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CRUMBLING SKY  作者: 莞爾
第九話 逢魔時の欠落者

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17/22

推理

 吉報を携えての見舞いは、望み通り小夜の驚きと笑顔を引き出してくれた。

 俺はその結果に満足していた。


 その後は試着会とまではいかないものの、貝木が持参していた衣類を広げては小夜の好みに合う服を選んだり、和やかな時間を過ごした。あまりに楽しくて、ここが病院であることを忘れるほどだった。


 やがて日も暮れて面会時間が終わり、別れ際、俺と貝木は小夜に手を振りながら扉を閉め、階段を降りた。

 また会える。いつでも会える。通報者としてではなく、正式な後見人として。


 足取りも軽く、このまま家路に就くつもりでいたが、ついて歩く貝木の足音は病室から離れる程に硬く響く。エントランスを出たところで俺は呼び止められた。


「さてと、囮。説明してくれる?」


 声は淡々としていた。

 病室で見せていた笑みの名残はなく、あたかも『演技に付き合うのはここまで』と言わんばかりの表情。

 腕を組んで、睨みつける視線が刺さる。


 説明とは、この事件の経緯についてか――そりゃそうだよな。


「……貝木がいたのは予想外だった。でも同時に、貝木なら来るだろうとも思ってた」


 貝木は昔から、それこそ初めて出会った頃から只者ではなかった。

 幻覚災害初期の時代から、学生の身でありながらもやり手の周波数調整員であり、ベテランとして例外案件すら受け持つ女だ。きっちり几帳面なのに堅苦しさは感じさせず、仕事の面だけではなく人間としても一枚上手……そんな相手に嘘や隠し事は難しいだろう。


 俺は受け売りな言葉で答えてみる。


「聞きたいか?」


 知れば後戻りができなくなる。それでも知りたいのか、覚悟を問う。


「聞きたいわ。これでも私は周波数調整員バランサーだもの」


 貝木の返答は偶然にも、あの夜の武蔵関公園を再現した。


「……そうか。そうだな」


 俺は喉の奥に笑みを留め、夜空に浮かぶ月を見上げる。

 薄曇りの、星が見えない重たい夜だ。


「田無駅まで歩こう。道すがら話すよ」


 俺は背を向けて先を歩く。

 新宿で飲み明かした夜とは対照的な、素面で、どこか鋭さを感じる足取りだった。


「ここ最近いろいろなことが起こりすぎた、なにから話すべきか……」


「重要なところから聞くわ」貝木は言葉通り単刀直入に切り出した。「囮、あんたは独身でしょう? 饗庭ちゃんの後見人になるなんて、まず無理よね?」


「まぁ、そうだな」


 その指摘は正しい。

 法律上、保護児童となった小夜は親族が引き取るのが通常の手続きだ。

 赤の他人、しかも独身の男性が娘を引き取るなんて、普通じゃない。


「条件は確かに厳しい。が、不可能じゃない」


「というと?」


「小夜にはまず、他に頼れる親族がいない。身寄りが無いから通常の手続きで進まないんだ。そして俺はあくまで後見人だ。重ねて言うが、養子縁組になるわけじゃない」


 そう。俺はあくまでも『後見人』なのだ。『保護責任者』ではない。

 小夜を迎え入れる里親にはならないので、家庭裁判所の判断次第で選ばれる可能性がある。


「でも、饗庭ちゃんは女性で、囮は男性……申請が通るとは思えないけど」


 貝木は真摯な眼差し向けていた。俺が手を出すとは思っていない……そういう視線だった。しかし世の中の常識として、成人男性が身寄りのない未成年少女を保護するというのは性犯罪が起こりうる可能性が高いのも事実だ。貝木が言いたいのはそういうことだろう。


「原則として候補者が現れた場合、家庭裁判所が選任する。小夜自身の希望も反映されるが、まともな審査を通すなら普通は通らない」


 小夜が俺と一緒に居たいと希望しても、未成年には責任能力がない。最終決定は大人たちが行う。

 俺の収入や、貯蓄。住んでいる環境も踏まえて選考が行われる。きっと適任とはならないだろう。


「でしょう」


「だが《《杵原》》なら?」


「……は――?」


 後ろを歩く貝木の足音が止まった。


「――なんで……真綸香ちゃんが出てくるのよ……?」


 振り返って顔を見てみれば、珍しく困惑した表情が見られた。

 長い付き合いだが、そんな顔は初めて見た。

 あの貝木椛がそんな顔をするとは――俺は思わず笑みを隠す。


「そりゃあ出てくるだろう。彼女は俺と知り合いで、西東京市在住の成人女性で小夜とも仲がいい。そりゃあ……過去の入院歴は審査で引っ掛かるかもしれないが、裏を返せばそれだけの資産があるとも言える。経済面でも家庭面でも申し分なし。候補者として申請すればまず間違いなく選任される」


「ちょっと、待ちなさいよ。……真綸香ちゃんは地縛霊でしょう? 生命維持装置がないと呼吸すらできないのに」


 俺は腕を組み、あくまで真剣な面持ちを装った。

 顎に手を添えたのは、込み上げる笑みをもみ消すためだ。


 ――違うんだよ。貝木……。


 俺はゆっくりと首を振る。


「杵原が地縛霊? おかしなことを言うもんだな」


「だって、十四歳の頃に事故に遭って――」


「別の誰かと勘違いしてないか? 杵原が入院したのは癌治療のためだ。後遺症で子を産めなくなったけど、子供は好きだから教員資格の勉強をしてる。今年二十八、四月には二十九になる」


「おかしい……そんなはずないわ……」


「ここでくだらない嘘をつくわけないだろ。写真だってある。ほら」


 俺は端末に直近の杵原の画像を表示して見せた。

 貝木は食い入るように見つめ、記憶と結びつかないことに困惑している。


「この人が、真綸香ちゃんだって言いたいわけ……?」


「まったく、どうしても信じられないなら会ってみるか? 東伏見駅で待ち合わせにしよう」





 西武新宿線、田無駅から一駅移動した俺と貝木は、東伏見駅の北口改札で杵原と待ち合わせた。


 寒空の中、ベージュのロングコートをすらりと着こなす杵原がコンコースを歩いてやって来る。俺を見つけて小走りに駆け寄ると、「お待たせ」と微笑み、次いで貝木に向かって挨拶をした。


「お久しぶりです。貝木椛さん」


 貝木は、言葉を失っていた。

 見知らぬ誰かに話しかけられたとでも言いたげな顔だった。


「おいおい、久しぶりの再会なのにそりゃないぜ」俺は茶化すように貝木を責める。


「悪い冗談はやめて、囮。この人は誰なの?」


「嫌ですね私ですよ。杵原真綸香です」


「……すみませんが、やめてください。口裏を合わせてふざけているんでしょう……?」


 貝木は酷く狼狽え、自身の記憶と目の前の杵原との齟齬に戸惑っているようだった。そんな反応を見て、杵原の方も不審がっている。


「あら、尾鳥さん、これはどういう……?」


「いきなり呼んで悪かったな」俺は一旦、杵原に呼び出した経緯を説明する。「貝木が杵原のことを『十四歳の幽霊だ』なんて言うから、ちゃんと思い出してもらおうと思ってさ」


「私の顔を見ても思い出せていないみたいですが……」


「どうしたもんか、ここで躓かれると話が進めなんだがな」


「全然会わなかったから別の誰かと勘違いしてるのかしら。……貝木さん。思い出せる? 杵原真綸香ですよ。久しぶりに会えて嬉しい。弟さんは元気にしてる?」


 記憶の混濁に貝木は頭を抱えている。返答する余裕はなさそうだ。目の焦点も心なしか定まっていなかった。


「とにかく、この人が杵原真綸香本人で間違いない。身分証明IDマイナンバーカードもある。混乱している所に悪いが、少し報告させてくれ」


 俺は続ける。


「お前がここを離れてから色々あってな――杵原と婚約したんだ。小夜の事情も杵原は知ってるし、後見人になることも賛成してくれた。

 まぁ、つまりだな、俺は独身男性ではないし、小夜の後見人として申請は通るってことなんだ」


 貝木は未だ何の反応もない。

 目眩を堪えているかのように立ち竦んでいる。

 まるで並行世界にでも迷い込んだみたいだった。


「――ちがう……」


 貝木の声が、かすれて聞こえた。


「なんだって?」


「違う。この人は真綸香ちゃんじゃない……!」


 決然とした瞳で貝木は杵原を見つめ、次に俺を睨んだ。

 駅のコンコースにはまばらながら人がいる。突然声を張り上げた貝木に奇異の目が集まる。


「どうしたんだよ。貝木」


 俺が肩に手を伸ばすと、貝木は叩き落とし、後ろへ下がった。


「世界線がズレたわけじゃない……存在を操作したんだね……? この人は誰?」


「だから、杵原真綸香だ」


「冗談はやめてって……この人は絶対違う……!」


 閃いたように貝木は目を丸くした。


「そうか、わかった。この人が実行犯なんでしょ? ……白状しなよ」


 貝木の言葉に、杵原の肩が僅かに強張る。


「……私のこと覚えてないの? 杵原よ?」


「いや、覚えてないね……当然だよ。貴女は杵原真綸香じゃないもの。」


「おいおい、駅前で物騒なことを言うなよ」


「囮。報告書を出していない案件があったよね。確か一月五日にカテゴリー未分類のまま、作成途中の報告書だ」


「……っ――」


 その報告書は、俺が初めて瀬川と再開した夜のことを報告しようとしたものだ。書きかけのまま放置している。


「……そんなものまで目を通してるのか」


 作成中のデータも全てサーバー内の個人フォルダに保管しているため、見ようと思えば貝木でも閲覧可能な状態だが、普通なら他人の書きかけのデータまで目を通す人はいない。


 やはり手強い。

 貝木は続ける。


「『推定、浮遊バクテリアによるドッペルゲンガーの出現』……報告書はずっと更新されなかった。ちょうど饗庭ちゃんの事件と時期が被っているから忙しいくて後回しにしたんだと思っていたけど、そうじゃないね。君はこの案件をわざと保留にしたんだ。

 その理由は、この件が『例外案件』だから。そしてドッペルゲンガーとは――そこの彼女。……そうでしょ?」


 穏やかな表情を維持している杵原が、微かに殺気立つのを感じた。

 俺は腰に回していた手を肩に添えて、対面している貝木に顎で示す。


 ――場所を移そう。


 貝木は小さく頷き、我先にと東伏見公園の方へ歩き出した。

 距離が開いて二人きりになると、杵原は耳元に口を寄せて囁く。


「……どうするつもり? 彼女を口封じする?」


「まさか。簡単に人を殺そうとするな」


「なら尾鳥君は打ち明けるってこと?」


「貝木になら全て話してもいいと考えてる」


「私たちの行動に彼女が納得するかしら」


「貝木は切れ者だからな……。それでも、隠すより説得した方がいい」





 貝木は東伏見公園の木造デッキに立ち尽くしていた。

 時刻は二十一時を回り、園内は俺たち以外に誰もいない。

 不死の帯域に棲まう地縛霊も、今宵まだ現れない。


「本当の真綸香ちゃんはどこ?」


 拳を固く握りしめる貝木は、怒りの焔が揺らめいてみえた。

 俺達が地縛霊の少女を悪用したと、貝木は考えているのだろう。


「『不死の帯域』にはまだ早い。もう少し待たないと」


「それに本物の杵原は私ですしね」


 隣に立つ杵原が余計な一言を付け足した。

 不愉快な冗談だと抗議するように、貝木は杵原を睨む。

 対する杵原は、本物の余裕とでも言いたいのか、挑発的な笑みで視線を受け止める。


「……じゃあ、それまでは囮の話を聞かせてもらうことにする。

 饗庭ちゃんの両親をどうやって殺したのか、順を追って説明してよ」


 断定的な物言いだった。

 既に貝木の中では、俺たちが毒殺したのは確定らしい。


「俺は殺してない」


「共同正犯……完全犯罪を目論み、それがバレた場合、悪質な犯行として罪は重くなる」


 貝木ははっきりとした口調で脅す。


「直接犯行に及んでいなくても、指示役の君は殺人教唆の罪に問われる」


 貝木の声は夜の公園に響く。

 この薄闇の中で誰かが聞いているとも限らないので、俺は気が気じゃなかった。


「やってないって」


 俺の返答に貝木は落胆するような態度で赤い髪をかきあげる。

 続く言葉には脅すような凄みがあった。


「もったいぶるなよ……殺したんでしょう?」


 口調は友人としての語りかけではない。仕事のスイッチが入っている。

 周波数調整員の中でも例外案件に対応する『特異霊象調整員』――貝木椛の本領を発揮されては、俺は太刀打ちできない。


「嘘で誤魔化せると思っているならがっかりだよ。囮……なんなら私の《《例外》》の力で全部暴いたっていいんだよ?」


「例外……」


 聞いたことがある。貝木は自身が受け持っている不死の帯域の者と協力関係を結んでいると。それが具体的にどのような能力なのかは聞かされていないが、本気を出せば敵わないということだけはよく理解している。……少なくとも俺は。


「……やっぱり、口封じしましょう」


 事情を知らない杵原が先走った。呟く声に反応が遅れた。

 制止しようにも、彼女はすでに貝木の喉元へ踏み込んでいる。


「ダメだ! 《《瀬川》》!!」


 コートの袖に隠したカッターナイフを握り、貝木の喉を狙って切り裂こうとした。

 その手は見えない壁に弾かれ、そのまま手首を捻りあげられて地面に組み伏せられる。見えない何者かが貝木を護っているようだ。


「な、に……!?」


 カッターナイフを没収された杵原は、自身を取り押える存在をこの目で見ようと首を捻る。夜闇に顕現したのはフードを被った長身の女性だった。特異なのは、額から角が生えているということだ。口元を覆う牙の生え揃った般若のような半面も相まって、鬼にしか見えない。


「ありがとね。しがらみちゃん」


「いえ。当然のことをしただけです」


 笧と呼ばれた女性は立ち上がり、杵原を睨むように見下ろして貝木にカッターナイフを手渡す。そして背後へ隠れるように闇に消えた。


「私が出張の時はね、護衛を連れて行くんだよ。今のは護符の赤札」


 杵原は勝てないことを身をもって知ったのだろう。痛む腕を押さえて大人しく戻ってきた。苦い顔をして俺と視線を交わす。


「襲ってきたってことはやっぱり実行犯だよね。……ところでさ、『瀬川』って呼んでなかった?」


 俺は反論できず口籠る。

 東伏見駅を発車した電車が、車輪を響かせて千駄山ふれあい歩道橋の下を通過する。忙しなく駆け抜ける走行音が早鐘を打つ鼓動にも思えた。


「……悪かった」


「何がかな?」


「俺は無実ではない。嘘をついたことを謝る」


 聞きたい言葉が聞けたと、貝木は幾許かの溜飲を下げ、内圧を高めていた怒りを排気するように息を吐き出す。


「じゃあ改めて、饗庭ちゃんの両親をどうやって殺したのか、全部話して」


「構わないが……一つだけ、条件がある。この件は俺の担当だ。杵原についての報告書は書かないで欲しい。記録も残さないでくれ」


 数秒の沈黙の後に、貝木は渋々納得して通信端末の電源を落とした。妥協点として納得してくれたようだ。


「これでいいのね」


「……助かるよ。約束通り、順に話そう。

 まず、この杵原だ。彼女は元々、別の名前だった。『瀬川忍』という」


「瀬川忍って、行方不明の殺人犯? あの『夫殺し』の?」


「ああ……指名手配中の彼女で間違いない」


 夫を殺して行方を眩ませている貝木忍は、初めはローカルニュースでしか取り扱わない小さな事件だった。

 しかし、殺害後に忽然と姿を消し、都内のあらゆるところで目撃情報が多発した。警察の捜査が難航するにつれて、最近では全国区のニュースまで取り上げるようになっていた。


 夫の殺害方法は毒ではない。包丁で心臓を一突きだ。

 現に、貝木のこともカッターナイフで殺害しようとしていた。

 杵原の正体は明らかだ。瀬川忍で間違いない。


「まさか瀬川忍とはね、しかもドッペルゲンガーなんて……不死の帯域以外では初めて受け持つ例外案件でしょ。囮には荷が重かったんじゃない?」


「否定できないな」


「何で瀬川忍と繋がったの? 巻き込まれ体質のせい?」


「もともと高校の同輩でな、俺が周波数調整員として働いていると知って仕事を依頼してきた。この体質が原因だって言うなら、俺は高校生の頃から巻き込まれていたらしい」


「ってなると……あぁ、世界同時多発集団幻覚《E.V.E.N.T.》の年と被るね。

 それで、直々に依頼されたから、私には相談できなかったと……」


「そうだ。ドッペルゲンガーがいつどこで俺を監視しているのか、わからなかった」


「にゃるほど……んで、仕事の内容は? 『ドッペルゲンガーを解決しろ』って?」


「違う。『初恋を成就させろ』って依頼だ」


 俺の返答に貝木は眉を顰めて困惑した。

 急に話の筋が逸れた感覚は、俺もよくわかる。


「瀬川のドッペルゲンガーは、人生の分岐点を再現する特徴があった」俺は説明を続ける。


「異能が発現したのは、交際相手を選び間違えたことに起因する。子宮に悪性腫瘍を患い、子を産めないと知った夫は浮気に走ったそうだ。人生の選択を後悔し、瀬川の力が目覚めた。

 瀬川は、人生をやり直すために十七歳の体へと若返り、俺の元へやってきた」


「十七才に若返る……」


「ああ。瀬川はただ分身するわけじゃない。分岐点の体に変化するんだ。人生の選択をしくじればやり直す。だから警察の捜査も逃れることができた」


 そこで杵原――瀬川は付け加える。


「高校時代、尾鳥君は私に片想いしていたのよ。十七歳の体に戻ったということは、きっと尾鳥君こそ、私を幸せにしてくれる相手だと思ったの。人生をやり直すのにふさわしい人だって」


「ずいぶんとお花畑な思考で――」


 貝木は腹立たしそうに頭を掻いた。赤く染めた髪が乱れる。


「――それで、饗庭ちゃんの両親を殺害するのにちょうどいいと瀬川に取引したわけだ。『人生のやり直しを手伝う代わりに、殺してほしい人がいる』って」


「そんな言い方はしていないが、まあ流れは合ってるよ。小夜が殺されかけて、俺はどうしてもあの親を許せなかった」


 瀬川が続く。


「尾鳥君ったら、あの時はかなり自暴自棄になってたわ。自分の手で殺そうとしていたもの」


「それだと饗庭ちゃんも悲しむだろうし、瀬川忍も本意の結末ではない……だから実行犯と指示役の協力関係になったと」


「夫殺しと同様の完全犯罪を達成すれば、婚約してもいいと伝えた」


「はぁ……そういう流れでつながるのね。犯行手段は?」貝木が問う。


「ニュースの通り毒殺だ。瀬川は犯行時十七歳の姿だったから、小夜の友人という設定で拘置所に向かった。面会受付には『親権に関する同意署名を貰うため、小夜の代理で伺った』と言えば、まず警戒されない」


「親権停止の手続きは実際に進められているから、書類も本物が用意できるのか……よく考えたものだね」


「女子高校生の立ち居振る舞いに警察が目を光らせる可能性は低い。まさか殺意を持っているなんて考えないからな。実際、すんなり面会できた」



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