銀河騎士隆盛記 零 天の章 31~32 ベルセラと譲り刃
ベルセラと譲り刃
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「分かりました先生。でも是非、この技のことを教えてください。」譲り刃を実際に目にした以上、どうしても引き下がることのできないベルセラだった。
「この技は『譲り刃』という。相手の虚をつく奇策の一つだ。」
「1000年前から伝わるコッポの技の一つで、一つ目の極意は、左手を突き出し、相手の剣との間合いを葉一重の際まで突き詰める。これを『見切り』と言う。」
「二つ目の極意は、すべの動きを途切れなく、岩に滴る水の流れのように密かに緩やかに動くこと。それで相手の虚を突く。」
「そして三つ目の極意は、打ち込みの刹那の、稲光のような迅速な出足。これは、柔と剛を兼ね備えた大技だ。」カンデンはそこで言葉を区切った。ベルセラは真剣な面持ちでカンデンの言葉を待った。
「理論的に語るとそうなる。だが実際に身に着けるためには、遠くに見える高い峰を、足元から、一歩、一歩、歩いて上りつめないと、辿り着けないくらい難しい技だ。私もその高い峰を上っている途中だよ。まだ三合目くらいだと思う。」そう言って、カンデンは遠くを見るような目をした。
「それから技を実演してみて初めて理解したことだが、この技の動きの、どの瞬間に相手が打ち込んできても、相手の剣を受けるか、かかわすか、剣を打ち込むか、『万』の対応が出来ないと、ただの間抜けな型だけになってしまう。だからこそ、基本が身についてないと意味がないのだ。」とカンデンは言葉を続けた。
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「酵母が葡萄酒を醸すように、醸してゆくことで初めて熟成してゆく技だ。そして熟成には果てがないように、突き詰めて行くと果てのない厄介な技でもある。」
カンデンの言葉を聞いたベルセラは、泣きたいような気持ちになった。それは決して手の届かない相手に、片思いをしているような気持ちだった。それほどまでにベルセラにとって「譲り刃」は超絶的な技だった。
だが、カンデンの「譲り刃」を初めて目にした時に感じた「本物だあーっ。」という、ときめいた気持ちが、また、同時に湧き上がってきた。
目の前のこの人は本物の剣士だ。そして、このような師に恵まれた幸運に、心の中で歓喜したベルセラであった。最初にカンデンが見せた、気が弱そうなくらいに見える温和な雰囲気は、あくまでこの人の一面で、実は図ることが出来ないくらいの、懐の深さをもつ人物であることをベルセラは理解した。
同輩の兄弟弟子たちから、三流の騎士の元へおもむいて、辺境巡りの羽目にあう、とんだ貧乏くじをひいたなと言われ、少しばかり気落ちしていたのは事実だが、ベルセラにとって、この幸運は思いがけない分、その喜びは大きかった。




