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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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17/22

016 地図と昼飲みと目的地

ペースはスローですが徐々に物語はフェーズを変えます。

 地図、というものは大昔からある。あるが、当然、実用に足るレベルかどうかは別問題だ。


 古代の地図などは見える範囲の近場ですら小学生の落書きレベルだし、中世ヨーロッパの地図など宗教に全てが歪曲されていて、軍事、海事の実務家が真剣な実用に使う近場のものを除けば、落書き以下で、文化財という意味のみならず技巧という意味でもアルタミラ洞窟の壁画の方が桁違いにマシなレベルだ。昔の教会が如何に悪辣非道に庶民を騙し、洗脳していたかという証拠以上の価値はない。

 もっとも中世ヨーロッパの地図は神が大衆を従える為に人為的にレベルを落とされただけで参考にはならない。それともエデンの園の逸話を見れば分かる通り、少なくとも西洋の神は元々は人間に知恵を与えるつもりは更々なく、猿同然に男女フルチンで暮らせる世界が理想郷らしいので、信仰心に溢れる教会はそれを忠実に実行していただけなのかな。


 中世欧州の事情はさておき、レベル的には実務上の必要性から使い物になるものが普通に出回るようになった大航海時代ぐらいの地図はこの世界にも比較的普通に出回っていたと記憶していたので、俺はギルドを出ると早速、道具屋に出向いて世界地図を購入した。

 ちなみに道順を確認したりするのに使う周辺の一般的な地図はそこそこ需要があるが、世界地図みたいな大雑把なものは使い道もないので人気がない。種類も少ない。そして高い。

 

 その高い世界地図を3つ(店にあった全種類)も購入して、宿の部屋で子細に比べてみた。


 ガリシア、という地名も国名も存在しなかった。


 正確なところは知らないが、俺らが前回ここにいたのは20だか30年だかぐらい前の話だ。国1つぐらい無くなっていてもおかしくはない。だが跡形もない、というのも腑に落ちない。

 名前が変わったという可能性は有り得る。だがガリシアのあったと思われる辺りは地図上では3か国だか4か国だかに分かれている。いずれも聞いた事のない名前だ。

 けど、場所に間違いはない。山、川、方角は合ってるし、所々の町名には見覚え、聞き覚えがある、所もある。


……これだけじゃよく分からんな。


 繰り返しになるが20年あれば、国の1つぐらい滅んでもおかしくはない。

 当時、ガリシアは強国で知られていたが、ソ連だって今はないのだ。ユーゴだって元の国名なんか微塵も残ってない。中国は領土的には一緒かも知れないが、清国も明朝もカケラも存在しない。


 俺は地図をしまい、情報収集をすることにした。


 冒険者の情報収集といえば、酒場がド定番だ。

 俺は地図を懐にしまって酒場に繰り出したが、冒険者ギルドが朝っぱらから開店休業を決め込んでいることもあり、まだ午後も早い時間なのに、早くも冒険者らしきガラの悪いのでいっぱいだった。大阪は新世界の「朝から飲めます!」って看板の店みたいな感じだ。


 いきなりヒマになった冒険者など、飲む搏つ買うしかする事はない。

 その中で飲むは最も手軽だし、搏つは知らないが買うは流石にこの時間はやってない。

 それに何より、俺とは内容が違うが、みんな情報を求めているのだろう。


 俺は冒険者らしいガラの悪いので溢れかえるカウンターの一角に潜り込み、酒を頼んだ。

 案の定、一口呷った段階で、早くも隣の男が話し掛けて来た。


「おい、吸血鬼の噂、聞いたか?」

「ギルドで聞いたよ。騎士団出るから、森関係の仕事は1か月ぐらいはねえって。まったくたまんねえぜ!」


 俺は不貞腐れた様に、ジョッキをまた呷った。


 どうでもいいけど、日の高いうちの酒は旨いな。背徳感があって。

 やっぱり酒は最もお手軽な大人の娯楽である。


「お前さん、最近来た弓使いだな?」


 名前とか隠し事ではないし、偽名を隠す気もない。背中に弓も背負ってる。

 そもそも情報収集する為に顔を出したのだ。ここで正体不明の弓師になっても誰も何もしゃべらなくなるだけである。


 俺はジョッキを置いて、会社員時代の社交的な笑顔で手を差し出した。


「クリスだ。クリス・シーガイア。」

「ジョルジオ・ホッターだ。ジョージって呼んでくれ。」


 俺が来る前から既に飲んでいると思しき彼もちょっと酔いの回った陽気な感じの笑顔で手を握り返し、腰にぶら下がってる手斧をバシバシと叩いた。


「見ての通り、斧使いだ。まあ、ゾンビなんざ俺の斧なら怖かねえんだが、万が一はあるからな。」

「まあな。ヘタにコケでもして、お仲間入りもイヤだからな。」

「違えねえ!」


 あっはっは、と2人で笑って、丁度尽きた酒を頼み直し、カチッと乾杯した。


「弓使いなら距離とれるからゾンビもイケるだろう?」

「いやあ、弓使いって言っても、俺の得手は待ち伏せだ。ゾンビ向きじゃなさそうなんだよなあ。吸血鬼は待ち伏せとかにかかる程、アホじゃなさそうだし、弓が刺さったぐらいじゃ威力が足んなくて死にそうにねえし。」

「まあな。Aクラスが待ち伏せ喰らうとかねえな。」


 彼も同意し、ジョッキをグイッと飲んだ。


「しかし、ゾンビが出たからって吸血鬼の仕業と限ったもんでもねえだろ!」


 一瞬、ギクッとしたが、この人の良さそうな冒険者は特に何か探りを入れて来た様子はない。


「まだ大した情報もねえうちから騎士団のお出ましなんて、ここのギルド、少し腑抜けてねえか!?」


 唯の愚痴らしい。

 まあ、俺ら冒険者はギルドが実質開店休業だと、いきなり仕事が無くなる様なもんだから、彼が文句の1つも言いたくなるのは分かる。自分のせいでなければ、俺だって文句の1つぐらいは言いたい。


 俺はそんな彼に言った。


「ランバート……さん、知ってるか?」

「水のマレー・ランバートさんか?そりゃ、ここに少し長くいれば誰でも知ってる。」

「もう、殺られちまったらしいぜ。」

「マジか!?」


 ギルド最強クラスのランクBが殺られたと聞いて一気に酔いが吹き飛んだ様な顔で驚いている彼に少し近づき、俺は声を潜めた。


「ここだけの話なんだが、仲間もいねえらしい。」

「仲間って…マレーさんの取り巻きは3人や5人じゃねえ。結構いるぞ。そいつらが全員…?」

「全員かどうかは知らんし、まだ詳しい話は分からんけどな。とにかく、朝からギルドじゃ見ねえとよ。」


 彼は愕然とした顔になった。


「そいつはシャレにならんな。Bのマレーさんが仲間ごと殺られたって事は吸血鬼確定か…」

「ギルドの連中も顔が強張ってたしな。」


 マジかー!と、斧使いのジョージは反り返って、ジョッキに手を伸ばしてグイッと飲んだ。

 普通ならCランク以下の冒険者ではAクラスの吸血鬼には恐らく手も足も出ない。もう飲むしかない、という気持ちはよく分かる。


「俺ら、どーすんだよ!?」


 反り返った後は反対に机でグデーッとなったジョージの隙を逃さず俺は話を変えた。


「俺は出稼ぎかなって思ってるけどな。」

「出稼ぎ?」

「ギルドのヤツと話したら、騎士団様がお出ましで吸血鬼退治となりゃあ1か月ぐらいはかかるらしい。その間、ここでヒマしてるのが嫌なら、他の町で少し稼いだらどうだって言われてな。」

「……1か月だからなぁ。まあ、それもアリだなあ。」


 俺は懐から地図を取り出した。


「んで、早速、地図買って考えてみたんだが…」

「おう?随分、手回しいいな。そんで?」

「いや、どの辺りがいいかなって…」


 人が好さそうなジョージも相談にのってくれるらしく、地図を覗き込んでくれた。


「まあ、好きな所でいいとは思うが…北の方はこれから寒くなるからなあ。1か月後だかに帰る段になって雪で足止めとかも面白くねえなあ。」


 元々、北の方から来た俺は戻る気はない。

 彼の意見に賛成した風におれは頷いた。


「そうだなー。分かるわ。」

「遊びに行くんならタッカーチの方はお勧めだな。いや、俺は、南の方の出身だから、ちょっと知ってんだ。」

「いいとこなのか?」


 薦めておきながらジョージは、う~んと微妙な顔をした。


「海際で気候もいいしメシも旨いけど、ほら、陸っつうより海が主役のトコだろ?海系の退治の仕事はバンバンあんだけど、陸の方はあんましなあ。料金も安いし。だから、遊ぶんはいいけど、出稼ぎに行くって感じだとちょっとなあ……。」

「う~ん…俺は弓だけど待ち伏せ専門だからなあ…海のヤツはあんましなあ…。」

「だろ?俺なんかも斧だから海は苦手だしよ。そんでコッチの方に流れて来たんだわ。」

「サウザンリーフの方はどうなんだ?」


 俺はさりげなく聞きたい土地の話、そうは言っても隣国の名前を話題に挙げた。

 彼はグビリと酒を飲んでゲフっとゲップした。


「出稼ぎって言うにはちと遠いけど悪くはねえ。あの辺りは昔から魔物も多いし、仕事はあるだろ。」


 彼はジョッキを飲干し、カラになったジョッキを目の辺りまで上げたまま、その底をまだ酒が残っていないか確認する様に眺め、手を挙げてもう1杯オーダーした。


「まあ、その分、レベルも高い。お前、ランクは?」

「Dだ。」


 新しいジョッキが来て、彼はジョッキを握りしめてグイッと呷った。

 俺より早くから来て飲んでいるのは間違いないが、ペースも俺よりずっと早い。


「ゲフッ……俺もDなんだが俺らレベルだとちとキツいかもしんねえ。Eレベルが殆どいなくてDの魔物が普通にウロウロ、Cも多いって噂だ。それこそ、ときたま吸血鬼クラスも出るらしい。」


 何度も繰り返しになって恐縮だが、実際は吸血鬼なんぞ全く怖くもなんともない。日の光を浴びれば弱るとか死ぬとか、むしろ人間より弱っちいとしか思ってない。夜行性の虫だって昼間を嫌うが習性的な問題なだけで陽の光如きで弱ったり死んだりはしない。

 けどランクDを名乗ってる今は、ランクAを恐れないとか有り得ないし、彼もランクAの例として今話題の吸血鬼を出しただけなのも分かる。要は高ランクの魔物もそこそこ出るという事だろう。


 俺はとってつけた様に眉間に皺を寄せて嫌な顔をした。


「う、結構シビアだな。」

「まあ、あの辺りを支配してたカード王国が魔物のスタンピードで滅んで200年、今のイーストボーダーゲートが3か国になってからは冒険者のレベルも上がって結構、魔物退治が進んだって言ったって、元々、魔物が強い場所だからなあ。」


 俺は地図を見ながら、あえて難しい顔を作った。


「……そこまで行かなくても手前のゴットプラン辺りで止めとくか…。」

「いやあ、ビッグウェル河を越えてイーストボーダーゲート方面はあんまし変わんねえと思うぞ。お前さんはどっから来たんだ?」


 どっから来た?は新参には遅かれ早かれ確実に投げかけられる質問だ。

 そしてザンビーとも日本とも答えられない俺は答えを用意はしている。


「ブックステン、知ってるか?」

「ああ。そりゃ結構、北の方だな。」


 ブックステンを挙げる事にしたのは、ここからは程よく遠くて出身者は皆無に近く、最も長居しなかった町だから俺の痕跡など微塵も残っていないからだ。万が一、ここまで追手が来て俺の事を聞き込み、ブックステンまで行っても俺の事は何も分からない。


 ただ、後から考えるとあまりいい判断でも無かった様な気もしていた。

 なんせ一泊して出ただけだから、俺はブックステンの事など何も知らない。ブックステンに俺の痕跡はないが、俺のアタマの中にもブックステンの痕跡はないわけで、ブックステンの事を何か聞かれても何も答えられないし、出身者でなくともブックステンの立ち寄った事のある人間に店の名前やら魔物の種類やら共通と思われる話題を振られても何も答えられない。出身を名乗るなら明らかにオカシイとバレる。


……次の場所では出身地設定は変えるかな。


 もっとも諸般の事情で故郷の話はしたくない、出来ないというのは冒険者ではワリと良くある事例だから、適当言って詳しい話は断ればいいだけかな。


 幸いにしてジョージは名前を知っているだけで行った事があるわけじゃないらしく、あまり深く突っ込んで来なかったので俺は話を戻した。


「だから今更、北の方行っても面白くねえな。稼げないけど楽なタッカーチの方か、稼げるけどハードなイーストボーダーゲートか…」

「まあ、イーストボーダーゲートのゴットプラン、リバードア、サウザンリーフの3国はそんなこんなで魔物が多いから、建国された100年だか200年も昔から冒険者に手厚いってのも聞くな。だからずっと住むんはアレかもだが短期で稼ぐならいいかも知れねえな。」

「そうかもな。」


 そこまで言って、ジョージは急にニヤニヤと笑った。


「そっちの方、行くならついでにリバードアのグットフィールドも味わって来いよ。」

「グッドフィールド?」


 俺の怪訝な顔にジョージは呆れ顔になった。


「なんだ、そんな事も知らねえのか?」


 彼はグイイッとジョッキを一気し、手を挙げてお代わりを頼んだ。

 そしてジョッキが来るとそれを掴み、だが口をつける前に酒でだいぶ赤くなってきた顔を近づけて囁いた。


「リバードアの首都リバードアには、その昔、カード王国マッサ王が作ったってえ話のグットフィールドって300年以上の歴史を誇る娼館街があってよ…」


 正直、現状ではその種の話にはあまり興味がない。


 この世界には普通に娼館というのがあるのは知ってるし、男の娯楽として行く者は普通に行くのも知ってる。日本と違って売春が法で規制されてるとかもない。

 まあ日本で言うキャバクラ、って程、気軽にあちこちにあるものではないし、内容はもっとディープで本格的(?)だが、規制とかがないんで逝く客の気分的にはそんな程度だ。日本のその種の店よりずっとハードルは低い。


 が、前回は女性陣と行動している手前、町に来たら俺らだけ娼館に繰り出すっつうのも躊躇われたし、それより何より大学生、高校生、フリーター、しかも3匹のDTだった俺らにはそもそもそんな場所はハードルが高過ぎた。


 日本に戻って成人した後も夜の冒険者でもアウトドア派でも何でもない。夜と休日は家でマッタリしたい派だった。

 きょうび、風俗を奢ってくれる上司がいるわけでなし、大手通信会社じゃあるまいし錦糸町で飲む搏つ買うの悪い遊びを教えてくれる先輩とかもいない。役所でもないのでお取引先がノーパンでの接客サービスがウリのお店に監督業界の担当者が毎晩連れて逝ってくれることもない。そして何より風俗は俺の給料では自腹切るにはちと高い(泣)。


 けど、コッチの世界の成人の男、特に粗野で野卑が基本の冒険者の(おとこ)としては、そういうわけにもいかない。時代遅れと言われようがマッチョと言われようが、何時の時代も漢の会話にY談は付き物だ。

 この業界では風俗に興味がないとかは品行方正が褒められる事無く、男ではないと下目に見られ、聖人とかって綽名を付けられて嘲りの対象になるだけだ。


 なので行ってないし行く気もないが、俺は如何にもな感じで身を乗り出した。


「マジか?」

「マジさ。」


 ジョージはジョッキをグッと傾けてニヤニヤと笑った。


「広さはそれこそ町並みで、よりどりみどり、何でもアリの天国みてえな場所って話だ。」


 知りたい話は大方、知れた。

 俺も、彼の話に合わせて、ニヤニヤと笑いながら話をタタミに入った。


「そいつはいい事聞いたぜ。旅に気合が入るってもんだ。」

「へっへっへ。だろ~?」


 俺はジョッキを飲干した。


「じゃ、ちっと旅支度でもすっかね。アンタは?」


 俺としては、彼の今後の方針を聞いたつもりだった。だが、彼はそうはとらなかったらしい。もっと目先の事を言った。


「俺あ~もうちっと飲んできゅ。」


 俺がここへ来る前から飲んでおり、話をしている間、俺の倍ぐらいのペースで飲んでる彼は、既にだいぶ出来上がりつつあった。酔いというのは面白いもので、回り出すと急に回る。

 その彼は最早真っ赤な顔で噛みながらも、ジョッキを握ってない方の手を愛想良くヒラヒラと振った。


「ギルドに行く前にお前さんと話せて良かったじぇ。無駄足になりゅトコだった。」

「いいってことよ。俺も楽しい話も聞けたしな。」


 ジョージさんは真っ赤な顔で左手の親指と人差し指で円を作り右手の中指を卑猥に出し入れしながらニヤニヤ笑った。


「おう!ゲフッ……楽しんできょいや!」


 いや、今からその種の店に繰り出すわけじゃないんだが…(笑)


 数人と話す必要があるかな、と思っていたが、斧使いのジョージさんと話しただけでかなり色々な情報が仕入れられたし、肝心な事も分かった。


 「ガリシア」という国はそもそも存在しない。


 俺は今までこの世界は1回目の世界の20年だか30年後だと信じて疑ってなかった。

 前回とほぼ地名は一緒で、諸般の仕組みも一緒、出て来る魔物も一緒。


 だが、前回俺らを召喚した大陸一の強国ガリシアは存在しない。


 マッサ王なんて聞いた事が無い。彼が作ったとかっていうグッドフィールドなんて色街も知らない。


 20年だか30年後に滅んで存在しなくなったわけではなく、最初からないのだ。


 俺はジョージに手を振って別れ、宿屋に戻ってベットに転がって考えた。昔な表現で言えば徒然なるままに考えただけだから、本当に脈絡もないが色々と考えた。


 2回目の召喚でザンビーから逃げ出して以来、流浪しているが特に目的はない。強いて言えばザンビーからより遠方へ移動しているだけだ。


 ザンビーの連中は何を思ってか勇者として俺ら(今回の6人)を召喚したが、世の中をちょっくら周って見ても町中には魔王が復活しているって話は軽い噂以上には聞いてない。

 魔王がいて活発化していたと言われていた当時と同じぐらい魔獣が跋扈してはいるが、町にスタンピードが押し寄せて来る程ではない。当時程じゃないってことだと思う。

 だから俺が再び勇者をしてやる必要もなさそうだし、する気もない。


 もし魔王復活が公の話になっていたら、それは全世界的な問題だから、俺が如何に上手く撒こうが、ザンビーの連中も周辺諸国にも手配書を回して死ぬ気で探すだろうが、そこまではしていない。

 現に、話は逆だが、前回は俺らを勇者として召喚したガリシアから諸国に連絡は回されており、何処の国でも、少なくとも表面上はあまり邪見には扱われず、上手くすれば武器弾薬から糧秣の補給もさせて貰えた。


 そうは言っても別に好きで召喚されたわけでも何でもないので、特にガリシアに思い入れとかはない。

 むしろ事情から考えれば、身の危険を感じたりもしないがあまり近寄らない方がいいのかも知れない。


 だが、気にはなる。


 繰り返しになるが、ザンビーの追手から逃れる以外の今の俺は特に定まった目的があるわけでなし、毎日通わなくてはいけない会社があるわけでもない。


 今は冒険者として生活しているのだって、特に冒険者に成りたかったとかもない。

 脱走するのに必要な身分証を得る目的でギルドに顔を出し、前回の経験が多少は活きるので目先の小銭を稼ぐのにちょうど良かったから続けているうちに慣れてしまっただけだ。

 惰性とまでは言わないが何か目的があったり冒険者になるのが目標だったりしたわけじゃない。


 意識の高い系から見れば軽蔑の眼差しで見下しながら小1時間罵倒したくなる状況に見えるかも知れないが、就職なんて所詮そんなモンだ。

 車が好きで自動車修理工になった人間もいれば、プロ野球選手が夢であったものの結局はトラックの運転手だが今は結構満足ってのもいる。独立して経営者になりたいと思いつつも今は居酒屋でせっせとジョッキを運んでいる人間だっているし、家から近いって理由だけでバイトで入ったコーヒーチェーン店になんとなくそのまま居ついて10年ってヤツだっているだろう。


 流れで冒険者にはなったが、今以上に強くなりたいとか、もっと金を稼ぐ為にAクラスを目指したいとも思っていない。

 俺は生活に困らない程度の金で充分だし、反面でマイペースで魔物退治しながらの気儘な宿屋暮らしも気に入っている。


 一方で前々日のマイク達との揉め事をほじくり返されて犯人と疑われ始める前に速攻いなくなる予定でもあった。

 それが丁度、ここらのギルドは開店休業…まあ、ぶっちゃけ俺のせいなのだが…で、ここにいてもすることも無くなった。当座のメシ代すら稼げない。


 ……ヨシ!


 俺は身を起こした。


 全然纏まった考えもないし、行った後に何する気もないけれど、取り敢えずここにはいられないなら、イーストボーダーゲート方面に行ってみよう!


 目指すはその中心地、かつて俺達が召喚された町であるイーストキャピタル、現在名で言えばリバードアである。




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