020 昇格してしまった
連休なので早めの更新です。
予定通りの道を予定通り進んだが、予定外の道連れが出来たりしながらも、予定の町には到着した。
フルハットという町だ。
途中にある町の中では比較的大きな方だから、俺としては少し色々する気だった。
とは言っても旅に必要な事をするという意味だ。途中で倒した魔物の部位を売り、その金で道具を調達したり、武器を仕入れたりである。特に今の俺は弓師だから消耗品である矢は定期的に仕入れなくてはならない。
その他にも前にも言った通り魔獣の死体始末用の火のスクロール、死体を捨てる用の穴掘りスクロールに加え、キャンプで使う地雷スクロールを描く魔導紙も必要だ。地雷はともかく火や穴は例の狼退治の時に予定外に結構使ったし。
「この町では少し買い物をしたい。」
俺の言葉にクラウも当然だと頷いた。
「そうだな。ちょっと大きな町だからな。」
「まずは、ギルドでブツの買い取りをして貰ってから買い物に回ろう。」
彼女は頷いて、意外な提案をした。
「よし!じゃあクリスがギルドに言っている間に私が宿を探そう!」
「ああん?」
「お前にそんな事出来るのか?(笑)」と一瞬思ったが、よく考えてみたら多少、旅人としての経験は足りないかもしれないが、俺と会う前には1人で旅をしていたのだ。宿の1つぐらい探せるだろう。
フルハットは比較的大きな町だが、大き過ぎる町ではない。
例えて言うなら県内2番目の町みたいなものだ。神奈川なら川崎、埼玉なら大宮に相当する類の町だが、これは例にならないな。普通の県なら県庁所在地の町とそれ以外では天と地の差がある。
こちらのフルハットの町は普通の県でいう2番目クラスの町に過ぎず、周辺に比べれば大きな町だが川崎や大宮の様な大都市ではない。
が、少なくとも今まで立ち寄った町の中では一番大きい部類なのは間違いなく、今まで立ち寄った町、というか村の様に宿自体が1軒とか2軒とかってレベルではない。けど、東京や大阪の様に目の玉が飛び出る様な金額の宿もないだろうから、クラウがどんな宿を選んでも金が足りないってこともなかろう。
「じゃあ、そうするか…待ち合わせはどうする?」
「宿が決まったら私がギルドに行こう。ギルドで待っていてくれ。」
「じゃ、そうしようか。」
「今日は?」
「買い取りを頼みたい。」
ギルドの窓口で俺は旅の間に仕留めた魔物の討伐部位を並べた。
そもそも今の俺は本来は待ち伏せ猟を専門としてるので、一人旅の頃は、勿論、旅費を稼ぐ為にいつもの待ち伏せ猟をする時は別だが、移動中に偶発的に魔物に遭遇した場合は積極的に倒しにはいかなかった。Cクラスの気配でもすれば避ける方を選んでいた。
勿論、レーザーを使えば何だっていけるが、金が欲しいわけじゃない。
それに何がどうなって情報が洩れるか分からない。レーザー封印は人目の多くない一人旅の最中でも継続、クラウと2人旅になった今も絶賛継続中だ。
こうなると機密保持(?)が些か鬱陶しい、というか自分の手足を縛るような感じにもなりそうだが、実はそうでもない。
近接のクラウと一緒の2人旅の今は、弓で遠間しかやらない俺だけの時と違い、攻撃のバリエーションが飛躍的に増えた。なので、魔物の気配がしても避けたり逃げたりが少なくなり、というか彼女がどちらかと言えば退治を好んだ事もあり、勢い倒した数も増えた。
ちなみにクラウは今は冒険者ではないが、冒険者になればDクラスまではそんなに時間が掛からず、腰を据えてやればCクラスも楽勝だろうな、と思わせる腕前はある。
無論、討伐部位の数的にはD、Eが多いが、今は逃げないし、クラウと2人で戦力も上がったのでCクラスもちょこちょこある。
「Cも結構あるなあ。旅の途中っすか?」
「まあな。」
受付は討伐部位を手に取り、一つ一つを確認しながら考え込み、俺が差し出したDクラスのギルドカードを再度見た。
「Dっすか…」
ギルドの若い受付はまた何か考え込み始めた。
と、奥を向いてやおら叫んだ。
「おやっさん!」
奥からは少しゴツい体形が少し崩れた感じの初老の男が出て来た。
受付は、その男に俺のギルドカードを見せて、何かボソボソ言っている。
若者のボソボソを聞いて、ギルドカードを見て、ゴツ崩れ男は俺の方に向き直った。
そして俺を上から下まで眺めた。正確には体格と武器を確認した。
「弓師か?」
「まあな。」
最初に得手を確認するのは冒険者の基本だ。俺も即答した。
「ロックウッドを10匹も殺ったのか?」
俺は肩を竦めた。
「ああ。けど旅の途中だから1日とかじゃないし、連れもいるぜ。1人じゃない。」
ゴツ崩れは机に散らばる何種類かの討伐部位を確認する様に更に広げた。
「ワイルドブルも相手に出来るのか?」
「まあ、ありゃ俺の場合、上手くすりゃ遠間から弓で倒すだけだからな。」
ゴツ崩れ男は自身の顎をさすった。
「俺はここのギルド長のエド・マーフィーだ。」
「はあ、こりゃどうも。クリス・シーガイアだ…です。」
彼は顎をさすりながら俺の名前の書いてある冒険者カードにもう一度チラリと目をやった。
「……ようし!クリスっつったか。オマエ、今日からCだ!」
「おお!そりゃどうも!」
思ってもみない昇格だ。しかも想定よりかなり早い。すっごく早い。
クラスCは実力の証明が必要だから、出会い頭で大物を倒した程度ではなれない。
しかも俺は待ち伏せ猟を基本とするソロの弓師だ。パーティー組みたく獲物を探してウロつける戦力はないから、正直、俺としてはどこかに定住して実績を積み上げても早くて1年、下手すりゃ2年近くはかかると思ってた。
と、いう事情もあって思わず喜んでしまったが、一瞬だけ気分が上がって、通常位置に下がってみると嫌な予感がした。
つか、冷静に考えて今はもうそれしかしない。
旅の途中で立ち寄ったギルドである。
何度も言っているが、ギルドでの昇進の条件は実績による実力の証明だ。
高位の魔獣を倒してもまぐれ当たりとされればランクアップしない場合もあるし、ちまちまと実績を積み上げれば実力はあるとして、上に上がれる事だってある。
だが旅でフラリと寄った人間がその証明は難しい。
例え証明部位を持っていても、それが真っ当に魔獣を倒して手に入れたものかどうかは誰にも分からない。依頼をこなしたわけでもない。
だからCへのランクアップはその地を根城にしていて、普段からある程度の実力が把握されている冒険者でないと認められない事が多い。だから俺もなるべく一か所に留まって狩りをしていたのだ。
なのにアッサリ、ランクアップだ。
イヤな予感がする。つかもうそれしかしない。大事な事だから2回言いました。
ゴツ崩れ男改めギルド長は、俺のカードをヒョイと若い受付に投げ渡し、若い男も分かってます、と言わんばかりにカードを受け取って何も言わずに奥へ行った。要は冒険者カードをこの一瞬だけかも知れないが、更新作業を口実に合法的に取り上げられてしまったという事だ。
そして案の定、ギルド長は俺の方に向き直った。
「カード、Cに更新して渡してやるが、ちと作業待ちの時間がある。念の為、倒した様子とかも確認したいし、俺の部屋まで来てくれ。」
「…あ、ああ。」
その上、合法的に奥へ連行だ。益々嫌な予感しかしない。
警察で「署長室で詳しいお話をお聞かせ下さい」と言われたって場所が取調室じゃないだけ、用語が事情聴取なだけ、相手が「全部吐かねえとどうなるか分かってんだろうな!コラ!」とかってこちらが何も言わないうちから勝手にキレて机に蹴りを入れる刑事じゃないだけで、公権力による強制的な取り調べなのは何も変わらないのと一緒だ。
「名前は?」と不機嫌そうに聞かれるのも一緒、むこうから事情説明は全くないまま唐突に「ところで〇月〇日〇時〇分、アナタ、ナニしてました?」と意味不明な質問をされるのも一緒だ。
かつて大物政治家が警察や検察の取調室ではなく、都心の高級ホテルの一室に呼び出されて事情を訊かれた事があったが、呼び出し場所が何処であろうが捜査機関による取り調べなのには変わらない。
国民も全員がそう理解しており、ただでさえ顔も態度も悪役感の強かった彼はやっぱり後ろ暗い話がいっぱいあるんだろうなと思われて、以降は以前の様な権力を振るえなくなっていった。
そして何処の世界でも偉い筋と公権力は情報の非対称性というのを非常に大切にしている。
一般的な学問的市場経済では商品価格は買い手が出せる額、出しても良いと思える額まで下がる。中学校の教科書にも載っている需給曲線と同じ動きだ。
だが双方の情報に非対称性がある場合、一般的な経済原則が崩れる。買い手が売り手の持っている情報を持っていない場合、売り手は一般的な需給曲線の交差点より高い位置で売る事が可能だ。
極端で分かり易い例で言えば、日本では水はどこでも手に入る。なので質を選ばなければそれこそ公園の一角でも手に入るから全く値段はつかないが、その情報を全く知らない人間には砂漠のど真ん中同然に高値で売れる可能性があるという事だ。
そして、その事をよく知っている上の立場の人間や公的機関は、情報の非対称性をテコに下から目一杯、有利な条件を引き出そうとする。
この場合も一介の流れの冒険者の俺には全く情報が渡されないまま、面倒に巻き込もうとしている気配がギンギンに感じられたが、「どうも」と礼を言ってしまった以上、断りづらい。更新を口実にギルドカードも持って行かれた。
俺は仕方なく了承して、ギルド長と奥の彼の部屋へ向うしかなかった。
案の定、ギルド長の部屋に入って応接セットに俺を座らせて自分も向かいに腰掛けたなり、俺の旅路での魔獣退治の話など全くなく、高校の先生がクラス委員の生徒に雑用を押し付ける、あるいはクラスで生徒の財布が無くなった件について訊く笑顔で早速本題に入った。
「それで、だ…お前さん、レッドコブラ討伐に参加しないか?」
レッドコブラ?
ギルド長の言っているレッドコブラは普通は大きくてもアナコンダとかアフリカだか南米だか辺りのニシキヘビぐらいの赤い蛇だ。
地球のそれらがどんな動きなのか正確には知らんけど、こっちで言うレッドコブラは大きさに見合わないかなり素早い動きと口から飛ばす毒が厄介だが、通常ランクはCだ。
ランクCだから、なりたてとは言え、俺に声がかかるのは変ではないし、Dクラスであっても、まあ依頼があれば引き受けてもいいレベルではある。(もっともヘビ系統は木にも昇って来るので相性は良くないが…)
Cクラス以上の魔物にEやDであるような野生動物の延長レベルはいないから、複数人であたるのもアリな話だ。
と、いうか、そもそも魔物退治は普通はパーティーを組んで複数人で当たる場合が圧倒的に多い。俺の様な完全ソロは、単独でも充分な戦闘力のあるBクラス以上の実力者か、逆に誰にも相手にされない程度の実力しかないEクラスにはいるが、珍しい。特定のパーティーに所属しない冒険者も仕事はどこかのパーティーに混ざってやる事が多い。所謂、助っ人というヤツだ。
ただ、このギルド長は「参加」という言い方をした。パーティーでなく、冒険者をかき集めているという事だ。
腕の達つ冒険者なら個人で対応も可能なレベルではあるCクラス程度の魔物では普通はない。
「レッドコブラって…もしかしてビッグヘッド?」
情報の非対称性を最大限維持したまま有利に話を進めようとしたギルド長の口元が「引っ掛らなかったか!」という風に曲がった。
「しかも双頭だ。」
やっとSymmetryな情報を得た俺は両手を挙げた。
そりゃもう、心の底から挙げた!
「やめてくれよ!俺はD…じゃなくてCだぜ!?Bでも最強に近いビッグヘッドのしかも双頭なんて特異種じゃねえか!相手になんねえよ!」
俺の心の底からの拒否、しかも即答はきちんとギルド長には伝わったらしい。
彼は少し慌てた素振りになった。
「いやいや、待て待て!別にお前さん1人で何かしろってわけじゃない!ちゃんと大人数でチームを組むんだが、長距離の火力が少し足んねえんだ。魔法使いもいるがDが1人にEが2人でな。腕利きの弓がいると頼もしい。」
んな事は分かってる。
Cクラスの、しかも成り立ての弓師の俺1人で何とかしろって言ってるならコイツは唯のバカだ。何処の町でもギルドの長がそんなはずがない。
それでもダメなものはダメである。
「いやいや、いまいまCになった俺にはとてもとても。」
実際、やる気はゼロだ。
旅の途中なのである。しかもフラフラしている俺だけならともかく今はクラウもいる。彼女には目的があるのだ。
「俺は旅の途中だ。連れもいる。連れは冒険者ってわけじゃねえ。」
「なんだ?お前さん、ソイツの護衛か?」
「いや、そんなんじゃねえけど、連れには都合もある。悪いけど、この町には旅の途中で立ち寄っただけだ。長居する気は全くねえ。明日には発つ気だったんだ。」
「別に連れも参加しろってわけじゃねえ。弓師なら、上手くすりゃ、あんま大きな危険もなく、いい小遣い稼ぎになるかもしれねえぜ?」
「そりゃあ、まあ……いや、ムリムリ!命あっての物種だ!」
俺がまだ気乗り薄を通り越した拒否った態度を取っていると、ギルド長は今度は人が悪い感じでニヤニヤと笑った。しかも目は全く笑ってない。
「俺としてもギルドの強制参加権限なんて使いたかねえ。強制じゃなくて依頼で受けるなら、結構いい稼ぎになるぜ?」
ギルドの強制参加権限とは言葉の通り、ギルドが傘下の冒険者に強権を発動して討伐に強制参加させる事を言う。
発動権限はその土地のギルド長が持っているが、無論、いつでも好きな時に簡単に発動させられる話ではなく、基本的には正式ではなくとも領主の許可、または依頼レベルの話が前提なのが普通だ。
が、ギルドの運営は基本的には領主が口を出す話じゃないから、領主許可云々はあくまで慣例で、ギルド長単独の判断で使えない正規ルールはどこにもない。
しかしながら強制参加権限は大概の場合、被害多数が発生または予想される魔物の討伐で、しかも大概は既に数回に渡りギルドで討伐失敗歴がある様な場合か、領主の騎士団だけでは手が足りない程の大物か、スタンピードが発生した様な場合に発動される。
例え話をすれば、実際はまるで嘘だが、デアコアイルでもし本当にAクラスの吸血鬼が発生していた場合、騎士団の手助けとして最終的にはこの強権が発動された可能性はあった。逆に言えば、Cクラスのレッドコブラでは、Eクラスの冒険者しかいない様な余程の田舎でない限り、発動されることはない。
もっともギルド長の言ってるビックヘッドなら話は分かる。
レッドコブラの上位種でビッグベッドと呼ばれるそれは、少なくとも2tトラックぐらい、ヘタすると10tトラック級の大きさを誇り、桁違いに強く、ランクBとAの中間ぐらいと言われる。
特に頭が大人1人ぐらいなら丸呑み出来る程に肥大化しており、ビックヘッドと称される。こうなるともう違う魔物と言っていいくらいだ。
しかも双頭となれば更にそれの上位変異種で、ギルドからの強制参加権限発動も不思議ではない。
それと強制参加権限下での討伐となれば、多数が参加するのが普通だ。本当に駆け出しのEクラスなんかを除き、その瞬間にギルドにいるほぼ全員参加、なんてのも珍しくない。
が、その割に掛かっている賞金総額はあんまし増えない。つか普通は元ある賞金以上には増えない。
強制参加依頼とは地域に与える脅威の度合いが最早銭金の問題ではないぐらいデカい時に出されるもので、その地区にいる冒険者を徴兵しているのと一緒なのだ。
なので、場合によってはお上が金を出すという話になる。
だだ元の依頼者からすれば自分が金を出さなくて済むので結構な事かも知れないが、行政が融通が利かず、常識レスで一般相場を見ないフリをするのは全宇宙共通で、困難度に関わらず普通の徴兵程度の金額になる可能性も高い。
日本の役所なんかだと原資は税金で自分の金じゃないので、公共工事を見て分かる通り大概は(仲の良い)業者の言うなりの価格、つまりは民間よりも遥かに高い値段で発注する。
公共工事の様に部材その他の見積もりがキチンと出そうな案件ですら、業者がシレっと1,000倍の単価で提出すればそのまま通すし、単価がハッキリしないサービス関係に至っては大手広告会社、大手人材派遣会社の完全に言いなりだ。彼らは実際に担当する人数ではなく、のべ人数×バカ高い大手広告会社社員の時給で計算して請求する。
しかも昨今の得意技として実務の9割以上をボランティアと称するタダ働きを何故か喜んでする善意の人々に丸投げする。そして仕上げに役所が面倒なんでキチンと確認する事はないのを見越して人数は水増しして請求書を作成する。大手広告会社のスポーツ行事責任者は、世田谷の豪邸に住みロールスロイスに乗っていたのは伊達ではない。
が、こちらの行政費用は基本的には領主が領内を治める為に自分の懐から出している費用だ。
言い方を変えれば領主が領を治める目的で出している私的財産であるから、遣えば領主の利益は減り、遣わなければ増える。つまり企業のコストと考え方は一緒で、領主はそもそも必要最低限のギリギリしか出す気はない。必要最低限のギリギリとは相場価格の問題ではなく、領民、社員が生物学的に生きていけるギリギリという意味だ。
なので強制参加だから賞金は領主が出す、となった瞬間に、大概は依頼(ビッグヘッド討伐)に見合わない、最低限の依頼額だけになる場合が多い。
要は人数は増える、総額は減るで、1人当たりの取り分は、かえって少なくなる場合が多い。
考え方によっては、強制依頼は文字通り金額に関わらず強制だから、役所つか領主からすればそもそも高い賞金を用意する必要はないという理屈なのかも知れない。
DやEまで徴集される大規模な討伐だと日当制になる事もあるが、その場合は更に人数が増える分、普通は更に取り分は減る。
勿論、生き残れば取り分は増えるかも知れないが、普通のパーティー(5人前後)で歯が立たなかった魔物相手に少なくとも通常の5~10倍以上の人数、というか戦力で掛かるのが強制参加だ。普通に考えて、通常の場合よりも多い賞金を得る場合とは、通常よりずっと死傷率の高かい相手の場合に限られるから、割の良い稼ぎとはとても言えない。
ちなみに実際には少数しか生き残らない場合も多く、その場合には結果として生き残りは多額の賞金を手にする事も実際にあるらしいが、命は銭金の問題ではないのでやはり割に合わない。
だから強制参加権限にかかるのは皆、嫌がるのが普通だ。
だが強制参加権限は断れないのが、ギルド長絶対の原則と並ぶ数少ないギルドの鉄則だ。逃げたり断ったりすれば、ギルドから永久追放される。
永久追放されたって、ギルドは登録の時に身元を確認しないんだから、他の土地で入り直せばいいだろってな意見もあるだろうし、実際に出来なくはない。
が、バレればタダでは済まない。
簡単に言えば、その場で斬り殺されても文句は言えない。
そもそもギルドの強制参加権限はギルド長の責任で発動可能だが、その土地の領主の許諾、あるいは暗黙の了解の元に発動されるのが大半だ。だから拒否≒お上への反逆と理解される。
なのでギルドで殺されなくとも土地の領主に引き渡されて、死刑とまでは行かずとも手足を斬り落とされて冒険者として活動できなくされるというのは普通にある。
偽名の加入すら何も言わずに受け入れ、前歴も犯罪歴も確認しない、知っていても(役に立つなら)見て見ぬふりしかしない冒険者ギルドにおいて、強制参加権限からの脱走はギルド長への反抗と並ぶ一番の重罪なのだ。
しかもギルドは全国組織で、隣の国に逃げても永久追放処分は変わらないし、全く関係ない隣の国の領主であっても偽名変名で再登録(?)した挙句、ギルドから永久追放処分違反として引き渡されれば、同様の刑になる事が多い。むしろ、実際には違反を犯した地と違う領主に捕まった場合には、審議したり送り返したりすんのも面倒なので死刑!とかも多いから、別の場所に逃げて別名でギルドに登録するのは、ややもするとかえって命のリスクは高い。
どこの国でも魔獣退治に一役買っているのは冒険者ギルドだから粗略には扱えないし、組織として見てもギルドはそのくらい強い力がある組織なのだ。
そして行政側としても、いざとなれば腕の達つ冒険者を必要な討伐に駆り出せる強制参加権限が有名無実化するのは避けなくてはならない事態なのは全国共通認識なのである。
とはいえ、強制参加権限は簡単に口に出せるものではない。
それをチラつかせてまでの話を断るのは難しいそうなのは俺にも分かっていた。
それでも、無駄とは分かってもいたが、俺はゴネてみた。
「高くつくぜ?」
「Dがか?」
「Cなんだろ?しかも相手は更に格上確実だろ?」
ギルド長は紙を一枚、俺らの間にある机の上に放った。
見慣れた様式のソレはギルドの依頼書だ。そこには双頭の蛇が描いてあり、一番下には討伐報酬額の記載があった。
「…なんだ、この額?」
想像していた額よりかなりデカく、驚くを通り越して呆れた俺に、ギルド長は肩を竦めた。
「領主様じゃねえんだが、この辺りを仕切ってるノースロードさんってのがいてな。その御方が今回は出して下さる。」
いや、確かにこの額が現金で出せるヤツがいるってのも驚きだが、重要なのは誰が金を出しているかではない。依頼金額のデカさ自体に驚き、呆れていたわけだが、ギルド長も自分が少し的外れな話をしたのに気付いたらしく付け加えた。
「……ま、どんな方が金出してるかはともかく、そんな相手ってこった。だから人数、集めたい。」
「いったい何人、殺られたんだ?」
ギルド長は真剣な眼差しになった。
「1つの村、丸ごとだ。」
「マジか!そりゃあ、もうAかSだろ!騎士団の出番じゃねえのか!?」
俺の当然の指摘にもギルド長は渋い顔をした。
「…領主の騎士団も1隊、殺られた。」
「王都から呼べよ。」
「それが出来りゃ苦労はねえ。けど、手続きに途中で躓いたらしい。」
「んだ、そりゃ…」
「地元のギルドの協力も取れないのに王都からは出せないとよ。」
「おいおい…」
言い分は理屈だが、唯の難癖だ。
ギルド長の言う通りなら、地元の騎士団は既に失敗している。その難易度から考えて王都の騎士団が出張ってくるのに相応しい。
なのに、理由は分からないが来るのを渋る理由として冒険者ギルドをダシに使っているに過ぎない。
政治の世界の話なんぞ俺の知った事ではない。
キツくて儲からない仕事は、自分ではやらず他人に任せて成果だけ独り占めがどの社会でも変わらない偉くなる掟だが、同時に任される、いや丸投げされる側に回らない様に立ち回るのが庶民とヒラリーマンの処世術というものだ。
中国の諺で言えば、「上に政策(策略)あれば下に対策あり」である。
「俺は他所モンだ。他所モンだからって、変な話で使い捨てられんのはゴメンなんだよ。」
「そんな気はねえ!むしろこっちゃ通りすがりの他所モンに声かけなきゃいけねえぐらい必死なんだ。頼む!」
「悪いが知らねえ。だいたい俺ら他所モンを盾にして逃げられても、俺らは文句も言えねえ。」
「ここの冒険者の殆どが、この国の出身だ。ココが故郷だ!故郷を守る気なんだ!他所モン、盾にして逃げたりする気はねえ!」
「口ではなんとでも…」
「こんな言い方は何だが、弓師は後衛だ。盾にして逃げるなんざ出来ねえだろ?」
「ああ…ああ~」
後衛だから盾に出来ないのは実戦闘中ならそうかも知れないが、そうじゃなけりゃ何とでもなるのは身に染みて知ってる。そりゃもう骨身はおろか魂的に知っている。
けど、口では散々な言い方で断りに入っているが、その心の片隅には「仕方ねえか…」と思っている自分がいるのを感じていた。
一言で言えば厄ネタである。報酬は多額で魅力的だが、大金が稼ぎたいわけではないから現状ではあまり意味はない。それにナンボ多額の賞金って言ったって命にゃ代えられない。ビッグヘッドは簡単な相手じゃない。
そんな冷静な判断はあるのに、何で俺の心の中では「助けてやればいいじゃないか!」という声があるんだ?
自分で自分に疑問に思いつつ、その答えも分かっていた。
俺はかつて勇者として、この世界の困っている人達の為に東奔西走した事があるのだ。
その記憶が、その経験が、心の中で助けてやれ、と叫ぶのだ。
あの時だって、望んじゃいなかったし、困っている領民の奴らなんてマジな話、心底どうでもよかった。でも声が掛かれば結局は仲間と引き受けたのだ。
何度も騙され、何度も酷い目にあった。
それでも俺らは引き受け続けた。
そして、その経験は俺の嫌な思い出とは裏腹に血と肉と精神を構成する礎になっているんだろう。
「……俺1人じゃ決めらんねえ。連れと相談させてくれ。」
今の段階ではここまでが俺の今の立場と俺の心の声との妥協案だった。
話の進捗はスローモーですが20話まで到達しました。
この場を借りて読んで戴いている方々に厚く御礼申し上げます。
これからも続けていきますので、気に入られた方は「読んでるよ」という印代わりにお気軽にブクマ、評価をお願いします。




