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第二部 第二十三章 誤解

 話も終盤に入ってまいりました。後、三、四話程度で終了する予定です。読んでくださった方、ここまでおつきあいありがとうございます!

 結局、あの件で大分時間を食ってしまった二人、一時間目、まるまるサボってしまうことになってしまい……。それも、二人同時のサボり、一緒に教室に戻ると周りに何を言われるか分からないからと、時間差で戻るという、安易といえば安易な小手先を利かせていったのだが……。

「おい、祥、サボって一体どこ行ってたんだよ」

「それも、神谷と同時だぜ。二人でなんかあったのか?」

「なんかあやしいなー」

 一方の、修子の方も、

「サボリ、だよね、修子。めずらしー」

「そうそう、かばんも置いてあったし」

「一体なんで? 偶然にも、柚月君もサボリだったんだよ」

「もしかして、二人一緒だったとかー!」

 そんな言葉が次々かけられて……。

 そう、そんな時間差攻撃ごときで皆を納得させるには既に遅く、あーだ、こーだ色々詮索される羽目になってしまい……。それに加えて、祥の背中の霊符。全くまるで修子を連想させるものだったから、その言い訳もあり、また、かなり小っ恥ずかしいその霊符の意味の言い訳も、予測どおり友人達にせねばならなかったものだから……。

 まあ、その点は色々大変といえば大変だったが、とりあえず表面は平和に、あの死闘など微塵も感じさせず、いつもと同じく時は過ぎてゆき……。

 そう、あれからどうやら意識を取り戻したらしい海斗。彼とすれ違うこともあったが、他の人たちの目もあってか、お互い何も無かったような顔をしたりなんかして……。

 そうして、そんな風にして、やがて授業も終わると、


 夕方、いつもより少し遅い時間。彩花は今日もいつもの如く、自宅にて夕食の仕度をしていた。だが、その胸の中は、

 ドキドキドキドキ。

 そう、一昨日帰ってからずっと平静を装っていたが、胸はドキドキのしっぱなしで……。勘ぐり過ぎもあるかもしれないが、何となく、兄がいぶかしんでいるような気もしたし、ばれたらどうしようという気持ちもあったし……。

 そのドキドキのまま、彩花は振り返ってチラリ壁の掛け時計を見る。すると、

 ああ、早ければもうすぐ帰ってくる時間だ!

 そう思うと余計緊張してしまって、できれば海斗と顔を合わせたくないと思う彩花なのだった。

 だが……時は残酷。そう、彩花の予想通り、大体いつもと変わらぬ時間に、海斗は帰ってきて……。

「ただいま……」

 とりあえず彩花の顔を見るのが習慣とでもいうように、海斗は居間へと顔を出す。だが……その声はどこか力ないもので……。それに彩花は疑問に思いながら振り返ると、

「おかえりなさい」

 といって海斗の顔を見る。すると、

 口元が切れ、少し痣になっているのを彩花は見つける。それに驚いて、

「お兄ちゃん、どうしたの、それ」

 すると、それに海斗は、

「いや……。ちょっとボールが当たってね」

 それが真実なのかどうなのか、彩花に判別はつかなかったが、その口調は、どこか曖昧に何かを誤魔化しているようにも感じるもので……。そして、それを示すよう、どこか暗い眼差しで海斗は目を伏せ、ぴたり口を閉じていって……。そんな彼を訝しげな表情で見つめる彩花。すると、その視線を感じてか、しばしの沈黙の後、何かを決意したよう海斗は顔を上てゆくと、

「彩花……お前……俺に隠してることは無いか?」

 その言葉に、どきりとする彩花。そう、そこには、どういう意味があるのだろうかと、判断に迷って。そして、

 もしかして、彼は何かを知ってしまった? それとも、それはただの気にしすぎ?

 悩みに悩んだ挙句、

「ん? 何? 特にそんなことは無いけど」

 とりあえず、打ち合わせしたとおり、すっとぼけてゆく彩花。だが、その言葉を聞いて、どこか海斗は切ないような表情をしてゆき……。そして、嫌々とでもいうように首を横に振ると、

「昨日、柚月祥と会ったんだよな。もう一度聞く、そこで何か、無かったか?」

 確信的な海斗の言葉。そう、そこまで言われれば、彩花も……流石に確信する。兄は完全に疑っている。でなければ何かを知っている……と。

 やはり、霊符のせいだろうか……。まだ事情が把握できてない彩花は、どう対処すればいいのか戸惑って、困惑する。そして、

「あ……」

 そういえば今日、ずっとメールのチェックをしていなかったことを思いだし、テーブルの上においてあった携帯を手に取り、画面を見る。すると、

 受信メールあり。

 それもかなり早い時間に。

 嫌な予感がした。そうして慌ててそれを見てゆくと、それは祥からのものであり……。

『成り行き上、黛先生に彩花ちゃんが前世を思い出したことを話すことになってしまった。ゴメン! それを頭に入れて行動してくれ。彼の君に対する気持ちから、何かをするということはないと思うけど……。もし何かあったらすぐ俺ん所に連絡くれ』

 体が、固まった。やはり兄は、知っている、と。

 すると、

「何のメールだ? 柚月からか?」

 そう言って、今までのやさしかった兄からは想像できないような、どこか怒りを含んだ形相で、海斗は彩花に近づいてくる。それはどこか恐怖を感じるもので、携帯を片手に彩花はずるずると後退りしてゆき……。だが、冷静さを失った海斗は全く容赦せず、

「そのメール、見せなさい」

「嫌! 駄目!」 

「見せなさい!」

 無理やり携帯を取ろうとして、揉みあいになる二人。だが、勿論海斗の力に彩花がかなう訳もなく、すぐにそれを取り上げられると、

「……」

 携帯の文を読んでゆく海斗。その目は画面に釘付けになっており、表情もどこか青ざめていっているような気がして……。そして……。

「やっぱり……」

 目が合せられず、顔をうつむける彩花。

「何故……何故お前なんだ。柚月でなく、おまえが……」

 思い通りにならない計画。思い通りにならない人生。その空しさに、今にも泣き出してしまいそうにも見える海斗の表情だった。そして、

「全て、思い出したのか?」

 すると、それにコクリとうなずく彩花。だが、

「また……裏切るのか?」

 その問いには心外で、え? といったように、困惑の眼差しで顔を上げる彩花。

「裏切るだなんて……」

「不義を働くのか?」

 やはり、どこか何かの歯車がずれているようだった。

 不義? 確かに過去、夫以外の人に恋心を抱いたのは、不義に値するのかもしれないが……だが……。

 そうして彩花は一呼吸置くと、

「現在は現在だよ。私とお兄ちゃんは兄妹。私は久門柊馬としてではなく、兄妹として、お兄ちゃんとして好き。それじゃあ、駄目なの」

 だが、それに海斗は、

「繰り返す運命、繰り返す……出来事。またも、今……」

 どうやら正気を失っているようだった。それに、やはりどこか怖いような思いを彩花は抱きながら、

「確かに私は祥君が好きだけど、お兄ちゃんも同じくらい好きなんだよ。前世でも、そうだった。体の弱い私をもらってくれて、やさしくて……。大体、私とあの人との間には何もなかった。全て私ただ一人の片思い。彼に何の罪もないの。確かにあの話はショックだったけど、すごく好きだったからショックだったけど……でも、彼のせいじゃない。私の心の問題。それにその時、私はお兄ちゃん……その時は柊馬さんだったよね。彼にずっとついてゆくつもりでいたから。そう、ずっと……。お兄ちゃん、何か勘違いしているよ。本当に何もなかったの。裏切る気持ちもなかった。確かに、心が他の人に移ってしまったことは、謝るべきだけど……。でも、過去は過去。だから……その心を解いて。今までの、優しいお兄ちゃんに戻って」

 だが、それに海斗は首を何度も横に振って。

「俺は海斗であって、海斗でないんだ。そんな……そんなことを言われても……」

「お願い。彼は本当に何も関係ないの。その恨みを解いて。彼への復讐の心を解いて」

「あくまで……奴とは何もなかった、と言い張るのか?」

「そう。あの時彼は私の心など何も知らなかった。ただ私が片思いをしていただけだった」

 その言葉にうなだれる海斗。

「それじゃあ、それじゃあ今までの自分は……」

 あの日記はあの日記の通り。

 疑惑も全てただの疑惑。

 本当に、勘違いだった……ということか?

 心で思い込んで、今まで色々策略を考えて、実際行動を起こしていって、自分は一体何をしてきたのだろうと、海斗は絶望に唇をかむ。

 すると、

「お願い。今からでも間に合う。彼への復讐をやめて」

 嘘だ、嘘だと、頭を振る海斗。

「今は兄妹だから、ずっと一緒にいることはできないかもしれないけど、芙美子さんは一緒にいるつもりでいたんだよ。私は芙美子さんの心も分かっている、政略結婚でも、芙美子さんはお兄ちゃんが大好きだった」

「信じられない、嘘だー!」

 そう言って家を飛び出してゆく海斗。

 そして思う。

 日記、そう、あの日記……確かにはっきりと不義について書かれてないが、裏切りの思いや行動が切々と書かれていたじゃないか!

 思い出せ、思い出せ!

 あの日記を読んだときの気持ちを!

 確かに彼女は政略結婚、気の毒に思う部分もあるが……。

 思い出せ!

 そう、全ては奴がいたばっかりに!

 ああ!

 心の限界を感じて、すがるような気持ちで、あれから移動させた、日記の埋めてある場所へと走る。それを彩花は、

「お兄ちゃん!」

 何か異変を感じて、慌ててその後を追う。

「待って、お兄ちゃん!」

 そうして、住宅街から市街地に入り、大きな道路に差し掛かった時。

 正気を失った海斗は、左右の確認もせず、その勢いのまま道路を横断し……。

 その時丁度右からやってきていたトラック。飛び出してきた海斗を何とか見つけ、急いでブレーキをかけるが、とても間に合わず……。

 バン!

 彩花の目の前で、車にはねられ、大きく体を宙に浮かせる海斗。それに、彩花は言葉も出ないほど呆然とし……。

 そして、その体がドサリという音と共に、地面に落ちてくると、それを確かめようとするかのよう、トラックから顔を青ざめさせた人物が慌てて降りてきて……。そして、恐る恐る海斗の様子を見つめると、

「と……突然、飛び出してくるものだから……」

 いい訳めいた言葉がその口から出てくる。だが、目の前の出来事はこれでもかという程現実を物語っていて……。逃れようのないその情景に、

「救急車……救急車を」

 呆然としたままそう言う彩花に、コクリコクリとうなずいてゆくその男性。そうして、それで糸が切れたように彩花はその場にガクリとひざまずくと……。

「お兄ちゃん」

 流れゆく滂沱の涙。

 私がいけなかったのか。私の言い方が、過去の行いが……お兄ちゃんを追い詰めて……。

 大量の血を流して道に倒れている、海斗を見つめながら、彩花はそう思う。すると、

 ゾクリ。

 不意に走る、意味不明の怖気。それは、倒れこむ海斗の方から発せられているような気がして……。そして、

「旦那様……旦那様……」

 悲しげな、女性の声が彩花の耳に響いてくる。

 そう、はっきり見えはしないが、何者か、恐らく女性の何かがそこにいるような気がし……。

 そして不意に思い出す、祥たちが話していた海斗の側近という悪霊を。だが、だとするとその悪霊、なぜかどこか懐かしさを感じて……。

 すると、

――奥様、今日もお隣へお出かけになるのですか?

――奥様、お体のこともありますし、あまりご無理をされては……。

 蘇った記憶にあった、とある言葉を思い出し、そしてその声も思い出し、不意にハッとしたような表情を彩花はする。そして、

「由香……さん?」

 もしかしてと、感じるままかつての使用人の名を言ってみる彩花。すると、それにその女性霊は、

「はい……奥様。お久しゅうございます」

 思ったとおりだった人物に、彩花は心からその事実に驚いて、

「あなたが……あなたが、黒幕になって、色々暗躍していたというの? 柚月君達を苦しめて! 何故、どうして!」

「忠誠、でございます。旦那様の望みは私の望み。旦那様を苦しめるものは、私の敵」

 あまりにもありえない、その言葉に唖然とする彩花。そして、湧き上がるのは、

「そんな……あなたは、お兄ちゃんを……」

 愛して……いる? そう、そうでなければそこまでは……。だが、

「忠誠、でございます。勘違いなさいませんよう」

 彩花の疑惑を遮断するよう、ぴしゃりと由香はそう言ってくる。そして、

「旦那様が奥様と結ばれるのが望みであれば、それは私の望み、復讐とあればそれもまた私の望みだったのでございます」

 そう言って言葉を切り、無言になる由香。そう、それは何ともいえない沈黙であり……。

 もし、彩花に彼女の姿が見えたとしたら、きっと悲しみの眼差しで、海斗の姿を見つめている彼女がいただろう。確かに……確かに彩花には、ぼんやりそこに何かがいるようにしか感じられなかったが、きっと、そんな眼差しの彼女がいるように思えて……。

 そうして、やがて聞こえてくるのは救急車のサイレン。

 やってしまったことに恐れを見せながら、まだかまだかと彩花から離れ、救急車の来るのを待っていたその男性。聞こえてきた音に気付いて慌てて現場まで戻ってくると、

「救急車、来たみたいですよ」

 そう言って、その音の方に向かって、おーい、おーいと手を振りだす。

 そうして救急車は事故現場で止まると、すばやく救急隊員達が降りてきて、海斗に応急処置を与えてゆく。そのうち、あの男性が連絡したのだろう、パトカーのサイレンも聞こえてきて、自分は一体どうしたらいいのだろうかと、そちらの方もあの男性に任せていいのかと、これからのことにあたふたと戸惑っていると、

「ご家族の方ですか?」

 救急隊員にそう声をかけられ、それに彩花はコクリとうなずく。すると、

「では一緒に乗ってください」

 隊員の言葉に彩花はうなずき、海斗と共に救急車に乗って、そこから出発していった。

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