転生マダムは腹黒悪魔を翻弄する
「ねえ、アヤカ。どうしたら私のものになってくれますか?」
長い黒髪を一つに結わえて肩に流した美しい青年――エドゼルは、血のように赤い瞳をとろりと蕩けさせて私に妖艶な笑みを向ける。
その赤い瞳に不穏な影が差しているように見えてしまい、私は思わず後ずさった。
背中に壁が当たり、これ以上は逃げられない。
前世の私なら、彼のそのような表情を見て頬を赤く染めたかもしれない。
しかしおばあさんに転生した今の私は、頼むから今すぐ離れてくれと思ってしまう。
傍から見たら、若者を侍らす嫌な老人に見えるだろう。
「は、離れなさい。いきなり何を言い出すの? それに、どうしていきなりその名前で呼ぶの?」
「あなたが私以外の男を頼ったから嫉妬しているのですよ。なにもかも私に命令すればいいものを、あろうことかその体の元の持ち主に懸想していた男に頼ろうとするなんて、どれだけ私の神経を逆なですれば気が済むのです?」
「それは、騎士団長を務めるインガルズならあの子を守れるから――」
言いかけた言葉は、エドゼルが人差し指で私の唇に振れたせいで途切れた。
「その名前を口にしないでください。次に言ったらあの男の家を没落させますよ?」
「……そっちが聞いてきたくせに」
あまりにも悪魔らしい身勝手さで溜息が出る。
私の侍従を務めるこの男の正体は悪魔で、私は前世で読んだ小説の世界に転生してしまってすぐに、この厄介な悪魔に転生者だと知られてしまった。
珍しい存在に興味を覚えたのか、それ以来ずっとこの悪魔に付き纏われている。
私たちが出会ったのは、今からちょうど一年前のことだった。
◇
私――白崎綾佳は現代の日本で会社員をしていた。
薄給なくせに残業が多い職場で、恋愛する余裕なんて全くないまま気付けばアラサーだ。
最後の記憶は、終電ギリギリまで仕事をして帰っていた時の電車の中。
酷い眩暈がして体がふらついた後、私の意識は途絶えたのだ。きっと過労死だろう。
「おばあちゃま!」
鈴を転がしたような声が聞こえて目を覚ますと、私は知らない場所にいた。
まるで西洋の古い屋敷にあるような、ワイン色の天蓋が目の前にあるのだ。
(ここ、どこ……?)
体を起こそうとしたけれどうまく動かない。
しかたがなく首を動かして声がした方を見ると、波打つストロベリーブロンドの髪と水色の瞳を持つ、とても可愛い女の子がいた。
年齢は六歳くらいだろうか、幼いながらも人形のように整った顔立ちの超絶美少女だ。
少女は大きく目を見開いて私を見ていた。目が合った途端に、ぱっちりとした大きな目に涙が浮かぶ。
「――っ、おばあちゃま、からだはだいじょうぶですか? どこかいたいですか?」
少女はポロポロと涙を零しながらも、私の手を取って気遣わし気に声をかけてくれる。
(お、おばあちゃん?)
人違いでは、と言おうとしたところで、不意に目に入った姿見に少女と女優のごとく美人なおばあさんの姿が映っていることに気づく。
おばあさんは長い銀髪と菫のような紫色の瞳が特徴的で、品がありどこか儚げだ。
鏡に映った少女は目の前の少女と同じ姿だ。
ということは、もう一人のおばあさんは――。
まさかと思って私が顔を左右に動かすと、鏡に映るおばあさんも同じように顔を動かしている。
(も、もしかして、私があの綺麗なおばあさんなの……?!)
衝撃を受けたその時、私の頭の中に誰かの記憶が駆け巡る。
それは、誰もが魔法を使えるというファンタジーな世界の記憶。その中には目の前の少女との思い出もあった。
彼女の名前はリズベット・アルテンブルク。辺境伯家の令嬢だ。
私――ローザリンデ・アルテンブルクの孫娘にあたる。
(リズベットって……あれ、もしかしてこの子、私が前世で好きだった小説『不遇な令嬢は大魔導士の最愛となる』のヒロインのリズベット?!)
前世の私は仕事の疲れを癒すためにたくさんの小説を読んでいた。とりわけ『不遇な令嬢は大魔導士の最愛となる』が好きだった。
不遇な運命に置かれても懸命に前に進むリズベットが推しだ。
(わ、私、『不遇な令嬢は大魔導士の最愛となる』の世界に転生したの?!)
改めて目の前の少女を見ると、小説で描写されていたリズベットの容姿と一致する。
小説の内容を簡単に説明すると、ヒロインのリズベットは四歳の頃に両親を事故で失い、そんな彼女の親代わりとなって育ててくれていた祖母も二年後に失ってしまった。
天涯孤独の身となったリズベットが成人するまでの間の代理当主を務めることになった養父のウッツは傲慢な性格で一族のはずれ者だったが、他の親戚たちはみな不慮の事故で命を落としていたため、適任者は彼しかいなかった。
その事故が実はウッツが仕組んだことだったと、物語の終盤で明かされる。
ウッツはあからさまにリズベットを邪魔者扱いし、『辺境伯家の跡継ぎの義務だ』と言って幼いリズベットを魔物討伐に駆り出した。
幸にもリズベットは魔法の才があったため、魔法を駆使してなんとか戦っていた生き延びた。
そうして十一年ほど経ったとある日、もうすぐで成人を迎えつつあるリズベットを消し去って当主の座を確実に得ようとしたウッツに魔物討伐先に刺客を送り込まれる。
そこで窮地に立たされたリズベットを救ったのがヒーローで王弟であるライナート。
リズベットより五歳ほど年上の大魔導士のライナートは、最近のアルテンブルク辺境伯領には腕の立つ魔導士がいると聞いてその魔導士――リズベットに会いにきたのだった。
リズベットの置かれた立場を知ったライナートはリズベットが辺境伯家の当主になれるよう彼女を弟子にするのだが、何事にも懸命に取り組む彼女の姿を見て惹かれてしまう。
最後にはリズベット自身が彼女を陥れようとしたウッツの不正を暴き、当主の座に就いた。
そして陰ながらリズベットを支えていたライナートはリズベットに求婚し、ライナートがアルテンブルク辺境伯家に婿入りすることになった。
二人は結婚してハッピーエンドを迎える。
(最終的にはハッピーエンドを迎えるけど……それでもこんなにも可愛い子に苦労をさせたくないよ)
私はリズベットの手を握り返した。
今はまだ本編が始まる一年前のようだ。
それなら、今から私が頑張ればあの憎きウッツからリズベットを守れるはず。
「――リズベット様、大奥様はまだ安静にしなりませんので、お部屋に戻りましょう」
若く低音で艶のある男性の声が聞こえ、私はこの部屋にいるもう一人の人物の存在に気づいた。
声がする方に顔を向けると、二十代くらいの恐ろしく顔立ちの整った青年がいる。
青年は白いシャツに黒色のベストとスラックス、革靴を合わせており、いかにもこの家の使用人のような装いだ。
私は思わず身構えた。
ローザリンデの記憶が正しければ、この男は悪魔のエドゼル――ローザリンデが孫娘を守るために召喚して契約し、彼女の魂を奪った張本人。
使用人に紛れてローザリンデに力を貸しながら、彼女の魂を狙っていた恐ろしい悪魔だ。
「……そうね。おばあちゃま、ゆっくりおやすみください。こんど、おはなをもってきますね」
いい子のリズベットは素直に頷いて、私の頬にキスすると部屋から出ていってしまった。
私はエドゼルと二人きりになる。
悪魔と二人きりになるなんて絶体絶命だ。逃げ出したくても、体が思うように動けないせいで逃げられない。
「あなたは誰ですか? 随分と珍しい性質の魂ですね。異界から飛ばされて、持ち主がいなくなったばかりのその体に宿ったのでしょうか」
エドゼルは静かに歩み寄ると、床に片膝をついて私に目線を合わせる。
近くで見ると改めて、目鼻立ちがはっきりとしたイケメンだ。
「……白崎綾佳。気付いたらここにいたんだよね」
隠しようがないと悟った私は素直に名乗った。そんな私に、エドゼルはくすりと笑う。
「悪魔に真名を教えるとは世間知らずですね」
エドゼルの目の動向が縦向きに裂ける。
いかにも人ならざる姿に、私は息を呑んだ。
「アヤカ、私の眷属になりなさい」
「え、嫌ですけど?」
「……え?」
エドゼルはあんぐりと口を開けて目を瞬く。
そんな姿はどことなくあどけなく、悪魔らしくなかった。
「おかしい。私の魅了が効かないなんて……異界の者だから?」
エドゼルは顎に手を添えて私をじっと見つめる。
私が睨み返すと、なぜか嬉しそうに口元を綻ばせた。
「面白いのでしばらく観察しましょう。あなたの寿命は多く見積もって十年ほどでしょうか。退屈しのぎにはちょうどいいですし、これからよろしくお願いしますね」
私は悪魔の気を引いてしまったらしい。
◇
「安静が必要らしいから寝るわ。だから部屋から出ていって!」
私はエドゼルを追い出し、ローザリンデの記憶を整理する。
ローザリンデは今年で六十歳になる。
彼女の人生は波乱万丈だ。
ラングハイン伯爵家の令嬢として生まれてすぐに母親を失い、継母が娘を連れてやってきた。
継母は父親の愛人で、娘は父親が浮気していた間にできた婚外子でローザリンデの姉となる。
それからはシンデレラよろしく、ローザリンデは継母と姉に虐められて使用人の真似事もさせられた。
ローザリンデを慕い、彼女を助け出すために求婚した幼馴染の伯爵令息がいた。
しかしローザリンデの幸せを邪魔する父親と継母が二人の結婚を認めず、化け物と恐れられるこのある前アルテンブルク辺境伯に嫁がせた。
自ら前線に立って魔物を屠る前アルテンブルク辺境伯は、あまりにも強いため王国内の貴族たちから恐れられていた。
化け物と呼ばれる彼に自分の娘を嫁がせる親はそうそういない。
かくして空席だった辺境伯夫人の座にローザリンデが就いたのだった。
しかし酷い実家を出てもローザリンデの苦労は続いた。
ローザリンデの父親は悪名高く、また派閥争いで前アルテンブルク辺境伯と対立していたため、すぐには馴染めなかったのだ。
二人の結婚はその対立をなくすためとされていたが、前アルテンブルク辺境伯はローザリンデを警戒し、出会ってすぐに『お前を愛することはない』と言い放った。
そんな彼の態度のせいで使用人たちとも打ち解けられず、慣れない辺境の生活に苦労していたが、それでも責任感の強いローザリンデは辺境伯夫人として夫や使用人や領民のために奔走した。
彼女の頑張る姿を見てまず最初に心を開いてくれたのは領民だった。それから使用人たち、最後に夫がローザリンデの努力を認めて彼女を受け入れた。
夫はローザリンデを溺愛し、その溺愛っぷりは王国内に広く知られていたくらいだ。
それからハッピーエンドに向かうかと思いきや、悲劇がローザリンデを襲う。
ローザリンデが夫との間に息子を授かって程なくして、夫は魔物討伐先で命を落とした。
大量発生した魔物を討伐し終えた途端、今まで見たこともないような悍ましい魔物が現れて暴れたため、部下たちを守るために単身で戦って相討ちになったのだ。
未亡人となったローザリンデは、辺境伯家の財産や当主の座を狙う貴族たちから息子と領民を守るために奔走した。
そうして息子が成人して結婚し、孫ができてローザリンデは平穏で幸福な生活を取り戻した矢先、またもや悲劇が襲いかかる。
息子と嫁が国王の召集に応じて王都へ向かう途中で、刺客に襲われて命を落としたのだ。
ローザリンデはあらゆる手を使って刺客を送り込んだ犯人を探した。
そして行き着いたのは実の父親と継母、そして姉夫婦だった。
彼らは元からアルテンブルク辺境伯家と融和するつもりはなく、ローザリンデもろとも消し去って没落させるために度々刺客や凶暴化させた魔物や魔獣を送り込んできていたこともわかった。
夫もまた彼らの差し向けた魔物で殺されたとわかったローザリンデは失意に打ちひしがれそうになったが、孫娘のリズベットの存在が心の支えになってどうにか持ちこたえた。
大切な孫娘にも魔の手が迫っていることを知ったローザリンデは悪魔を召喚し、自分の魂と引き換えに手を組み、孫娘の命を狙う父と継母と姉夫婦を社会的に葬った後に悪魔に殺させた。
ローザリンデは孫娘を守ると同時に、夫と息子夫婦の仇討ちをしたのだ。
(一生懸命戦って外の敵を排除したのに、親戚の中にも孫娘を害する者がいるなんて、ローザリンデが知ったらひどく悲しむよね……)
孫娘には悲しい思いをさせたくないという一心で全てを投げうったのだから、その努力は報われて欲しいと思う。
「心配しないで、ローザリンデ。私がぜったいにリズベットを幸せにするからね!」
残りの人生を全てかけて、大好きなヒロインを幸せにすると誓った。
◇
それから三日ほどベッドの上でダラダラした私は、少し体力が戻ってきた。
四日目には起き上がれるようになったので、可愛いリズベットを助けるために動き出す。
エドゼルが言う通り私の寿命がもって十年ほどなら、小説でリズベットがウッツに刺客を送り込まれる前に亡くなってしまう。
(小説とは違って私が憑依したローザリンデがいるから、そう簡単にリズベットを戦地に送ることはできないと思うけど……用心するに越したことはないはず!)
私は手始めにウッツを国外追放すると決めた。
(まずは証拠探しよね!)
あの前世の記憶があるから知っているのだが、ウッツはローザリンデの実家であるラングハイン伯爵家と手を組んで少しずつアルテンブルク辺境伯家の親戚を消して戦力を削いでいた。
その証拠がどこかに残っているから探し出して王国騎士団に提出する。
そうすれば騎士団が彼を捕まえて、より綿密に調査してくれるだろう。
やる気満々の私は部屋にいたメイドに言いつけてドレスに着替えさせてもらう。
貴婦人らしい装いになり意気揚々と廊下を歩いていると、メイド長が慌ててやってきた。
「お、大奥様! お部屋に戻ってくださいませ。まだ寝ていないといけません!」
このメイド長は小説の中で、ウッツの目を盗んでリズベットを守ろうとして命を落とした人だ。彼女も絶対に助けたい。
「心配してくれてありがとう。もうずいぶん良くなったわ。ずっと寝ているのも退屈だから仕事をしたいの」
私が今から向かうのは執務室。
そこにある資料を片っ端から目を通して養父の行動に不可解な点がないか探るつもりだ。
親戚が次々と亡くなり、人手不足になったためローザリンデは仕方がなく彼に領地の一部の管理を任せた。
養父はその領地にラングハイン伯爵家の手の者を住まわせて彼らの拠点としていたのだ。
きっとウッツが管理している場所の通行人の記録や帳簿を見たら、どんなに巧妙に隠していても粗が見つかるはずだ。
「しかし大奥様、以前もご無理をなさって倒れたのですから、どうか安静にしてください」
「そう言われても、本当に大丈夫なのよ――わわっ!」
ふわりと浮遊感がして私は慌てて手を動かす。近くにあった弾力のあるなにかに体を預けてしがみつくと、目の前にある赤い瞳と視線が交わった。
エドゼルだ。私はエドゼルにひょいと抱き上げられるらしい。俗に言う、お姫様抱っこの状態で。
「病人なのに寝ていられないなんて……奥様は年を取ってからお転婆になられたようですね」
そう言い、エドゼルはくつくつと笑う。
降りようとして体を動かしてみたけど、エドゼルがしっかりと私の体を支えておりびくともしない。
「お、降ろしなさい!」
「大声を出してはなりませんよ。さあ、寝室に戻りましょう」
私はエドゼルの手によって寝室に強制送還されてしまった。
「書類を見るだけなのだからいいでしょ?」
「よくありません。その体がかなり体力を消耗していることくらい、宿っているあなたなら気づいているでしょうに」
エドゼルは私をベッドの上に降ろすと、そばにあった椅子に座って手早く私の髪を解く。その動きがやけに手慣れている。
自分の髪を結わえているから慣れているのだろうか。
悪魔なら魔法で結わえていそうだけれど。
「正直に言うと、自分の体よりリズベットの方が大切なんだよね。一日でも早くリズベットの周りから脅威を取り除きたいの」
「……理解できませんね。どうして赤の他人のためにそこまでするのだか」
「……リズベットは前世で私を勇気づけてくれたから、応援したい。それ以外の理由はないかな」
私はぽつりぽつりと、前世での出来事を話した。
この世界が前世で読んでいた小説の中であること。
リズベットと同じように私もまた両親を早くに失い、その後育ててくれた祖父母は昔の考えが強く、私が結婚せずに働くことを嫌がっていたため家を出たこと。
ボロボロになって働いてようやく生活できる日々を送っていたこと――。
「――そんな毎日の中で唯一の楽しみが小説を読む事で、中でも『不遇な令嬢は大魔導士の最愛となる』に出てくるリズベットに励まされていたことだから、リズベットを苦しめていた養父を追放してリズベットを守りたいの」
私が話し終わると、黙って私の話を聞いていたエドゼルは静かに立ち上がった。
「私と契約して対価に魂をくれるのであれば、すぐに片付けますよ?」
「嫌だね。悪魔と契約するくらいなら自分の力でどうにかするもん。この先なにが起こるかわかっているから、エドゼルの助けはいらないよ」
「……なんと生意気なのでしょう」
エドゼルは小さく溜息をついた。
怒ったのかと思ったけど、彼の白皙のような頬は微かに赤く染まっており、口元はを描いている。
(え?喜んでいる?)
言葉と態度と表情がちぐはくだ。
とはいえ突っ込みを入れる気にもなれなかった。なんだか彼の触れてはいけない一面に触れてしまいそうでならない。
「書類を持ってくるくらいなら契約せずともやってあげましょう。だたしその体は弱っているので、読むだけにしてくださいね?」
エドゼルはそう言い残して部屋を出ると、程なくしていくつかの書類を持ってきた。
どれもウッツの不正がわかる資料ばかりで、私はすぐにその内容をまとめて騎士団を呼んだ。
その翌日、王都からドラゴンに乗って飛んで来てくれた騎士たちがウッツを捕らえ、彼は重罪人の烙印を押された後に追放された。
あの烙印があると、そう簡単に住居を手に入れることも職を得ることもできないだろう。
どうにか片付いて安心した途端、私は熱を出して五日間ほど寝込んだ。
書類に書かれている内容をまとめて騎士たちに少し話をしただけなのに、ただでさえ弱っていたローザリンデの体には負担だったらしい。
◇
それから一ヶ月経った。
だいぶん体調が良くなった私は、アルテンブルク辺境伯家の屋敷にある庭園でリズベットとお茶をしている。
小説のおかげでリズベットが好きな食べ物を把握している私は、彼女のためにイチゴのケーキを用意させた。
「リズベット、そのケーキ美味しい?」
「はい、とてもおいしいです。おばあちゃまもひとくちどうぞ!」
そう言い、天使なリズベットは私にケーキをひと口食べさせてくれる。
幸せを噛み締めていると、メイド長がリズベットを呼びに来た。
どうやらリズベットに魔法を教えてくれている家庭教師が到着したようだ。
「おばあちゃま、いってきます!」
「ふふ、いってらっしゃい。勉強頑張ってね」
リズベットの姿が見えなくなるまで手を振った私は、リズベットが屋敷に入ったことを確認して天を仰ぐ。
「平和でいいけど、あっけなく終わってしまったから拍子抜けしちゃうな……」
「早く片付いて良かったではありませんか」
私のかたわらに立って控えているエドゼルが上品に微笑んだ。
彼は途中で飽きていなくなると思ったのに、今もずっと私のそばにいる。
初めは彼を警戒していたけれど、なんやかんやで手伝ってくれるし害はなかったからそのままにしている。
「……そうだ、この際だから私の身に何があってもリズベットが無事でいられるように手を回しておこうかな」
「手を回す? 何をするおつもりですか?」
「信頼できる人にリズベットの後見人になってもらう、とか? ローザリンデの記憶だと、インガルズ・ヴィンターが適任かもね。彼は誠実だし騎士団長に就くほど強いから、なにがあってもリズベットを守ってくれそう」
インガルズは侯爵家の三男の彼は騎士として活躍し、国王から伯爵位を賜った宮廷騎士団の騎士団長。
そしてローザリンデの幼馴染で、彼女に求婚した過去を持つ。
ローザリンデなら気まずくて彼に助けを求めなかっただろうが、私は違う。
可愛いリズベットのためなら使えるものは何でも使う所存だ。
「……他家の人間を頼るなんてお止めください。もし頼るとしても女性の方がいいでしょう」
エドゼルの声が少しだけ低くなる。まるで怒っているような声だ。
いつもの彼は何があっても穏やかな声で喋るから、少し驚いた。
私が振り返ると、エドゼルはパッと目を逸らす。
「どうして?」
「……」
「ねえ、もしかして怒っているの? 私がエドゼル以外の人間を頼ろうとしたから?」
「ええ、そうですよ。人間なんかに頼らずとも、私に任せたら全て解決しますのに、あなたはいつも私を頼ってくれない」
「だって、エドゼルに頼んだら魂を対価にするでしょう?」
「……それはそうですが……」
エドゼルがこちらを向いた。
私と目が合った途端、彼は唇を噛み締めてしまう。
まるで言いたいことを言えずに躊躇っているような素振りだ。
いつもは言いたいことを言いたいように言うくせに。
「とにかく、私はリズベットのためにできる限り手を尽くしたいの。その為には信頼できる人の手を借りないといけないから会いに行くよ」
私は執務室に戻ると、すぐにインガルズ・ヴィンターへの手紙を書いた。
◇
手紙を送った翌日、インガルズからすぐに返事が届いた。
私が彼の領地にある屋敷を訪ねると手紙に書いたのに、彼は自分が出向くと言ってくれた。
インガルズはローザリンデが倒れたことを人伝に聞いたらしく、療養が必要な人に無理をさせたくないと気遣ってくれたのだ。
それから二日後、インガルズが屋敷を訪ねてきた。片手に大きな花束を持って。
「ローザリンデ……こうして会うのは久しぶりだね。元気だったかい?」
インガルズは精悍な顔立ちの男性だ。
白髪交じりの鳶色の髪は丁寧に撫でつけており、晴れ渡った空のような水色の瞳は優しい眼差しで私を見つめている。
ご老人とは思えないほど引き締まっており、白いシャツに紺色のジャケットとスラックスを合わせているのだけど、服の上からもわかるほど筋肉がついてる。
(わ、わあ! イケオジだ!!)
前世では見たことが無いようなイケオジを前にして、私は思わずぽ~っと見惚れてしまった。
エドゼルがコホンと空咳をした声を聞いて、はっと我に返る。ちょうど、インガルズがぼんやりとした私を気遣って声をかけてくれているところだった。
「ローザリンデ? 具合が悪いのかい?」
「い、いいえ。あまりにも懐かしくて、つい昔のことを思い出していたの」
咄嗟に取り繕うと、インガルズは頬を赤らめてはにかむ。
そんな彼の微笑みをみるとわかる。
この人、今もずっとローザリンデのことが好きなようだ。
「君の好きな花をもってきたんだ。ずいぶん昔にそう聞いたから、今の好みに合わなかったら申し訳ないのだが……」
「あ、ありがとう。今も好きよ。大切に飾るわ」
私はインガルズから花束を受け取る。たったそれだけで、インガルズは幸せそうだ。
(好意につけ込むのはちょっと申し訳ないかも……)
ローザリンデの記憶によると彼は未婚のままで、実家の遠縁の親戚の子どもを養子に迎えて伯爵家の後継者として育てているらしい。
その後継者がもうすぐで当主になると聞いた。
どう考えても、ローザリンデ以外の女性と結婚する気がないからそうしたのだろう。
一途なインガルズへの後ろめたさはあるが、私は決心して話を進めた。
「本当に久しぶりね。急な連絡にもかかわらず、すぐに話の場を設けてくれてありがとう。実は先日体調を崩してから、色々と考えたのよ。もしも明日にでも私の身になにかあったら、誰が孫娘のリズベットを守るのだろうと思って……。あの子が身勝手な大人の陰謀に巻き込まれてしまうのではないかと思うと、気が気でないわ」
「ローザリンデ……。君は、あの子に君が経験したような苦労をさせたくないから悩んでいるんだね」
インガルズは昔のローザリンデを思い出したのか、水色の瞳を潤ませる。同情を誘う作戦が成功したようだ。
「騎士団長だから話を聞いているだろうけど、アルテンブルク辺境伯家は私の実家だったラングハイン伯爵家の内通者のせいで多くの親族を失ったわ。先日の一件で内通者を一掃できたと思うのだけど、やっぱり不安で……」
「ああ、ちょうど遠征に出ていた頃だったから、戻った時に部下たちから聞いたよ。本当に酷い事件だった。君を辺境伯領に追いやったラングハイン伯爵家の連中が君の結婚後も苦しめていたなんて、怒りでどうにかなりそうだった」
インガルズは拳を握る。怒りのまま握っているのか、ギリギリと変な音が聞こえてきて少し焦った。
「え、ええと、そんなことがあったから、あなたに孫娘の後見人になってほしいの。あなたは私の知る人の中で一番信頼ができるし、あの子を守ってくれると思ったから――」
「わかった。私が引き受けよう。それにもしものことを考えて私の息子にも後見人になってもらうよ。息子は責任感があるし私よりも強い。きっとリズベット嬢の力になるだろう。リズベット嬢が成人した後も、なにかあれば我々が駆けつける」
「……っ、ありがとう」
あまりにもインガルズがいい人過ぎて、私は感極まって涙を浮かべてしまう。
息子にまで話を通してくれるなんて、そしてリズベットが成人してからも守ってくれると約束してくれるなんて、いい人を通り越してもはや天使なのかもしれない。
そんなインガルズをの好意を利用することにまた後ろめたさを感じた私は、心の中でインガルズに謝罪した。
私の内心を知らないインガルズは、私の涙を見るなりジャケットからハンカチを取り出してそっと拭ってくれた。
インガルズの紳士っぷりに、私の中の彼への好感度が瞬く間に上がるのだった。
◇
インガルズを見送った私は次の手立てを考えるために執務室へ向かう。
計画が上手く進んだ喜びから、頬がだらしなく緩んでしまう。
ローザリンデはそんな顔をしないから気をつけなけれなならないのに、リズベットの明るい未来がまた一歩近づいたと思うと喜びを隠せない。
「大奥様、そのように歩きながらふざけて変顔をなさってはいけません。前方不注意で転んでしまいますよ」
背後からついてくるエドゼルが、冷え切った声で注意してくる。それも、まるで子どもを叱るような内容だったから、私はひっくり返りそうになった。
「ふ、ふざけてないわ。それに、ちゃんと前を見て歩いているわよ」
私は振り返って抗議する。
エドゼルは三歩離れてついて来ているとばかり思っていたが、以外にも私のすぐ背後にいて驚いた。
私が後退ると、エドゼルが離れた距離を詰める。
「ねえ、アヤカ。どうしたら私のものになってくれますか?」
エドゼルは赤い瞳をとろりと蕩けさせて私に妖艶な笑みを向ける。
その赤い瞳に不穏な影が差しているように見えてしまい、私は思わず後ずさった。
背中に壁が当たり、これ以上は逃げられない。
「は、離れなさい。いきなり何を言い出すの? それに、どうしていきなりその名前で呼ぶの?」
「あなたが私以外の男を頼ったから嫉妬しているのですよ。なにもかも私に命令すればいいものを、あろうことかその体の元の持ち主に懸想していた男に頼ろうとするなんて、どれだけ私の神経を逆なですれば気が済むのです?」
「それは、騎士団長を務めるインガルズならあの子を守れるから――」
言いかけた言葉は、エドゼルが人差し指で私の唇に振れたせいで途切れた。
「その名前を口にしないでください。次に言ったらあの男の家を没落させますよ?」
「……そっちが聞いてきたくせに」
あまりにも悪魔らしい身勝手さに呆れて、私も思わず素で返してしまった。ついでに溜息を添える。
どうやら私は、頼られたがりのエドゼルを無視したから彼に嫉妬させてしまったらしい。
(魂を対価にされるとわかっていて頼むわけないじゃない!)
私がじっとりとエドゼルを睨むと、エドゼルもまた赤い瞳で私を見つめていた。
いつの間にか瞳孔が縦に裂けており、悪魔らしい見た目になっている。
「アヤカ、私に頼みごとをしなくてもいいですから、少しは私の言う事を聞いてください。私以外の男に会ってはなりません」
「嫌だね。悪魔の言う事を聞いたっていいことないもん。それに、執事たちと顔を合わせて話さないと把握できないこともあんだから」
「ああ、私の思い通りにできないなんて腹立たしい。……ですが、あなたのそのような反抗的な態度がたまらなく魅力的で困ってしまいます」
咎めるような口調だが、なぜか赤い目を恍惚とさせて嬉しそうだ。
「……特異な嗜好があることをカミングアウトしないでくれる? 反応に困るんだけど?」
「ふふっ、私にドン引きする姿もたまらないですね。もっといろんな表情を見せてください。あなたのことを知りたいのです」
「めんどくさそうだから、早く私に飽きてよ」
「あいにくですが、この先も永遠にあなたを飽きることはないでしょう」
エドゼルは確信めいたように言い返すのだった。
◇
その後も私はリズベットが幸せになるよう奔走した。
エドゼルはいつの間にか無償で協力してくれるようになった。
悪魔にタダ働きさせるなんてと、文句を零しながらも嬉しそうに。
私が男性と話すと決まって威圧のこもった眼差しを相手に向けて威嚇するのは困りものだったけど、それ以外は善き協力者としてそばにいてくれた。
概ね平和に過ごしていたが、予期せぬ事態が起こることもあった。
「おばあ様、私、魔導士になります」
「ええ~っ?!」
リズベットは祖父や父親のように領民たちのために戦いたいと言い出し、私は気絶しかけた。
後でエドゼルから聞いた話によると、白目を剥いていて貴婦人らしからぬ表情だったらしい。
私はリズベットが傷つくなんて嫌だから止めるよう説得したけれど、それでもリズベットは考えを曲げなかった。
「一度きりの人生だから、リズベットが望む道を歩んでほしいわ。……だけど、討伐に行くときは絶対に、無事に帰ってきてね?」
結局私は折れて、リズベットは魔導士となる。
リズベットが魔物討伐に行く度に、私は彼女の無事を祈った。
そうして私がローザリンデに転生して八年後のある日。
リズベットは討伐先でヒーローであるライナートと出会い、二人は一瞬で恋に落ちた。
ライナート本人から聞いた話だと、彼はリズベットが魔物と戦う姿が美しくて心を奪われたらしい。
リズベットはというと、ライナートが颯爽と現れて助けてくれた瞬間に好きになったそうだ。
そこからトントン拍子で二人は婚約者になり――そしてリズベットがニ十歳になるとすぐに結婚した。
リズベットとライナートが結婚して半年後、私は眠くなることが多く、一日の大半を眠って過ごすようになった。
今日も温室にあるロッキングチェアーに揺られてうとうととしていると、エドゼルが顔を覗き込んできた。
「エドゼル……どうしたの?」
出会ってから十年以上経ったエドゼルは更に大人の色気を醸し出すようになって使用人たちからも令嬢たちからも人気があると聞いている。
「あなたの命は、今夜で尽きてしまいます」
「ふ~ん、そうなんだ。十四年も生きたんだね。エドゼルの見積もりよりうんと長生きしたなぁ」
「……あなたがリズベットの結婚式を見たいと言ったから、私ができる限りの手を尽くしたのですよ。あなたの願いを叶えるために」
「そうだね。エドゼルはなんだかんだ言って、対価も要求しないで私のために色んなことをしてくれたよね。本当に、ありがとう」
「――っ」
エドゼルは端正な顔をくしゃりと歪ませると、膝を床に突いて私の手をとる。
「この世界に未練はありませんか? 私ならあなたを若返らせることもできます」
「特にないよ。リズベットが幸せになるようたくさん手を回したし、もう思い残すことはないからね」
「……私は、未練ばかりです」
エドゼルは頬を膨らませる。拗ねているのだ。
以前、リズベットがそうしている姿が可愛らしいと言って以来、エドゼルは私に抗議する時に頬を膨らませるようになった。
いつも澄ました表情の彼が子どもみたいなことをするものだから、その度に私は笑ってしまう。
今もくすくすと笑ってしまうと、エドゼルは私の手の甲を優しく撫でた。
「未練って何?」
「あなたを私のものにできなかったことが最大の未練ですよ」
「はあ、どうして私にこだわるのだか……ああ、そうか。転生者の魂は珍しいもんね?」
「……初めはそうだったかもしれません。だけど今は、あなただからどうしても手に入れたいのです」
真摯な眼差しでそう言われると、私の心臓が跳ねた。
年寄りの心臓に悪いことをしないでほしい。
エドゼルはその滑らかで綺麗な頬に当てた。
「あなたが初めてだったのです。復讐も欲望も持っておらず、悪魔の私を利用しようとも思わず、私に唆されることなく向き合い続けてくれるのは。私にとって、あなたはかけがえのない存在なのです」
「まるで告白みたい……」
「告白しているのですよ。こんなにもわかりやすく私の想いを伝えてきたというのに――ああ、私はどうしてこんなにも情緒のない者を愛してしまったのでしょう?」
エドゼルはそっと溜息をつくと、私の手のひらにキスをした。
「私は諦めませんよ。次こそ絶対にあなたを私のものにします。今度会った時は、返事を聞かせてください」
エドゼルは私を抱き上げると、寝室に運んだ。
その夜、私はリズベットとライナートと使用人のみんなに見守られながら、眠るように息を引き取った。
意識が途切れる直前、耳元でエドゼルが『またすぐにお会いましょう』と囁く声が聞こえる。
悪魔の声なのに、私は安心して意識を手放すのだった。
私は自分が思っているよりもずっと、なによりもエドゼルを信頼していたのかもしれない。
◇
綺麗な花が咲く庭園で、私は花環を作る手を止めて空を見上げた。
視界の端には私の金色の髪がふわりと風になびいている。
今世の私は、金色の髪と紫色の瞳を持つ美少女だ。
意識が途切れた後、私は伯爵令嬢に生まれ変わっていた。
今の年齢は五歳。
私はなぜか、前世の記憶とローザリンデとして生きていた時の記憶も持ったまま赤ちゃんになっており、そこからすくすくと成長した。
どうやら私が死んですぐに生まれ変わったようで、リズベットと彼女の婿が第一子を授かったという話を揺りかごの中で聞いた。
リズベットが幸せに暮らしていると知って安心した私は、今の人生を楽しむ事にした。
優しい両親に愛されて楽しい生活を送っているのだけど――どことなく寂しい。
今日は今世の両親の友人一家が訪ねてくるらしく、屋敷中が慌ただしいから私は外で遊んでいる。
「エドゼル、どうしているのかな?」
生まれ変わってから何度も、エドゼルの告白を思い出していた。
そして彼が悪魔に似合わず献身的に私のために協力してくれていたことも。
意地悪を言ってきたり、自分勝手なことを言ってくることもあったけど、私を傷つけたりはしなかった。
何度も何度も彼の告白の言葉を思い出しては、確信する。
「――私も、エドゼルのことが好きなのね」
心の中に隠していた想いを口にした途端、ほろりと涙が零れる。
自覚したときには会えなくなるなんて、あんまりではないか。
(今度会った時は返事を聞かせてほしいと言ったくせに、会いに来ないじゃない)
ドレスの袖でごしごしと目元を拭いていると、誰かがそっと私の手に振れた。
見上げると、やや長めの黒い髪と赤い瞳を持つ、恐ろしく顔立ちの整った少年が私を見下ろしている。
「アヤカ、ダメですよ。目が腫れてしまいます」
「どうしてその名前を……」
今の人生の私の名前はアヤカではない。それなのに敢えて私をそう呼ぶ人物は――一人しかいない。
「まさか、……エドゼルなの?」
私がジロリと睨むと、美少年――エドゼルは嬉しそうに頬を緩ませる。
「ええ、そうです。時間がかかりましたが、今度は心置きなくあなたのそばにいれるよう準備をして遅くなりました」
エドゼルの話によると、今の彼は私より二つ年上の七歳で侯爵家の跡取り。
どんな手を使って侯爵家の令息になったのか問い詰めたところ、侯爵夫妻やその周りの人たちの記憶を少し弄ったらしい。
エドゼルの両親は私の今世の両親の友人らしく、今日は両親についてきたらしい。
「お父様とお母様の友人一家って、エドゼルの家族のことだったんだ……。悪魔が侯爵家の次期当主なんて、この先が不安だわ。だけど、また会えてよかった……!」
私はエドゼルを抱きしめる。エドゼルは咄嗟にもかかわらず抱き止めてくれた。
「ずっと返事を言いたかった。私もエドゼルのことが好き。あれからエドゼルがいない毎日が、とても寂しかった」
「……っ!」
エドゼルが目を大きく見開く。しかしすぐに赤い瞳を蕩けさせて、私の頬にキスをした。
「アヤカがいる世界は平和にするので安心してください。絶対に幸せにしますし――よそ見できないくらい愛しますので覚悟してくださいね?」
「ええっ?!」
驚く私に、エドゼルはにっこりと美しく微笑むと、私の手を握って両親たちのもとへ向かった。
エドゼルは両親たちに向かって、私と結婚すると宣言した。
両親たちは私とエドゼルの仲が良いからちょうどいいと思ったのか、その場で私たちの婚約を決めてしまった。
婚約者になったエドゼルは宣言通り、あらゆる手を使って休む暇なく私を溺愛してきた。結婚して夫になってからも、ずっと。
その後、私が何度生まれ変わっても、私の隣には常にこの悪魔がいて、私の夫になるのだった。
(結)
初めまして!最後までお読みいただきありがとうございます。
ヒロインに翻弄されるイケメンが好きすぎて書きましたので、お楽しみいただけましたらとても嬉しいです!