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13.三日目から

「……なあメンノ」

「何でしょうか、レインデルト殿下」

「……その、エナの様子は、どうだ?」

「さて、久しぶりに仕事から解放されて、穏やかに過ごされているそうですが」

「……そ、そうじゃなくてだな」


 エナに贈り物をして二日。

 エナの好きなものなんて簡単だと思ったが、いざ贈ってみると、あれで本当に良かったのかどうか不安になる。


 というか、好きなものというより、単にエナとの思い出を辿っているだけの代物でしかないことに気付いてしまった。


 だから、エナの反応によっては、贈り物の方向転換をしなくてはいけない、と思ったのだが、その肝心のエナの反応が伝わってこない。


「侍女たちからは、普段通りにお過ごしです、とだけですよ」


 メンノの言葉に、俺は撃沈した。

 喜んでくれているのか。こんなものを贈って、と怒っているのか。無反応なのか。それらを知りたいだけなのに、教えてくれない。


 会いに行くのは、まだだと決めている。行くのは、十日目の最終日だ。それまでは我慢……と思うのだが、やはり反応くらいは知りたい。


 エナの頭を飾るはずのティアラに目を向ける。俺の方向性が間違っていないことを祈る。

 そして、手に取ったのは、三日目のプレゼントだ。



*****



 三日目。

 贈られてきたのは、絵本だった。


「『ベンとテラの大冒険』ですか。懐かしいですね。マルティ様もお好きでしたよね」

「ええ。……本当に、懐かしいわ」


 小さく笑みが零れた。私と殿下が、小さい頃一緒になって読んで、夢中になった絵本だ。


 内容は、子供向けの絵本だから、本当に簡単な内容だ。ベンという男の子と、テラという女の子が、失われた魔法の力を求めて旅に出るお話だ。この本を読んで、真似する子供たちも多くて、実は私たちも真似したのだ。


「ええ、懐かしいですね。……泥だらけや水浸しになって帰ってこられて、悲鳴をあげた記憶があります」

「それは忘れてちょうだい」


 余計なことを付け加えるエレーセに、私は動揺を押し隠してサラリと告げる。そのどちらも、"旅"の結果である。


 ジトッと冷たい目を向けてくるエレーセの視線から逃れるように、私は今日もある殿下からの手紙を手に取った。


『エナ、おはよう。三日目のプレゼントを贈るよ。

 解説は不要……でいいかな。そうだといいなと思う。俺とエナと、二人で夢中になって読み合った絵本だ。今は装丁が変わって、もっと綺麗な絵になっているんだけど、あえて昔のものを探し出した。もし良かったら、新しいものも贈る』


『ああ、もちろん、それは十日間の贈り物には含めないから』


 クスッと笑った。最後の言い訳みたいな一文、きっと後から付け足したんだろう。これだけ妙に字が崩れている。

 別に、あわよくば含めようと考えていたわけではなくて、もしかしたら私にそう勘違いされるかもしれない、と思ったんだろうと思う。


「心配しなくても、そんなこと欠片も思わないわよ」


 フフッと笑う。ずっと殿下の婚約者をやってきた私を、舐めないで欲しいものだ。そして、この絵本が贈られてきたということは、明日のプレゼントが想像できてしまった。


「病み上がりなんだから、無理しないでね」


 あれを探すためには、外をウロウロしなければならない。聞こえないと思いつつも、私はそうつぶやいたのだった。



*****



 四日目のプレゼントは、丸い小石だった。完全に私の予想通りだ。


『エナへ。覚えてるかな。絵本を真似て"旅"に出た先で見つけたよな。尖った石ばかりの中で見つけた丸い石が、すごく特別なものに思えた。


 今思うと、子供だったなと思うけれど、でもエナと一緒だったから、やっぱり特別だったんだなと思う。いつかまたエナと一緒に探したい……駄目だな、そんなことを言ったら怒られる』


 昨日、殿下の靴と手が泥だらけになっていたらしい。何でも早々に仕事を片付けて、城の敷地内にある池の畔に行っていたとか。そこは昔、私と殿下が"旅"した先だ。


 普段、行くことのない場所だったから、あの頃の私たちには十分に"旅"だったなと思う。


「私も行きたいけれど……確実に怒られるわね」


 小さい頃だって、悲鳴を上げられて怒られたのだから。少し残念だけれど、でも一緒に散歩に行くくらいなら、いいかもしれない。

 それを想像したら、嬉しくなった。



*****



 五日目。


「よく見つけたわね……」


 贈られたものは、石。けれど、昨日のただの丸い石とは違って、ほんの少し青みを帯びていて、触れると少しヒンヤリする。


「水の石ですか?」

「ええ、そうみたい」


 エレーセも驚いたようだった。


 三日目に贈られてきた『ベンとテラの大冒険』の話を真似る子供たちが多いのは、この世界に"失われた魔法の力"が存在することが事実であり、今でもその残滓と言えるものを、見つけることができるからだ。


 水の中では"青い石"が、暑い地域では"赤い石"が時々見つかる。

 青い石は"水の魔法の力"を宿すと言われて、触れるとヒンヤリする。赤い石には"火の魔法の力"が宿っていて、触れるとほんのり温かい。


 私たちが小さい頃に水浸しになったのは、池の中に水の石があるんじゃないかと、飛び込んだ結果だ。


 "魔法"とは、自然現象を人の意思で具現化したもの、と言い伝えられている。正直、何のことか不明だし、出来るわけないとも思う。


 けれど、宝石でもなく普通の石でもない変わった石が今でも見つかることから、"魔法"の力は今でも自然の中にとけ込んでいる、と言われているのだ。


 色が濃ければ濃いほどに、多くの魔法の力を溜め込んでいると言われていて、そういったものは見つけにくい。この"水の石"のように、少しだけ色を帯びた石は、比較的見つけやすいとは言われているけど、だからといって簡単に見つけられるものじゃない。


「ありがとう」


 もっと簡単なものにすることだって出来るはずなのに、わざわざ大変なことをしてくれている。


「エレーセ、殿下に伝言を伝えて頂いていいかしら。――病み上がりなのだから、ご自愛下さいませ、と」


「かしこまりました。……が、お優しいですね」


「また熱を出されても困るもの。それに、私に贈るものを用意するために殿下が無茶している、などという話にでもなったら、私が悪者じゃない」


「ちょっと前まで殿下が浮気したことは、分かってますからね。妃殿下のご機嫌取りに必死な殿下を、皆様生暖かい目で見守っているようですよ」


 何というか、すごくありそうだ。その光景を思い浮かべてみたら、少し笑えた。ご機嫌取りと言っても、元々は私が言い出したことではあるけれど、確かにそう見えるかもしれない。


 そこまで考えて、私は一つの覚悟を決めた。


「エレーセ、ハンカチと刺繍の用意をしてちょうだい」


 最終日の十日目に、私も殿下にプレゼントを贈る。間に合うように、頭の中で図案を考えた。


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