15.九日目
九日目。
今までになく大きく、綺麗にラッピングされた箱が届いた。何かと思って開けたら、それはドレスだった。
「……っ!」
一目見て、手で口元を押さえる。泣きそうになった。すぐに分かった。ただドレスを贈ってくれただけじゃない。
「小さい頃、マルティ様のお気に入りだったドレスに、良く似ていますね」
エレーセの言葉に、私は何も言えずに頷く。
大好きだった、赤いドレス。私の少し赤みがかった髪の色ともすごくマッチしていて、大好きだったドレス。
けれど、デザインが子供っぽいし、成長すればもう着れなくなる。だからもう、そのドレスへの未練は断ち切った……つもりだったけれど、時々懐かしくなる。必要ないのに、今も手元に置いている。
あのドレスが、目の前にある。
今の私にも似合うように大人っぽいデザインだ。でもそれでいて、あのドレスと似せてくれたのだと、分かってしまう。
『エナへ。九日目のプレゼントだ。
これが一番時間がかかるから、間に合うかどうかすごく緊張したけど、間に合って良かった。
一番好きなドレスなんだと、何度も着てきてくれたよな。もういい加減サイズ合わなくなっても、直せる範囲で直して着て。そんなことする貴族は普通いないぞと、思ったものだが』
「うるさいわね」
読みながら、ツッコんでしまった。大きなお世話だ。スカートが短くなって出てしまった足を、マジマジ見るような失礼な男に言われたくない。と言ったら「だったら着るなよ」なんて言い返されたわね。
『もう着るのをやめた、と言ったときのエナの顔、すごく寂しそうだったから。だからいつか、大人になったエナに、大人でも似合うドレスを贈りたいと思っていたんだ』
そんなに寂しそうにしていただろうか。そこまでの自覚はなかった。
けれど、何年も前のことなのに、ドレスのデザインまで覚えていてくれた。そうでなければ、このドレスは出来上がらない。職人を呼んで、きっと事細かにデザインの相談をしたのだ。
『……明日、十日目は、俺が直接届けに行くよ。どうか時間を空けて、待っていてくれ』
最後の一文に、私は手紙を抱きしめた。
とうとう、明日が十日目だ。
浮気した殿下を、簡単に許したくないと突きつけた「十日間、私が好きなものを贈ってくれたら、許すかどうか考える」という条件。その条件に、殿下は真剣に向き合ってくれた。
全部が全部、好きなものだったのかと言われれば、疑問はある。けれど、どのプレゼントにも殿下の中に私との思い出が詰まっていることが分かるものだった。
「明日の私次第で、これからの私とルトがどうなっていくか、決まるのね」
もう心は決めているから。そして、ルトを信じる。信じることに決めた。
――だから。
私は、刺繍する手を速める。明日、ルトが来てくれるなら、その時にこれを渡して、返事とともに私も決意を伝えたいから。




