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超常現象研究部は今日も気になります!  作者: はつひ
ファイル1・花の咲かぬ古木
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古き約束

  古木(こぼく)がゆらゆらと揺れてる。木の下で、ひとりの女子がいた。彼女は俺に向かってそっと手を振る。


  「見覚えがないな。俺に何の用?」と心の中でそう疑問に思いながら、思わず歩き出し彼女のもとへ行った。

  「君、私のこと見えるでしょう」嬉しそうに彼女が言う。

  「見えるけど。なんでそんなことを訊くんだ?」俺は首を傾げる。


  今日は変なやつばかり会って。


  「何してんだお前」鬼頭が訊いてくる。

  「見ればわかるだろう。この女子と話してるよ」

  「嫌だ、冗談なんてやめてくださいよ」四ノ宮がそう言って引いてる。

  「バカ言うな」鬼頭が呆れたような目線を俺に向ける。


  何言ってんだコイツら。その瞬間、ふと気づいた。まさか...


  「彼女らは私のこと見えませんよ。幽霊なんですから」微笑んでその幽霊が切り出す。


  それを聞いた途端、俺は脱力感を覚え尻餅をついた。なんの言葉もできなかった。


  「驚かせてごめんなさい。願い事が一つあって、聞いてくれませんか」悲しげに、その幽霊が言う。


  恐怖のあまりに、返事できなかった。


  「ずっと会いたい人があります。ずっと、ずっと、会いたいです」そう言ってから、我慢できなく泣き出す。


  (しずく)のような涙がボロボロと零れ落ちてる。その寂しげな表情を見ると覚えていた恐怖がさっと雲散霧消(うんさんむしょう)した。


  「その話を聞かせて」思わずそう言った。


  その幽霊は小林陽菜(こばやしひな)であった。20年前はこの神原高校の三年生だった。彼女には佐藤真司という幼馴染がいた。いつもそばにいたから、彼に対する気持ちをずっと気づいてなかった。気付いた時、もう卒業する直前だった。気持ちを伝えなきゃと思って、彼にこう約束した。


  「話があるから、放課後、校舎裏のあの木の下で」


  でも、あの約束が守れなかった。彼女は事故に遭って死んだ。


  「もう一度、真ちゃんに会いたいです」悲しさのあまりに、涙はもう涸れちまった。


  あの約束通り、毎日毎日放課後に校舎裏のあの木の下で待ってた。20年も同じようなことを繰り返してた。それでも、会えなかった。もう死んでるから。20年間、会いたい人の面影も姿も見たことなく、ただただ花の咲かぬ古木の下で虚しく待ってた。

  一度だけでも、あの人に会いたいって何度も何度も祈ってたけれども、願いは叶わなかった。一人だけ取り残されたようにこの世に寂しく彷徨(さまよ)ってる。

  話を聞いて、どうしても力になりたいと思って思わずこう口走った。


  「まあ、一応探してやってみようかな。探せるかどうかは分からないけど。保証はないな。もし探せなかったら、恨まないでよ」


  聞いて小林は希望(ひかり)が暗闇に差し込んだように目を輝かせて笑顔になって言う。


  「恨みなんてしません!ありがとうございます!」


  そして、俺は事情を四ノ宮たちに話した。


  「へぇ、すごいです!幽霊と会話できますなんて」四ノ宮は俺を褒めてくる。

  「そんなことどうでもいいから。まず、佐藤真司という人物はどう探すんだ」素直に褒めてきたために、ちょっと照れてて話題をそらす。

  「顧問の鈴木先生なら、力になれると思います」四ノ宮はそう提案してこの件について相談に行った。


  そして、土曜日の朝。俺は床の上に寝転んでる。

  鈴木先生に相談してから、早くも三日が経った。なんの消息もない。もう無理かもな。さすが20年前のことだし、佐藤真司という人が探せないのも無理はない。そう思ってるうちに、一通のメールがきた。四ノ宮からのメールだった。


  「鈴木先生は佐藤さんを探し出したんです。アドレスも手に入れたので、今日は佐藤さんのところへ行きませんか」メールはそう書いてあった。


  探偵か、あの50歳も超えた鈴木先生は?


  そして、身支度して朝ご飯を済ましたあと、「行ってきます」と言って家を出た。いろいろ思ってて待ち合わせ場所に向かう。あの二人また逢えたらいいなって。20年も遅れたあの古き約束だとしても、佐藤さんが逢いに行ったらいいなって。

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