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第二部 第二章 気になって

 ううう、暑い……。

 合宿から帰ってきて、二日後のまだ午後にはならない日中。

 冷房のない自分の部屋で、修子はぐったりしながらベッドに横になっていた。

 滴る汗に、我慢も限界が近づきつつあるが、冷房のある唯一の部屋、居間の冷房が故障中なのだから、これはもうこうしてひたすら我慢するしか仕方が無い。

 特に遊ぶ約束はなく、部活もなく、夏休みの宿題も終わってしまっている。

 他に何かをする気力というモノもなく、まだ少し残っている夏休み、ただぐったりとしているばかりの修子であったが……。

 だが、暑さに汗をかき、暇をもてあまし、うだうだ寝転がりながらも、その脳裏にはあの合宿での悪霊や女性霊の言葉や祥の中の霊たちの言葉がぐるぐる巡っていた。

 もし、自分の直感が外れていなければ、あの件には何か他の事が隠されている。女性霊の背後にいた人物、騙されていたかもしれないという言葉、周囲の人間に気をつけろという祥の中の霊の言葉、同じく祥の中の霊が悪霊を弾く理由、等々。

 もしかして、これはこのままにしておいてはまずいのかもしれないと、頭を悩ませ、さてどうするかと修子は考えをめぐらす。だが、一体どこからどう手をつけていいのかさっぱり分からず……。

 とりあえずできることといえば、祥の中の霊達の方からの情報収集であろう。そう、女性霊とあの悪霊には、もう会うことは出来ないのだから。それに、

 もしかしたら、祥が何かの鍵になっている可能性も……。

 気になる彼の存在。

 だがやはり、一体どうすればいいのか分からず……。いや、一つやるべきことはわかっているのであった。今、唯一といっていいかもしれない謎を知る手掛かり。

 だが、これは怖がりな彼を怯えさせることにもなりえて……。

 もしかしたら、見当違いなことを考えているのかもしれない。けれどももし当たっていたら、大変なことにつながる可能性もなきにしもあらずで……。何せ、息を潜めつつも彼には悪霊がついているのだから。何が何だか分からない謎も、数々見え隠れしているのだから。ならば仕方がない、とりあえず急ぎで彼に当たってみるかと、修子はだるい体を起こして、陸上部名簿を探してゆくと……。

 しばし部屋をガサゴソやって、やがて何とかそれを見つける修子。そしてすぐに……そう、家の電話機までゆくのは面倒くさいので、修子は携帯を取り出すと、番号を確認しながら、柚月家へと電話をかけてゆき……。

 電話はすぐにつながり、母親らしき女の人が応対する。優しげな感じのする、なかなか好印象な声だ。それに、どこか安心感を抱きながら、祥は在宅かと修子は尋ねると、

「はい、いますよ」

 電話口から返ってくるのはそんな声。ならば、祥に変わって欲しいと修子は言ってゆくと、

「もしもし?」

 しばらくの時の後、耳馴染みのある祥の声が受話器越しに聞こえてくる。

 それに修子は、どう切り出したらいいのか迷った挙句、

「今暇か?」

 唐突な問い。

「ま、まぁ……暇だけど……」

 その唐突さに戸惑う様子を見せながら、祥はそう答えてゆく。すると、

 修子の目的は、この件の、何かの手掛かりをつかむこと。家に行けば何かそれがつかめるんじゃないか、いや……彼の中の霊たちからもっと詳しく話を聞けば、何かがわかるんじゃないかと、そう思って、

「じゃあ、今からお前んちに行く。場所教えてくれ」

「は?」

 訳が分からないのは祥の方であった。だが、まぁ変わり者の彼女のことだからと、無理やり自分を納得させるようにして、

「別に、いいけど……」

 そう言ってゆくと、

「でもなんで?」

 それでもさすがに疑問は残り、祥はそう尋ねる。

 すると……。

 やはりあの時、祥に悪霊の声はまったく伝わっておらず、その後修子が彼に説明し直しているのだった。だから、あの件に関して話があるとか何とか言えばいいのだろうが……。彼の中の霊がどうのということになると……。

 で、どう答えたらいいのかとうだうだ考えたあげく、修子が答えたのは、

「お前の中の霊たちに会いたくてな。どうしてるかなぁと……」

「……それだけ?」

 どこか呆れたような調子を含むその言葉。それに、修子はムッとして、どこかむきになったような口調で、

「それだけとはなんだ。お前は取り込みやすい体質だし、霊感ゼロだし、大丈夫かどうかと思って……様子うかがいだよ。合宿の件で色々気になることもあるし、それ以外でも……。霊たちに話を聞けば分かると思ったんだ」

 すると、その修子の調子に、祥は相変わらず不思議そうな雰囲気をかもし出していて、

「ふーん……俺は特に変わったこととかはないけどな。まぁ、話が聞きたいなら聞きたいで、別に俺は構わないけど……」

 霊の話なのに、特におびえるでもないその様子。一番懸念していたそれが空振りのようになり、修子は少し意外に思って、

「ほう、とうとう受け入れたか、その体質を」

 だが、それに祥は何を言われているのかが分からないらしく、ん? といった状態になっている。なので、更に修子は、

「霊の話で、怯えていない」

 修子がもらしたその言葉。するとそれに、不意にハッとするようなしばしの間が流れると、

「んな訳ないだろうがっ! 考えないようにしてるんだよ! ったく、今だって、そんなこと言わなければ、意識しないでいられたのに!」

 やっぱり相変わらずだった祥に、修子は一つため息をつくと、

「じゃあ、ずっと無視、か? 話しかけることもしなかった? 彼らに?」

「当然」

 やたら自信満々な態度が祥から返ってくる。それについ、そこは威張るところじゃないだろ! 修子はそう思ってゆくと、

「まぁ、とにかく行くから、待ち合わせ場所を教えてくれ」

 いつまでも相手にしていられないと、そんな言葉をもらしてゆく。すると、

「じゃあ、俺んちの最寄の駅が北松原だから、改札でたところに……うーん、一時間もあればこられる?」

 そこで修子は路線図を頭に思い浮かべ、北松原の位置を確認すると、

「ああ、大丈夫だ。それほどうちから、離れてないから」

「分かった。じゃあ、改札は一つだから、そこで二時に待ち合わせ。いい?」

 それに修子はうなずき、

「了解」

 そうして修子はそれから祥と二言三言言葉を交わしてゆくと、受話器を置き、早速時刻表をと確認して、時計を見る。すると、

 これから食事を取ってもまだまだ余裕はあるな。

 そう思い、行ったらまず霊たちに何を聞こうか頭の中で確認しながら、昼食を用意すべく台所へと向って歩を進めていった。

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