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第一部 終章 戦い終わって

 シンとして、街灯の明かりも届かない暗いこの空き地のずっと奥。その深すぎる闇に、誰もそこには寄り付かないだろう雰囲気を醸し出した、どこか不気味な空き地のずっと……奥。息を潜め、あの出来事をひっそりと眺める……といってもここから肉眼では見えないが……二つの妖しい黒い影があった。 そう、その影とは、

「神谷修子、本当に鬱陶しい奴だ。対決になる可能性は確かにあったが、まさかこうなるとは。案が上手くいったといえば上手くいったが……予想外も多々あり……」

 憎々しげな声をあげるその人物、どこか苛立たしさも感じる、そんな声をあげた……その人物、そう、それは陸上部の顧問、黛海斗であり……。そしてその隣には……、

「はい、色々と……。まぁ、元々悪霊の方には、我々の言ったことに従えば、後は何をしてもいいとは、言ってありましたが……」

 あの民宿にいた断髪の女性霊の姿があったのだった。その女性霊、悪霊特有の邪悪な気を放ちながら、冷徹な表情でそう言ってゆくと、薄らぼんやりとした自らの手で作っていた、少し大きめの手鏡くらいの輪の中をじっと見つめており……、

 暗闇の中で、ほのかな光を放つ、それ。会話を交わしながらも、思わず目が釘付けになってしまう、それ。そう、その正体、とは……。

「ああ、どうやら彼らは民宿に戻るようですね、この様子だと」

 すると不意に、何かに気付いたようピクリ眉を上げ、その輪を見つめたまま、女性霊はそうポツリもらしてくる。

 そう、今までしていたあの話題から離れ……。そこに何かがあるかのよう、興味深げな表情を浮かべ……。全く、ふと……ふとといったような感じで……。そして海斗も……同じく輪の中を見つめており、その唐突に動じることもなく、

「らしいな。道順もそうなっている」

 相変わらず興味深げにその輪の中を見つめている二人。まじまじとしてその輪の中を見つめている……二人。一体そこに何があるのかといえば……。

 そう、そこには道を歩む修子の姿が映っていたのだった。頻繁に映るのは、かなりアップになった修子の横顔、それから、その周囲の暗い景色。どうやら、それらの映像から察するに、これは修子ら周辺の現在を映し出すテレビか何かのようになっているようで……。それにしては、映像に祥の姿が映っていなかったり、手振れのビデオカメラを見ているような感じになっていたりなのが不思議だが……。だが仕組みがもし当たっていれば、あの出来事もこの輪で観られる訳で、一連の彼らの言葉から推測しても、これを使ってあの情景を観ていたらしいことがうかがえ……。

「ですが、本当にこの結果は予想外でした。悪霊が封印され、あの女性霊が浄霊とは……。まぁ、二人の願い、会いたい、というのは果たしているし、我々の目的も大方果たしているので、これはこれでいいのでしょうが……」

 すると、それに海斗は腕組みをし、考え込むようなポーズをしてゆくと、

「まあ、そうだな……だが、大体を知っていた悪霊の方はともかく、あの女性霊の方は……。悪霊のように、願いさえ叶えばなんでもやる、という訳にはいかなかった。この話に乗せるのにも色々苦労したというのに……」

 どうやら本当に苦労したのだろう、しみじみといったようそう盛らしてゆく海斗。それに女性霊の方も、確かに……とうなずいてゆき……、

「そう、普通の霊を悪霊の企みに乗せるのは容易ではありません。たとえ、この世に未練のある霊でも。彼女には色々隠し事をしました」

「騙すようなことも……した。それ故、なにやら疑問みたいなものを持ってしまったようだったが……」

 コクリとうなずく女性霊。

「確かに……それはまずかったですね。でも、彼の中に入るため、普通の霊の協力は、今回は不可欠でしたから。本当に、苦労しました。彼女もですが、我々の望む、条件を持った霊達を探すのにも」

 それに、海斗も同感と深くうなずき、

「だな。だが……今回のことで色々分かったこともある」

「はい。まだたどたどしいですが、とりあえず操作は出来るまでになった、と」

「まだ、完全に意識をのっとる事は出来ないが……これは、近いうちに……」

 何か含みを持った、ニヤリ、とした笑いを浮かべる海斗。するとそれにつられるよう、女性霊も同様の笑いを浮かべ、

「はい。きっとそうなります……」

 どこか腹黒さを持った、二人の笑み。暗く歪んだ、非情をにじませた……。そして、

「では、俺らの方も進めねばならないな。彼に、思い出させることを」

 どうやら彼らにはまだやることがあるらしい、どこか難しい顔をして海斗はそう言ってくる。そして、その、新たな……といってもいい件に女性霊は、

「はい。ジョギングの時は、記憶の奥底で、何かを感じていたようですが……」

「今回はあまり……というか、何も感じてないようだったな」

 そう言って少し残念そうに、海斗は女性霊の手の中の映像を見つめる。だが、それに女性霊は、

「それでいいのです。いずれ詳しいことはあの少女から聞くでしょう。それが記憶となって脳に刻み込まれるのです。その時何も感じなくても問題ありません。かつての自分を思い出すべきその時、その時の為の手掛かりとなればいいのです」

 そう、何も心配はいらないというように、そう言って手で作った輪を解くと、またも含みを持った微笑を浮かべてゆく。

「そうか……それが今回の最大の目的だったな。それ故、あの霊の協力が必要だった、と。だが、今の状態では……まだまだその日は、遠いな」

「はい……。ですが、着々とすすんでおります。もしかしたら、意外とすぐ近くに……」

 女性霊のその言葉、それに期待感があおられたかのよう、海斗は面白いようにクツクツと笑うと、

「フフフ、その時が楽しみだな」

「はい、そうですね、旦那様」

 田舎の暗い夜、静かで生ぬるい風の吹く夜、まるでそれを歓迎するかのよう、二人の不気味な笑い声がその暗闇に響いていった。


これで第一部は終了です。なんだか、長すぎる序章といった感じでしたが……(汗)次から伏線回収の第二部に入ります。第一部より大分長くなると思います。よろしかったら読んでくださいませませ!

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