最終話:そして、火は継がれる
数ヶ月ぶりのログインで、彼は“再会”した。
あの人とも、自分自身とも。
『Echoes of Logos』のスピンオフ短編、今回は「火力信者」ケンジの視点からお送りします。
彼が出会った“脳内沙門”とは何者か。そして「火力」の本当の意味とは。
小さな出会いが、火のように誰かを照らしていく――そんな物語です。
数ヶ月ぶりのログインだった。
《Echoes of Logos》の空は、いつもと変わらず、深く、そして美しかった。
だが、心は以前とまるで違っていた。
ケンジ――**剣持次郎**は、ひとりで立っていた。
どのパーティにも属さず、ギルドにも入っていない、孤独なようで、孤独ではないプレイヤー。
その名は、ケンジ@火力信者Lv62。
あの騒動のあと、晴人と、あと二人の仲間とも和解した。
それぞれのペースで、それぞれの道を進んでいた。
けれど今は、ケンジひとりで、かつて見落としていた風景を、じっくりと眺めていた。
そんなときだった。
町の広場。古びた石畳の向こうに、一人のキャラクターが現れた。
**「脳内沙門」**というネームタグ。
見るからに僧侶スタイル。レア装備も、エフェクトも一切なし。だが、ただならぬ“気”を放っていた。
(……え?)
ケンジは目を疑った。
「阿、阿闍梨様!?」
その声に、キャラクターはふり向いた。
その表情までは読み取れない。だが、ケンジにはわかっていた。
かつて密行寺の一室で対峙した、あの静謐な瞳。
自分の「火力」だけで突っ走っていた過去を見抜き、火の“意味”を問いかけてくれた存在。
「ま、まさか、こんなとこで……」
ログイン名ではない、「脳内沙門」。
それが浦見真観の“名乗り”であることを、ケンジは知らない。
けれど、心のどこかで確信していた。
「……師匠」
思わず、そう呟いた。
真観――いや、「脳内沙門」は、何も言わずに軽く頷いた。
その手には、まるで現実と同じような、赤と白の御守りが握られていた。
中央には、燃えるような梵字の印。
ケンジの手にも、同じ御守りがあった。
それだけで、言葉は不要だった。
「俺、まだ火力信者だけど……でも、守れる火力になりたいって思ってます」
返答はない。ただ、また一度、頷く。
そのとき、画面の隅に通知が表示された。
――【ギルド『六道結社』からスカウトが届きました】
――【送信者:脳内沙門】
ケンジは数秒だけ目を瞠ったが、すぐに笑って「OK」を押した。
(ああ……そういうことか)
火を灯した誰かが、また次の誰かに火を渡していく。
破壊でも、征服でもない、“継承”の火。
――火の道は、まだ続いている。
そして、火力信者Lv62の物語も、ここからまた新たに始まるのだ。
『Echoes of Logos ― 脳内沙門、無双す。―』
スピンオフ短編:『Echoes of Logos 外伝― 火力信者、悟りの門前にて。―』
完
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
ケンジ@火力信者Lv62は、ゲームではよくある“脳筋”キャラ。でも彼にも、ちゃんと心があって、過去があって、迷いがあって、そして“誰か”に出会うことで変わっていく。
「脳内沙門」は、その象徴として登場する密教キャラです。
火をただのダメージソースじゃなく、“意味ある火”として受け継いでいく姿を描いてみました。
この短編が、あなたの中の“火”にも、そっと灯火をともせたなら嬉しいです。
コメントや感想、お気軽にどうぞ!
次のスピンオフ、あるいは“六道結社”のギルド編にも、いつか火が届きますように。