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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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18/23

017 ソロキャンとオオカミと

遂に?(笑)

 イーストボーダーゲート方面までどうやって行くかだが、今回は徒歩を活用する事にした。


 徒歩旅はコストという面では最強だが、安全、スピード、面倒を考えれば全く良い面がない。

 なので、コスパ最強でもタイパその他が宜しくない、行方を晦ます為にザンビーからなるべく離れる事を最優先にしていた、という事情もあったので今までの移動は全て駅馬車頼りだった。


 駅馬車は高くつくが、スピードは圧倒的に早い。

 勿論、徒歩に比べれば値段は張るのは当たり前だが、駅馬車にもピンキリあり、乗り心地が良く、少人数で、護衛すらつく類のものから、荷馬車同然のものまであり、値段も比例する。

 通常の駅馬車で言えば、隣、というか次の大きな町までなら、日本でいうところの特急料金の3倍ぐらいの値段には収まる。もっと分かり易く言えば東京から名古屋まで駅馬車で行くとなると、5万円弱といったところだ。その上、スピードは当然、新幹線はおろか特急にも勝てないから、移動時間は数日単位で、その間の食費、宿泊費は自腹である。


 1回目のトクマーまでの移動の時は、本当に最初は文無しだったから、アンジェラ・タマス君と愉快な仲間達の財布を漁った時にチンピラに似合わぬ大金を持っていたのを発見した俺が思わず小躍りした事情が分かるだろう。


 一方、今の俺は正規の冒険者としてはまだまだだが、魔物退治に限って言えば…まあ実際に経験した数はともかくとして…ランク的には経験をそこそこに積んだとされるDランク冒険者だ。徒歩で途中、狩りをしながら移動というのは金を稼ぎながら移動している様なもので時間は掛かるがコスト的には悪くない。色々な経験も積めるだろう。


 用心という意味もある。

 駅馬車に乗れば後で誰かが調べた場合、何処へ行ったのかが簡単にバレる。


 一応、チョロチョロお漏らしのマライア君と不愉快な仲間達を殺った容疑がバレないとも限らないし、ランバートの一味がまだ町に残っていて、ミッキー…じゃなくてマイク君達の仇討ちにトライしてくるかも知れない。その時に行先はなるべく分からない方がいい。

 ゾンビ化を使った誤魔化しに自信はあったし、現に騎士団が吸血鬼退治に乗り出しているのを見ても誰も俺と彼らを繋いでいるヤツはいないが、ギルドで思わず「ガリシア」とか口走ってしまったミスが俺のアタマの中には残っていて、改めて気を引き締め直したのだ。


 と、いうことで特に先を急ぐ旅でもないし、観光がてら徒歩で移動することにしたのだ。


 途中でイヤになったとか道中に山賊なんかが出てヤバいとなれば、それこそ駅馬車に切り替えればいい。徒歩である程度進み、途中のどこかで駅馬車に切り替えた場合、追手に対する新手の攪乱にもなる。


 途中でちょこちょこ魔物退治しながら、しかし特に問題もなく移動する事、約1か月。


 通常は街道を歩き、ちょっとした森でもあれば入ってメシの現地調達、魔物に逢えば倒して討伐部位だけ集めておく。町のギルドに行けば、討伐依頼は出ていなくとも魔物を討伐した証である討伐部位を見せれば、小銭稼ぎぐらいにはなるのが普通だ。無論、先日のブラッドバットの様な討伐部位そのものが売れるものもある。


 町に着けば無論、宿に泊まるが、それ以外は野宿だ。

 野宿は大きく2パターンがある。


 街道の宿営地、例えて言えば店はないが高速道路のサービスエリアみたいな場所でテントを張るのが一番多い。

 高速のソレと同じで最初から休憩を目的に作られているから、テントも張り易く整地されているし、水場やそれこそトイレなんかがあったりするし、周囲には同じような旅途中の隊商や駅馬車の連中もいる事もあるので、安全度が高い。

 居合わせた隊商とちょっとした取引をするなんてのも出来る。塩とか食品とかを売って貰い、魔獣やら野獣やらの部位を買って貰う。


 道順的に夕方までにそこまで行きつかなかった場合には、本格的にソロキャンプだ。

 水場を探し、安全そうな場所にテントを張る。


 この辺りの手順は前回の召喚の時にきっちり教わっている。

 一番簡単なのは先人がキャンプした後を探す事だ。


「キャンプに適した場所は誰が選んでもだいたい同じです。」


 俺ら3人の勇者組に教えてくれたのはお付きの4人組の1人、アイーシャだ。

 4人組の中では一番の年上、といっても(多分)20代半ばぐらいで(多分)マサさんよりかはちょい年下ぐらいの彼女は、騎士団で遠方への遠征討伐の経験が豊富という事だった。


「だから、我々がここが良いと思った辺りには大概、他の冒険者やら旅行者がキャンプをした後がある場合があります。その近くでのキャンプは比較的安全だ、と判断する事が出来ます。」

「「「おお!」」」


 考えてみれば当たり前の話だが、我々都会(?)育ち、アウトドア初心者の3人組は素直に感心した。


「逆にキャンプ跡から、野獣に襲われた跡が見付かったりもしますので、必ずしもそこがベストとも限りませんが。」

「「「おお…(⤵)」」」


 我々が素直に感心するのを見て彼女も心持ち胸を張った。


(((おお!)))


 我々は別の意味で感心し、視線は1点に釘付けだ。

 今、考えれば彼女はその視線にバリバリ気付いていただろうが、俺らバカ3人組はそれに気付かず、鎧の上からでも分かる彼女の胸部装甲に鼻の下を伸ばしたまま、彼女の教えを聞き続けた。


「地理的に言えば、まず水が手に入る場所がいいのは言うまでもありません。」

「ふむ。」

「ただ水辺は野獣やらも水を飲みに来ますし、それに釣られて魔獣なども寄ってくる狩場になっている事もあります。そこは注意が必要です。」

「なるほど。」


 マサさんが傍目には賢そうに頷く。

 首は縦に動いているにも関わらず、目線が先から定点固定なのが全てを台無ししていたが、彼は気付いていない。


 流石にエロゲ帝王。欲望に忠実だ。

 けど、その視線に王に備わるはずの威厳はゼロだ。


「ただ、我々もこれだけの人数がいますから、野獣は滅多に寄って来ませんし、魔獣も近寄らない事が多いです。しかしCクラス以上の魔物が来ている跡がある場所は避けるべきです。彼らは人間を全く恐れませんので。」


 シイちゃんが頷いた。


「まあな。アイツら、ちっとキレ気味だもんな。」

「んだ、んだ。」


 俺らもその辺りは散々経験している。E、Dクラスは数匹倒すと逃げる事もあるが、C以上は絶対に逃げない。逆に仲間(?)が殺られると容易にキレる。


「後は、雨風にも注意が必要です。」


 彼女は傍らの木々に少し手を伸ばした。


「局地的、時間帯で風が強く鳴ったり、水位が上がったりする場所はあります。そういう場所は植生で分かる事もあります。」

「「「おお!」」」

「それに…」


 彼女は上を見上げた。


「こういうキャンプに適した場所が簡単に見つかるとは限りません。なので、午後になったら前に進みつつ野営を場所を探しながら移動するのが良いでしょう。暗くなってしまってからでは、当然、場所の見極めもキャンプ設営自体も困難になります。」


 彼女が説明を続ける背後では、残る3人がいつものようにテキパキとテントを張り、火を起こして野営の準備をしていた。


「今はやって貰ってるけど、次からは俺らも手伝った方がいいな、慣れる為に。」


 3人が準備をしているのを横目で見ながらシイちゃんが言った。

 試練の迷宮で我々が体に沁み込ませたのは、やれる事を増やした方がいいという事。そして、今まで無関係と思って他人にやらせていた事を突如自分がやらなくてはならなくなる時が必ず来るという事だ。


 彼の言葉にアイーシャも笑顔で頷いた。


「そうですね。申し訳ありませんが、次回からは少し勇者の方々にもお手伝い戴きましょう。」


 そうは言っても行きは彼女達が殆どをやった。

 が、帰りは全員が満身創痍の中で、行きの倍以上の時間のかかったジャングルを抜ける道では、俺もシイちゃんも一緒になってキャンプ設営しまくったのが今に活きている。



 その日、俺は昼過ぎぐらいからそれとなくキャンプ場所を物色し始め、夕方になる前に早くも川辺にキャンプを張った。

 前回と違い、急ぐ旅でも何でもないのだ。


 後ろが少し崖になった場所で、そこには、ほんの数日前に他の旅行者がやったと見られる焚火と川石で作った竈の後が残っていた。川の水は綺麗で魚も泳いでいる。魚を食べたと思われる跡もあったから食料調達も出来そうだ。


 挙句、テントの中で日の高いうちからひと眠りして、予定通り目の前の小川で魚を獲って火で炙って美味しく戴いた。やっぱり日本人だから新鮮な魚は旨い!

 もうこうなると楽しいソロキャンプである。俺は元々、こういうマッタリを望んでいるのだ。



 順調な楽しいソロキャンプの問題は夜もだいぶ過ぎてから起きた。


ガサガサガサ


 ソロキャンプでは順番に歩哨など立てられない。

 なので、焚火番も兼ねて2、3時間に1回は起きて様子を見るか、テントの前面は開けて寝るかだが、今日は昼にひと眠りしたので前者の方だった。あまり深くは寝てはいないという事だ。だから物音には直ぐに気が付いた。


ガサガサガサガサ


 俺はボウガンをつがえてテントの外ににじり出た。


 その瞬間、前から何か大きなものが飛んでくる!


バシュ!

キャンキャンキャンキャ…キ……


 ボウガンに撃たれて落ちたのは犬の様な動物だが、正確にはオオカミだろう。

 ざっと見、魔物ではなく普通のオオカミだ。


 つうことは団体さんか。厄介だな。

 如何に安全そうな場所を選んでも所詮は屋外だからこういう事もある。


 浅いとはいえ寝起きでまだ闇に馴染んでない眼でのいい加減な一発は急所ではないところに当たったから即死ではないが、魔獣を倒せる程の猛毒を食らったオオカミは、直ぐに動かなくなった。

 俺はボウガンをつがえ直し、目の前に念の為に持ち歩いている剣を刺す。普段は剣を使わない弓師だから常寸より少し短めの剣だが、最悪、接近戦になった場合に備えてだ。


 予想通り数匹のオオカミが唸りながらこちらに走ってくる。


バーン!


 3匹ほどが足元の地雷にかかって吹き飛んだ。


キャインキャインキャイン。


 更に後の数匹がキャンキャンと怯えた声を出して2、3歩下がり、くるりと反対方向を向いた。


「……?」


 諦めるにはまだ早い。

 地球のそれはよく知らないが、こっちのオオカミはこの程度では全く諦めない。むしろ犬よりも大型で、犬よりも運動神経が発達していて、犬よりも鋭い牙があり、犬よりもデカい頭蓋骨の中にある脳は犬よりもずっと早く回転するのがこっちのオオカミだ。

 地球の警察や軍で使われるシェパードとかの劣った点が一つもない完全上位互換である。


 彼らはこちらが1人であるのを見ている。

 普通なら次から正面を避けてか、爆発した辺りを飛び越して突っ込んでくる。


 その時、奥で何かが光った。


「?……!」


 一瞬分からなかったが、剣か鎧がこちらの僅かな炎の放つ光に反射したのだ。

 なるほど。俺が獲物ではなくて、元々は向こうの誰かさんがマトか。


 俺はそちらの方へ叫んだ。


「おい!こっちへ!」


 暗い中でも剣を持つ人物が振り向いたのが分かった。そしてこちらに向かって走り出す。


「足元の白線は飛び越せ!」


 姿が見えた段階で叫ぶと、軽武装姿の彼は足元を見て、慌てて白線を飛び越す。


バッシュ!


 彼の動きが一瞬ぎこちなくなった瞬間を狙って、斜め下から喰らい付こうとした狡猾なオオカミにボウガンが突き刺さる。


 彼が俺の隣に走り付いたのと同時くらいに、5匹程のオオカミ達が白線を超えてこちらに走り込もうとする。


バーン!

キャイン!キャン!キャイン!


 彼らは地雷で吹き飛んだ。だが一匹がその煙も晴れぬうちからこちらに飛び掛かってくる。


ガシュッ!


 逃げ込んで来た軽武装の男が下から上へ片手で肩を後ろに回すように、裏拳みたいな感じで剣を振るい、オオカミは丁度首元辺りに当たって、キレイに首と胴が外れて吹き飛んだ。


バシュッ!


 俺は横から回り込んで来ようとした一匹をボウガンで仕留める。


バーン!


 今度は真横の地雷が爆発して3匹が吹き飛んで宙を舞った。


ウォォーン!ウォウォウォーン……


 その時、遠くから声が響いた。

 残り数匹になっていたオオカミ達は前進を止めた。そして、ヘッヘッヘと舌を出しながらその場でこちらを見ながら少しウロウロした。最後に「テメエら、覚えとけよ!」とばかりの一瞥後、ボスの撤退の合図に従ってクルリと反転して去っていった。


 我々は、そうは言っても1分程は武器を構えたままジッとしていた。

 が、もう奴らは来ないと見極め、俺はボウガンを下ろし、軽武装の男は剣を振って血を飛ばした後に地面に突き刺し、疲れた様子でその場に手足を投げ出して座り込んだ。


「いやあ、参った。助かったよ!」


 座り込んだまま兜を投げ捨てる様にとって、下から笑いかける。


 ……失礼。

 彼(?)はオンナだった。




「助かったよ。」

「いや、こういう時はお互い様だ。」


 焚火というには少しデカい火を間に俺らは隣通しではないが向かい合わせでもない微妙な位置に座り、お茶を片手に改めて彼女は繰り返した。

 それに対し、俺も「いやいや、大した事ねえよ」という風に手を振って答える。


 実際、旅の途中で何かに遭遇した場合は、大概は見捨てないのが、俺の流儀とかではなくこの世界の通常の旅の作法だ。

 無論、相手がこちらも勝てそうにない魔獣だったり大勢の盗賊だったりすれば逃げても非難はされないが、今回のケースもそうだが、所詮は逃げてもこちらも巻き込まれるから、結局は共同して立ち向かう方がいい、場合も多い。

 今回は違うが、混ざって一緒に撃退した場合、商隊なんかだと謝礼金が出る事もあるらしい。


 先まで10匹を超えるオオカミが周囲には死体で転がっていた。

 30匹程度の比較的大きな群れだとしても3分の1程を一気に失ったのだ。アタマの悪くない群れなら、我々は諦めて別の獲物を探しに行っただろう。

 現に最後まで姿を現さなかったボスは、自ら狩りに加わる前に撤退を指示した。


 獲物は他にもいるのだ。もう1回襲って来る程、バカではあるまい。

 繰り返しになるがこの世界の狼は非常にアタマがいい。恐らく始終、武器を片手にした冒険者を相手にしているからであり、下手をすりゃ魔獣と立ち回る必要もあるからだと思うし、単独ではなく群れで生きてる動物はボスがパーだと、地球よりも桁違いに危険なこの世界では生き残れないからだと思う。


 なので群れはもう来ないだろうが、問題は辺りに転がっている死体だ。

 匂いも凄いが、そのままにしておけば他のケダモノも呼び寄せる。かと言って周囲が完全に真っ暗なこの夜中に移動も厳しい。


 仕方なく、挨拶もそこそこに取り敢えず”穴”を作るスクロールを数枚使って大き目の穴を作り、2人でモノも言わずに死体を詰め込み、火魔法のスクロールを使って燃やした。

 穴を作るスクロールと火のスクロールは、旅のキャンプでは獲物の残骸やらゴミ処理と火種として欠かせない代物だから、一応、数は持っていた。が、双方を5枚も使わなくてはならなかったのは地味にイタい。

 一応、牙だけは討伐証として確保したが、オオカミはその危険性、有害性とは裏腹に一般的な野獣としてカウントされており、ギルドに討伐を報告しても小銭程度ににしかならない。

 毛皮は別途売れるのかも知れないが俺には皮を剥ぐ様な技量はない。つまり、スクロールを大量消費した分がほぼそのまま赤字だ。

 まあ、順調に進めば3日後くらいには町には着くだろうから、出費はイタいが、そこで買い足すしかない。

 時間があれば魔導紙を買って自分で描くが、時間も掛かるし買った方がタイパ的にいいだろう。


 出費はともかく、我々は死体処理を黙々とこなして、漸く結構盛大な焚火を前に一休みしていた。


「クラウディア・バウバリアンだ。クラウと呼んでくれ。」


「バーバリアンとかおっかねえな」と、いう失礼な感想を言う事は勿論無く、俺も名乗った。


「クリス・シーガイアだ。クリスでいい。」


 彼女はニッと笑った。


「いやあ、野宿する場所を決めそこなってな。ウロウロしてたらオオカミに良い獲物だと包囲されてしまって…」

「そりゃ災難だったな。でもまあ、もう来ないだろう。」

「まあな。」


 彼女は先までコナゴナになった死体の散らばっていた周囲を見回した。

 まだ血の跡とかは残ってる。


「こんだけ派手にやったしな。ありゃなんだい?」

「ちっとした魔法だ。」


 先日使ったシイちゃんの考えた死人化のヤツとは異なり、これはマサさんの考えたスクロールだ。

 効果は単純に地雷である。踏めば爆発する。


 シイちゃんが魔法のスクロール化に成功して味を占めた俺らは、色々なスクロールを開発していた。

 俺がスクロールを自分で描けるのはその延長線上の技だ。スクロールが書けるのはそんなに珍しい技というわけでも無いが、誰でもが出来る事でもないので一種の特技と言っていい。


 もっともコレは俺が簡単にマネして書けるぐらいだから、シイちゃん考案のゾンビスクロールと同じく劣化版ではある。マサさんのリアル魔法に比べれば威力は大した事はない。Cクラス以上の魔物になれば、足止めぐらいにしかならないだろう。

 だが、通常の動物、それこそオオカミや人間ぐらいの大きさなら、見ての通りコナゴナに吹っ飛ぶ。


 俺は、キャンプをする際には周囲に一定間隔でこいつを埋める。

 そして線を引いて分かる様にしている。


 これも前回の旅で覚えた技だ。

 繰り返しになるが、Cクラス以上の魔物には足止めにしかならないが、Cクラス以上の魔物相手では足止め出来るか否かが生死を分ける。


 今回の旅は1人旅だから、これを用意する為に行った町ではまずは何をさておいても魔道具屋で魔導紙を買い、宿屋でシコシコ準備を欠かさない。これは火のスクロールとかと違いマサさんのオリジナルだから売ってるとかもないので、自分で用意するしかない。

 その一方で火のスクロールを枚数描くとかもメンドーだし、一般的に販売しているので火のスクロール、穴のスクロールは買って済まそうかと思っているわけだ。


 いずれんせよ魔獣はおろか、襲って来る様な野獣も多くない日本の安全なキャンプ場で週末のレジャーとしてソロキャンプしているのではない。

 こんなのでもないと、街道の宿営地以外では、夜はオチオチ眠れやしない。


「凄いな。あんなのがあれば、こんな森で1人で野営も余裕だな。」

「そうでもない。踏まなきゃ効果がないから弓とか魔法とかの遠距離攻撃系には効かねえし、さっきお前さんがやったみたく、飛び越されたら意味がない。白魔導士の保護結界のが効き目があるだろ。」

「そうなのか。」


 白魔法の保護結界スクロールも魔道具屋に売ってる。こっちは言うなればバリヤーみたいなもんで、ずっと役に立つが、その分、かなりお高い。だから普通は隊商とか駅馬車とか、ある程度、金のある商売人しか買わない。

 しかも隊商や駅馬車は大きな馬車を守るつもりで買う客が多いので、店に行くと、ただでさえお高いのに馬車全体を囲える様な広範囲用の更に高価なものしかない場合も多い。ソロキャンプ用なんて滅多にない。その上、俺は白魔法系統はスクロールが書けない。


 俺がスクロールが書けるとかは別にして、彼女だってその辺りの事情は知っているだろう、と俺は思っていたが、彼女はどっちとも分からぬ微妙な相槌を打って、手に持ったコップから茶を啜った。


「クリスはこの辺りの冒険者か?それとも旅の途中か?」

「冒険者だが旅の途中だ。ランクDだよ。」


 もうオオカミの死体は燃やしてしまって回りにはないが、彼女は先程の襲撃と撃退を思い出すかのように周囲に目を走らせた。


「ランクDにしてはいい腕だったな。これからもっとランクが上がりそうだな。」

「そりゃどうも。そっちもあの大きさのオオカミが一刀だから、中々の腕前だな。」


 実際、俺は感心していた。

 彼女はジャンプして襲い掛かってくるあれだけ大きなオオカミの首を、碌に見ないで片手殴りの雑な一撃なのに一刀で切り落としたのだ。中々どころではない。我流では出来ない腕前だ。

 俺がかつて見た一番の剣士、エル・ハイダル程には勿論及ばないまでも、王国の騎士団長だったログ・ギーリーや、俺らの護衛隊長で淑女騎士団の1番隊隊長だったと聞いているアイーシャとは、いい勝負が出来るかも知れない。


「こちらこそ、どうも。これでもハイダル流を修めているからな。1匹や2匹なら屁でもないんだが、あの数はなあ…私1人では何ともならなかっただろう。助かったよ。」

「いや、アンタが捕まんなかったら、俺の所に来ただけかも知れんから、同じ事だったかも。」


 話の流れには合わせつつ、気になる単語は聞き逃さなかった。ハイダル流とな。


「いや、弓が専門だから剣は詳しくないけど、ハイダル流ってのか?スゲえんだな。」

「まあ、一応、始祖エル・ハイダル師以来、流派としては無敵を名乗っちゃいるからな。こんな所でオオカミごときに慌ててる私がただ未熟なだけだな、まったく。」


 彼女は全く女性らしくない仕草でバリバリと短髪にしているアタマを掻いた。

 彼女の言うエル・ハイダルについてもう少し突っ込んでみるかとも思ったが、その前に彼女が口を開いてしまった。


「旅の途中って、どこまで行くんだ?」

「…ん、ビックウェル川を越えてリバードアだ。」


 一瞬迷ったが、まあいいや、と正直に答えた。

 すると私の答えを聞いた彼女はパッと顔が明るくなった。


「そうか!私もリバードアまでの旅だ。どうだろう、リバードアまで行くなら一緒に行かないか。剣士と弓師の組み合わせは悪くない!」


 彼女の言う通り、近距離、遠距離だから悪い組み合わせではない。

 1回目の召喚で魔王城を目指した時も、魔法使いのマサさんは当然遠距離、俺は公称、遠距離または中距離、死体使いのシイちゃんは距離不明だが少なくとも前衛職じゃなかったからか、付けられた4人の騎士のうち後衛白魔術師リリアを除く3人は近距離戦闘の猛者だった。だから、良い組み合わせで戦えた。


 そうは言っても、この世界に来て、仕事も生活もソロに慣れて来たところだった。

 別にイヤとかじゃないが、なんとなく躊躇があった。


「そうだな…」


 だが、彼女の方はそんな俺の様子に全く構うことなく、グイグイきた。


「な!な!途中で冒険者するなら私も手伝う!」


 後からは何とでも言えるが、この時はハッキリ言って押し切られたのだった。


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