第一部 第十二章 対面
そして真夜中に近い夜、二人はそのまま民宿の敷地から出ると、急ぎ足であの空き地へと向ってゆき……。
そんな二人が歩む途中の道。やはり田舎ということもあってか、都会のような騒がしさとは無縁な道であり……。そう、それはかなり暗く不気味な道。しかも、そういった雰囲気に慣れてない為だろうか、それともやはり性格の為か、これ以上はない程祥の方はおどおどとしており……。唯一の灯りは、所々に灯る仄明るい街灯だけ。それだけを頼りに、二人はひたすら道をゆくと……やがてあの空き地へ、そう、どうにか目的地へと到着し……。
だがその空き地、相変わらず悪霊の気配は感じるものの、すぐ近くにはいないことを霊感で修子は察し……。ならばと修子は道路から一歩そこへ踏み出し、仁王立ちになると、
「悪霊! いや……清定か。約束どおり、葵殿を連れてきたぞ! 姿を現せ!」
大声でそう叫ぶ。すると……。
しばしの時の後、じわじわと怖気がくるような、不気味な気配が強くなってくるのがわかる。そう、あの悪霊が修子達に近づいてきているのだ。段々、段々、強くなる悪霊の気配。そして、とうとう目の前までやってきたのを修子は感じると、
「……」
「……」
無言の二人。その脇で、祥だけは訳が分からず、どこか怯えた表情でキョロキョロしている。すると、突如、
「……清定……殿……」
祥でありながら、祥ではないたどたどしい口調でそんな言葉が彼の口からこぼれる。
そう、これも全く意識せずの言葉。それで、これは目の前にいる悪霊に対しての彼女の言葉だろうと、戸惑いの中からなんとなく祥は察してゆくと……。
彼との久々の再会の為か? はたまた悪霊という言葉を思い出しての困惑の為なのか?
どちらの意味でもれた言葉なのか、理解することができないまま、
「ど、どうすりゃいいんだよ」
何故だかその場から駆け出したいような気持ちになりながら、おどおどとした様子で祥は横目で修子を見る。
すると、それに修子はしっ! と言って、
「そのまま身を任せるんだ。お前は黙っていろ」
「任せるって……相手は悪霊……」
思いっきり怯えている祥、それにに修子はついため息をつくと、再びしっ、と人差し指を口元へとに持ってゆき、そして、
「おい、清定とやら、おまえは綱高を何故恨む。何故こんな悪霊になってしまった。葵殿は謝りたいと。お前に会って、そうして謝りたいと言っているのに」
「……謝りたい、と?」
「そう。他人の私が口を挟むのもなんだが……この一連の行動の理由はなんなんだ」
「……」
しばし、無言になる悪霊。そして、ゆっくりと、
「私が恨むのは綱高だ。葵は……どうなのか、私にも分からない。ただ聞きたいのだ。本当に、本当に裏切ったのか、と」
するとその言葉に、不意にホロリと涙を流す女性霊である祥。
そして、
「ごめ……んなさい……ごめんな……さい」
言葉と共に、またも涙が流れ続ける。
それは勿論、悲しくもないのに流れる涙、意図しないそれに、祥はただ驚くばかりで……。
そして思う。
これは償いの涙か、否、もしかしたら相手が悪霊と知らなかった彼女の、希望が絶たれた涙でもあるのかもしれない……と。
そんな彼女の思いを遮ってはいけないと、修子の言うがまま、祥は身をまかせてゆくと……、
「……やはり……そうだったのか」
謝られて確信を深めたようにそう言う悪霊。
そして、
「私はお前に裏切られた。だが……お前も奴に裏切られたのではないか? 恨みはないのか、憎くはないのか?」
それに、女性霊である祥は静かに首を横に振り……。
「ただ……会いたい。会って……話を聞きたい……でも……出来ない……」
「ここには……いないからか」
悪霊の言葉に、コクリとうなずく女性霊。
すると、それに悪霊は、更に怒りを増したようになり、
「それ故恨みを残して死んでも、その恨みが果たせぬ。この手で殺してやったのに! そう、この手で! そして待っている。いつか奴がこの目の前に現れるのを。そうして再び恨みを晴らし……」
悪霊の、恨みの言葉。あまりにも深いその言葉に、思わずといったよう、女性霊である祥の泣き声は一層強くなり……。
「ころ……した?そ……んな。聞いて……ない……ただ、もうここには……いない……と……」
やはり、全てを知っている訳ではなかった女性霊、ショックと悲しみでか、嗚咽に近い涙を流してゆく。すると、修子が、
「おまえが……殺したのか?」
「そう。葵は不義を働いた。奴と! だが、奴はその葵をも裏切ったのだ。悲しみで葵は自宅で自害。私は怒りと共に奴の家で奴を殺し、そしてその場で自害」
それになるほどとうなずく修子。そして付け加えるよう、
「で、綱高殿の裏切り、とは?」
それに少しの間があり、悪霊は、
「私はずっと、葵の裏切りを疑っていた。そしてその時、奴の不義の話を聞いたのだ。そう、葵とは別の! それから見る見る間にやつれてゆく葵。そしてとうとう……。遺書もなかった。葵から何かを聞いた訳でもなかった。だが、私は心の中で確信していたのだ。奴の重ね重ねの不義が、葵を追い詰めたのだ、と」
そして、そうだな、といわんばかりに、意識を葵に向けてゆく悪霊。するとそれに葵は、涙を流しながら、コクリ、と。
そして、更にその嗚咽は大きくなってゆき……。
なんだよ、なんなんだよ、これは!
意志を無視してどんどん涙が酷くなってゆく自分に困惑して、祥は心の中で叫ぶ。
まあ、語られているかつての出来事、それを聞くことが出来ない祥であったから、修子や女性霊の言葉から内容を予想するしかない祥であったから……それも仕方がないと言えば仕方がないのだが。
理解できるのは、あまり良い話ではないということぐらい。細かいことは分からず、流れる涙は止まらずで……。
「なぜ、恨まない。何故?」
だがそれに、女性霊は、
「それ……でも、好き……なんです。会い……たい」
すると、その言葉に怒りの炎が燃え上がったようになる悪霊。
「ならば、俺を恨め。恨んで恨んで、悪霊になれ! そして、そんな貴様の前で、いつか転生してきた奴を殺してやる!」
だが女性霊は、それに首を何度も何度も横に振りながら涙を流し、
「出来……ない。出来な……い。わた……しが、悪い……。ごめんなさい……」
「再び奴を殺しても、か!」
「それでも……できな……い。あなたも……きっと……できな……い」
すると悪霊は、不意に地団駄をふむような怒りの気を醸し出し、
「私は悪霊だ。確かに今は地に縛り付けられているが、誰かに取り憑いてでも、いつかそれをなしてやる!」
悪霊、という言葉の部分で、更に嗚咽が大きくなる女性霊。
「許し……て。……さみし……かった……の。さみしい……時に……現れたの……が……あの人……だった。そして……恋を……した。……理由……は、それだけ。それで………あなた……傷つけ……て……しまった」
これは彼女にとって望まない結婚だったのだろうか、それとも夫である彼とは不和か何かでもあったのだろうか、家庭内でのすれ違いを思わせる言葉が、その口からこぼれる。
そして、やがて流れるは、まるで怒りの歯軋りでも聞こえてきそうな程の沈黙の時。そんな雰囲気の中、不意に悪霊は修子へと意識を向けると、
「おぬしは霊感が強いと見る。ならば、私をここから解き放ってはくれないだろうか。地に縛り付けられたままでは、やはり何かと不自由だ……」
だがそれに、勿論修子はどこか不満げな表情をすると、何か言ってやろうとでもいうよう口を開きかけ……。
すると、その時、
ブルブルブル
女性霊である祥が首を激しく横に振ってくる。まるで幼子が嫌嫌嫌とでも言うように。そして、
「お願い……しま、す。この人……楽にして……あげて……ください……。この心から……この地から……解放して……そして天へ……」
すると、
「ええい! 余計なことを言うな。私の恨みは深い! 綱高はおまえを殺した! おまえの本心を知っても、癒されることはない! いや、恨みは深まるばかりだ!」
怒りのまま、悪霊が女性霊にそう言ってくる。だが、
「お願い……します……」
続く女性霊の懇願。そんな二人のやり取りを修子は冷ややかに見つめながら、
「悪霊を浄霊することは難しい。それも、こんなにこの世に未練……というか、恨みが残っていては……。恐らく、天は門を開かないだろう。残念だが……」
悪霊、を実感してか、再び大きく嗚咽する女性霊。この長い年月で、否、かつての出来事の為だろう、変わってしまった彼の心をひしひしと感じて。
そう、それはあまりに哀れに感じる女性霊の姿。思わず修子も気の毒な思いになるが……だがそれもしばしのこと、不意にキッと悪霊へと向き直り、
「それに、腹に一物ある悪霊の手助けもするつもりはない、馬鹿者が! 私がお前にすることは、こうだ!」
そう言って、印を結び、ブツブツと何かを唱え始める。そう、真言である。
これ以上何か悪さをしないよう、この空き地の片隅に、悪霊を封じようとしたのだ。
すると、悪霊は、
「フフ、そっちがその気なら……」
聳え立つ樹木の枝が揺れ、梢が触れ合い、一斉に辺りが騒がしくなる。そう、コンビニ帰りのあのざわめきのように、否、比べものにならない程それ以上に! そして、それに従い、眠っていた鳥達も起き出し、けたたましく鳴き声をあげてきて……。
今ここに風は無い。当然、枝が揺れることもあるはずがない。なのに……。
何かの脅しだろうかと、びくびくしながら辺りを見回してゆく祥。すると、
!
道沿いに並ぶ、うすぼんやりとした街灯だけがあたりを照らすこの地、そこにふわり、ふわりと、何かが浮かび上がり……。
「な、なんだ。なんだよ、これ!」
暗闇でよく見えないが、どうやらそれは、この空き地に落ちていた石や枝などのなんらかのモノであるようで……。そして、
「わー!!!」
ものすごい勢いで飛んでくるそのモノ。二人を叩き潰そうとでもいうように飛んでくるそれを、修子と祥は何とか避けながら場所を移動してゆくと、
「ナウマク・サンマンダ・バザラダン・カン!」
ひたすら真言を唱え続ける修子。一方の祥は、
「ポ、ポルターガイスト!?」
そんなことを叫びながら必死で逃げ回っており……。そうして様々なモノが飛びかる中、二人はなんとかそれを避けていると、
「うわっ!」
今度は先の尖った枝が、祥のほうへと向って飛んでゆく。
そう、それはあまりにも不意、そして気付くのが遅かった! なので、
駄目だ、刺さる!
今からでは避けられないことを察して、腕で祥は顔を覆ってゆくと、
「ナウマク・ サンマンダ・ バザラダン・ カン!」
ひときわ高く響く修子の真言。そして……。
「!!」
ギュッと身に力を入れ、祥はその時を待つが……。
いつまで経っても枝が腕に刺さってくる気配は無い。それどころか、ポトリ何かが地に落ちるような音がし、恐る恐る祥は覆っていた腕を退けてみると……。
「……」
祥の腕でなく、その前の地面に突き刺さっているその枝。
「……やるな」
修子の耳に、どこかからか悔しげなそんな声が聞こえてくる。
するとそれに修子はニヤリと笑い、
「まだまだだ!」
そう言って、
「ナウマク・ サンマンダバサラダン・センダンマカロシャダヤ・ソハタヤ・ウン・タラタ・カン・マン!」
再び印を、今度は剣印を結び、真言を唱え始める。
低く辺りに響く、修子の呪文の声。絡みつくような執拗さで、その言霊はじわりじわりと悪霊へと迫ってゆき……、
「く……」
どうやら、先程の真言でポルターガイストは封じられたようだった。そう、もうなにかのモノが飛んでくる気配はなく、ただ苦しむ悪霊の声が聞こえてくるのみで……。
「くそっ! 封じられてなるものか!」
「そう、思い通りにはさせない! ナウマク・ サンマンダバサラダン・センダンマカロシャダヤ・ソハタヤ・ウン・タラタ・カン・マン!」
こうなると、祥には一体目の前で何が繰り広げられているのかさっぱり分からない。
その場でただ一人、ブツブツと真言を唱えている修子を唖然と見つめるばかりで……。
「くそっ! くそっ! くそっ! 我が力よ、調伏の力を破れ! 我が力よ!」
「ナウマク・ サンマンダバサラダン・センダンマカロシャダヤ・ソハタヤ・ウン・タラタ・カン・マン!」
そうしてしばし、二人の間でそんな熱いやり取りが続くと、
「あああああああああ!!!」
しばらくして、響くは悪霊のそんな声。
そう、祥には聞こえない、悪霊の断末魔の……声。だが……。
「……」
勿論、彼の中の女性霊には聞こえていて……。
祥の目を流れてゆく、滂沱の涙。
それに、何故、何故、と祥は思っていると、
対決は終わったのか、やがて修子に静寂が訪れる。安堵したような表情が修子の顔に浮かんでいるところから、どうやら悪霊は封印できたらしいが……。
「それ程悪質で、強い悪霊って訳じゃなかったから……まぁ、何とかって感じかな。私は霊感は強いが、退魔に長けているって訳では、ないんでね」
安堵の様子を見せたまま、そう呟く修子。そして、そのすぐ後……どこか申し訳ないような表情を浮かべながら、傍らの祥へと目をやり、
「すまない、こうするしかなかったんだ。浄霊できれば、良かったんだが……」
それに祥の中の女性霊は、いいんだいいんだとでもいうよう、首をぶんぶん横に振ってくる。その眼差しは真摯で、気持ちに偽りはないように思えたが……だが目には、まだ沢山の涙が浮かんでおり……。
「つらかった……だろ」
それを見て、思わずそう声をかけてゆく修子。
するとそれに、今度は大きくコクリと祥の中の女性霊はうなずいてゆき……。
やはり……。
彼女の真の気持ちをひしひしと感じて、修子はチクリ胸に何かが刺さったような罪悪感を覚える。そして、
「これから、お前はどうする? このままあそこに残るか? それとも天へゆくか? ゆく勇気があるなら、力を貸すが……」
しばし流れる、祥の中の霊の思案するような沈黙。そしてその後、女性霊はおずおずと、
「天……へ」
またもたどたどしいながらも、祥の口を借りてそう言葉をもらしてくる。
「転生した……彼に……会いたい……。でも、私に……その資格は、ない……。清定殿を……追い詰めた……私の……これが……償い……。未練は……のこ……るが……この地から……動けぬ限り……それは……叶わぬ……こと。するべきことは……全部した……。後は……あなたに……お任せ……します……」
それに修子はコクリとうなずき、
「じゃあ」
という言葉の後、
「何か残す言葉は?」
すると、祥の中の霊は、
「一緒に……行きたかった……」
そう言って、ポロリと一筋の涙を流してゆき……。
その言葉で分かる、彼女の思い。そう、恐らく願っていたのだろう、あの場に縛られていた二人が、恨みや悲しみや怒りから解放されて新しい世界で暮す穏やかな日々を。離れ離れでない、二人が一緒になって、やりなおせるかもしれない、そんな日々を……。
その願いを感じて、修子は噛み締めるようコクリとうなずくと、
「他には?」
それに、もう思い残すことはないと、一旦は首を横に振った祥の中の霊だったが……。少しの時の後、そういえば……と思い直したように、
「ありが……と……」
その言葉で修子は、これで霊の現世への未練は全部だと察して再びコクリうなずくと、
「じゃあ、いいか?」
深くうなずく、祥の中の霊。
それを合図として、修子は一呼吸おくと、念珠を手に滑らかに真言を唱え始め……。
するとしばらくして、がくがくと体に震えがきて、身悶えるような状態になってゆく祥。そう、自分の頭ははっきりしているのに、その意志とは無関係に、体が勝手に動いていってしまって……。とりあえずその動きに祥は身を任せてゆくが、頭の中はただひたすら驚きと不思議でいっぱいになっており……。そうしてそんな時がしばし続いた後、不意に、祥の中の女性霊らしき者がポツリと、
「私は……騙されて……いたの……かも……しれません。もしかし……たら……あの人……も」
不意にこぼれたその言葉。それに、修子は困惑して、眉をひそめると……頭を過るのは、色々情報を与えたらしき者の存在。それに思わず修子は真言を止め、
「それは、どういう意味だ! お前に情報を提供した者と何か関係があるのか!」
だが……それ以上何を尋ねても、彼女はうんともすんとも返事を返してこず……。
そして、悶えるようなその動きも、段々と収まってゆき……やがてやってきたのは、
沈黙。
完全に動きが止まったのを感じて、祥はどこか疲れ果てたような表情で、ゆっくりと体を起こしてゆく。そして、ポツリ、
「行った?」
それに修子は、
「ああ……そうみたいだ」
だが、そう言いつつも、聞きたかったことが聞けずに終わったからか、口惜しさをその表情にありありと浮かべており……。
「ああ、くそっ!」
思わず口からこぼれるのは、無念の言葉。
そしてそれを、祥は傍らで見つめていたが……。だが、まだどこか魂を持っていかれたような様子で、祥は呆然としながら、
「やっぱり、霊って……いるんだな……」
つくづくといったよう、そんなことをいってくる。
すると、それに修子は呆れ果てたような表情をして、
「何を今更。この二日間、散々経験してまだ分かってなかったのか、馬鹿者が」
「……」
分かっていつつもやはり心の底で信じたくなかった祥、何も言い返せず、思わず無言になってしまう。そして再びポツリ、
「彼女、無事天へたどり着けたかな?」
悪霊の言葉は聞けないが、修子や女性霊の言葉から何となく事情……というか感情というものは飲み込めていた祥、どこか彼女のことを心配しているような様子を、ほんのりといった感じで見せてくる。すると、それに修子は、
「ああ、大丈夫。きっとちゃんと行ったさ」
そして、そんな祥の態度から、何か今までと違うものを修子は感じ取ったのか、思わずといったよう、
クスリ、
笑いをこぼすと、
「お化け恐怖症、少しは克服したか?」
からかい調子でそう尋ねてくる。だが、それに祥は、少し考えた風を見せた後、
「……無理」
そして、
「やっぱり、知らない場所での一人の夜は怖いし、そんな所のトイレだってお風呂だって怖いし、ありえないものが見えたら、これもやっぱり怖いし、だから……なのかな、夜の鏡なんてのも俺は怖いし……。今回で悪霊とそうでない霊がいることが分かったけど、そうでない霊には少し免疫が出来たかなっていうか……話すことには慣れたように思うけど……やっぱりやっぱり見えたら怖いし。悪霊なんていったら論外だし、またそんなのに遭ったらと思うと……あれ、でも俺、悪霊全然見えてなかったっけ……??」
マシンガンのように話し始めた祥に、またかと、呆れたような表情をする修子。そして、
「心配するな、お前は霊感ゼロだっていってるだろうが」
「でも! 全く見えないって訳じゃ……ないんだろ」
見える見えないにやたらこだわっているらしい祥、それに修子はまたも呆れ返ると、大きく一つため息をつき、
「見えるとしたら、おまえは恐らく心霊写真ぐらいだ。それより、考えなきゃいけないのは自分自身の体質だ。見える、見えないより、良い霊か悪い霊かが大事だろうがっ! ったく、厄介だ。何でもかんでも引き寄せてしまいそうなその体質。しかも本人自覚なし。礼を言うべきは中の霊達なのに! ほんっとに、今までは彼らのおかげで無事ですんだと言ってもいいんだぞ!」
「……」
最もな意見に、言葉も返せない祥。だが、やっぱり怖いものは怖いと、相変わらずブツブツ呟いていると、
「……だが、残念だな。霊の中には驚くほどの美人もいるってのに……」
どこか言葉を楽しむようにして、修子はそう言ってくる。するとそれに、
「え、そうなの?」
敏感に反応するよう、そう言葉を返してくる祥であったから……。そのあまりの反応のよさに、修子は軽蔑の色をかすかに浮かべて目を細めると、
「馬鹿、私は感じるだけで見ることは出来ないって知っているだろ!」
そう言って、その場から背を向け、一人スタスタと歩き出した。
人気のない、物寂しい空き地の中。
そこで一人残されそうになった祥。
それに冗談じゃないと祥は怯えた眼差しで辺りを見回すと、騙されたことなどどこへやら、置いてかないでと慌てて修子の後を追ってゆくのであった。