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なまず 未確認物体  作者: 春原 恵志
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プロローグ 江東幹線工事

今回、しれっと改訂しております。

本来は人気のないこの作品の続篇を書こうと思っていたのですが、設定に無理があり、断念しました。

違う形で探偵ものを書くつもりです。

それぐらい、この探偵ものはすきだったんですよ。人気はいまいちなかったですけど。

ちなみにこの中に出てくる余剰次元だのブレーンだのは実際に論じてる学者は多数おります。文献を読んでそれほど違和感のないものにはしたつもりです。重力については自論になります。また江東区の下水工事も実話ですし、安政地震も実話になります。そういった事実を元に構築しました。

 江東幹線工事とは江東区内の水害防止のため、地下に大型の下水道を建設する工事である。東京都が中心となり進められ、地下鉄よりもさらに深い、地下約30mに下水用の巨大なトンネルが作られている。

 近年の異常気象の影響で、大雨災害の危険性は年々高まってきている。特に江東区は海抜が低く、想定を超えるような大雨でも降れば、河川の氾濫、堤防の決壊などで洪水が危惧されており、下水の処理を大幅に増やすことは喫緊の課題だった。この工事により1時間50㎜の降雨に対して、約80%を下水として取り込めることになる。

 トンネル工事には現在主流であるシールド工法が使われており、円柱形の大型シールドマシンが回転しながら掘り進んでいる。近年はこの工法で昔に比べると安全性においても格段の進歩がみられている。

シールドマシンは軌道上を移動し、円柱形の先端平面に、中心から外側に向けてカッターが十字架のように付いており、超硬合金製の非常に硬い工具が岩盤を掘っていく。

 この工事で使用されるシールドマシンは直径14mもある巨大なものだ。それがすさまじい音を発しながら掘り進んでいる。時速1.5mという速度だが、それによる土砂の量は一日でトラック15台分にもなる。

 トンネルのサイズは内径8mで、シールドが掘り進むと同時に、コンクリート製のセグメントと呼ばれるいわゆる壁面が取り付けられていく。よって掘り終わった部分にはトンネルが完成しているということになる。

 さらにトンネル内にはその都度、照明が取り付けられていく。よって坑内は明るく、昔のような薄暗い中での危険性の高い作業ではない。


 そして今、このトンネルの最終工程では東京都から依頼を受けた、建設会社の現場監督である内藤が監視作業を続けていた。内藤は年齢は50歳を目前に控えた初老であるが、いまだに現場作業に従事している。後進が育つと思うと辞めていくという悪循環から抜け出せない。そろそろ内勤にしてほしいと常々思っていた。

 トータルの目標工期は4年で、現在はようやく最終段階に取り掛かっているところだ。

 今年度一杯、3月の完成が目途だが、残念ながら2月の今になっても完了日が見えてこない。計画上は約2週間の遅れだが、このところの作業員不足が堪えている。どこの現場も人手不足だ。外国人労働者を入れても数が足らない。建設会社としては、工期遅れはなんとしても回避しないとならない。上からの圧も強く、内藤も胃が痛い日々が続いていた。

 工期遅れを解消するために、このところ残業続きだったが、本日は比較的、順調に工事は進んでいた。今日こそは定時で上がれるかな、と思った瞬間、シールドマシンが聞きなれないギリギリといった金属音を発して停止した。

 トンネル内に静寂が訪れる。内藤がシールド作業員のところに駆け寄る。

「どうした?マシンの故障か?」

 作業員が首をかしげる。

「いや、多分、何かに当たって自動停止したんだと思います」

「え、何かって地下30mだぞ。こんなところに何があるっていうんだ?地下鉄はもっと上だろう」

「そうです。この辺りには岩盤か、汚泥以外は何もないはずなんですが」作業員は首をかしげる。

「仕方ないな。とりあえず、マシンを戻して掘削面の状態を確認しよう」

「わかりました。後退させます」

 シールドマシンをゆっくりと退行させていく。地下30mとはいえ、この辺りは海の底である。地下から滲み出す海水の量も多い。レール上のシールドマシンは海水に濡れながら後退していく。

 内藤は掘削面の状況を見るため、マシンの横で固唾を飲んで見守っている。

 そして掘削状態が徐々に露になってきた。

 内藤が目をむく。「ああ、なんだ、これは?」

 掘削された岩盤と泥の中から、何やら黒い物体が見え隠れしている。

 内藤が近くに寄ってそれを確認する。まるでそこに黒い巨大な壁があるかのようだ。それが汚泥の中に埋もれている。内径8mのトンネルだが、その黒い物体はそれよりもはるかに大きいようだ。おそらく見えている部分はそれのほんの一部に過ぎない。

「けっこう大きいな。何かな?分かるか?」作業員に聞いてみる。

「いや、こんなものは見たことないですよ。何ですかね」

「石には見えないな。ただ、黒いだけだな」

 その色もこれまで見たような黒色ではない。まるでどこまでも黒、それも暗黒ともいうべき黒色の物体である。何故か吸い込まれそうな危機感さえ感じる。

「なんですか、気持ち悪いです」

 作業員の言うことは間違いないと思う。何か得体のしれない恐怖を感じる。

「とにかく、このままだと作業が進められない。上に確認を取るよ。悪いが今日の作業は中止にしてくれ」

「はい、わかりました」

 二人は再度、汚泥の中から顔を出したこの不可思議な物体を見つめる。そしてやはり何か言いようのない不安を感じていた。

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