015 初回の国名
結局、森で襲ってきたミッキー君達、ボスのBクラス魔法使いマレー君の言うところのマイクと愉快な仲間達(こちらが正しい名称)は、10人程もいた。4人じゃ相手にならなかったので、中途半端に2人ぐらい追加とかではなく一気に倍以上を連れて来たらしい。
マトが俺でなければ、それ自体は悪くない判断だったと思う。
やっぱりギルドの受付がちらっと言った通り、この種の事に手慣れてもいるんだろうな。知れば知る程、サイテーな連中だな。
何度も繰り返すようだが、ボウガンだけに頼らず特技を使えば、10人程度を始末すること自体は難しくはない。魔獣と違って人間は弱点が分かり易く複数あって、しかも直ぐに死ぬ。
最初から頭を悩ましていたのは死体の処理だけだが、死体、死体と考えているうちに「シイちゃんと同じ様に死体といって諦めず、有効活用すればいいだけだ!」と思い付いたのだ。
そして予定外だったがボスのマレー君達もゾンビ化してあの世に追い払った。スクロールを使わなかった分、コスパはこっちのが上だったかな?
初回の勇者、即ちシイちゃん、マサさん、そして俺の3人の基本技は最初の迷宮で身に付けたものだ。
試練の迷宮のギーリー隊長曰く「図書室」に着いた初回の俺らは、奥の部屋にその名の通り本棚の並ぶ部屋を発見した。小学校の図書室ぐらいをイメージするといいと思う。
入口には1枚の紙が置いてあった。そしてその紙切れには
・ここにある本を読むと力を得ることが出来る
・読めるのは1人1冊だけである
・読める本は選択できず読めた本が自分の読める本である
と書かれていた。
俺らは顔を見合わせた。
見ると並んでいる本の背表紙にはタイトルがない。選んで読もうにも選びようもない。結局俺らは片っ端から本を開ける事になった。
そして結果は入口の紙に書いてあった通りだった。人によって中身の見れる本と見れない本がある。例え一緒に見ていても、読める人間には中身が見えるが、読めない人間の目に映るのは唯の白紙だ。そして1冊読めてしまえば2冊目が読めた人間はいない。
「えっと…海野君?」
話し掛けて来たのはシイちゃんだ。当時、彼は大学生で俺は高校生だったから、その頃はまだ「椎葉さん」かな。
笑顔で気さくに話し掛けて来た彼に、俺も気軽な笑顔で答えた。
「あ、タカトでいいッスよ。」
「ああ、んじゃ、タカト?」
「なんスか?」
「タカト、何が使える様になったって?」
「コレっすね。」
俺は本を彼の目の前で開けて見せたが、シイちゃんは苦笑した。
「だから、それはムリって。」
「あ、そうっすね…えっと、何て言ったらいいんすかね…指から光線みたいのが出て敵を倒すヤツ?」
「ああ?…あ~アレだ!レーザー光線?」
「ああ!多分、ソレっす。」
「おお!結構、役に立ちそうじゃんか!」
そう思っていた時期が俺にもありました。つまり、まだ実戦に出てないこの時だ。
なので俺もちょっと自慢気に頷いて答えた。
「まあ、いい方っすよね。椎葉さんは?」
シイちゃんも小脇に抱えていた本を、俺の前でガバッと開けた。
俺も苦笑した
「だからムリって。」
「あ、そっか。」
シイちゃんは、少し宙を見て言葉を探した。
「俺は死体が操れるよーになったらしい。」
「……なんかちょっとグロくないすか?」
シイちゃんは重々しく頷いた。
「俺もそう思うわ。けど、これが見えちゃった以上、しゃあねえわな。あ、椎葉さんとか、敬語とかいいよ。俺、そういうの気にならん方だから。」
「あ、そうすか。」
「お~い、みんな、聞いてくれ!」
リーダーの幸田さんが言い、みんなそちらを向いた。
「そろそろ、みんな、何が使えるか分かったと思う。こっちに集まって1人づつ報告してくれ。それ聞いて戦術を考よう!」
流石に高学歴な学校の先生のタマゴ(しかも孵化する寸前)。実に正しい判断で分かり易い指示だ。反対する理由は全然ない。
レーザー使いの俺も、死人使いになった椎葉さんことシイちゃんも。そして他のみんなも幸田さんの座っている方に集まった。
結局、図書室では他の技は覚えられなかったけど、多少ランクダウン版ではあっても他人が使える様にした、簡単に言えば死体をゾンビ化して操る…まではいかんけどゾンビ化する術を、とにかく完全ではないにしてもスクロール化したのは、シイちゃんだったんだよな。
その頃は正直、内容も完璧じゃねえし、遥かに高レベルの完全死人使いのシイちゃんが横にいるのにぶっちゃけあんまし使い道ねえなあって考えてたけど、今は感謝しかない。
最初に襲って来たマイク君達も、勢いでお仲間のマライア君達もキレイサッパリ始末して枕を高くして寝られるって思って寝たら寝過ごした。
起きた時には既に太陽がいい感じに輝いていた。10時ぐらいかな?
けど、冒険者は自由業だから問題はない。
せいぜいが朝一番を逃すと、宿の朝食タイムに間に合わず、ギルドに行っても割の良い仕事は他に獲られてるぐらいだ。
なので、もう焦っても宿の朝食も掲示板での仕事獲りも間に合わんってことで、昼手前頃になって、おっとり刀でギルドに来ると、人は少ないものの何とはなしにギルドはざわついていた。
「おい、なんかやけに騒がしいな?」
俺が残った依頼から1枚取って受付に行き、普通なら昼過ぎには殆どいないはずだが今日は何故かそこそこに人がいる周囲を眺めながら言うと、受付は顔を顰めた。
「どうも吸血鬼が出たらしい。」
俺は驚いて思わず叫んだ。
「吸血鬼!?クラスAじゃねえか!」
「そうだ。」
クラスAの魔物はそう簡単には出ない。
特にここは、Bクラスのランバートがデカい顔をしていた事を考えれば、間違いない。Bクラスがデカい顔が出来るということは、Aクラスの冒険者はいないか、極度に少ないだろう。そもそもAクラスの冒険者はここよりデカい町にも滅多にいない。
この想定が正しいなら、自分達では対抗できない可能性のある魔物の出現にギルドが騒然となったのは分かるし、俺もマジで驚いた。
「今朝方、森に入ったヤツがゾンビに出くわしてな。そのゾンビは倒したんだが、その後の方にもゾロゾロいるのを見たらしい。」
「ああん?」
「そんでもって、そのゾンビの中にマレーさん…マレー・ランバートさんがいるのを見たんだと。」
……ああ…えっと…
「ランバート……さんってクラスBの?」
俺が会話が不自然にならん様にちょっと考えて捻り出した合いの手に、受付は深刻な顔で頷いた。
「マレーさんが殺られるぐらいだから、相手はそれ以上だ。ゾンビも数が多いし、大方、吸血鬼じゃねえかって話だ。」
……よくよく話を聞くと、俺が驚く話じゃねえな。
全部、俺のせいか。
元々の俺のミッキー…じゃねえマイクご一統殲滅&死体誤魔化し作戦としては、死体をゾンビにしてしまえば魔物同然に冒険者に狩られるから、元々どんな死に方をしたのかは分からなくなる、と思っただけだったんだが、成り行きでランバート達まで巻き込んだせいで話がデカくなってる。
成程、ギルドとしては、まず多くのゾンビが出たという事は、元になる元凶がいると考えたわけだ。
で、Bクラスのランバートが殺られるって事は、元凶の魔物は噛みついた相手をゾンビ化する力が評価(?)されてはいるが実質戦闘力はアタマ潰しても胴体斬っても中々死なない(?)点まで考慮しても所詮はDクラスに過ぎないゾンビそのものではなく、Bかそれ以上。
そして殺られた人数の多さから考えてAクラスの吸血鬼だろうと想像したわけだ。通常ならその理屈は正しいかどうかは別にして間違いではないだろう。
当然、元凶は俺だとかは誰も考えない。
ちなみにDクラスのゾンビマイク君に実力の程は確認しなかったが仮にもBクラスのマライア君があっさり殺られたのは完全に不意を突かれたからに過ぎない。
俺なら魔法使いが詠唱するより早く殺れるから、元々の計画では俺がサッサと殺って後始末だけをマイク君達に任せる予定だったんだけどね。
それはともかく、勿論、受付の意見に「そいつは違う」と指摘する訳にもいかない。
俺は受付の渋面を真似たなるべく深刻そうな顔を作った。
「やべえな。」
「だろ?だから、取り敢えず森関係の依頼は全部キャンセルだ。騎士団にも知らせたから、おっつけ騎士団が山狩りをするだろうよ。んで、安全が確認…つか吸血鬼が殺られるまで冒険者は待機だ。」
「マジかよ…」
俺は手に持った依頼書を眺めた。
受付も俺の手の中の依頼書を見て、首を振った。
「Bクラスのマレーさんがあっさりゾンビ化される様な手合いだ。騎士団も慎重に行くだろうし、1匹じゃないかも知れんから、ヘタすりゃ軽く1か月ぐらいは何も出来ないと思った方がいい。」
「なんだ、そりゃ…」
騎士団が山狩りに入るってことは、目的の吸血鬼以外の魔獣も手当たり次第、彼らに狩られてしまう可能性も高い。
だいたい彼らが目的としている吸血鬼なんかいないのだ。なのに彼らがいないのを確信出来るまで捜索するとなれば長くなるし、その間に多くの魔獣が狩られてしまう。つまり、彼らの探索が空振りで終了して森が解禁になった後も、俺らの獲物も激減してるってことだ。
「それとな…」
「あ~らら…」と思う俺に対し、受付は声を潜めて続けた。
「お前さんにもちょっと聞いたが、実は昨日から10人程が出たっきり、まだ討伐報告に来てねえ。もしかすると…」
その理由には勿論俺は思い当たるフシしかないが、受付に調子を合わせ、俺も声を潜めた。
「マジ?10人も?ヤバくないか?」
「しかもな…」
受付が更にちょいちょいとするのに合わせて俺も顔を近づけた。
「騎士団にもまだハッキリした事は分かんねえから言っちゃいねえんだが……マレーさんの取り巻きの連中も今日は見てねえ。ややもすると、10人よりもっと多いかも知れねえ。」
「シャレになってねえな。」
受付は軽く肩を竦めた。
「だからさ、暫くはウチらは開店休業ってことさ。」
「仕方ねえな。じゃあ今日はこれだけだな。」
俺が昨日仕留めたブラッドバットの耳をカウンターに並べると、受付は目を剥いた。
「お前、昨日の夜、森に入ったのか!」
「ああ…昨日の昼間は稼ぎがイマイチだったし。吸血鬼が出てるなんて知らねかったし。」
俺はちょっと肩を竦めて見せた。
「んで、夜に余分に仕事した挙句、今朝は寝過ごしてこの時間だ。自分で俺ってアホなんじゃねえかと思ってたんだがなぁ…」
俺に言い分に受付は苦笑した。そして少し安堵の表情になったのを見て、俺は、彼も、昨日思った程、悪いヤツじゃないのかも知れないと思い直した。
彼は、ミッキー達が俺を襲いにいくのを薄々感づいていて、しかし止めもしないし、俺にそれを教えたりもしなかったが、俺が昨日まで思っていた様に積極的に加担したわけではないのかも。冒険者ギルド職員の暗黙の了解事項として冒険者同士のイザコザには関わり合いにならないようにしただけか。
むしろ、冒険者同士のイザコザに関わらないという暗黙の了解を守りつつ、何も分かってなさそうな俺に密かに警告を発してくれたのかも知れないな。
存外人が悪いわけでもなさそうな受付の彼は安堵の表情のまま言った。
「お前、良かったなあ。ゾンビにも吸血鬼にも遭わんで。悪運強えな。」
俺自身は前にも言った通り(000話参照)吸血鬼はそれほどビビってない。
ゾンビは陽の光をかなり嫌うとは言っても日光の下でも活動は出来る。死にもしない。
だが吸血鬼は陽の光に弱い。浴びれば簡単に石化し砂となって崩れてしまう。だから吸血鬼退治の基本は昼間に暗い所でジッとしているのをとっ掴まえて外に放り出せば終わりだ。
一方で夜の吸血鬼は万全に近い。
人間同然に知恵が回るのはもう魔獣というより魔人というべき存在だし、人間を超越した高い身体能力と自己回復力を誇り、下手すりゃ魔法も使ってくる。その上、噛みつかれれば吸血鬼かゾンビへ仲間入りだ。かなりの強敵である。魔法耐性も高く、毒も殆ど効かない。
その夜の無敵度合いと仲間を増やす厄介さが評価されての堂々のクラスA認定である。
もっとも、どこまで知られているか分からないが、吸血鬼への必殺の一手というのがある。それは首を落とすことだ。
勿論、首を落としたぐらいでは死なないが、さりとて胴体から首から上は生えない。
首のない胴体は身体に指令を発する脳もないという意味だから、その場で動きが止まる。離れた首から神経が物理で切れてる胴体に指令を出すことは出来ず、口で命令しても胴体には耳はないから意味がない。落ちた首を自分で拾う事すらムリなのだ。
首の方は放っておけば実は時間と他人の大量の血があれば胴体が復活するという噂もあるが、落とされたその瞬間は首だけでは身動きが取れず地面に転がっているだけだ。なのでまずは首を落として胴体と引き剥がす。魔法を唱えるヤツだけは首だけでも魔法で攻撃してくる可能性があるので早めに潰す必要があるが、大概はしかる後に余裕を持って首を潰せば一丁上がりだ。
身体に指令を出す首がなくなって身動きしなくなった胴体は、口もないので吸血する事も敵わずそのうち死ぬから放っておいてもいいし、朝になって陽の光を浴びれば勝手に砂になる。
なので俺の場合は下手に眉間を狙ったりせず、少し強めのレーザーで首をかっ飛ばせば8割方終了だ。少し外れて首そのものが残った場合には魔法を唱えたりする前に潰すだけだ。
首を狙う分、普通の魔獣退治より精度が必要なだけとも言えるが、偉そうに言ったものの俺にしても夜の万全な状態の吸血鬼とは積極的に関わり合いになりたいとは思わない。
が、無論、そんな事を説明する気もなく俺も話を合わせる。
「いやあ、マジ、自分でもそう思うわ。吸血鬼出てると知ってりゃ、夜の森なんぞ怖くて入れねえよ。」
解熱剤の材料として需要のあるブラッドバットの耳は、ブラッドクラブの甲羅と同じくそれだけで価値があり、魔獣退治の依頼が出てなくとも比較的高価に買い取ってもらえる。
受付がブラッドバットの耳を確認して、頷いた。買い取るがどうだ?という意味だ。
俺も頷くと、彼は耳を小袋に入れて後ろに回し、こちらからは見えない位置にある引き出しから銀貨を20枚程取り出してカウンターに出した。円ならざっくり5万ぐらいだ。俺はそれを懐にしまった。
「ま、悪い事は言わねえ。お前さんも暫くは休みだと思うか、金が欲しけりゃ違う町にでも出稼ぎに出んだな。」
受付の言葉に俺は道具を肩に担ぎ直した。
「仕方ねえな。そうするわ。」
噂がデカくなっているのは、俺のせいじゃない。
受付にはナイスアドバイスを貰い、町を出るアリバイも完璧になった俺自身は、余計な話が広まったり、誰かがヘンな話に感づいたりする前に、予定通り、今日、明日中には町を離れるつもりだ。
「そうするって出稼ぎか?」
「まあな。1か月も遊んで暮らせる程の金もねえしな。」
「どこいらに行くつもりだ?」
今までは結果論だが山の方の国々を周ってきた。だから今度は海の方に行ってはみたいと思っている。具体的にはここから比較的近いタッカーチ辺りかな。
罠猟とかが無理そうな海の魔物を相手にする気はないが、海を見ながらの暮らしも悪くなさそうだ。日本人として新鮮な海産物も好きだし。ちょっと立ち寄って食べ物とかを愉しんだら、また稼げそうな別の町に移動してもいい。今の俺は流離の弓師なのだ!(笑)
ザンビアナの追手は今や大して気にはしていない。ここはもうザンビアナ国外だし、距離もかなり離れている。
だから秘密主義に徹するまではいかないが、自然体で自分の話をあまり広げないぐらいの用心は身についていた。
行先をギルドの受付なんぞに話す気はない。
なのに雑談ついでみたく聞かれて、何でか知らんが俺は少し焦った。
ここに来て急に町を離れる都合の良い口実が比較的あっさり出来たからかも知れない。
結果として焦って思わず知った国を口走った。
「ガリシアに行こうかと思ってる。」
ガリシアはかつて俺らを召喚した国で、恐らく俺のアタマの片隅では一番印象に残っている国だったのだろう。
俺の答えを聞いて受付は少し変な顔をした。
「…何だって?」
「ガリシアだよ。」
受付はますます変な顔になった。
「どこだ、そりゃ?」




