、ヤだからな。」
ミリーが言えば、リリアも薄ら笑いで言った。
「アタシは守備範囲外!ガキのくせに目付きだけエロいとかサイテー!」
「あの年頃のガキなんぞ、あんなモンだろ?大目にみてやれ。」
「そんな事言うならアイーシャ隊長がタッカートにいったらいいじゃん!」
「やめてくれ!ガキの相手なんか真っ平だ!」
今度は一転してエロガキ扱いの海野最下位確定である。
正田狙いで張り合う3人に、椎葉狙いほぼ確定で1人範囲外のレニが時折意地の悪いツッコミを入れる形で4人はワアワア言い合った。
「アタシらにエロい目って事はさ、姉様大好き属性かも知れねえぜ?」
「だったらアイーシャが一番、お姉様って感じじゃん!やっぱりアイーシャが逝ったらいいじゃん!隊長なんだし!」
「リリア!いい加減にしろ!」
「いや、レニの言ってるのとはちょっち違うかも知んねえけど、あの頃のガキは大人の女に憧れるってのはよくある。自慢のオッパイで大人のオンナの包容力ってヤツを見せてくれよ、アイーシャ姉様?」
「ミリー!気持ちの悪い呼び方すんな!何でアタシばっかりにフルんだ!」
椎葉をメインと決まったレニが更に意地悪そうにニヤニヤ笑いながら突っ込む。
「でも、誰か相手しねえとヤベエだろ。リリア、お前が一番、歳、近いんだからお前いけよ!」
「アタシは弱っちそうなエロガキは嫌いなの!」
3人で暫し睨み合ったが、ミリーが、ウガあ!って感じでアタマを抱えた。
「っち!しゃあねえなあ。タッカートはオレが面倒みるわ!」
「「おお!」」
「ミリー、大っ人なあ!」
レニとアイーシャが図らずしてハモって声をあげ、リリアがミリーの大人判断を大げさに褒める中、ミリーが嫌そうな顔をしながらアタマを掻きつつ言った。
「いや、オレんち、弟もいたから、そういうつもりならソコソコには相手は出来ると思うし。…けど、丸投げはカンベンしろよ!みんなで適当に相手すんだぞ!オレだって本当は頼り甲斐のありそうなマーサの方がいいんだから!つかマーサにもいくからな!」
「分かってるわよ。」
リリアが宥める様に言うと、残り2人も頷いた。
「最悪の場合だが…勇者が途中で欠ける事は考えなければならん。」
アイーシャが真面目な口調で話を少し変え、今度は3人も真剣な表情で頷いた。
「その場合、我々は前衛は足りてるが後衛の攻撃力に欠ける。4番隊は多少は魔法が使えるみたいだがな。」
「魔法のマの字もダメな脳筋1番隊よりは随分マシだと思うけどな。…でも、まあ、アイーシャ隊長さんが言うのは分かるぜ。マーサには断然負ける。」
レニの毒含んだツッコミにも、アイーシャも今度はキレることなくスルーして頷いた。
「だから、我々が一番守らねばならないのは魔法使いのマーサだし、キープ必須なのはマーサだ。死人使いやら…何だ、あれは…その…リリア、何だっけ?」
「れえざあ?」
「そうだ。れえざあ使いじゃない。アレならミリーの弓でも充分代役が務まる。」
仮にも勇者と五分の戦力と言われて、ミリーの顔も思わずニヤけた。
「まあな。アタシは近接も全然イケるし、毒もあるからな。」
最初のビリビリした睨み合いから比べれば、随分と空気が軽くなってアイーシャも少し笑顔になった。
「調子に乗るな(笑)!押し付ける様で悪いが、タッカートの方も適当でいいから頼んだぞ。」
「えいよ。」
レニがピョンと立ち上がった。
「じゃ!扉、ぶっ壊すか!アタシの魔法と隊長さんの剣とどっちでやる?」
「今回の件の詫びも兼ねて、私がやろう。……それにレニの魔法は少し伏せといた方がいい。上からもそう言われてるんだろう?」
「ま、ね。」




