正体
1
桜田門を失い、公安組織すら存続していない橋爪、木次は、震災以降もほぼ独断で捜査を続けていた。やめることもできたが、そこは公安としての意地もある。なんとしても、外的から日本を守ることが、自分たちの使命だと思っていた。
北朝鮮の工作員も、今回の震災被害で相当数が被害を受けたはずだが、拉致犯やその後の工作員は、そのまま新潟に潜伏しており、まだ活動を続けているようだった。橋爪たちはその後の彼らの足取りを追っていた。
柏崎中古車買取センターの裏の顔は間違いなく、北朝鮮の隠れ蓑となっており、会社そのものが何時のころからか、やつらに乗っ取られていたようだ。現在は登記上の人間は姿形もないことがわかった。
地域の聞き込みでも、企業としての活動実績があまりなく、会社として動いていた形跡はなかった。当然、そこにいた人間についての印象も不明だった。
ただ、まったく活動していないということでもなく、人の出入りはあったようで、ここを根城としていたことは間違いがない。さて、ここにいた人間はどこにいってしまったのだろうか。捜査を続けるが一向に手掛かりは見つからなかった。
今日も現地で聞き込みを続けていた。
そんな時に、橋爪に電話がかかる。この状況で橋爪に電話とは珍しい。木次が様子をうかがう。しばらく話をして橋爪が電話を切った。
木次が聞く。「誰からだ?」
「伊瀬知ですよ。あいつ、どこから情報を仕入れているんだか、諜報員の居場所を教えてくれましたよ」
木次が驚く。
「まじか。そいつはすごいな。どうやってそれを突き止めたんだ。まあ、いいか。で、どこにいるって?」
「船を待ってるそうです。先の銃撃戦で亡くなった同志を、本国に送り返すそうです。場所は鯨波港です」
鯨波港は柏崎にある小さな漁港である。
「堂々と漁港から出ていくのか?」
「ええ、漁船を使っての偽装工作です」
「よし、行ってみよう」
「はい」
二人は鯨波港に向かう。
2
臨時政府の閣僚および各省庁の幹部が合同庁舎大会議室集まり、何回目かのナマズ対策会議が行われていた。対策チームのリーダーである清水統括官がそれを仕切っている。
各省庁の大臣たちも、すべてが補填されていない状態での会議ではあるが、ナマズ対応が何よりも優先とのことで、代表者をかき集めての開催となっていた。総勢で50名以上の会議である。
清水統括官が口火を切る。
「それでは、ナマズの対策会議を行います。まずは林総理からお言葉をいただきます」
林は64歳、政治家としては、まだ無理が利く歳ではあるが、さすがにこのところ満足に眠ることができていない。顔には疲労が色濃く刻まれていた。のどに詰まった痰を切りながら話しだす。
「みなさん、お忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。先ほど、ナマズを探査された大森博士以下、関係者から現状報告をしていただきました。この情報を関係者間で共有し、なんとか対策を練っていただきたいと思っております。今現在、まったく予断の許さない状況であることだけは確かです。それではよろしくお願いします」
林がふらふらと着席し、清水が会議を進める。
「それでは、対策チームの顧問であります大森博士から報告をお願いします」
大森が報告を始める。会議場にある大型スクリーンに画像が投影される。
「それでは画面を見ながら報告させていただきます。まずはこれが現在のナマズの様子です」
澱んだ海底にナマズが沈んでいるのがわかる。巨大な楕円体の形状にはいささかの変化もない。以前と異なるのは、全体が発光しており、それが呼吸をするかのように強くなったり弱くなったりしている。そして今は緑がかっている。
出席者の中には初めてナマズを見るものもいるので、一様にその不気味さに驚いていた。
「これは探査機から送られてきた最新の映像です。ナマズが発光しているのがわかると思います。そして色が変わってきています。この理由は、エネルギーの蓄積量が変化しているからです。最初に発見したときはオレンジ色でした。それが徐々に変色し、今現在は緑色で最終的には紫色になるものと考えます。そして、そうなったときに再起動の可能性が高いと考えています」
林総理が質問する。
「大森博士、再起動とはあのダークマターを発生させるということだな」
「そうです。そしてその規模は、前回の数百倍になると考えます」
会議参加者が驚嘆のうめき声を発する。ざわめきが続く中、大森は続ける。
「そうなると、残念ながら地球は消失します」
一同が悲鳴に近い声を上げる。ざわめきは一向に収まらない。清水が静粛にするように促す。大森博士が話を続けていく。
「報告を続けます。そしてその再起動時期ですが、凡そ、あと8日程度ではないかと思っています」
会議参加者が血相を変えて次々と挙手する。清水が防衛省の事務次官を指名する。
「何か手立てはないんですか?」
「申し訳ありませんが、私が考える限り方法が思いつきません」
清水が博士のこの話を受けて発言する。
「ですので、皆さんから有益な対応策を上げていただきたいと思っています」
先ほどの事務次官が言う。
「サルベージは出来ないんですか?」
「概算ですが、ナマズの重量は100トン程度です。サルベージ自体は可能だと思いますが、調査、方法を含め、サルベージには時間がかかります。とても8日間では無理でしょう。さらに付け加えますと、皆さんがすでにお考えかもしれませんが、それだけの重量物を宇宙に運ぶ手立てがありません。ロケットで運べる重量をはるかに超えています」
一同が黙り込む。確かにいい方策が見つけられない。大森が続けて言う。
「お話が出る前にいいますが、核爆弾の使用は効果がありません。深海での核爆発は、その水圧のため効果が発揮できない。それとナマズはすべてのエネルギーを吸収します。反ってエネルギーを蓄積させることになります」
ここで外務省の副大臣が挙手している。清水が指名する。
「この件は海外に発信していませんよね?」
それには林総理が答える。
「今のところ、何も情報開示していない。さらに国内向けも同様だ。この内容を公表すれば世界的なパニックが起きることになる」
「しかし、秘密にできる内容でもないと思いますが」
「わかってる。内容を精査し、しかるべき時期に発表するしかない。が、今しばらくは口外しないようにお願いする」
あいまいな表現だが、これを発表した際の世界的混乱が予想される。地球最後の日を宣告するようなものだ。対応としては致し方ないと、参加した全員が思っている。
ここで清水統括官が大森に質問する。
「この宇宙船は、地球外の知的生命体が送り込んだものですよね。彼らは何も対処しないのでしょうか?」
「ええ、これも推測ですが、このナマズは江戸時代に地球に来ています。以降、彼らが何も対処していないことを考えると、この宇宙船実験が失敗と判断していると思います。すでに存在価値も含め、抹消案件かと」
「そんな無責任な」
「確かに我々からすればそうですが、彼らが我々と同等の価値観で、存在しているのかどうかはわかりません。まったく異なる価値観を持っている可能性もあります。ましてや宇宙全体の広さを考えると、今回のような宇宙船が惑星に不時着している可能性は非常にレアケースです。宇宙のゴミとなっていると判断しているはずです。状況の確認もしていないと思います」
「それはどういうことでしょう?」
「宇宙全体の広さと地球の大きさを考えてみてください。広いグラウンドで地球はチリにも満たないサイズになるでしょう。ですから宇宙船がそこに埋没しているという考えをまず持たない。そういった可能性は非常に低いと判断すると思います」
「宇宙人は宇宙船と通信していないんですか?」
「これもよくはわかりませんが、通信方法がないものと思います。電磁波は光と同等の性質です。彼らがどの星にいるかはわかりませんが、電波の場合、何年もかかると思います。希望的観測にはなりますが、光を超えるような通信形態をもっていれば、可能性はゼロではありませんが、江戸時代から今まで何もしてこなかった事実を捉えると、期待薄ではないかと考えます。ナマズから何の信号も送られてこなかったのですから、それこそ実験は失敗したと位置付けていると思われます」
すべてにおいて、いい話が出てこない。それが現実ではある。
「ナマズは自律型の宇宙船であると聞きました。自身が再起動した場合、他の惑星の生命体を消失させることを、どう考えているのでしょうか?」
「価値観の問題ですからそれも先ほどと同じです。すでに一回再起動、おそらくは試運転したものと考えますが、ダークマターを発生させています。その行為になんの躊躇もありませんでした。言葉は悪いですが、地球の生命体には何の関心も無いものと思います」
大森は実に淡々とこれを答えた。この発言は決定的だった。会議参加者の顔色が一層曇る。それ以降も色々な意見や質問が出たが、なんら解決に結び付くようなものではなかった。地球はあと8日で滅亡する事実が明確になるだけだった。
3
柏崎鯨波港には橋爪と木次が来ていた。
ここはこじんまりとした港で、釣り客などがここから船で釣りに行くらしい。小さい街ではあるが、それなりに人の目もあり、橋爪たちはスーツ姿でうろつくわけにもいかない。すぐに何か変な奴がいると町の噂になるだろう。よって普段着に着替え、釣り客を装って情報収集を行っていた。
住民に話を聞いたところ、気になる情報を得た。近くの民宿『水母荘』に見かけない団体客がいるそうだ。なんでも新潟市内の建築会社が、慰安旅行の名目で泊っているらしい。
今や橋爪たちがその民宿を遠くから双眼鏡で見ている。
民宿を出入りする数人を捉える。確かにどこか日本人らしくない雰囲気がある。さらに観察を続けていくと、その中の一人に見覚えがあった。木次が話をする。
「橋爪、あいつだ。崔だ。生きていたのか。しかし東京にいるはずのやつが、ここまで来ているのは不思議だ」
「確かにそうですね」
「うん、崔は北の元締めだ。都内の諜報員の動きや情報を、やつがまとめているはずなんだ。これまでも東京から離れることは滅多になかった」
2係が以前からマークしていた北朝鮮の諜報員である崔ミョンイルがいることで、滞在しているほかの人間も諜報員だと判断できる。
「任同(任意同行)かけますか?」
「無理だな。素直に応じるたまじゃないから難しい。それより伊瀬知の話だと遺体を運ぶんだろ、それこそその現場を押さえれば、現行犯でしょっ引けるだろう」
「伊瀬知の話を信じればですが」
「今まで伊瀬知情報にガセはなかっただろ、そっちに乗ったほうがいい」
「まあ、そうですね。わかりました。じゃあ、俺は民宿の関係者に話を聞いてきます」
「ああ、頼んだ」
そういうと橋爪は民宿の裏手に向かう。
民宿は3階建てで民家に毛が生えたような作りだった。裏に勝手口があり、そこは山に面していた。橋爪が勝手口を開けて、中に声をかける。
「すみません」
中から40過ぎの女性が出てくる。
「あれ、お客さんですか、そっちは勝手口なんだけど」
「いえ、こういうものです」
そういって警察手帳を見せる。女性はちょっとびっくりしたような顔をする。「なんでしょうか?」
「ええ、こちらに宿泊されている人について、話を聞きたいのですが」
「今は新潟の建設会社の方が、4名でお泊りになってますよ」
「そうですか、男性が4名ですよね」
「そうです」
「今はどうされてますか?」
「ちょうど出かけました」
「いつ頃戻るって言ってましたか?」
「夕食には戻ると言ってましたね」
「宿泊はいつまでですか?」
「今晩までです。明日の朝早くに立つそうです」
「そうですか。わかりました」
女性は心配そうな顔で聞く。「何か事件ですか?」
「いえ、そういうことではありません。この地域の宿泊所全体を確認しているだけですので、ご心配なく」
女性はそれを聞いて少し安心したようだ。
橋爪は宿を後にし、木次のところに戻って話す。
「明日の朝に立つそうです。滞在は今晩までです」
「そうか、じゃあ明朝に大捕り物だな。応援を頼むか?」
「それがいいでしょう。新潟県警の外事課にお願いしましょう。多分、やつらは武装している可能性が高い」
「よし、わかった。応援を頼もう」
久々の逮捕劇だ。警察官として木次と橋爪にも気合が入る。
4
大森が会議を終えて、ザナの様子を見に彼女の部屋に戻ってきた。ザナは部屋のソファのひじ掛けに、寄りかかるようにして座っていた。相変わらず覇気がない。
「ザナ」
大森の声掛けに顔を上げるが、反応が薄い。ザナの隣に座る。
「ナマズのことだが、やはり再起動が起こりそうだ」
ザナが心配そうに大森を見る。ただ言葉はない。大森が続ける。
「おそらくあと8日で地球は無くなってしまう」
ザナがそれには反応する。
「今度は完全に無くなるってことなの?」
「地球の半分ぐらいの消失かもしれないが、そうなった場合も地球が維持できなくなる。おそらくはそうやって、ナマズは自分の星に戻っていくはずだ」
「もう為す術がないって話なの?」
「そうだね。我々の科学力ではどうしようもない」ザナに言葉は無い。「ザナはどうする?何かやりたいことはないかい?」
「あと8日か、どうしようかな。でもお父さんはここにいないとならないんでしょ?」
「そうだね。何をするわけでもないが、ここにいることになる」
「そうか、私はお母さんのお墓参りに行きたいけど、お父さんが動けないならここにいる」
「そうか、ありがとう」
「でも、あっけないね。そんなことで地球が滅ぶなんて」
「そう思うよ。でもね。我々には知らないことがこの世界にはたくさんあるってことだ。まだまだ、学問的にもわからないことが多すぎる。一瞬先に、この世界がなくなる可能性だって常にあったんだ。そういう意味では人類は、もっと研究し続けないといけなかった」
大森の偽らざる真実の声だ。人類にはまだまだわからないことが山ほど残っている。
5
深夜、民宿水母荘付近、橋爪と木次は車で待機している。
おそらく4名の諜報員は、深夜に行動を開始する。すでに新潟警察署外事課には応援を頼んでおり、彼らは港で待機してもらっている。想定通り、港には漁船が待機しており、それに乗って、諜報員たちが本国に帰国するはずだ。橋爪達は現行犯逮捕を目論み、柏崎で起きた銃撃戦の死体を確保する必要がある。今、民宿にはやつらがおり、他からどの程度の人間が合流するかは依然として不明だ。
そして深夜2時近くになって、動きがあった。宿から出てくる人影が見える。
「木次さんいよいよですね」
「ああ、久々に拳銃を使用することになるかもな」
橋爪はホルダーの拳銃を確認する。
「木次さんは拳銃を使った経験がありますか?」
「実はない」木次がにやける。
「俺も同じくです」橋爪も笑顔になる。
「平和な国だよな」
二人が微妙な顔で笑いあう。
北朝鮮の諜報員たちが次々に車に乗り込む。そしてゆっくりと発進していく。この周辺には街灯も少なく、ほぼ暗闇である。車のライトのみが煌々と辺りを照らしていく。橋爪はこれ以上離れると見失う寸前まで待機し、ゆっくりと車を発進、追跡を始める。当然、自分たちのライトは点けずに尾行する。
思った通り、やつらはまっすぐ港へ向かっていく。
「遺体はどうなってるのかな。すでに車にあるのか?」
「どうですかね。日数を考えると、何らかの処理をしていないと臭いが気になるはずですが」
「確かにそうだな。民宿に置けるはずもないか」
しばらく走ると諜報員たちの車は港近くの空き地で停車する。橋爪は離れた場所に車を停め、やつらの行動を見守る。するとしばらくすると、右から違う車の明かりが見えてくる。今度はワゴン車のようだ。
「いよいよ別動隊が来たみたいだな」
その車から、さらに4名が下車した。そして最後に大柄な男が後部座席から大きな袋らしきものを担いで出てくる。
「橋爪、外事課に連絡してくれ、全部で8名になる。死体らしきものを搬入した」
「わかりました」
橋爪が外事課に連絡する。外事課の待機人数は5名だ。人数では負けていることになる。思ったより諜報員の数が多い。
「木次さん、全部で8名は多くないですか?」
「そうだな。この周辺、いや日本で活動していた連中がほとんどここにいるのかもしれない。漁船で待機している連中を入れると10名になるな」
「全員が帰国するということですか」
「そうなのかな」
確かに人数が多すぎる気がする。日本国内にいる諜報員が、ほとんど帰国するのかもしれない。いったい何があったのか。
8名は辺りを気にしながら、港に向かって歩いていく。橋爪たちも車を降りて歩いて追跡する。
港に8名が近づいていく。外事課は周辺に隠れて待機しているはずだ。漁船に乗り込む寸前に全員逮捕する手はずになっている。久々の大捕り物に橋爪達は緊張する。いや、久々どころかここまで大掛かりなものは初めてかもしれない。
諜報員たちが漁船に乗り込もうとした瞬間に、警察のライトが浴びせられる。一気に真昼の明るさになる。
外事課吉田課長が拡声器で叫ぶ。「全員、動くな!」
外事課ならびに橋爪、木次が拳銃を向けながら諜報員たちに迫る。ついに銃撃戦かと思ったところ、港の桟橋にいた諜報員たちは、あっさりと両手を上げて降伏のポーズを取った。
外事課の連中も呆気に取られながらも、次々と彼らを確保していく。実際、あまりの無抵抗ぶりに拍子抜けするほどだ。
橋爪、木次が逮捕された諜報員たちに近づいていく。その中に崔がいた。木次がすでに手錠をされている崔に近寄る。
「崔、観念したか?」
崔はライトの眩しさに目を細めながら、木次の顔を見る。
「公安か?生きているとは運がいいな。観念したって?まあそういうことかな」
崔は不敵に笑う。木次はどこか納得できない気分で、そのまま立ちつくしている。あまりに崔に覇気がない。これが北の元締めとして現場を仕切ってきた諜報員なのか、なにか言いようのない違和感を感じる。
こうして大捕り物はあっさりと終了した。
柏崎署の取り調べ室。木次と橋爪が机を挟んで崔と対峙している。
「崔、どういう風の吹き回しだ」
怪訝そうな顔で崔が答える。「何の話だ」
「こういったら何だが、お前があっさり捕まるとは信じられない」
「気の迷いかな」
崔が不敵に笑う。橋爪は我に返ったように話す。
「全部、話してもらうぞ」
「話すにあたっては条件がある」
「条件?」
「ああ、コーヒーをくれ、できれば入れたてのやつがいいな。インスタントじゃないやつだ」
「なんだ、それ?」
「この国のコーヒーはうまい。コンビニのやつでもいい」
この崔の言うことが、本気がどうかはわからないが、橋爪は立ち上がって部屋から出ていく。
木次が尋問を続ける。
「コーヒーが来るまで雑談だ。こういっちゃなんだが、ずいぶん、あっさり捕まったな。何かわけがあるんだろ?」
「お前らが知らないことを、我々は知ってるってことさ。だからドンパチやって逃げる気が起きなかった」
「どういうことだ」
崔がまたもや不敵に笑う。
「特別に教えてやる。この星はあと1週間で無くなるって話だ」
「何を寝ぼけたこと言ってやがる」
「そう思うだろ、俺もそう思いたいが、この国の偉い連中はみんな知ってる話だ。知らないのはお前たち一般大衆だけなのさ」
木次が面食らう。この男は何を言ってるのだろう、こちらを煙に巻こうとでも思っているのか。
橋爪が紙コップに入ったコーヒーを持ってくる。
「署内のドリップマシンで作ったおろし立てのコーヒーだ。これで勘弁しろ」
そう言って崔の前にコーヒーを置く。崔はそれを飲んで、
「ふん、まあまあだな。この警察署も贅沢なものを持ってるな」
木次が話を戻す。
「その情報はどこから仕入れたんだ」
「どこだろうな。それなりの筋からだ。当然、名前は言えない」
「おい、何でも話すんじゃないのか?」
「スパイにはスパイの仁義がある。お前らもそれはわかるだろ」
木次が橋爪の顔を見る。致し方ないという顔だ。拷問でもかければ話すかもしれないが、日本でそれは厳しいだろう。
「まあ、いい。追々話してもらうさ」
崔は真顔になり、話を進めていく。
「お前たちは今回のナマズ事件を知らないんだろ」
「ナマズ?」
コーヒーを飲みながら、崔が今回の事件について話し出す。
橋爪、木次はあまりに荒唐無稽な話に驚愕する。ひととおりの話を聞いて、木次がうめくようにつぶやく。
「つまりは、あと1週間で地球は無くなるって話なのか」
「お前たち、そんなことを調書に書けるか?」
崔はおかしそうに笑う。二人は絶句している。
6
ザナは合同庁舎内十一階に設けられた自分専用の部屋にいた。
ここは会議室だった部屋をザナ専用にあてがわれている。簡易ベッドも置いてあり、ホテルのように使用している。これは何度も拉致されてしまった日本政府としてのメンツもある。完全警備で二度と同じような事態を避けるといった意味合いが強い。大森も隣の部屋で同様に警備されている。24時間2名体制での警備となっていた。
時刻は夜中の3時を回っているが、ザナは眠れない。ただ茫然と部屋の窓から外を見ている。都心の夜景は明かりもなく、ほぼ暗闇だ。遠くに見えるのはそれよりもっと先の千葉県あたりの明かりなのか。
東京に来て約2週間が過ぎたが、何か終わらない悪夢を見ているようだった。夢なら覚めてほしい。シリアからトルコに逃げた時も同じような悪夢を味わった。その時も不安が募って眠れない日々を過ごしたが、今回はそれ以上かもしれない。まったく救いのない状況だ。そして今、そのことを何も知らずに全世界の人々が生活している。そして一瞬のうちにその命を失ってしまうことになる。
ザナは大きなため息を漏らす。
何か飲み物でも飲んで、気を紛らわそうとテーブル付近を見る。ぬるくなったペットボトルが置いてある。するとなぜか人の気配のようなものを感じて、ふと部屋の隅をみる。
一瞬、目を疑った。なぜ、そこにいるの?私は夢を見ているの?
そこに伊瀬知悠がいた。
ザナはもう一度、悠を見て言う。「悠なの?」
伊瀬知は、「ザナ、こんばんは」と当たり前のように言う。
「悠、どうしてこんなところにいるの?」
伊瀬知はそれには答えず、ただ笑顔を見せる。
「いったいどういうこと?」ザナが聞く。
自分は夢を見ているのだろうか、そして今本当に生きているのだろうか、ひょっとして夢の世界にでも紛れ込んだのか、この不思議な体験に戸惑っている。悠をじっと見つめるが、確かに伊瀬知悠そのものだ。
「あなたは悠だよね。どうして」
ザナは信じられない事態に頭が付いていかない。悠は生きていた。なぜ、ここにいるのか。伊瀬知はそんなザナの様子を見てゆっくりと話しだす。
「ザナ、落ち着いて聞いてね。実は私はこの星の人間ではないの」
伊瀬知は何を言ってるんだろう、どう見ても人間だ。
「え、どういうこと?」
「私もナマズと同じく、別の惑星から来た」
「それは宇宙人ってこと?」
「どうかな、そういう定義でいいのかな。簡単に言うと伊瀬知悠はこのスマホなの」
伊瀬知が自分のスマホを見せる。見たところ普通のスマホに見える。いったい伊瀬知は何を言っているのか、ザナをからかっているのか、理解を超えている。
伊瀬知が話を続ける。
「今はこのスマホの形になってるけど、私が最初にこの星に来たときは、形を成してはいなかった。形と言う概念のものではなかったというべきかな。私が来たのは、この世界はちょうど江戸時代の末期、明治が始まる頃だった。そして最初は紙入れの形になることにした。筥迫っていうものね」
「よくわからないよ」
伊瀬知が笑う。その笑顔はいつもの伊瀬知悠だった。
「うん、順番に話すね。私は生きているわけではないの。昔の私は貴方と同じように生命体として生きていたんだけど、すでに体を無くして、意識を形態化させたの。この世界でいうと電子化というのかな。
人間の脳の動きも突き詰めれば電子化できるでしょ。それと同じで、そういった意識をすべて数値化して形にしたということ。ここの世界でそれをやると、とてつもなく大きなコンピュータになるだろうけど、私の生きていた星では集積化が進んで、このスマホぐらいの大きさにできる」
ザナはなんとなく理解する。人間の脳を電子化するといった実験を考えている科学者は多い。現在ではまだ実用まで至っていないが、いずれは可能になるかもしれない話だ。
「それと、私の生きていた星は、ナマズの惑星以上に科学が進んでいて、次元転移はもっとスマートに行えるようになっている。ダークマターを使う方法なんて過去の遺物なのよ。次元移動は物質ではない状態になって、余剰次元のホールから転移する。ホールってわかるかな、この次元にはあらゆる場所にそういったホールがあるの、そして私たちは転移とともに再構築できる技術も持っている。簡単に言うと物体の次元移動ね」
そう聞いても理解するのが難しい。じゃあザナが見ている伊瀬知悠はなんなのだろうか。
「スマホが本体で貴方はなんなの?」
「うん、この世界用に作った人形みたいなもの。こっちのスマホが本当の私。人形を誘導していることになる。リモコンと人形といったほうがいいかな。こういった人形は簡単に作れる。だから、いったん粉々になっても関係ないの」
「でもそのスマホも壊れるんじゃないの?」
「ふふ、これはナマズと同じで簡単には壊れない。この世界の技術では無理ね。それと再構築は可能だから、永遠に生き続けることもできる」
「じゃあ、伊瀬知悠は昔から同じ人だったってこと?父があなたが昔と変わっていないといったのは、悠は歳を取らなかったということなの?」
「そう、だってお人形さんは歳を取らないでしょ」
何かキツネにつままれたような話だ。ただ、このお人形は生きてるとしか思えない。
「でも普通に生活してたよね。息をして物を食べて」
「それはあくまでポーズね。ふりをしているだけ。ああ、でも内臓や中身もほぼ人間と同じに作ってある。だから出血もするし、消化もするけど、エネルギーはそこから取ってるわけじゃない」
ザナは納得できないが、納得するしかない。
「それでザナ、私はこれからもこの星で生きていきたいの。私の元居た星はもう無い。まあ、ここで今、この生命体を終わらせてもいいんだけど、まだ、この星の進化を見ていたい。ここは私の生きてた星でいうと石器時代ね。とても興味深い」
「悠は地球のどこに魅かれたの?」
「この星の人間たちの倫理観かな。私たちはとにかく合理性を追求してきた。どちらが適しているのか、どうすれば効率よく生きられるのか、そういった観点で物事を進めてきた。それが進化としては正しい姿だと思うんだけど。だから、争いごとなんてない、合理的に考えると争うことなんて無駄しかないから。だけど、この星の人間は合理性だけでは動かない。いまだに戦争なんてやってるし、民族紛争も絶えないでしょ。そういうところが興味深い」
「そうなんだ」ザナにはよくわからない。
「あとね。特に魅かれるのは自己犠牲という思想ね。誰かのために自分の命を授けるという。それが尊いって考え方、合理性からはかけ離れている」
「でも、悠も私たちを救ってくれたよね」
「ああ、そうね。私も真似をしてみたの」
伊瀬知が少し恥ずかしそうな顔をする。ザナは質問を続ける。
「悠はどんなことができるの?」
「私はこの星の人間にとっては未来人。それも数千年先から来た。だから、なんでもできてしまう。そういった人間が、そのままの科学力で、何か事を起こすとおかしなことになる。そう思って今までも歴史を変えるような行動は極力避けてきた。私の探偵業もこの星の科学力や身体能力を超えるようなことはしていないはず、可能性としてありうる限界を目指してるけどね。ただね、今回のナマズはそういった事象じゃない。この世界にとってはまさに青天の霹靂ね。だから、その部分は削除することにする」
「え、削除って、ナマズを消すってこと」
「そういうこと。でもこれはザナだけに話す。ザナがこのことを誰かに話すと、それはそれで歴史が変わるような事象になるから、あなたは何も知らなかったということにしてね」
「どういうこと?」
「伊瀬知悠は死んだの。私がこれからナマズを消去しても、その理由をあなたはわからない」
「口外しないでってこと?」
「そう、ザナの胸の内だけに留めておいて。いい?」
「わかった。でもどうやってナマズを消すの?」
「それも秘密ね。あと、1万年たったら、この星の人間も理解できるかもしれない」
ザナは気付く。そして少し青ざめる。
「あ、悠、私はもうあなたに会えないの?」
「そうね。伊瀬知悠は死んだのだから、もう会えない」
ザナの目から涙があふれてくる。
「それは寂しいよ。もっと色々話をしたい」
「ありがとう、でもそれは出来ない。いい、ザナ、あなたはこれからもっと色んなことを経験して、いい女性になって幸せになるの。きっとそれができると信じてる」
「悠じゃなくなれば会えるでしょ。あなたなら簡単にできるじゃない」
「私は伊瀬知悠だよ。これからは違う場所に行くけどね。私立探偵伊瀬知悠って設定は変えない。これが好きなの」
そういってなにか不思議な笑顔を見せる。
「でも、悠は私に会いに来たよね。それはどうして?」
伊瀬知は何故か無表情になる。なんとなくそれでわかった。ザナが伊瀬知に抱き着く。
伊瀬知はザナをそっと抱きしめる。
ザナは子供のように伊瀬知にしがみつく。
すると外にいた警備担当が気づいたのか、ザナの部屋のドアがノックされる。
「ザナさん、どうかされましたか?」
ザナがドアを見て、再び振り返ると、そこに伊瀬知悠はいなかった。
悠、お別れの挨拶もしてないよ。
7
東京湾は本来の静けさを取り戻しつつあった。海面のよどみは以前よりは確実に減って、海風も自然な趣で吹くようになってきた。ひと頃の自然を捻じ曲げたような挙動が、少しづつ落ち着きを取り戻したといったところだろうか、また、魚や鳥たちの姿を見ることも増えてきていた。
海洋観測研究センターの島田は、深海潜水調査船支援母船『よこすか』の甲板から海を眺めていた。島田は昔から海が好きで、見ているだけで心が穏やかになったものだった。それが高じてセンターに入った。
この海ももうすぐ見られなくなるのか、本音を言えば、早く家族のもとに戻って、最後の時を過ごしたかった。ただ、今自分がやるべき仕事はここにあるとの信念で、こうしてこの場に留まっている。
船室の扉が開いて、所員が島田を呼ぶ。
「島田さん、ナマズに変化が見られます」
「すぐ行く」そう言うと船室に戻っていく。
観測室のモニターには、今も探査機からのナマズの画像が映っている。
確かにナマズの発光状態に変化が見られる。
「だいぶ青色が強くなってきたな」
ナマズは、相変わらず、まるで生き物が呼吸するかのように、発光を強弱させている。
「思ったより、早く励起状態に到達するのかもしれない。本部に画像を送ってくれ」
「わかりました」
いよいよ最後の時が迫っている。この状態だとあと数時間かもしれない。
深海の澱みは相変わらずで、ナマズもはっきりとは見えない。そしてさすがにナマズの近くに魚はいない。その存在自体が魚にも恐ろしく映るのだろうか。
ふと島田が何かを見たような気がした。モニターを食い入るように見る。隣にいる所員に話す。
「何か見えたか?」
「え、なんです?」
気のせいか、画面の隅に何かが動いたような気がしたのだ。深海魚でもいたのかもしれない。
今度は所員が言う。「あれ、なんですか?」
やはり見間違えではないようだ。目を凝らすと、やはり何かが薄暗い深海の中にいる気配がしている。それも割と大きな何かだ。ナマズの近くにいる。
「え、まさか」所員が絶句する。
確かにそれは人間のような形をしている。海中は霞がかかったようにはっきりとは見えないが、ナマズの光に合わせてその姿が見え隠れする。
「深海5000mだぞ、ありえない」
人間らしき物体が見えているだけだろう、人間が耐えられる水圧ではない。おそらくは死体なのかもしれない。
そして次の瞬間だった。
ナマズが凄まじい発光現象を起こす。
「ああ、再起動したのか!」
まるで花火のような強烈な無色の閃光がナマズを包み込む。そしてその光が静かに消えると、深海に静寂が戻る。
そして、島田はその光景を生涯忘れることはできないだろう。
ナマズが消えていた。
8
合同庁舎内の11階、大森の部屋。
大森は昨晩も遅くまでデータ解析を行っていた。そして、科学者として何かナマズを止める手立てはないのかを必死に模索していた。
朝になり、食欲は無いが、何も食べないわけにもいかないので、食堂まで朝食を摂りに行くことにする。ナマズもあるが、隣室のザナの様子も気になる。伊瀬知が亡くなってからというもの、ザナの塞ぎようは大森から見ても痛々しいほどだった。彼女の母親が亡くなった後も、しばらくは同じような状態だったことを思い出す。
あの時も数か月間はかかったな。
廊下に出る。警備の警察官が、大森とザナの部屋の前に常時待機している。彼らにあいさつをしてザナの部屋をノックする。
「ザナ、朝食に行かないか?」
すると思ったよりすぐに扉が開いて、驚くほど元気なザナがいた。
「おはよう、おなかすいちゃった」
あまりの元気さに拍子抜けする。ただの気まぐれなのかもしれないので、理由についてはあまり触れないようにする。
「じゃあ、行こうか」
二人で食堂まで歩いていく。廊下の窓から見る外の景色は明るく、この世界があと数日で終わるとは、信じられないほどだった。
食堂はそれほど混んではいなかった。通勤の職員は自宅で食事を取るので、ここの食堂利用者は昨晩、徹夜した人か独身者に限られるようだ。
パンとサラダ、ハムエッグを取って、席に座る。ザナはそれにオムレツも取っていた。食欲も戻ったみたいだ。本当に吹っ切れたんだろうか。ザナは黙々と食事をしだす。
「少しは元気になったみたいだね」
触れないようにしようとは思うが、どうしても言ってしまう。
ザナはしばらくぶりに見せる笑顔で返す。
「そうね。地球が終わる時ぐらいは元気でいないと」
二人であれこれと話をする。久々の親子の会話である。
するとそこに血相を変えた、内閣府の若い職員が飛んできた。
「大森博士、今、海洋観測研究センターから連絡がありました。ナマズが消えたそうです」
大森が食べていたフォークを落とす。「何だって!」
「データが送られてきました。確認をお願いします」
大森とザナが会議室に急ぐ。ただ、ザナはこのことがわかっていた。悠がやったんだ。
会議室には内閣府の幹部連中が勢ぞろいしていた。全員で送られてきた画像を見ている。清水統括官が大森の到着に合わせて、動画を最初から再生するように指示する。
会議室にある大型スクリーンに動画が映し出される。
ナマズは呼吸をするように青色の発光を続けている。
「もう青色まで来たか、想定を超える速さだ」大森が言う。
すると画面右側だが、濁った海中にナマズではない何かが見える。
「何かいるのか?」それに対し清水が答える。
「よくわかりませんが、深海魚、もしくはどなたかの御遺体ではないかとのことです」
ザナだけがそれが何かをわかっている。約束通り何も言わない。
すると、次の瞬間、ナマズが強烈な光を放つ。画面全体が白くハレーションを起こしたような光だ。大森は言葉を失う。
光が収まったあと、海は静けさを取り戻す。そして海中には何も見えなくなった。ナマズが消えていた。
清水が言う。「大森博士、ナマズは本当に消えたんでしょうか?」
大森はしばらく考えを巡らせる。動画は続いているが、やはり何も残っていない。
そして話しだす。
「今の発光が、何であるかを断定することは難しいですが、ナマズの消失は間違いないと思います。危機は去りました」
会議室にいた全員が感嘆の声を上げる。中には抱き合って喜ぶ所員もいた。地球は救われたのだ。
臨時政府内、ナマズ対策チームは海洋観測研究センターからのナマズ消失報告を受けて、右往左往していた。大森は消失画像の分析をおこなっていたが、消失の事実を認識するも、理由について思い悩んでいた。
林総理は自室にて清水統括官からの報告を受けていた。
「ナマズが消えたというのか?」
「そのようです」
椅子から立ち上がって、その報告を聞いた林が、へたり込むように椅子に腰を落とす。
「助かった」
清水が話を続ける。
「これまでの状況を、国民および世界に報告しないとなりません。それも早急に」
「そうだな。一応、ナマズは非公開だったが、漏洩している可能性もあるし、何より平穏を取り戻すためにも、危機が去ったことをいうべきだな」
「記者会見を予定します。私のほうで原稿をまとめますので、今晩19時よりの首相会見でよろしいですか?」
「ああ、その線で進めてくれ。それと会見には大森博士も同席させてくれ」
「はい、わかりました」
清水は総理執務室を出ていく。危機は去ったのだが清水の顔は冴えない。まだまだ問題は山積みだ。
大森はある程度の分析を終えて、ザナと会話している。自分の理論をザナで確認するかのようだ。
「ナマズは跡形もなく、消失した。あんなことができるのは地球外の何者かだ」
「宇宙人ってことね」ザナは大森が気付いたことがうれしそうだ。
「そうだ。ナマズの持ち主が地球のために消失させたのか、他の宇宙人がやったのかはわからないが、あれは反物質を使ったと思う」
「反物質?」
「まったく根拠はないんだが、物質の虚数展開ともいうべき手法だと思う。物質自体を逆の物質で無いものにするといったことかな。それであれだけの白色というか無色の発光現象を起こしたと思う」
「すごいね」
「ああ、すごい。我々があのレベルまで行くには、あとどのくらいかかるんだろうかね」
「一万年はかかるんじゃない?」
「一万年か、確かにそれぐらいかかるのかもしれない。なんとか数千年でやりたいね」
大森はそういうと、今日の記者会見で話す内容をパソコンに書き記していた。
ザナはほくそ笑む、彼女だけが誰がやったか知っている。