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2アゲハ蝶の初仕事

 ずっとずっと昔、一匹のアゲハ蝶さんがふわりふわりと陸地を飛んでいました。白い翅脈と虹色の鱗粉をはためかせます。まだほとんどの生き物達は居ません。

 静かに揺れる様々な色のアヤメ達が歓迎します。


「アゲハだ」「アゲハだ、初めまして」「ようこそ世界へ」


 そこに見慣れない生き物に興味津々の黒ユリと白バラ達も混ざります。


「アゲハだ」「かわいい」「きれい」


 賑やかになった声にアゲハ蝶さんはゆっくりと答えます。


「あなたたちはだれですか?」


 まだ生まれたばかりのアゲハ蝶さんはストローを忙しなく巻きました。少しだけ緊張をしているのです。花達は優しく語りかけます。


「アヤメだよ」「黒ユリ」「白バラだ」

「アヤメ、くろユリ、しろバラ……よろしくお願いします」


 きょろきょろと見渡すアゲハ蝶さんは主の言い付けで生命の入れ物を作らなければなりませんでした。手順は知っていますがまずは材料集めからです。

 一人では心細いアゲハ蝶さんは花達にお願いします。


「私を手伝ってくれませんか」

「いいよ」「いやだ」「いやだ」


 それぞれ答えると、アヤメ以外の花は散り散りに消えていきます。嫌われてしまったのかと落ち込むアゲハ蝶さんに一輪の青いアヤメが葉を伸ばします。


「黒ユリと白バラは気が乗らないだけ。別に気にしなくていい」

「失礼なことを私がしたのなら謝りたいのです」

「アゲハ蝶さんに悪いところはない」


 少しだけ慰められたアゲハ蝶さんは青いアヤメにお礼を言いました。


 気を取り直してアゲハ蝶さんはアヤメ達と共に仕事に奔走します。

 まずは土が必要です。彼らのいる星界(シュティラ)の土と生命が住むことになる零界(マテリヤ)の水を混ぜ合わせます。アゲハ蝶さんには生命の形が分かりませんでした。代わりにアヤメ達が葉と根で捏ねて形を作りました。


「色々な形があるのですね」

「たくさんあると素敵なの」


 黄色いアヤメの一輪が無邪気に答える側で、紫色のアヤメが黙々と次の土を手渡しています。緑と赤のアヤメ達は魂を選別して生命に次々と入れました。


「これは幼いからこっち」

「これは成熟してるからあっち」


 魂にも種類があるようです。見よう見まねでアゲハ蝶さんはアヤメ達の真似をします。


 最後に彼らが生命の入れ物を星界の火山に投げ入れると、零界の風に冷やされて完成しました。

 アゲハ蝶さんは仕事を無事に済ませ、翅をばたつかせて喜びます。


 そこに、黒ユリと白バラが寄ってきます。花びらを揺らして楽しそうです。


「おめでとう」「頑張った」

「黒ユリさん、白バラさん……ありがとうございます」


 無邪気に語りかけてくる花達にアゲハ蝶さんはほっとしました。色々な考えがある、そう教えてくれた主はきっとこうなると分かっていたのでしょう。


 さあ、ここからがこの世界の本格的な始まりです。優しい仲間に囲まれながら、アゲハ蝶さんは決意を新たに翅をピンと張るのでした。

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