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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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018 淑女騎士団

 次の日は、まず少し戻って彼女が途中で捨てて来た荷物を探した。


 オオカミに襲われた瞬間に躊躇なく荷物を投げ捨てたのは悪い判断ではないが、当然ながらこの後の旅は困る。

 なので、荷物を探しにいったのだが、幸いなことに投げ捨てた辺りに荒らされもせずにそのままで転がっていた。食い物の類を全く入れてなかったからだろう。


「マジックボックスがあるわけでもないから、荷物を増やしたくなくてな。食事は現地調達に徹してたんだ。」


 それはそれで悪くはないが…


「そうは言っても調味料の類は常備しといた方がいいぞ。」


 俺のアドバイスに彼女は苦笑いで答えた。


「そうだな。私もこの旅で思い知ったよ。」


 実際、調味料があるのとないのでは食い方の幅が全然違う。少し塩を振っただけでも魚などは美味しく食える。肉や魚は現地調達に頼って持ち歩かなくとも、調味料と水は欠いてはいけないのもまた、前回の旅で学んだ事だ。


 何はともあれ、彼女の荷物も無事に確保して、今度は2人旅が始まった。


 俺の場合、ソロの徒歩旅は今回が初めてだが、旅そのものはベテランだ。3年間、文字通り這いずり回る様な旅をしていたのだ。

 しかも前回は魔物がいる地点をわざと突っ切る様なムチャ旅だったが、今回は普通に街道沿いだ。

 時折、魔物も出るが通常はE~Dクラスばかりで何も問題ない。そんな話は全くないが、もしA、Bクラスの魔物が徘徊しているとでも聞けば前回とは正反対で普通に避けて通るだけだ。


 めっちゃユルくていいわ!


 それに比べれば、俺の言う事に一々感心する彼女は素人丸出しだった。


 そんなんだったら駅馬車使えよ!


 俺の正直な感想に対する彼女の答えも正直だった。


「恥ずかしいが金はない。」


 だが彼女には腕はある。

 途中で2、3度魔物にあったが、Dクラス程度で近距離の単体なら危なげがなかった。


 複数でも俺がまずは遠距離から倒して数を減らし、近距離まで近づいて来たヤツは彼女が斬り倒す。

 彼女が近距離戦をやっている間に他が襲ってくれば、俺が援護射撃する。

 俺が次の弓をつがえる間は、彼女が近距離で守る。

 冒険者としても充分やっていけそうだ。


「冒険者登録して、旅先で魔物潰しながら行けばいい。討伐部位は行った先の町にあるギルドで売れるから多少は駅馬車なんかも使える様になるかも知れん。」

「……思いつかなかった。」


 ま、素人さんは得てしてそんなもんだよな。

 とか偉そうな事を言ってるが、俺も冒険者になってから初めて知った、改めて分かった事も沢山あるんだけどね。この前のデアコアイルの一件みたく。


「クリスこそ、そんなにいい腕でDクラスなのは…あれか?獲物に恵まれなかったのか?それとも冒険者は最近からか?」


 DからCに昇格するにはCクラスを倒した実績、しかも確実に安定的に倒せる証明がいる。だからD、Eクラスしかいないのどかで平和な場所で冒険者をしていると、経験は長くとも昇格の機会そのものがない事もある。

 彼女が獲物に恵まれない云々と言ってるのは、そういう事だ。


「ああ…まあ…冒険者になってまだ日も浅いしな。」


 もう3日程、2人で旅をしている。ポツポツお互いの話が出る頃だった。


「なんだ?冒険者になる前は何やってたんだ?……いやいや、待て待て!当ててみよう…狩人だな!」


 ヒネリ、ゼロだな。

 もっとも俺の弓の師匠たるミリーも元は狩人って言ってたから、一般的な連想ではあるだろう。


「いや、違う。しy…。」

「待て待て、まだ言うな!………そうだな、うん、城兵だな。城壁の上からなら弓が得意なのも頷ける。」


 面白い子だな。


「いや、そんなんじゃない。普通にしょ…」

「おいおい、違うのか?…いや、待て……う~ん…駅馬車の護衛とかか?」


 そりゃ普通に冒険者だな。


「そんなんじゃなくて普通の商人だ。ま、雇われだったし見習い…に毛が生えた様な感じだったけどな。」


 都合7、8年、会社員をしてたわけだが、この道30年とかではないからそうエバれる履歴ではない。偉くなったわけでも大きな仕事で成功したわけでもない。

 営業なんてのは冒険者と一緒で目に見えない知識とテクは身に付くが何が出来るようになったと誇れるものはなく、しかも冒険者と違って営業レベルCクラスなんてのはないから、自分が何処までのレベルなのか客観的に測れる、他人に説明できるものもない。

 偉くなる云々に至っては生涯、偉くならないのは確定だ。


 それにこちらの世界では大企業で出世階段を昇るなんてのは滅多にない。幾つもの支店をがあったり、国を股にかける様な商会とかもないではないが、圧倒的に数が少なく、こちらの商売人で誇れるレベルとは課長とか部長とかではなく、独立して自分の名前で何か商売をしている事だ。

 その評価目線で言えば、ヒラリーマンに過ぎない俺なんぞは7、8年やってようが唯の見習いで雇われと言われるレベルだろう。


 そういう事で俺は少し謙虚に(?)説明したが、彼女はそこは特に突っ込まなかった。


「そうなのか!きょうび、商人も侮れない腕を持ってるんだなあ!」


 まあ彼女の想像とは多分色々な意味で違うんだが、そこから先も当然の事ながら説明出来ないから言わんでいいだろう。


 少なくとも日本のヒラ社員に必要とされるのは、当たり前だが実戦闘能力ではない。コミュ能力と称される普段はいい顔をしながらも、一旦交渉ともなれば相手の言う事を聞いたフリだけしながら実際にはこちらの言い分だけを押し通す能力だ。

 一歩上がって管理職層になれば求められるのは会議室におけるマウンティング力と鈍感力と無共感力を混ぜ合わせた戦闘スキルだ。昔の有名なドラマでも「事件は現場で起きるんじゃない。会議室で起きてるんだ!」という名台詞があったと聞く。


 俺が最近(?)見た会社員のドラマでも、一流企業に勤める主人公は現場じゃなくて自身の社内で超怖い顔して「倍返しだ!」とか絶叫してたし、敵役の偉い人に至っては怒りで顔面がピクピク動くのはマジホラーで怖かった。ウチには変なヤツとか仕事がデキないヤツとかは結構いたけど、流石に社内で絶叫する様な常識外な暴れ方をするヤツやら、会議室で顔面がホラー的に動く上司なんぞはいなかったなあ。

 …よく考えたらドラマの舞台は日本有数の大会社だった様な記憶があるので、左遷専用子会社のウチはともかく同じ様に有名上場企業だった親会社なんかでは、もしかしたらみんな吠えて叫んで、仕舞には顔面を悪魔的にヒクつかせながら部下には「お終いDeath!」とか宣告しながら仕事してたのかな?

 

 そうか!


 そして実際にお終いになったヤツは流石に生物学的にDeathになったりはしないがウチに左遷されて来るわけだ。いや彼らからすればウチに来るのはDeathと同義なのか!(笑)

 実際にドラマの主人公も最後は関係会社に出向を言い渡されてショックで顔が蒼褪めてたしな。

 

 でもさ、普通に考えて、直上司以上の上司に正面から歯向かった挙句、売り言葉に買い言葉かなんか知らんけど全員が見ている前で土下座を強要するような部下は誰も要らねえだろ?


 いずれにせよ日本の会社員には野外における物理あるいは魔法戦闘力は求められていない。だから俺の弓の腕は商人(会社員)だった頃とは何の関係もない。

 なので、商売の中で如何に弓の腕を上げたかとか突っ込まれると少し困ったはずだが、彼女も少し気を使ったのか、なんで俺が商人から冒険者に鞍替えしたのかは聞かなかった。

 冒険者の様な危険な商売は大概は他に喰う術がないヤツが就く商売で、商人として成功、もしくは安定した暮らしをしていたなら転職したりは普通はしない。

 そしてそれはこの世界の皆が知っている一般常識だ。

 ……単に興味がなかっただけかも知れないけど。


 因みに俺の正確な変遷は学生→勇者→学生(出戻り)→商人ヒラリーマン→冒険者だ。


 ま、何にせよ、雑談はいいが俺の素性には激しく突っ込んで欲しくはない。

 俺は会話が途切れた瞬間を狙い、攻守交代を仕掛けた。


「お前さん、リバードアに用事でもあんのか?」

「私か?私はリバードアで騎士になる。」

「ほほう?」


 まあ、腕前に問題はなさそうだが、わざわざリバードアってか?


 俺の心の中の疑問に彼女はアッサリ答えた。


「リバードアの淑女騎士団に入るんだ。」

「ほう!」


 淑女騎士団!

 あるのか、淑女騎士団!


 前回の旅で俺らに付いた護衛、アイーシャ、レニ、ミリー、リリアは淑女騎士団出身と名乗っていた。でもそれはガリシアの騎士団名だ。

 ガリシアという国自体が存在しないのに淑女騎士団はあるのか!


 俺の更なる心の中の疑問に気付かず、彼女は朗らかに話を続けた。


「もっとも、あそこは厳格なメンバーシップ制をとっている。だから私の様に入隊資格があっても、実際には入団申請をした時に欠員が無ければ入れない。」

「ふ~ん。空きが無い時はどうなるの?」

「まあ…空きが出来るまで待つしかない。」


 彼女の話を聞きながら、俺は昔の事を思い出し続けた。


 淑女騎士団は当時はガリシアにしかない騎士団と聞いていた。全員が女性だけで構成される騎士団だ。


 何の役に立つ?という意見はあると思うが、意外に役に立つのだ、と、その一員を名乗っていたレニが言っていた。


「一番、役に立つのは護衛でしょうか。」

「護衛?」

「高貴な方々、特に女性の御方の周囲にむさ苦しい男性の護衛は似合いません。我らが守るのです。」

「ああ、分かる気がする。」


 彼女は騎士に多い長剣より、少し短め剣を得意としていた。

 短剣というには少し長く、長剣ではないぐらいの長さの片手剣で普段は戦い、時には空いた片手で短剣、というかナイフを投げる。対人戦で正面から戦ったら、かなりやりにくそうなタイプだった。

 対魔物戦では、短剣で殴り掛かり、超近接で反対の手に持ったナイフで目を潰したりしていた。


 今、考えると性格出てたよなあ。


「ですので、我々は騎士団としての大隊単位より小隊に分かれての行動が多いのです。護衛はほぼ全員が経験がありますから今回の様な役目はうってつけですし、全員が手慣れています。」

「ふ~ん。レニは普段はどんなんが多いんだ?」

「アタシの場合は護衛と町中ですかね。」

「町中?」


 彼女は手の中でクルッとナイフを回した。

 やってる事は町のチンピラみたいだが、肩までもないショートヘアが似合う美女の彼女がやると、何となく…その…なんつうのか、麗しい感じだった。


「アタシは超近距離が得意なんです。だから、狭い街中で潜り込んだ魔獣とかを殺る仕事が多かったです。」

「な~る。他のみんなは?」

「アイーシャ隊長は正統派ですから、どっちかって言うと護衛よりリリアと一緒で外での魔物退治。ミリーは護衛以外だと森が得意ですね。弓も弾けますし。」


 白魔法使いのリリアが外が得意ってのは面白い、と思った。

 顔に出たのだろう。彼女はクスリと笑った。


「男性騎士団同然に平地で魔物と立ち回るアイーシャ隊長の一番隊は意外と小傷は多いです。リリアみたいな白魔導士は重宝されるんです。城外での野営では結界にも困りませんし。」

「ふ~ん」

「それに平地は白魔法の結界も使い易いんですよ。だから彼女、先頭で戦ったりはしませんけど、魔物退治現場の場数はアタシやミリーより踏んでるぐらいなんですから。」

「ほほう。」


 丁度、電車の3人掛けの椅子の両端に座っているぐらいの距離で座っていた彼女は、こっちを見て、俺の足に触れるか触れないかの辺りに両手をついて下から身を乗り出した。

 身を乗り出したせいで物理の胸部装甲が下がり、服の間から意外とデカい生身の胸部装甲の谷間が大きく、しかも至近距離で見えた。

 俺は視線をキョトキョトとあちこちに拡散するしかない。


「タッカートは彼女みたいのが気になる?」

「い、いや、そんなんじゃねえけど…」


 ちょっとドキドキしている俺を、彼女は俺の肩の下辺りの至近距離から見上げて、ふふっと笑った。


「気になるなら色々お話、してみたら?魔法使い同士、気が合うかもよ?」


 今考えれば、場数を踏んだ彼女達からすれば、DT揃いの俺らなんてコロコロのコロコロに転がしやすかったんだろうなあ。


 それに当時の彼女は説明しなかったし当時の俺も別に聞きもしなかったが、女性だけの騎士団にはもう1つ得意技があったはずだ。それは諜報、暗殺だ。

 色仕掛けで男を無防備な状態にして何事か聞き出すのは何処の世界でもある諜報の基本だし、挙句、殺るのも古今東西あるあるな暗殺手段だ。


 そして彼女達の前では当然、口には出さなかったけど俺ら3人はその可能性を念頭には入れていた。

 俺ら暗殺したって意味ないって思ってたから暗殺の方は殆ど警戒してなかったけど。


 クラウを見てる限り、彼女にそっち系統はなさそうだな。(笑)


 俺が昔を苦く懐かしく思い出している間にも、クラウは朗らかな感じで自身の事情を説明してくれていた。


「入隊資格は持っているんだが、メンバーに欠員がいなかった場合には待つことにになる。」


 聞き覚えのある単語を聞いて、挙句、昔を思い出したりして少し浮ついていた俺がいたが、よく考えてみれば、彼女の言ってる淑女騎士団と、俺が知ってるそれが一緒のものかは分からんな。

 そもそもガリシアないんだし。


 心の底で考えている事を口にも表情にも出す事なく、俺は話を続けた。


「待ってる間はどうすんだ?」

「あまり考えてないが…まあ…他の騎士団に取り敢えず籍を置くか…城兵に混ざるか…適当に暮らそうと思っていたんだが、クリスを見てると冒険者も悪くなさそうだな!」


 入団資格がどうたらという話はアイーシャ達から聞いてはいないからよく分からない。


 よく分からんが2軍のないプロ野球みたいなもんかな。

 本人に才能があってもベンチ入り選手の数は決まってるから、レギュラーの誰かが調子を落とすかケガでもしない限り、1軍には昇格出来ないってわけだ。


 とにかく風来坊で特に目的もなくフラフラしている俺とは違い、彼女はちゃんとした目的のある旅をしているわけだ。それが途中で死んだり大怪我したりは寝覚めが悪い。


 余計なお世話かも知らんが、護衛とまではいかんけど少し気をつけてやるか、と思った。


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