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偽装婚約の契約⑥

「無理よ。そんな面倒なのは絶対に嫌だから」


「頼むっ! 俺をつけ狙う令嬢たちの罠が年々巧妙になってきて、このままでは身が持たない」


「そんなこと……私には関係ないでしょう」


「俺とお前の仲だろう。こんなことを頼めるのは、お前しかいないんだ。協力して欲しい」


「協力って言われても」


「今日のパーティーで、俺には婚約者ができたことを社交界全体に拡散したいんだ! 頼むっ」


「レオナールは良くても、私がレオナールの婚約者のふりなんかして、婚約解消されたら……お嫁にいく先が見つからないじゃない」


「それは大丈夫だ。お前が結婚できるまで……俺がちゃんと責任をとるから」


 必死に拝んでくる彼は、随分と真面目な口調で発した。


「そうねぇ~」と言いながら、今一度考える。


 このまま見向きもされない社交場に参加し続けるよりも、公爵家の後ろ盾があれば、案外私の恋も叶うかもしれない。


 それに、私に婚約者がいるとなれば、両親が怪しい縁談をまとめてくることもない。


 結婚相手を探そうと奮闘し始め、早いもので苦節二年。

 ここまでくれば、戦法を変えるのも一つの手かもしれないわね、と頷く。


 にんまりと笑みが零れたが、冷静さを取り戻し現実に気づく。


 おっと危ない。


 危うく乗せられそうになったけれど、『婚約解消の経験あり』は、あまりにもリスクが高い。


 恋が適うどころか、次のお相手が見つかりっこない。


「やっぱりデメリットしかないわね」


「そう言うなら、メリットを与えてやろう」


「は? 何よ、偉そうに」


「俺が、お前の結婚持参金と結婚式の費用を全て用意してやる。相手が誰であろうと、お前の理想の結婚式に金を使えるし、結婚持参金は、お前の言い値で構わない。どうだ!」


 なんと! この婚約者のふりに付き合えば、報奨金が付くようだ。


 しかも言い値とは、相当な太っ腹だ!


 貧乏子爵家の痛い所を衝いてくるレオナールだが、渡りに船である。


「その話に乗ったわ! 私が結婚できるまで、ちゃんと責任とってよね、約束よ」


「もちろん」

 と言った彼が悪い顔で笑う。


 今ここに、互いの利害関係が一致した、『一日だけの偽りの婚約』が成立した。


 すると彼は私を見て、パーティーのために予行練習を始めた。


「俺が贈ったドレス……凄く似合っているな。これ以上ないくらい好きだと思っていたのに、また一段と惚れてしまった」


「──。ねぇ、私もレオナールの猿芝居に付き合わなきゃならないの?」


「は? 猿芝居って……」

 彼が天を仰いだ。


 私から嘘くさい台詞を嘲笑われたためだろう。よく見れば、レオナールの顔が紅潮していた。


 なにもそこまでして、円満な婚約者のふりをしなくてもいいと思うけれど……。


「別に世間にはレオナールが婚約したのが分かればいいんだし、無理にイチャイチャする必要はないわよ」


「いいや! 何事も形から入るのは大事だからな。お前も俺のことを、『好きだ』と言ってみろよ。その気になってくるかもしれないし」


 それを言ったレオナールが、拗ねるように口を尖らす。

 不服があるようだが、物申したい感情は私も同じだ。


「あのねぇ、レオナールは見たことがある? そんなバカップル? 仮にも婚約カップルがパーティーで、『好き好き愛してる』って人前で言い合っていたら、気持ち悪くて引くわよ」


「気持ち悪いって……」


「誰かの前であえて言う必要はないんだし、そんな言葉は私たちに一生必要ないでしょう」


「一生必要ないって……」


 偽りの婚約関係は、他人の前だけで十分である。いわばその時間だけ取り繕えば何とかなる!


 正論をぶちまければ、彼は目元を手で覆い、私から顔を背けた。


お読みいただきありがとうございます!


真に受けてくれないエメリーと、必死なレオナールの回でした。


読者様の応援で、作者に癒しをお届けください……。

ブックマーク登録と★、お待ちしております!!

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