11.初日
「妃殿下、王太子殿下よりプレゼントが届いております」
「……え、ええ」
翌日、約束通りにさっそく届いた。破られるとは思っていなかったけれど、それでも本当に届くと緊張する。
そして、届いたそれに、目を見開いた。
「……花」
小さな花。庭師が植えて育てている立派なものではなく、その辺に自生していそうな野生の花。
それらが無造作にまとめられて、茎を一本のリボンでまとめられている。そして、その脇にはきちんと封のされた手紙が置かれていた。
「王太子殿下は何をお考えなのでしょう。プレゼントであれば、もっとそれなりの花を贈って寄越すものでしょうに」
エレーセの言いたいことは分かる。けれど、私は何も返さずに手紙を手に取った。このプレゼントに見覚えがあるから、何も言えない。
緊張して手が震えつつ、手紙を開いた。
『エナ、約束通り、最初のプレゼントを贈る。
エナと初めて会った日、君がかわいいと言って喜んで、俺が摘んだ花だ。リボンは俺が頑張って巻いてみたんだが、難しかった。下手ですまない』
もう一度、巻かれたリボンを見る。確かに歪だ。上手くいかなくて、それでも何とか巻いている姿が、容易に想像できてしまった。
『あの日のことを覚えてくれているか、少し心配ではあるけれど、でもエナは忘れていないような気がした。王太子妃に贈るものではないけれど、"エナ"に贈る最初のプレゼントは、これしかないと思ったんだ。
喜んでくれると、嬉しい』
「忘れてるわけ、ないじゃないですか……」
小さくつぶやいて、手を伸ばして花を手に取る。
よくよく見ると、長かったり短かったり、茎の長さも不揃いだ。手に取ったら、巻いてあるリボンが緩くて花はバラバラに落ちた。でもそれが、殿下自身の手でやってくれた何よりの証拠のように思えた。
こんなものが贈られてくるなんて、まったく想像もしていなかった。顔が、何だか熱い。
「……どうしよう、嬉しい」
初めて会った日のことが思い浮かぶ。あの時は、ただ純粋に嬉しかっただけだった。でも今はそれだけじゃない。
心臓のドキドキが、止まらなかった。




