銀河騎士隆盛記 零 地の章 1~10 カンデン、ラケアに会う
銀河騎士隆盛記 零 地の章
カンデン、ラケアに会う
1
一行は拡大する次元断層の空間振動に巻き込まれ、銀河最辺境のありふれた規模の、ヒノ恒星系(*1)の第三惑星アスラ(*2)の、大海に浮かぶ、一番、大きな大陸のさらに東にある群島ザパン(*3)沿岸に不時着した。
なんとか船から脱出はしたもの、超空間航行と通常航行に必要なエネルギーの変換に使用される、人口水晶の結晶が損壊してしまい、超空間通信は途絶し、銀河連邦圏内の惑星に連絡もできなくなり、非常電源以外の電力を失ってしまった。
カンデンら一行は、最小の荷物と携帯できる水と食料だけを持ち、あてもなく海岸から、森に入ったものの、地図もない未開の惑星でさまよう羽目になる。
森に入って三日で水は尽き、一行が立往生していると、そこに,黒い瞳の、褐色の肌をした十五歳くらいの少年があらわれた。彼は、大きな樹の枝に立って、一行を見下ろしていた。
これは余談だが、この時、キンタはファクトリー(銀河連邦公社*4)製のコーヒーが入ったアルミ缶を10本くらい内緒で、自分が背負ったバッグに入れていたのだが、それを言い出す機会を失っていたのである。彼としてはいよいよという時がきて、師であるカンデンが、渇きを覚えたら、それを差し出す気ではあったということだ。
2
ガンデンはPE57Qを介して少年とコンタクトをとろうと試みたところ、幸いなことに、PE57Qの翻訳機能はこの星でも有効で、少年の話す言葉は、銀河連邦のライブラリーには未登録でありながら何とか翻訳が可能だった。少年は自らを東の民と呼び、狩人のラケア(*5)だと名乗った。
ラケアは麻のような、荒い植物の繊維で出来た、口が広い半袖が付いた、前合わせの、肩から腰くらいまでを覆う、灰色の衣服を着て、胴に細い帯を巻きつけ前で結んでいた。胸の高さで色違いの二本の黒い筋の模様が見えた。
彼は皮を縫い合わせて作った袋を、腰の帯に革ひもで、くくりつけて、肩に蔓を編んで作った細長い籠をかけていた。籠の中に、風切り羽のついた矢が数本残っていた。彼の言うところによると、東北に向かって三日も歩くと、東の民が住まう最も大きなコミューン、サンマナ(*6)があるという。ラケアに案内を頼むと、彼はそれを了承してくれた。
カンデン一行は野営しながら東北に向かうことにした。ブルーノーズの修理に、大型のクリスタルがどうしても必要だった。サンマナまで行けば、それは手に入るかもしれないとのことだった。
*1ヒノ恒星系
古代太陽系。
*2アスラ
古代地球。
*3ザパン
古代日本列島。
*4ファクトリー(銀河連邦公社)
銀河連邦内のあらゆる工業製品、耐久消費製品、食品、飲料、衣料などを生産、流通、している超巨大総合複合企業。
*5ラケア
東の民の狩人の少年。豊富な知識と、優れた身体能力を有し、知恵の狩人という二つ名を持つ。縄文系、瞳は黒、髪は黒、身長1,5メルト。
*6サンマナ
東の民の住む地域の中で一番大きなコミュニティ。500人くらいの住民が共同生活をしている。
コムロとカチムシ
3
ラケアは虫と、意思を交わしたり、助けをかりたりする、不思議な能力があるだけではなく、狼や熊の接近を回避したり、森の中で木の果実や、その他の食用植物や、キノコを集めたり、清水の匂い(清水に匂いがあるのではなく、水際に生えるミズギワセリなどの植物の匂い)をを嗅ぎ分けて、水場を確保したり、キーウ(真弓の木を削って作った弓に漆を塗ったもの)を使って、黒曜石の矢じりのついた矢で鴨を狩り、日没前に火をおこし、カンデン一行を助けた。
少年ラケアは驚くべき身体能力を持っており、カンデンは彼の知識と能力に舌を巻いた。彼の能力がなかったら、カンデン一行は森で迷って文字どおり死んでいた処だった。
サンマナへの旅も終盤に差し掛かった時、ラケアが、近くの水場に、瓢箪に水を汲むと言って一行の元を離れた時、森の中に、突然、二メルト(長さの単位。1メルトがほぼ1メートル。)を超えるような大きさのヒグマが現れた。
4
カチムシ(蜻蛉、とんぼの古名。*1)が自分の前で、三度も後退して見せたのを見てとって、コムロは、これはラケアが遣わしたものだと悟った。
嫌な予感がしたコムロ(*2)が、カチムシ(蜻蛉、とんぼ)の後を追ったところ、見たことのない風貌の、中年の男と、黒い肌をした若い男と、銀色に光る五体をした男(PE57Q)が、大きなヒグマの前で、固まっているところに出くわした。
コムロは樫のトーウ(*3)を青眼(*4)に構えて、ヒグマの前に立はだかっ
た。
ヒグマは両手をあげてコムロに打ちかかろうとした時、黒い肌をした男が銀色に光る棒を構えて、その棒から金色の光の束がビシュ―と音をたてて伸びたと思ったら、振り下ろされたヒグマの右の前足を切断してしまった。それは光の束が刃の剣のようだった。
コムロが「やめろ。」と叫んで、黒い肌をした若者を止めようとしたが、男は遠慮なくヒグマの左前足を切り飛ばした。
止める暇もなく当然のようにヒグマの心臓を、光線の剣で貫いて、とどめをさして、勝ち誇った顔をしたのを見て、コムロは「なんで殺すんだ。」と叫んでいた。
男は激高したコムロの勢いに腰を抜かして、尻餅をついてしまった。
*1カチムシ(蜻蛉、とんぼの古名。)
とんぼの古名。カチムシは強気な性格で、本来なら絶対に後退しない。ラケアを含めた東の民の一部の人々は、カチムシと稀に感応して、使役(正確にはお願いをして、協力してもらう。)することが可能である。後退する場合は、伝達したいことがある時だけである。
*2コムロ
東の民の中のコミュニティや来訪者の護衛を担う戦士。古の剣技コッポの使い手。その技は超絶的で、天才の二つ名を持つ。縄文系、瞳は黒、髪は黒、身長は1,7メルト。
*3トーウ
コッポに伝わる素振り用の樫の直剣。立ち合い稽古用の竹の幹を割って、薄く削って四枚、組み合わせて、動物の皮を巻いて漆を塗つたもののこともトーウと呼ぶ。
*4青眼
コッポに伝わる木剣の基本の型、肩幅に足を開き、木剣の切っ先を目の高さに合わせる型のこと。
キンタの武骨
5
コムロを助けたつもりだったキンタは、師の前で恥をかかされたと感じて、激情にかられるまま、カンデンの制止を無視し、抜き身の光線剣を構え、コムロに対峙した。
コムロは手にしていた樫の木剣、トーウを青眼に構え、キンタは手首を返して光線剣を素早く一回転させたが、一分の隙もないコムロに打ち込みかねて、もう一度、光線剣を素早く回転させようとした瞬間、ブンと音を立てて、コムロのトーウの一閃は、キンタの手首に飛び、光線剣を打ち飛ばした。
コムロは間髪入れず、キンタの喉にトーウの切っ先を突きつけた。コムロの眼光と気迫を前に、キンタは身動きひとつ出来なかった。
コムロは喉に突きつけていたトーウを収め。強い口調で何かをキンタに告げた。PE57Qによると「食わないなら殺すな。」と言ったとのことだった。
キンタは悔し涙を浮かべた。未開の惑星の原住民に、師の前で、決定的な敗北をつきつけられ、打ちのめされていた。キンタは飛ばされた騎士の誇り、光線剣を拾うことも出来ず、うなだれていた。
ガンデンはあえて彼に言葉はかけなかった。だがカンデンはこの直情的だが、純情な若者に武骨があることに喜びを感じていたのだ。
カンデンはコムロの前に立ちPE57Qを介して弟子の非礼を詫びて会釈をすると、コムロもそれに呼応して頭をたれた。カンデンは光線剣を拾って光の刃を収めるように彼に告げた。彼は釈然としない顔をしていたが、師の言葉に従った。
PE57Qによると、この東の民の言葉は、五つの母音を母体とした言語で、子音との組み合わせの48音により構成され、銀河連邦のどの言語には相当するものがない特殊な言語だが、彼が内蔵している翻訳回路の基本原理に最も忠実な波長を有しているということで、翻訳しやすい言語だということだ。
戦士コムロ
6
戻ってきたラケアは当然のように淡々とした様子で、コムロと共に黒曜石を砕いて作ったと思われる石刀を手に、手際よく熊を解体し、肉と内臓と毛皮に分け、コムロとラケアは肉と内臓を土に埋め、コムロは樹の幹に預けていた木の背負子に熊の毛皮と、切り取った四肢を縛り付けて、一行はサンマナに向かった。ラケアによるとサンマナまで徒歩で後、半日ほどとのことだった。
この地にはまだ金属器を作る技術はもたらされていないようだ。しかしその文化は原始的で未開であると断じることは出来ないとカンデンは思った。しかもコムロが振るった剣技は、銀河騎士である自分にとっても、畏怖を感じさせるほどの、恐るべきものだった。
7
カンデンは道すがらラケアにコムロの人となりを聞いてみた。彼はサンマナの族長に連なる親族の一人。訪問者の護衛を担う戦士で、占い師のヨナ(女性のパートナーのことを東の民は、ヨナと言うらしい。)がおり、子供はいないそうだ。
コムロは東の民に古来から伝わる剣技、コッポの使い手で、戦士は、樫の木剣トーウを使い、大型の熊を打ち、気絶させたり、狼を薙ぎ払ったりするらしい。
追い払うだけで、殺したりするのは、この東の民のおきてで禁止されており、狼も熊も集落に子供が一人生まれたら、狩人が雄をそれぞれ一頭づつ狩る。基本的に雌の個体や子の個体は狩らないそうだ。
取った毛皮は子供が眠る、ゆりかごの敷物にして、その後、それを地面に座るときや、寝るときの敷物にして死をむかえるまで使い。持ち主が亡くなると、北の民のために交易に出したり、訪問者を迎えるときに貸し出したりするそうだ。
ラケアによると、コムロよりも強い老齢のコッポの師が何人か居り、老齢の師同士で立ち会う場合、半日くらいの間、間合いをとったまま、勝敗の決まらないことがよくあり、そういう立ち会いのときは、互いに激しく打ち合うことは珍しく、一瞬で、僅差で勝敗が決まることが、ほとんどだそうだ。
その話を聞いた時、カンデンは自分が銀河騎士としてその域に達しているかと問われれば、彼としては否としか、答えようがない。そのような達人同士の立ち会いを、是非、剣を生業とする者の一人として、見てみたいと思ったのだった。そして自分もそういう域にある達人と、立ち会って見たいと思うのだった。
サンマナに着く
8
そうこうしているうちに道が平坦になり、樹の間隔が広くなり、樹の蔭の間から、六本柱の柱が組み合わさっている矢倉が見え。その上に立っている人が見えた。ラケアが携えているキーウ(弓)より、一回り大きなキーウ(弓)を持っていた。
さらに進むと、かなり広い空き地が広がってる。サンマナのコミューンに着いたようだ。
十人家族でも住めるような規模の楕円形をした、木と植物の枝のようなもので作られた楕円形をした建物が、幾つも円状に並び、その真ん中にその十倍はくらいの規模の横長い楕円形をした大きな建物があり、高さは小さいほうの建物の倍くらいあった。
また床が高い四角い建物が別に五棟あり、カンデンは食料の倉庫ではないかと当たりをつけた。
日ぐれにはまだ早い様子だったが、中央の大きな建物の前に、漆を塗った大きな土器の壺が五個、それぞれ焚火に生けられており、その周りには、たくさんの女たちが壺の番をしている様で、その周りに女の子が沢山いた。
男たちは、各々、棚を組み、開いた魚を干したり、シカや、イノシシや、熊の肉を燻したりしている。そのまわりで座り込んで、話しているものもいる。カンデンが見たところ五百人くらいの人々が共同で集まって暮らしている様子だ。
男の子たちが嬉々としながら遊びまわっている。そこにいる人々には快活な笑顔が溢れていた。
9
この地の森にはたくさんの動物が生息しており、野生の鳥が群れをなして飛び、獲物に事欠くことがないだろうことは予想がついた。森に自生している、野イチゴなどの果実や、栗や栃の実、豊富なキノコ類、複数の種類の魚や貝の干物があることを見ても、食料は豊富なようだ。
この三日の旅の間に、ラケアが集めてくる食料の数々に、普段は銀河騎士として禁欲的な生活をしているカンデンとキンタは、思わぬ口舌の至福を味わったのだった。
樫のトーウを肩に担いで、先頭を黙々と歩いていたコムロは、集落の中に差し掛かると、一行の歩みを手で制止し、そこで待つように一行に告げると、広場の中心の大きな建物の中に入っていった。
一行がしばらく待っていると、コムロが小柄だががっしりした体つきをし、白いひげをたくわえた壮年の男性を伴って、歩いて来るのが見えた。コムロはその男性のことを族長のダイであるとカンデン一行に告げた。
10
族長はカンデンに柔和な笑顔を見せ、「どちらから来られた民であらせられるか。」と問うた。カンデンはジンウを働かせてみたが、ダイに悪意や底意がまるで感じられなかったので、率直にPE57Qを介して銀河連邦から辺境の星の調査にきて、星間航行船が故障し、船を直すために、大きな水晶の結晶が必要なことを族長に伝えた。
「カネノカタ(PE57Qのことらしい)の話では、アマーノノカワ(銀河星雲)のレンポウという地とから星を渡る船に乗って来られた、星の民ということですが、間違いないですかな。」
族長は困惑した顔をして「アイーニ、水晶は南方の民からもたらされたモノがありましたが、北の民にとのアキーで使ってしまったので、今は手元にありませんな。」
ダイは気の毒そうな顔をし続ける。「まあ気長に待てばまた南方の民からもたらされるやもしれません。彼の地へ使者を遣わせましょう。とにかく我々、東の民は、あなたがた星の民を歓迎いたします。」
ダイの顔に笑顔が戻った。カンデンは族長の前でお礼の言葉を述べた。




