選ばれたモノ
俺は振木秋矢、神原高校の二年生なんだ。あの事件以来、もう一ヶ月が経った。あの事件もう話したくはない。今日、回復した俺は学校に復帰することにした。「いってきます」と言って登校しようとする時、爺ちゃんに呼び止められ、御守りをもらった。
「これ、ちゃんと身につけろ」心配そうな顔をして爺ちゃんが言う。
わけがわからないけど、心配させないように俺は爺ちゃんの指示に従った。家を出て一人で学校に向かう。凶悪な顔をしてるために、友達なんていない。小さい頃からずっとこのままだ。現在、あの事件により、顔に切り傷の跡が残ってるから、友達をつくることなんてますます難しくなる。みんなは俺を見ると、ヤンキーだと思い込んで距離を取るじゃないかってぼんやりと思いながら通学路を歩いてる。
まあ、そんなことどうでもいい、どうせ一人ぼっちの高校生活なんてもう慣れたし。かと言ってもその響きはとても虚しく聞こえる。
一ヶ月ぶり教室に入り、自分の席についた。クラスメイトたちが俺の傷跡をチラチラと見ても誰一人も声をかけてくれなかった。
昼休み、俺は屋上に行ってそこで食事をする。
「いい天気だな」そう言って座ろうとすると、一台のスマホがあった。
「誰のものかな」スマホを拾おうとしたところにひとりの男子が扉を開けて屋上にやってきた。
慌てる様子からみれば明らかになにかを探してる。
「これ、君のスマホか」俺はスマホを彼に差し出す。この凶悪な顔立ちにすこし親切さを添えるように、俺は笑った。笑うこと少ないが原因かどうかは分からないが、俺は不自然に歪んだ笑みを浮かべた。顔はもっと怖くなった。恐喝しようとするように見える。
「ぼ、ぼ、僕のスマホなんですが、あなたに差し上げましても構いませんので、許してください!」ビビってるその男子がそう恐る恐る言って屋上から逃げた。
俺、そんなに怖いかな。そのスマホを後で職員室に届けようと思って俺は座って弁当を食べ始めた。突然、扉が再び開いた。彼が戻ってきたのかと思うとひとりの女子がやってきた。彼女は確か四ノ宮はるかというクラスメイトだった。彼女は俺に向かい、寄ってくる。
「振木さん、私は同じクラスの四ノ宮はるかです。あなたに話したいことがあります。でも、ここではちょっと言いづらいので、放課後、校舎裏にきてもらいませんか」上目遣いで、彼女が言う。
これは、まさかの告白!俺の春もついに来たということか!やった!
「まあ、いいけど」平然を装い、素っ気なく言う。
「ありがとうございます、振木さん」彼女は明るく笑い、去って行った。
そして、放課後、俺は校舎裏に向かう。彼女ができるって思うと、心臓がドキドキと高鳴ってる。落ち着け、俺!
校舎裏に到着したあと、暫くしてから彼女もやってきた。
「待たせてごめんなさい」彼女が言う。
「全然」彼女の姿を見ると俺の心臓が早鐘をうった。
「では、さっそく本題に。実はあの古木に超常現象が起きます」校舎裏のあの古木を指差し、彼女は真剣な顔で言い出す。
「超常現象は放課後にしか起きません。風がないのに古木が突然ゆらゆらと揺れ出したったり、古木のしたでうろうろと歩き回る足音がしたったりします。その上に、あの古木が20年前から花を咲かしたことがなくなったそうです」彼女は続けて言う。
え?告白なんかじゃないか!
「なんでそんなことを俺に?」不思議に思い、そう訊いてみた。
「だって、お前は選ばれたモノだ。あたしはお前に強い霊能力があるのを感じた。」分厚いメガネをつけてるひとりの女子がいきなり俺の後ろから声をかけてくれる。
「なんだコイツ!」びっくりしてつい大声を出す。
「紹介します。彼女は鬼頭冬実です。隣のクラスの生徒であり超常現象研究部の部員でもあります。あ、さっき言い忘れました。私は超自然現象研究部の部長なんです」四ノ宮が言う。
「俺は帰宅部の部長だから、用件がないのなら、俺は帰るぞ」超常現象なんて関わりたくない。手を振って身を翻して帰ろうとすると、左手が力強く引っ張られた。
「待ってよ、お前!これ、知りたくない?聖なる姿を人から隠し、読んだことある人がほとんどないくらいに極秘なXファイル!ねぇ、読んでみないの?」鬼頭は一本の分厚いファイルを取り出して突きつけてくる。
これは、Xファイル!?
分厚い聖なるXファイルを手にして、手が自然にぷるぷると震えだす。ぱらぱらとめくってみたが、字もなにもない!ただの白紙じゃないか!俺をバカにしやがって!
「へぇ!どうして白紙になりましたか?まさか、超常現象なんでしょうか?」四ノ宮は目を見開いて口を覆って驚く。
「あ、そうじゃなくて、部長。ただ、あたしは記録するのを忘れちゃってそもそもなにも書いていなかった」鬼頭は気まずそうに笑った。
なんてことだ!コイツらは絶対俺をバカにしてる!今度は何言われても足を止めないように決めた。
「俺、帰るぞ」そう言って帰ろうとしてるところへ不気味な物音がした。
囁くように木の葉のサラサラという音が聞こえてくる。風のない校舎裏に例の古木がゆらゆらと揺れ動いてる、物寂しき踊子の如く。