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第二部 第七章 霊の語り

な……長いです……(汗)

 そして翌日。昨日のことを胸に、修子は霊符がちゃんとカバンの中に入っているか何度も確認すると、どこか緊張の面持ちで部活へと出かけていった。

 だが、既に心はここにあらず。修子の気持ちは練習を通り越し、もう祥の中の霊達へと飛んでいて……。

 そうしてやがて学校に到着した修子、教室で着替え、必要なモノを持って校庭に出ると……そこには、既に何人かの人間がおり、準備運動をしたり、座って会話を交わしたり、どこか和やかな空気の中で練習が始まるのを待っていた。その中には祥の姿もあり、修子は決意も露に彼へと近づいてゆくと、近くにおかしな霊がいないことを確認して、

「今日、練習が終わったら、時間あるか?」

 ついこの間を思わせるような唐突さで、祥にそう問うてゆく。するとそれに祥は、嫌な予感が過るよう、どこか怪訝な顔をして……、

「まぁ、暇といったら、暇だけど……」

「じゃあ、練習後、2ーCの教室で。ちょっと話がある」

「は?」

 やはりこれは、この前と同じような……唐突さ。それにまたかよと思いつつも、何とかそれを抑え、怪訝な表情の方だけ深めてゆくと、

「は? じゃない。暇なら決定。練習終わったらすぐ、来るんだぞ」

 祥の意志などどこへやら。勝手にそう言って、勝手に約束して、これでもういいだろう、とでもいうように、ニコリ、口元に笑みを浮かべてゆく修子。そして、

「では、以上」

 それだけ言って、さっさとこの場から立ち去ろうとするものだから……、

「ま、待てよ。話って、何?」

 了解しつつもそれでは納得がいかないと、思わず祥は修子にそう問いかける。そして、

「もしかしてこの前の、俺の中のれ……」

 だが、そこまで言った所で、突然がばっと、またも何者かに口を押さえられる感覚にとらわれる祥。そう、当然のことながら、修子の仕業である。

「話って言ったら、話なんだよ。いい加減悟れ、ぼけ!」

 話せないことを中々察してくれない彼に、苛立たしげにそう言って、押さえていた手をゆっくり離す。そうして、今度こそはと修子はその場から去ってゆき……。

「……」

 呆然とそれを眺める祥。だが……。

 周囲には、好奇の眼差しで二人のやり取りを眺めていた何人かの男子部員がいた。それに気付き、祥はどこか恥ずかしいような思いになりながら、

「べ、別に、そういう関係って訳じゃ……ない……ってゆうか、なんてゆうか……まぁ、その、色々……」

 何だか墓穴を掘ってるようにも感じられる、そんな言葉を発しながら、どこか照れたようにその場を誤魔化してゆく祥なのであった。


 そして練習後、野暮用で少し時間より遅れてしまった祥、慌てて着替えて2―Cの教室へ行くと、

「遅れてごめん!」

 扉を開けるなり、修子がいるいないに関わらず、頭を下げてそう謝りの声をあげてゆく。そうしてしばし頭を下げていた祥だったが、ゆっくりそれを上げてゆくと、

「……ふむ」

 やはりそこにいた修子。だが、それに対して修子は、いつもの通りの涼しげな表情をしており……そう、その様子から、どうやら怒っている訳ではないらしく、呆れている訳でもないらしく、待っていてくれたことも含め、とりあえず、よかった……と祥は胸を撫で下ろしてゆくと、

「ほんっと、遅れてゴメン。先輩にちょっと頼まれごとしちゃって……」

 遅れたことへの言い訳をしてゆく祥。そして、またもや、

「でも、話って? やっぱ、俺の中のれ……」

 などと言い出すものだから、

 ぼかっ!

 その瞬間、祥の顔面を強烈なウエスタンラリアットが襲ってゆく。それは当然も当然、修子のものであり……。

 思わず床にうずくまり、顔を押さえる祥。そして、いてーよ、何すんだよと、ぶちぶち文句を言っていると、

「ったく、お前は。ここまでやってもまだ気がつかないのか!」

 とうとうウエスタンラリアットまで繰り出してしまった自分。それでもまだこれがNGワードだと気付かない祥。いい加減あきれ果て、修子はどこか冷ややかな目で彼をチラリ見ると、まだ気がおさまらぬようドスドス荒い足音を立てながら、教室の四隅に、昨日もらった霊符を両面テープで貼り付けてゆく。そして、それぞれに印を結んで真言を唱えると、

「さあ、これでOK。何話してもいいぞ」

 それに祥は困惑して、

「何話してもって……」

 今までは駄目だったのかと、まだ分かってないような言葉を言う祥。それに修子はため息をつき、

「どこに敵の目、耳があるか分からないってことだ」

「敵? 目? 耳?」

 更に困惑した表情の祥。今はまだ何も知らないのだから、まあ当然といえば当然なのだが……。それにしても鈍感すぎると思いながら、修子はコクリうなずいてゆくと、

「そう。お前の予想通り、私はこれからお前の中の霊達に、話を聞いてゆく。そこから、もしかしたらお前にとってショックな話が語られるかもしれない。私からも語らねばならないかもしれない。それで、お前が言おうとした言葉がもれないよう、私が必死で遮った意味がきっと分かるはずだ」

 だが、それに祥は、

「うーん……」

 これから語ること、それは相当な覚悟が必要だというのに、まだどこか、他人事のような表情をしている。だが、まあ今の彼ならそれも仕方がないと修子は自分に言い聞かせてゆくと、思わずといったようフッと口元に笑みを浮かべ、

「じゃあ、椅子に座って。私が真言を唱えた後、中の霊に語りかけてみて」

 コクリとうなずき、それに従って祥は椅子に座ってゆく。そして、それを見て修子は真言を唱えてゆくと……。

「さあ、中の霊に語りかけて」

 すると、またもや合宿の時のように、「おい……」と、おずおずとした感じで霊に語りかけてゆく祥。この前言っていたように、恐らく中の霊に話しかけるのはあれ以来のことなのだろう、声の調子にどこかためらいの色が見え隠れしている。そして、しばらくすると……。

「何の……用……だ」

 祥であって祥でない者の声が彼の口からこぼれる。感じる気から、どうやらこの前のあの霊のように思われるが……だが……。

 この状況で、祥本人は大丈夫だろうか……。

 そう、これから話を色々聞くことになるのだが、そうする前から、彼は既に困惑の色なんぞ浮かべているものだから……。流石に少し勝手が分かったのか、ああだこうだと口に出してはこないが、やはり対処に困るのだろう、どうしたらいいのか分からないといったような表情をしていて……。とりあえず、任せるままに身を任せ……の、以前の言葉に従っているようだが……。

 それに修子は一応シッと、彼自身は黙っていることを示唆すると、

「聞きたいことが色々ある。以前はこれ以上話せないと言っていたが、もっと知りたい。それは可能か?」

 それに、しばし沈黙する祥の中の霊。そして、

「このまま……では……駄目……だ……。彼……にも……霊符……を……」

 その言葉を聞いて、修子はドキリとした。もしかして祖父の家で語ったことが本当に当たってしまったのかと、そう思って。そう、彼自身に霊符、ということは、彼の中の悪霊にも封印を、という意味にもとれ……。

 それについてすぐにも霊に聞いてみたい気持ちになる修子だったが……だが、とりあえず今は余計なことを言わない方がいいのだろう。心はうずうずとしていたが、それを堪えて修子は霊符を一枚取り出すと、彼の背にそれを貼り付け、ブツブツと真言を唱えてゆき……、

「どうして、どうして彼にも霊符を? まさか……中のアレが何か関係して……」

 それに、コクリとうなずく祥の中の霊。

「それ……で、この前……あれ……以上……はな……す……ことが……できなか……った」

 ドキドキと高鳴る胸。嫌な予感が、修子の胸をグルグルと黒く渦巻く。そして、

「今は……大丈夫なのか?」

 コクリとうなずく祥の中の霊。

「だが……既に……手遅れ……かも……しれ……ない」

「手遅れ?」

「アレ……は、交信……してい……る。これら……の……黒幕……と」

 黒幕、と聞いて修子の背に悪寒が走る。以前聞いたあの言葉、そう、周囲の者に気をつけよ、を思い出して。黒幕とは、その者なのだろうか? その真偽を問いたい気持ちになって、まさしくその言葉をを言おうとした、その時、

「ったく、アレってなんだよ、アレって。前もそういっただろう!」

 祥本人が、もう耐え切れないといったように大声で疑問を吐き出してくる。

 それで思い出す、彼に伝えねばいけないこと。そう、今までの気持ちを引きずって、つい悪霊をアレと言ってしまっていたが……彼は悪霊憑きであること、それも伝えねばならないのだ。

 きっとショックだろうことを思うと口が重たくなるが、それを振り払うよう修子は一つ大きく息を吐くと、

「柚月……おまえに言わなきゃいけないことがある」

 するとそれに、キョトンとした表情をして祥は修子を見つめてくる。そして、

「言わなきゃいけないこと?」

 祥のその反応に、修子はうなずくことで答えを返すと、

「そう、今まで言わないでいたが……」

 そこで、少し間を空ける修子。そうして、思いきったように、

「お前には普通の霊以外にも憑いているモノがいるんだ」

 真摯な修子の眼差し。すると、それに何か嫌な予感がしたのか、祥は表情をゆがめると、

「普通の霊以外って……普通じゃない霊?」

 こうなったらもう笑うしかないと、にっこり笑って、修子はコクリとうなずく。すると、祥は途端に青ざめた顔をして、

「普通じゃない霊って言ったら……あれしかないじゃないか!」。

 怖いからか、はっきりとその言葉を出さなかったが、いいたいことは修子に十分伝わった。なので、

「その通り。おめでとう、お前は見事な悪霊憑きだよ」

 微笑みのままそう言う修子。それに、祥は冗談じゃないとでも言うよう表情をゆがめ、

「お、おめでとう……って。じゃあ、やたら体の調子が悪くないかとか、不幸な出来事が続かないか聞いていたのは……」

「それはおまえが、悪霊憑きだから」

 当然とでも言いたげに、修子は妙に胸を張ってそう言う。

 だが、どうやら祥はまだ現実が信じられないようだった。その言葉を否定するように、首を嫌嫌と横に振っており……。

「それって、冗談じゃあ……」

 しつこく食い下がってくる祥。

「だって、体の調子なんて悪くないし、不幸な出来事も特にないし、確かに、霊障みたいなのはあるって言ったけど……って、もしかしてあれ、悪霊の仕業だったのか?」

 するとそれに、修子は首を横に振り、

「私は、霊障は普通の霊達の仕業じゃないかと思っている。でもそうすると……不思議で仕方がないんだ。憑いているのに、悪霊は何もしてこない。じっと息を潜めている。まあだからこそ、霊障は普通の霊達の仕業と思っているんだが……」

 考え込むように、顔をうつむける修子。すると、不意に、

「確かに……霊……障は……我々……が、やった……。だが……悪霊は……全く……息を潜めて……いる訳……では……ない」

 またもや、自分の意志とは別に動いてゆく口、それに祥はおののいて、

「これって、一体どうすれば……」

 自分ともう一人の誰か。勝手に出てくるその誰かに混乱して、そして話の内容にも混乱して、思わず祥はそう呟く。すると、それに修子は再びシッと人差し指を口に持ってゆき、

「つまり、おまえはそう言うことなんだ。それを認識して、後は黙って聞いてろ」

 その言葉に、再びコクンと縦に動いてゆく祥の首、だがそれは……動きが少しぎこちないところから、やはり、中の霊がやっているようにも見え……。

「分かったよ……」

 渋々ながらそう言って、今度は自分自身でうなずいてゆく祥。

 そうして、話の続きを聞く為か、祥は姿勢を正して沈黙すると、

「悪量……は、ずっと……観察して……いる。彼の……行動……を。そうして……それ……を、黒幕……に、伝えて……いる」

 続く祥の中の霊の言葉。だが、それは祥にとって衝撃だったらしく、

「げっ。行動、全部かよ。冗談じゃねー」

 さっきの言葉も忘れて、思わずそんな言葉がこぼれてしまう。

 そう、自分の人生、生活全て、過去全くクリーンだった人間など、そうはいないのだろう。恥ずかしいようなこともあれば、あまりキレイでないことも、ある。類に漏れず彼も……だったようで、心からふざけるなとでも言いたげな調子で、言葉を発してくる。そう、それは確かに……気の毒なこと。だが、今はそんなことにいちいち構っている暇はないのだ。なので、すまないと心で思いながらも、修子は今日三度目のシッを祥に向ってすると、

「心配……は、いら……ない。大体が……あちら……の、望む……情報のみ……重要……な……ことを……報告する……程度……だから」

 祥の中の霊が、彼を落ち着けるためか、そんなことを言ってくる。

 それで気になる交信方法。

 修子はそれを尋ねると、

「電波……のよう……な、モノ、だ。彼の……中……に……いる……悪霊……の、特殊……能力……。黒幕……の……側近……の……悪霊と……やって……いる」

 その言葉に、修子は驚いたような表情をして、

「側近の、悪霊……。その黒幕には、そんなものまでいるのか……」

 コクリとうなずく祥の中の霊。

「その黒幕ってのは……一体……。生きた普通の人間なのか? 以前、周囲の者に気をつけろ、と言っていたが……」

 先程言おうとして遮られた言葉。それを今一度口に出してみる。すると、またも祥の中の霊はコクリとうなずいてゆき……。

「確信……は……ない……が……。恐らく……そう……だ……ろう……。それが……誰かも……大体……見当が……ついて……いる」

 思わず、ごくりと唾を飲む修子。そう、段々核心に近づいてきていることを、その言葉から察して。そして、少し緊張しながら、修子は、

「一体……誰なんだ?」

 すると、少しの間を置いた後、祥の中の霊は、ゆっくり、

「黛……海斗……」

「黛海斗―!!」

 修子と祥、あまりの驚きに、思わず二人して声を合わせて叫んでしまう。

 そう、それは全く、予想していないことだったから。

 もしかしたら、彼の母親かもしれないなどと、思っていたが……。だが……。

 信じられなかった。修子達にとって黛海斗、つまり顧問は、ただの、本当に普通の教師にしか見えなかったから。だから、

「また一体、何で……」

 その気持ちから、思わずそんな言葉がこぼれる。すると、

「それは……我々にも、わから……ない」

「でも、黒幕と言うのだから……もしかして今までの件は、全てにつながりがあるのか? そしてその影には黛先生がいると? 柚月自身や家の悪霊、母親、合宿のことに!」

 コクリと、深くうなずく祥の中の霊。

 それに、更に訳の分からない気持ちになって、修子はため息のようなものをつく。そして、気を取り直し、

「あの悪霊は、やはりお前たちより前からいた霊なのか? それ故、弾くことが出来なかった、と?」

 悪霊は、一度取り憑いたら中々離れることはない。前からいたのなら、確かにもうどうにもならないだろうと、修子は尋ねる。

 するとそれに祥の中の霊は、

「そう……だ。だから……彼が……送りこんだ……のか……までは……わから……ない。以前から……いた霊から……少し……話は……聞いている……が……。入ってきた……時期……と……最初から……その者は……息を潜めて……いた、ぐらいしか……。黒幕……の、存在も……しばらくは……誰だか……分からなかった」

「いつ……分かったんだ? 彼が黒幕と」

「柚月祥が……初めて……黛……海斗、と……であった、時。つまり……高校に……入って、からだ……」

「会って、分かった、と?」

「そう……。彼の……中の……悪霊と……交信……している……悪霊の気、の……残り香が……わずかに……した。その時……は、もしかして……だったが……、注意……深く……観察……している……うち、に……確信……に……近いもの……が……出て……きた……」

 悪霊の残り香……だが、修子は気がつかなかった。そう、黛海斗はやはりただの黛海斗で……。どうやら、それほど微量な残り香だったということらしい。時間の経過とともに薄れていっていたのか、それとも故意に気配を消していたのか……。どちらかは分からないが、もし後者だとすると、相手はかなりの力の持ち主と考えられ……。

「黒幕が誰だか分かっていること、向うは知っているのか?」

「それは……不明、だ。だが……この前の……合宿のあれ……で、もしかしたら……分かって……しまった……かもしれない……」

 合宿のあれ……そう、それは恐らくあの言葉、

 周囲の者に気をつけよ、

 だろう。

 だが何故、何故自分の手の内を明かすようなことを霊はしたのか。忠告は確かにありがたい、だが、今のこの状況であの言葉は、敵に要らぬ情報を与えるだけ、余計な勘繰りをさせるだけ。そう、そこまでする必要があったのか……。あの時は分からなかったが、少し事情を知った今、更に訳が分からなくなり……。そして、その困惑のまま、修子は……、

「あの時は……状況が全くわかっていなった。ただ言葉に疑問を持っていただけで……。だがこうなると、一体どうして、あの忠告をしてくれたのか……」

「知らない……ことでの……危険を……感じた……から、だ……。彼の……真の……意図……は……わから……ない、が……あの時……少し……ことが……動き……始めた……ように……感じた……。それで……危機感を……持って……もらう……ために……名前を伏せ……わざと……言った。こういう……状況を……作って……くれ……ることを……望んで……いたの……かもしれ……ない」

 何かが少し動き始めた……にドキリとする修子。そう、今まではただ息を潜めているだけだった悪霊、その存在はただ謎なだけであったが、こうなると……。全てにつながりがあるのだとしたら、もしかしたらその悪霊もと思い、

「それまで悪霊の役割は、柚月の行動観察程度だったように思えるのだが……。事が動き始めたということは、それらの行動も違ってくると、いうのか?」

 だがそれに、否定するよう、首を横に振ってくる祥の中の霊。

「いや……その前に……大事な……事が……。これ……も、我々……の推測……なのだが、母親が……」

 そうだ、それもあったのだ。悪霊に憑かれているのは彼だけではない。母親もなのであった。そして、母親の件も黛海斗と関係があるというのなら……。

「やはり、母親も彼が?」

「彼女……も、私……が気付いた……時には、既に憑かれて……いた……ので、なんとも……いえない。が、恐らく……そう……だろう……。目的も、あの合宿で……なんとなく……見当……が……ついた……が……」

「あの合宿で?」

「そう……。柚月祥……には、特殊な……能力……が……ある」

 その言葉に修子はコクリとうなずき、

「ああ、霊を取り込みやすい、だろ」

 だが、祥の中の霊はまたも首を横に振り、

「それも……ある、が……今……は……その……能力……について……ではない」

 それに、何?という気持ちになる修子。そして、

「他にも特殊な能力があると、いうのか?」

 その言葉に、コクリとうなずく祥の中の霊。それに修子は眉をひそめていると、

「彼は……取り憑かれて……も、操られる……ことが……ない。霊は……彼を……操れない……そういう体質に……なって……いる」

 初めて聞いた、ことだった。そう言う体質の人間がいるということは聞いたことあるが、まさか彼がそうだとは。だが、それだと彼らの言葉と過去の出来事に矛盾が出てくる部分もあり……。

「だが、合宿所では、操られていたぞ。意識までは乗っ取られてなかったが、あの女性霊の影響を受けていた」

 それに、またもコクリとうなずく祥の中の霊。

「だからこそ……驚き……われわれ……は……更なる危機感……を持った……のだ。そして……母親……の役割……を……察した」

 ゴクリと唾を飲む修子。そして、

「その役割、とは?」

 一呼吸分、時が空く。まるで、修子に心の準備の時を与えるかのように、そして、その一呼吸分の時が過ぎると、

「彼の……体質……を変え……操れる……ように……する……こと……」

 ドクンと、心臓が鳴る。

 彼の母親、彼女に会った時の違和感を思い出したからだ。そう、まずは悪霊つきということ。そして……。

 それから少し考えた風を見せる修子。まさか、本当にそんなことができるのかと訝しがりながら、少ない彼の母親の記憶をたどって……。

 何かヒントは……何かヒントは……

 そして、必死で探してゆくと、ふと思い出した、彼女の少し行きすぎとも思えたあの行動。それに、修子の霊に対する知識がシンクロして、

「まさか……まさか……」

「その……まさか……だ」

 すると、それに恐らく祥自身の感情なのだろう、彼は少し困惑したような表情をすると、

「母親が、一体なんなんだよ。何か……あるのか?」

 心臓が更にドクドクと脈打つ。

 落ち着け、落ち着けと、修子は自分に言い聞かせる。そして、

「柚月……。お前の母親の自然派志向は……いつからだ」

 それに祥はうーんと悩み、

「よく覚えてないけど……小学生の半ばくらいにはもうそんな感じになってた気がするな……」

 思わず、無言になる修子。そして、

「昔からの、元々の嗜好って訳じゃ……ないんだな」

「多分……。途中からぐらいだったような、気がする」

 やはり……と胸に過った思いが確信に変わってゆくのを修子は感じる。そして、意味ありげに、祥を……いや、祥の中の霊を見つめると……それを霊は察したのか、

「私が……彼の……中に……入った……のは……もっと……後……だ。さっきも言ったが……その時には、母親は既に……。以前から……いた霊に……よると……彼が憑かれた……のと……ほぼ……同時期……だそう……だ」

 この霊が祥の中に入る以前から彼女は悪霊に憑かれていたと、それも憑かれたのは祥と同時期! ならばやはり全てにつながりがあるという話、それにも信憑性が出てくると、修子は納得してゆく。そして、更に修子は祥の中の霊に質問してゆこうとすると、

「あー! もう、訳わかんねー!」

 修子と祥の中の霊とで進む会話。置いてゆかれた気持ちになったのか、祥は不意にそう叫ぶ。

 そして、それを聞いた修子は……。

 ああそうだ、これも彼に伝えねばならなかったのだ。知らないまま聞いていれば、確かに訳のわからない会話になるだろう。なので、少し心痛い気持ちになりながら、修子は、

「柚月、なるべく母親の作る料理は食べるな。飲むな。添加物とか、中でも人工物とか使われた、体に悪そうなものを食べろ」

 体に悪そうなものを食べる……普通、忠告するとしたら、その逆だろう。あまりにも矛盾したその言葉に、祥は訝しげな顔をすると、

「何でわざわざ体に悪いもん食わなきゃなんないの。家にあるの、自然派ばかりだぜ。それを無視して添加物??」

「そうだ。いいか、よく聞け」

 そこで修子は自分を落ち着かせるよう、一呼吸置く。そしてゆっくり、

「お前の母親は悪霊に憑かれている」

「え……」

 想像もしてない言葉だったのだろう、祥は訳が分からないようにキョトンとした表情をしている。だが、修子は構わずに、

「お前のように、息を潜めているんじゃ、ない。しっかり活動している悪霊、だ」

 すると、ようやく事情が分かってきたのか、信じられないような表情で、またも嫌嫌と祥は首を横に振ってゆき……、

「ま……まさか」

「まさかじゃない、真実だ」

 その言葉に、衝撃を受けたよう言葉をなくしてゆく祥。そして、

「でも……。それがほんとだとすると、母親は母親じゃないってことに? あれは悪霊で……」

「いや……私が会った時は意識まで乗っ取られてはいなかった。母親は、母親だろう。だが……悪霊から何らかの影響を受けていると、考えた方が……」

 すると、それに割って入るように、

「いや……時々……全て乗っ取られて……悪霊そのもの……に……なっていた……。それは……必要な……時……のみだけ……だが……」

 霊の言葉。そう、更に事の深刻を示すような……。それに、思わず修子はため息をついて腕を組むと、相変わらず訳が分からないといったように、祥が、

「悪霊が憑いているけど、母親は母親って、どういう事だよ、俺と同じって事か? 憑かれてても、別になにもない、と……」

「だから、お前と一緒ではない、何かの影響を受けているんだ。いいか、もう一度言う、なるべく母親の用意するものは食べるな、飲むな。後は普通に接すればいい」

 それに眉をひそめる祥。そして、だからそれが分からないんだとでも言いたげに、ムッとしたような表情をすると、

「普通でいいっていったって。朝食とか、昼食の弁当とか、夕食とか、無理だよ。それを食べないなんて、不自然すぎるじゃないか! そこまでする金だって、ないし……」

「できる限りってことだ。後はお前次第」

「俺次第? 俺次第で何かが変わるのか? 一体何が変わるんだよ。ってか、一体、何で?」

 鈍感な彼。どうやら、まだ訳が分かっていないらしい彼に対して、修子はあー! という気持ちになると、

「お前の母親は、確かに母親だが……お前のこの前のカップラーメンのように、無意識下で操られているんだ。あの食事の趣味は、本人は自分自身のものと思っているだろうが、あれは悪霊が操作しているもんなんだ! さっきも言ったように、お前は特殊な能力がある。悪霊が息を潜めているのは、おまえを操れないから、きっとそのせいじゃないか、と」

 それに訝しげな表情をしながらも、成程と小さなうなずきをしてゆく祥。だが、まだ分からない部分はあるようで、

「で、それと食事との関連性は?? それがさっぱりわかんねー」

 それに修子はコクリとうなずき、

「霊は……自然のものが好きなんだ。人工物より、はるかに。悪霊に憑かれたお前の母親が、自然食にこだわる……。何かがあるように思えて……というか、ほぼ確実に……」

「そう……だ。はじめ、私も……分からなかった……のだが……あの時の合宿で……分かった……。そうすること……つまり……自然のもの……ばかりを……食べさせること……で……彼の……体質……を変え……、霊の住みやすい……場所を作り……操れる……ように……しよう……と」

 すると、またも割って入ってくる、霊の言葉。それに、祥は唖然として……。

「俺が、霊に操られる……」

「そう、実際操られていたしな、カップラーメンの件で」

 その言葉にばつが悪いような表情をする祥。そして、そんな彼を修子は横目で見ながら、

「しかし、何故合宿で分かったんだ?」

「これ……も推測……だが……。あの……一連の……出来事……を……振り返れば……明らか……だ。黛海斗は……彼女を……彼に……乗っ取らせ……、どの程度……操れる体質に……変わったか……調べたのだと……思われる」

 それを聞き、成程と思う修子。だが……そうなると、湧き上がってくる疑問もあり……。そう、ならなんで、霊達は彼女を中に入れたのか、と。不審に気付いていながら、そんなことを。すると霊は、修子のその疑問を察したのか、

「最初は……何も分からず……警戒して……彼女を弾いた……。悪霊では……なかった……が……たちの良い……霊という……訳でも……なかった……ので……。それに……何か……目的を……持って……彼に……近づいて……きているようにも……感じ……た、から。だが……あの……空き地での……悪霊……に……出会った……時、疑惑は……確信に……変わった。……この件の……影には……黛海斗が……いる、と。我々は……既に……彼女の素性を……知っていた……。そうして……二人の……話を……重ね合わ……せると……あまりにも……出来すぎて……いたから。それで……たどりつい……た。もしかして……彼の体を……乗っ取り……操って……みたい……のでは……ということに……。おまえの……あの……呼びかけに……答えたのは……我々の……方でも……それが……できるのか……確かめる……為……だった」

 その言葉に、あの時のことを思い出そうとしてか、どこか遠い眼差しをしてゆく祥。そうして蘇ってくる、空き地での一件のこと。そう、勝手に動いていった首や口のことを。

「じゃあ……俺……操られるようになっちまったって事か?」

 その言葉にコクリとうなずく、祥の中の霊。

 するとそれに祥は呆然とし、

「で、それは、あの食事のせい、と?」

 恐る恐るそう尋ねてゆくと……。その言葉に、祥の中の霊はもう一度深くうなずく。そして、

「彼の……その体質……ゆえ、今までは……こうすることも……この状況を……伝えることも……出来なかった。なので……霊障で……ほのめかして……いたつもり……だったのだが……」

「そんな、普通そんなこと、分かる訳ないって! 霊障だって、あれじゃ、ただ怖くなるだけで……」

 またもぐちぐち言いそうになる彼に向って、修子はしっと、言って言葉を遮る。そして、

「じゃあ、二度目に彼女を中に入れたのは」

「もっと……調べたかったから……だ。操れると……言っても……まだ不完全……だった。それならば……どの位の……レベルで……彼は……操れるように……なったのか……我々も知る……必要が……あった。それに……それが……向うの……意図だと……いうことも……察して……いたから。そう……彼らは……隠すことなく……それらの……話を……悪霊間……で……やっていた……から。そして……その後……あの女性霊の……詳しい事情を……彼女自身から……聞いて……いった……が、それで……同情と……言うよりは……あのことを……調べるには……これは最適な機会……だと……判断……して……彼女を……入れていった」

「で、あそこまで操れるよう、体質はかわっていた、と」

 コクリとうなずく祥の中の霊。

 すると、それに祥自身は、気味が悪いようにただ表情をゆがめ……。

「じゃあ、あの出来事は、向こう側の人間にとって、俺を調べる為だったと? 彼女が言っていたあの話は、全部作り物?」

「調べの方は……恐らく……そう……だろう……。だが、本当に……それだけ……なのか……。彼女の……事情は……真実で……何かに……利用された……とも……考え……られる。第一……操れるか……操れないか……だけなら……息を潜めている……悪霊に……やらせれば……いいので……あるし……。彼女である……必要は……」

 それに、今日何度目だろう、またもため息をつく修子。まだ他にも何かあるのかもしれないという可能性に、つい頭が痛くなって。そして思いだす、私は騙されていたのかもしれないと言う女性霊の言葉。

「だが……お前達はなんでそこまで祥を守ろうとする?縁もゆかりもないんだろ」

 それに、祥の中の霊は少し沈黙すると、しばしの時の後、ゆっくり、

「私……は……彼の祖先……霊。彼の体質……そして……悪霊が……ついているという……事実に……心配した。彼の母親……は、あれ以上……霊は……入ってくることは……ないだろう……と、判断して、彼の……方に……入った。……どこまで、霊を……溜め込むか……想像もつかなかった……彼の方が……事情が深刻な……様子……だったので……。そうして……私が……入って……中の霊達……を……統率……するように……なった……。入ってくる霊も……協力する……モノだけに……絞るように……した。勿論……統率できる……のは……あの……悪霊……以外、だが……」

 絞っても、あんなに大量の霊を呼び込むのかと、修子は感心したような気持ちになる。そして、沢山憑いている霊の中でも特に力が強く感じる彼、確かにその経緯を聞けば、なるほど納得のもので……。

「勿論、そのことは向うも知っているのだろ?」

 それにコクリうなずく祥の中の霊。

 すると霊のそのうなずきに、修子は落胆したよう大きく肩を落とすと、

「あー! 向うに悟られないよう、なるべく余計なことを話さないようしてきたのに……全部無駄な努力だったとは」

 行動が全部筒抜けということに、自分達の不利を感じてため息をつく。

「だが……今回のことは……もれて……いないはず……だ。霊符を……貼った時点で……何かが……なされただろうと……勘ぐって……くるだろうが……。合宿等の……件も……どこまで我々が……知っているのか……お前たちが知って……いるのか……向うは……推測……するしか……ない……」

 それに修子はコクリうなずくと、

「大事な話は、霊符を貼って……か。面倒だな。もっと祖父に作ってもらわないと駄目かな」

「そうしないと……こちらの……行動は……ダダ漏れ……だ。同じように……向うの報告……内容も……こちらに……ダダ漏れ……だが……。だが……それを分かっていて……向うも……加減して報告……して……いる」

 すると、それを聞いて修子は、祥の中の霊でなく、祥自身に向かい、

「つまり、お前も行動や言葉にはこれから気をつけろってことだ。今回のこの件を憶測させるような言葉は慎めよ。思考だって分からない。もしやのことを考えて、強く思うのは避けろよ」

 それに、大丈夫かなぁと、不安そうな顔をする祥。同じく修子も不安になりながら、

「では、最後の質問だ。あの家で、悪霊に憑かれているのは、彼と母親だけか?」

 すると、その言葉に深くうなずく祥の中の霊。そう、彼はひとりぼっちじゃない、その事実に修子はホッとして、

「分かった、ありがとう。また必要があったら呼ぶかもしれないが……その時はお願いする」

 再びうなずく祥の中の霊。そして、

「これから……どうするつもりだ」

 だが……修子は困惑した表情で首を横に振り、

「分からない……。とにかく、あちらの出方を待たないと……。どうしてこういうことをするのか、それすらも分からない状態だから……」

「確かに……それを……探るのは……重要なこと……だ。我々も……努力して……みよう」

 コクリとうなずく修子。そして、では、また何かがあったらと言って、修子はブツブツ真言を唱えてゆくと、しばらくして、

「……もう、いいのか?」

 恐る恐るそう尋ねる祥。それに、しばし待つよう修子は沈黙してゆくが……。彼の口から、霊の言葉が出ることはない。それを確認して修子は、

「ああ、もういい」

 すると、途端に体の力が抜けたよう、がっくりとうなだれる祥。そして、

「俺の行動ダダ漏れかよ……ってか、母親……。母さんは、母さんであって、母さんでないなんて……」

 先程のやり取りを思い出して、ショックを隠しきれずそう言ってくる。だが、

「普段は、そのままの母親だと、言っただろう。あれは、自分の趣味だと、彼女自身は信じている」

 それでも幼い頃からのあの自然派行動は、自分を陥れる為のものだったのだと思うと……怖気が走るような思いがする祥。そして、恐らくそれをしみじみ感じているのだろう、祥は脱力したまま、複雑な表情をすると、

「でもな……でも……確かに今考えると……異常すぎるほどの、傾倒だったもんな……自然派」

 やはりつらい気持ちはぬぐえず、そんな言葉がこぼれる。そして、

「はぁ……」

 もう、言葉も出ないらしい。

「いいか、もう私達は足をつっ込んでしまったんだ。この件で、向うは必ず我々に不審を抱くだろう。何か……してくるかもしれない。向うの意図は分からないが、もしかしたら……戦い、になるかもしれないんだ。霊が怖いなんていってる場合じゃないぞ」

 そうたしなめてくる修子に、祥は頭を抱え、

「ああああ! こんなことなら、なにも知らなければ良かった!」

「馬鹿、知らないでそのままいたら、恐らくお前はいずれ大変な目にあっていたぞ。これも運命、いい加減覚悟を決めろ!」

 だが、恐らくまだ現実感がないのだろう、どこか虚ろな眼差しで祥は修子を見つめ、

「悪霊に乗っ取られるってこと?」

「恐らく」

 それにまたも祥はため息をつき、

「はぁ……食事を避けろって、どうすればいいんだろう……」

「まあ、確かに、難しい問題ではあるな。食べる量を減らして、後はお小遣いでスナック菓子でも食べているか、ファーストフードを利用するか。とにかく、飲み物だけでも……。お茶はなるべく避けるんだな。あれは霊の大好物だから。お金が厳しいのなら……そう、せめて水道水にするとか……」

「ああ、ああ、分かったよ、やってみるよ」

「それがお前の為なんだ。どうして悪霊がずっと息を潜めていたのか、その謎が、その操れる操れないにあるかもしれないんだ。今の所、まだ不完全だが、おまえが完璧に操れるようになったら……どうなるか……」

「ああ、だけど、色々努力しても、それはただ俺が乗っ取られるのを遅らせるだけだろ、母親の料理を完全に避けるわけには、いかないんだから」

「それは……私にも分からない。あまりそれに詳しい訳じゃ、ないから」

 すると、それに祥は、大きくため息をついて、疲れたようにずずずと椅子から身をずり下ろしてゆくと、

「どうなるかわかんないけど、最悪の事態になる前までには何とかして欲しいなぁ。何とか、なるんだろうか……??」

 どこか他力本願な祥。そしてまだちょっと緊迫感がないような口調の祥。勿論それに、修子は困ったような表情をし、

「何とかしたいがなぁ……」

 はっきりハイとはいえないと、曖昧にごまかしてくる。だが、それに祥は不安顔で、

「えー、そんな自信ない言い方……。やだぜ、俺。自分じゃない自分になっちゃうなんて。ってか、もっと手っ取り早い方法はないのかよ。除霊とか、浄霊とか、そういう方法は!」

 すると、それに修子ははぁとため息をつき、

「悪の根本を断たないと、意味ないだろ。結局また何かの方法を繰り出してくるだけだぞ。それに、長く悪霊に憑かれたものは、それと同化したような状態になる、無理やりはがすと、とんでもないことになる時が……中々強い悪霊みたいだしな。それに、悪霊でなく、今までお前を守ってきた霊の方が除霊されてしまう事もあり……とにかく、そうしてやりたいが、かなり難しいことなんだよ」

 ふうん、と言いながら、その言葉にどこか納得いかないような表情をする祥。すると、そんな彼に、修子は説得するような口調で、

「まぁ、口で言っても実感しなきゃ分からないだろうが……。つまり、私には無理、って事だ。機会があったら私の祖父に見てもらった方がいいかもしれないが……。もしかしたら彼なら何とか出来るかもしれないし」

「うわ……お爺ちゃんも霊感人間なんだ。血は争えないってゆうか……。でも、やってもらえるなら、是非だぜ。それも、できるだけ早い方が!」

 これが何とかなるならと、大乗り気な様子を見せてくる祥。

 だが、それはあまりに単純な発想。その単純に、修子は呆れたような表情をすると、

「確かに除霊や浄霊も大事だが……お前は、それでいいのか? お前や母親をこんな状態にした奴を野放しにすることになるんだぞ。黛海斗の尻尾をつかんで、その側近の悪霊とやらを封印せねばって気持ちにはならないか?」

 だが、それに祥はあまり興味ないような表情をし、

「うーん、黛先生はいまだ黛先生なんだよなあ。現実感がないっていうのかな? 本当にそんな人なんだか……恨み買った覚えもないし。それよりこの状態を何とかして欲しいっていうか、なんと言うか……」

 すると、ぺちっと、何者かが不意に祥の額を強く叩き……。

 そう、修子だった。

「甘いな。そんなことじゃ、この先思いやられるぞ。とりあえず今は静観。これからの成り行き次第だ」

 そう言って教室の時計へと目をやる修子。そして、

「ああ、もう大分時間が経っている、そろそろ帰るぞ」

 身をひるがえして部屋に貼ってあった霊符、そして祥に貼ってあった霊符を外してゆくと、鞄の中にそれをいれ、その鞄を手に持ち、

「ほら、さっさといくぞ」

 その言葉に、祥も慌てて椅子から立ち上がり、鞄をもって、歩みゆく彼女の後を追ってゆくのであった。

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