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第一部 第一章 合宿地へ

 二〇一〇年八月十七日

 

 まだ太陽の光がジリジリと暑い八月半ばの東京。その東京でもどちらかというと辺鄙なところにある高校、鷺ヶ丘(さぎがおか)高校から、一台のバスがとある場所へと向って出発していった。それは鷺ヶ丘高校陸上部御一行様のバス。夏合宿の為、合宿地である烏丸川からすまがわへと向っていったのだった。

 幸いなことに、今日は雲ひとつない晴天の日、澄んだ青空が皆の頭上に広がるその下で、白地に緑の模様が描かれたバスが快調に道路を走ってゆく。そう、まずは一般道を、それから高速を、と……。最初から進みは順調だったそのバス。一般道だけでなく、高速に入ってからも思っていた以上に道路は空いており、ならばと思いっきりスピードを出し……といっても安全運転厳守で、制限速度ぎりぎりまでスピードを出し、バスは更に快調に進んでゆく。そう、全く順調も順調、このままゆけば、予定よりも早く到着しそうな程に。そうしてその快調を示すように、バスの中でも元気いっぱいに、和気藹々とした部員達の会話が飛び交っており……。

「昨日、あのドラマ観た? さよならをもう一度」

「おい、これ、うめーよ」

「俺、まだ全然夏休みの宿題終わってねーんだけど……」

「フフフ、松本君って、かっこいいよねぇ」

 男女混合合宿なので、男子女子入り乱れの会話、である。

 だが……勿論、全部が全部、という訳ではない。中には例外もいるようで……。

 そう、一人無言のまま、ムッとした表情でバスの席に座っている少女がいたのだ。

 その少女の名を神谷修子かみやしゅうこといった。

 眼鏡に黒髪おさげ、そして制服はきちんと規定どおりに着ていると、今時では珍しいともいえる格好をしている少女である。その彼女、むすっとした表情のまま、何かが気になるよう、チラリ、チラリ、と、折を見ては何故か時々隣を見ており……。ごめん、昨日遅かったから……と言って眠ってしまっている右隣の友人ではない。通路を挟んで左側、お菓子を手に、呑気にへらへら笑いながら、自分の左隣の友人としゃべくっている少年の方へ、である。その少年、肌は健康的な小麦色に焼け、ちょっと茶色に染めた髪や着崩した制服が今時な感じを出してはいたが、その笑顔は実に無邪気で、楽しげに会話をしている様子などから、どこにでもいる普通の少年らしきことがうかがえた。だが……。

 ああ、鬱陶しい……。

 修子の心の中は、これ、であった。なぜなら……。

 ったく、よりにもよってなんで奴が私の隣なんだ。こんな……こんな……。

 ここで修子は一旦息をつく。そう、何とか心を落ち着けようと。だが……。

「でさぁ、桜木の奴がさぁ」

 隣では誰かの噂話をしているらしい。

「チャリで奴を追いかけて」

 だの、

「そしたら、突然目の前に」

 だの、二言三言会話が続いた後、

「だはははははは!」

 修子の耳に襲ってくるのは大爆笑。

 ぷち。

 修子の中の何かが切れた。ただでさえアレで鬱陶しいのに、なのに更に……。

 なので、とうとう思いっきり、

 うじゃうじゃ霊をくっつけている奴をー!!

 切なる切なる心の叫び。更にもれるのは、これ以上はない程の大きなため息。

 そう、彼女は霊感が強く、姿をはっきりと見ることは出来ないが、ぼんやりと感じることができるという能力を持っているのだった。

 その能力ゆえの、この状況。

 感じることができてしまうから、この、彼のように霊をうじゃうじゃくっつけている人間が側にいると、鬱陶しくて仕方がなくなってしまうのだ。

 だが……当の本人はそんなこと全く知らず、相変わらず呑気に友達とくっちゃべっており……。彼のこの状況、とても正常とは言えないものなのに。

 それに再びため息をついて、修子は思わず小さく毒づく。

「この霊感ゼロ人間がっ!」

 そうしてふと思い浮ぶのは、初めて彼と会った時のことであり……。 

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