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第一部 第十章 またもや……の

 それから二人はようやく練習場に戻ってくると、

「遅―い!」

 すれ違った一人の部員に、まずかけられたのが不機嫌顔のそんな言葉で……。

 それに、

「え……」

 と、二人は思ってゆくと、

 そう、なんとまだ、部員達は練習をしており……。

 どうやら自分らが戻ってから休憩だったらしく、買い物にかなり時間がかかってしまったことを認識していた二人、

 やばい……。

 顔を見合わせて、お互いその表情を渋いものにしてゆく。

 そして、おずおずといったよう、二人は練習場の端にやってくると、

「休憩―! 飲み物買ってきたよー!」

 声に少し焦りをにじませ、そう声を張り上げながら、自分らの帰還を皆に告げてゆく。

 すると……どうやら、買い物役の修子達が戻ってきたら休憩、ってことはあらかじめ部員達は聞いていたらしく、この長すぎる時間に皆不満ブーブーで……。

 そんな不満の出迎えの中、二人は肩身を狭くして、集まってきた皆の方へと向って歩いてゆくと……降ってきたのは数々の問いかけ。

 そう、何でこんなに遅くなったのか尋ねる者、コンビニのビニール袋が何故か土で汚れているのに疑問を投げかける者、中には、二人でサボってた? なんて言う者もおり……だが、まさか真実をいう訳にもゆかず、嘘も咄嗟に思い浮かばず、どう答えていいのかと、思わずしどろもどろになってしまう二人であって……。

 そう、それはどこからどう見ても怪しい態度。なので、

「この二人、なんかあやしー!」

 挙句の果てには、そんな言葉までかけられて……。

 もうこうなったらひたすらの給仕で償うしかないと、にこにこ愛想笑いしながら、皆に飲み物を注いで回ってゆく二人。そう、

「ハイハイどうぞ、先輩は何? お茶?」

「スポーツドリンク! スポーツドリンク飲みたい人、いますかー!」

 等など、声を張り上げ。

 すると……。

 曖昧にではあるがなんとか誤魔化せたのか、質問攻めはやがて落ち着き、部員達は皆思い思いの休憩へと入ってゆき……。

 そう、修子は修子、祥は祥で友達と語らいながら。

 そして久し振りのコーラを片手に、じっくり味わいながらくつろいでいた祥だったが……。

 実は先程聞いた話がまだ信じられず、本当に中にいるのかと、思わずそんな疑問がわきあがってきてしまう祥であって……。そして友達との語らいの合間、ちょっと、本当にちょっと、試しにおーい! と小さく中の霊に話しかけていってみると、

 コクン。

 自分でも意識せず首が動くものだから、やっぱり、ひえー! と……怯えてゆく祥なのであった。


 そうしてやがて練習も終わり、夕方頃、皆くたくたになりながら、合宿所に到着した。

 それは本当に足が棒のようにと言ってもいい程で、そんな疲れと共に、皆玄関で靴を脱いでゆくと、なんと、またもや出迎えてきたのはピシッ! というラップ音で……。 

 少し忘れていたそれに、ああ、これがまだあったんだ……と、げんなりする修子。

 そして、

「うわっ! またピシピシいってるよ!」

「何とかならないの、修子!」

 口々に部員達からそんな声があがる。

 それにどうしようかと再び悩む修子。やはり真言が弱いことを感じるが、ただ闇雲に封じ込めを強くしていっても、怒りを増幅させてしまうだけのような気もし……。となると……。

 真言を解いて、霊の話を聞いて気を鎮めていった方がいいのだろうか……。

 そちらの方へと傾く気持ちを感じ、また少し悩んでゆく修子。そうしてやがて……とりあえず真言を解いてみようと、それを試すことを決意すると、

 やるなら早い方がいい。夜が更ければ更けるほど、皆の恐怖は大きくなるだろうから。

 幸いなことに、夕食までの間、少し時間があった。

 そう、皆それぞれにやりたいことを……例えばのんびりくつろいだり、気の早い人はお風呂になんか入ったり……する時間だ。

 ならばと修子は、昨夜真言を唱えていった所ひとつひとつを回り、魔除けの呪文を解除してゆくと……。

「お」

「あ」

 その途中、偶然ばったり祥と廊下でかち合う。すると、祥は、

「なに……やってんの?」

「いや……昨日の真言、解こうと思ってな。解いて、気を鎮めてから、霊の話を聞こうと思って」

 それに、祥は買い物にいった時のやり取りを思い出し、

「ふ……ん。じゃ、やっぱやり損だった訳だ」

 どこか確信的にそう言う祥。だが、まだ事情は分かっておらず、なのでまだなんとも言えないことでもあり、修子は少し悩んで、

「それはどうかな」

 とだけ言うと、

 そういえば……こいつにもかけていたんだ。

 ということに気がつく。

 だが、彼は駄目だ、と修子は思った。彼の中の霊達がいるが、それ故彼女に憑かれていなかったとも言えるのだが……。念には念を入れたほうがいい。特に、彼女は悪霊ではないのだから、霊の判断によっては中に入ってしまうこともありえ……。

 そう、これは悲しみの強い霊、憑かれたら何をされるか……。

「まぁ、とりあえずは全部終わったよ。後はまた暇を見て、霊に話でも……」

 彼のことは伏せ、少しドキドキしながら終わったよ宣言をする。すると、困ったことに話の途中、祥が、

「え……全部? あれ、そういえば俺もかけられてなかったっけ? 俺は?」

 くそ、忘れてろと思っていたのに……。

 だが、やっぱりきてしまったその言葉に、修子は苦々しい顔をすると、

「ったく、お前はやめておいた方がいいんだよ! いい加減悟れ!」

 思わずといったよう、そう祥に毒づいてゆく。そうして、解除もせず、修子はそのままそこから立ち去ろうとすると……。

 バタバタと、何者かがどこからか駆けてくるような音がする。そしてその音と共に聞こえてきたのが、

「すみませーん! 皆さん。炊飯器が突然壊れてしまって! 何とかご飯調達しますんで、しばらくお待ちください!」

「……」

 無言の修子。そして、祥も。

「まさか……」

 頬を引きつらせ、そんなことを祥は言ってくる。するとそれに修子も、

「まさか……とは思うが……」

 霊の存在の可能性を感じ、ついそんな考えが浮かんでしまう。そしてその後、修子はひるがえって、

 すまん、許せよ柚月。皆のご飯の為だ!

 先程の思いは引っ込め、引きつった笑顔と共に、

「そういえばそうだったな、お前も解除しないとな。その方が霊にとってもいいと思う、解いておこう」

 そう言って、祥の額に指先を当て、解除の言葉を唱えてゆくのだった。


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