表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

7.マルティエナの想い

マルティエナ視点の話になります。

「妃殿下、本日はこれで以上でございます」

「そう……」


 たくさんの仕事を無事終わらせられたみたいで、私はフウッと息を吐いた。疲れて目を瞑る。


「殿下は今日も彼女(・・)とお茶会?」

「……は、はい、その……」


 言いにくそうにする文官の言葉に、私は苦笑した。


「悪かったわね、変なことを聞いたわ。殿下の確認が必要なものは、今日中に確認してもらってちょうだい」

「は、はい! かしこまりました!」


 まだ若い……といっても、私よりは年上だけど、文官がいたたまれなそうにして走って去って行くのを見送った。

 気にするな、と言っても、それが無理なことは分かっているけれど。


 この国の王太子殿下であるレインデルト殿下と、私マルティエナの婚姻式とパーティーが開かれたのは、二週間ほど前。

 それまで殿下の側の女性なんて私しかいなかったのに、結婚と同時に殿下は私じゃない女性を側に置くようになった。


 何があったのかは、その当人……パウラに話を聞いた。最初は相手が王太子殿下などとは思っていなかったみたいで、知った時には驚いたみたいだ。


 侍女長がカンカンになってパウラに怒って、そして私に何度も謝罪してきた。でも、少なくともパウラは悪くない。


 侍女長にしても、まだ王宮侍女の職に就いたばかりで、パーティー会場を任せられない新人でも、雑務くらいならと思ってしまうのも仕方がない。そのくらい、忙しかっただろうから。


「単に、巡り合わせが悪かっただけよ」


 私は、そうつぶやいた。

 あの時、私も疲れていたけど、殿下の疲労はそれ以上だった。だから、少しでも休めるときに休んで欲しかった。


 正面からは、パーティーの主役である王太子は出られない。だから、侍女たちも出入りする裏から出てもらった。それが完全に裏目に出てしまった。それだけだ。


 結局、私は殿下の浮気を黙認する形になった。けれど、婚姻式で戴いた王太子妃のティアラは、どうしても身につける気になれなかった。そうしたら、いつの間にかそれは殿下の執務室に置かれているらしいけれど。


 あれから二週間。殿下はまだパウラに夢中のよう。最低限の仕事はやっているようだけれど、今度は私自身に疲れが出てきている。


「……ルト」


 小さく、名前をつぶやいた。

 私が王太子妃に、将来の王妃になるための教育で疲れた様子を見せると、私の手を引っ張って、二人して勉強から抜け出した。


 抜け出した先での出来事は、二人だけの大切な思い出だ。


 そうやって気分転換をして、そしてまた勉強を頑張った。そうやって手を取り合って、私たちは婚姻を迎えた。

 あれが続くと、何の疑いもなしに、信じていたけれど……。


「……ルト、あなたはもう、私の手は取ってくれないの?」


 その言葉は、広い部屋の中でかき消えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ