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第一部 第二章 出会い

 ああ、ここがこれから通う私の高校か……。

 そう、それはこの高校に入学した初日のことだった。薄紅色の桜の花びらが舞う美しい季節、修子は感慨深げにそう思いながら、高校の門をくぐったのだ。そして気分も良く、自分はどのクラスなのかまず確かめようと、クラス分けの掲示板をのぞいてゆくと……。

 しばしの時の後、ようやく見つけた自分の名前。そう、それは、

 ふむ、自分はF組か……。

 だが……。

 そんな心の平穏もつかの間、心の中でそのクラスを今一度噛み締めた瞬間、不意に背後に感じてくるのは……。

 霊の気配。

 それもなんと悪霊の。この学校、そんなに悪い霊はいなさそうだと安心していた修子だったのに、いきなり入学の時からそんな気配を感じて、思わずげんなりしてしまう。そして、恐る恐る振り返ってみると……そこにいたのが彼、柚月祥ゆづきしょうだったのだ。大勢の生徒達の中、どうやら中学の時の友人か誰かと一緒で、共に掲示板を見上げながら、彼も自分のクラスを探しているようだった。

 そうして、その友人と話をしながら、やがて彼の口からこぼれてきたのは、

「F組だ、俺、F組だ」

 お……同じ……クラス……。

 めでたくも悪霊憑きと同級生になった修子、ショックと共に、一体どんな奴かと気を張り巡らせてみると……。

 ふむ。

 その限り、悪霊憑きに特有の邪悪さのようなものは感じず……。

 これは、珍しいな。

 そう、どうしてだか分からないが、憑いていながらも、悪霊は息を潜めているようだった。それを悟って、修子は思わず感心するが、だが、それより何より驚いたのは……悪霊以外についている普通の霊の多さであり……。

 一体なんなんだこいつは。

 ついついそんな思いになってしまう修子。

 そしてその思いから、まじまじと彼の顔を見つめてしまっていると……。まだクラスが見つけられないらしい友人について場所を移動しようとしていた彼、その彼がふと修子の視線に気がつく。そして、なんで、どうしてとでもいうよう、不審に眉をひそめ、

「な……に?」

 これだけまじまじと見つめていれば、当然とも言っていい問いかけ。だが、見つめることに集中して、普通の意識はどこかに飛んでしまっていた修子、その問いかけは突然に感じられ、思わず動揺すると、

「お前……寒気がするとか、ないか?」

 修子の力ゆえ、見えてしまった今現在の彼の状態。

 これでもかというほど体に霊を取り込み、悪霊も取り込んでいながら、なんと、霊感はゼロという。

 あまりの驚きに、つい言葉にして尋ねてしまった修子だったが……。

 それに祥は訝しげな表情をしながら、

「いや、別に?」

「何か、自分じゃないモノが体にいる感覚とか?」

「……へんなこと言うなぁ、ないよ、そんなこと」

 唐突におかしなことを尋ねてきた修子に疑問なのだろう、更に訝しげな表情を深めて祥はそう言ってくる。

 だが、これだけ憑かれていながら、この無頓着。やはり、霊感ゼロゆえのことかと、修子はそう思って呆れたようにため息をつくと、

「じゃあ、最近どこか体調が悪いとか?」

「ううん、ない」

「対人関係とか何か、生活がうまくいかないとか?」

「うーん……特に、ないと思うけど……」

 それに修子は腕をくみ、

「そうか……」

 やはり、感じた通り何故か悪霊は取り憑いていながらも、息を潜めているらしい。理由は分からないが、とりあえず今は問題ないらしいことで、修子はこの話をするかどうか悩んでいると……。

「ってか、お前、何?」

 初対面だというのに、色々不思議なことばかり聞いてくる彼女に困惑して祥は言う。確かに、知らない者にいきなりこんな質問を矢継ぎ早にされれば、そんな思いにもなるだろう。

 ようやくそれに思い至り、ああそうだと修子は、自己紹介をしてなかった自分に少し反省の気持ちになると、

「私は神谷修子。お前と同じクラスだよ、よろしく」


 それから教室へ入っても、彼にこのことを告げるかどうか修子は悩んでいた。

 現在の状況や、張り巡らせた気から、どうやら彼は霊を呼び、中に取り込みやすい体質であるらしいことが察せられたから。今は大丈夫だが、何かの拍子で他にも悪い霊を取り込んでしまうかもしれない。その内息を潜めている悪霊が動き出すかもしれない。少し心配もあって忠告したい気持ちもあったのだが……霊感ゼロの人間に、突然霊の話などしても、簡単に信じてもらえるかも分からず……ついそのままになってしまったのだった。

 そして、オリエンテーションも終わり、入学から数日が過ぎると、希望の部活、陸上部へと修子は入っていった。すると、

「え」

「あ」

 初顔合わせの場で、ばったり出会う二人。

 そう、なんと偶然にも祥も同じ部活だったのだ。

 縁というかなんというか、ここまで一緒ということに驚く二人。

 そして、ならばやはり伝えた方がいいのかと、修子は悩み……とりあえずは、霊の存在を信じているかを確かめなければと、とある言葉を切り出していった。そう、そのとある言葉とは、

「お前、霊を信じるか?」

 直球である。

 すると、それに祥は、

「は?」

 今では修子の霊感少女っぷりは有名だが、その時はまだ知られていなかったってのもあり、

「霊? 霊ってお化けのこと?」

 そう言って、少し馬鹿にしたような笑いを祥はこぼしていったのだった。

 そう、どうやら彼は……。

「ふむ……信じないか……。本当に存在するのだがな」

 半ば予想していた反応に残念に思いながら、思わず修子はそう呟く。すると、

「……」

 どこかその言葉に嫌悪感を示すように、少し顔を引きつらせてゆく祥。霊への嫌悪、それは分かる。だが、それ以外に何かがある様な気がして、彼の反応に、とある疑惑が修子の胸に湧きあがってゆき……。

 そう、怯えを隠している……? と。

 そして、その疑惑により、結局修子は彼にそのことを言うことはできなくなってしまい、そのまま放っておくことになったのであった。

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