4話 アルトリアとの出会い
山道という名の獣道を歩いて数十分がだったがまだ山の山頂へはつかない。近くに見えたんだけどな。
そして、しばらく歩いた先にそいつは現れた。
遠くで羽ばたくような音が聞こえ、思わずそちらへと視線を向けると、何か大きなものが空を飛んでいる。
「何かいるな」と思ったと同時、ソイツは唐突に空から急激に滑空し、地面スレスレで減速。そして、ふわりと優雅に地面に降り立った。
その降り立つ時の羽ばたいていた風圧がすごく目を瞑った。
風が止んで目を開けるとそこにいたのは、銀色の綺麗な鱗を持つ、滑らかで綺麗なフォルムの、巨大なドラゴンだった。
名前 : アルトリア
種族 : 王古代龍
階級 : 覇竜王
レベル : 995
HP : 不明
MP : 不明
筋力 : 不明
耐久 : 不明
敏捷 : 不明
器用 : 不明
幸運 : 不明
固有スキル : 不明
スキル : 不明
称号 : 覇竜王
……は、え?
イヤイヤイヤイヤ、ふざけんなよ!?
なんで初めて出会ったやつがドラゴンなんだよ!想定外過ぎるわ!!
しかも種族が、ただのドラゴンじゃなくて『王古代龍』とか、階級が『覇竜王』とか意味が分からんわ!!
しかもレベルまでも圧倒的に差があるし、相手のレベルが995に対してこちとらレベル1だぞ?1。
どう考えても圧倒的不利な状況にどうすれば良いか俺の足りない頭をフル回転させながら一生懸命に考える。
いろいろと考えていると、ドラゴンはこっちを見ながら口を開いた。
『お主……上級魔族、それもより高位の魔族か?』
そのドラゴンは、そう話しかけてきた。
「………」
しししシャベタアアアアアアアアアア!?
思わずそう叫びそうになった俺は慌てて口を押さえ、バレないように深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、冷静を装いその質問に答えた。
「上級とか高位とかはよく分からんが、魔族ではあるぞ?」
『何故疑問形なんじゃ。それよりも高位魔族がこのようなところで何をやっておるんじゃ?』
「何をって言われてもな……探索?」
『奇妙な魔族じゃな』
竜の声音に、若干呆れの色が混ざるが、今のところ襲い掛かって来そうな雰囲気は今のところ無さそうだ。
一応、野生生物である魔物と、一定の知能を持つ人間とか亜人とかとの区別は付いているようだが、ダンジョンからの観点ではそれらはどちらにしても皆、自身を殺しに来る悪魔的存在としか認識しておらず、それ以外の知識がほとんどないのだ。
『まぁ、そんな事はどうでも良い。ここは妾の縄張り故、侵入してきたお主を排除するまでよ』
あ、これマズイかも……。
俺でもわかる程の充満な殺気が周囲に満ち始める。
このままじゃ本当に殺される。
魔物と遭遇した時のことは考えてはいたが、いくらなんでも初期の段階からのドラゴン戦は想定外過ぎる。
どうする?どうすればいいんだ?
いろいろと生き残る策を考えているとドラゴンの方から微かだが、ほんのり甘い匂いがした。
この作戦ならもしかしたら……
「ちょと待ってくれ!!」
そう言った直後その竜の爪が俺の顔面近くで止まった。
危なかった……。
『……一体なんじゃ』
良かった、話は聞いてくれるようだな。
「俺はあんたと敵対するつもりはないしそもそもあんたと戦う力も持っていない。だが俺はこんな理不尽に殺されるのはごめんだ。だから取引をしないか?」
『取引じゃと?』
「ああ、そうだ。お前甘いもん好きだろ?俺も甘党だから甘い匂いには他のやつらより敏感なんだよ」
俺がそう質問すると……。
『わ、妾はべつに甘いものが好きというわけではない!ここに来る途中、腹が減って仕方なく、仕方なくゴブリンの集落を襲って、そのゴブリンどもが人間から奪った甘味を食べたりなどしてはおらんぞ!』
こいつ、絶対嘘をつけないタイプだな。
ていうかなんでこいつはこんなに動揺してるんだ?ドラゴンだろうが。
べつに甘い物が好物なら好きだと言って堂々(どうどう)としても良いと思うんだがな。
「そんな嘘をついても無駄だ。口どころか体からも甘い匂いがぷんぷんしてるぞ」
『そんなに匂ってあるのか……?』
「そこでだ、そんな甘党の貴方にオススメするのはこちらです」
そう言って俺は、ストレージを出現させ、その中から取り出したのは……どこにでも売ってるような普通の板チョコである。
これは、朝にカタログから選んだおやつ用のお菓子で後で食べようと思っていたが、背に腹はかえられん。
それに、甘い物ならばまたダンジョンポイントと交換すれば良いわけだからこれくらいで助かるんなら安いもんだ。
『な、なんじゃこれは?甘い匂いがするが……』
「これはチョコレートのお菓子の一種で板チョコっていうんだ。とりあえず食べてみろ」
そう言って俺が銀色の包紙を破って、取り出した板チョコをドラゴンの口に放り投げる。
すると、ドラゴンは口で上手くキャッチした。なかなかに器用だな、こいつ……。
『な、なんという甘さなんじゃ!?これほどの甘味がこの世にあったとは……ッ!!』
こいつ、世界最強種の一角ドラゴンの中でもかなり上位の存在のはずなのにやけに表情が豊かだな。どうでもいいことだが……。
最初はあんなにも威厳があったくせに、板チョコひとつでこんな喜んでいる様子を見て一瞬気が抜けてしまったが……ただ圧倒的という言葉を三回通り越したぐらいのステータス格差があるのは間違いないし、このドラゴンがその気になれば俺なんて文字通り掠っただけで死んじゃうので、意識して緊張感を忘れずに交渉を続けた。
「ここからが本題なんだが、このチョコを作り出せるのは世界でも俺だけのはずだ。実際見たことないだろ?」
『う、うむ。確かに初めて見たのじゃ』
「もしここで俺を殺してしまうとお前はこのようなチョコは二度と食べることが出来ない。そこで取り引きだ。俺をこの場で見逃してくれるのであればお前はこの先もこのチョコを食べることができる」
二度と食べられないというのは正直言って可能性がないわけではない。
この世界に俺みたいな異世界人は今は、俺だけだと思うしいたとしても俺みたいにダンジョンマスターをしているという可能性はないはずだ。
…‥たぶん。
「ここで俺が出す条件は二つ。一つ目は、俺のことを殺さないこと。二つ目は、あそこに見える洞窟があるだろ?あそこが俺の住処だから、それを認めることだ」
ダンジョンポイントの消費率は多くなるが、ここで殺されるよりかは遥かにマシだ。
ドラゴンの方は、少し悩んでいるといった表情を見せている。
……いけそう、か?
「なにも難しい事は言ってはいないぞ?俺はここで死ぬのはごめんだし、お前は、俺を見逃すというだけでこれを食べることができる。お互いそんな少ない取り引きだと思うが」
『……あいわかった。お主のことは見逃してやろうぞ』
俺は嬉しくて力が抜けそうになったが、まだ話が終わっていないため気分を今一度落ち着かせる。
『その代わり妾にもっとそのちょこ?とやらをもっと食わせてくれるのじゃな?』
「ああ、約束は守る。だが、お前のその巨大な図体を満足させられる程の量さすがに無理がある」
『……ふむ、確かにそうじゃな』
そう言ってドラゴンは突然身体が発光した。
その眩しさが消えた瞬間、一人の白髪に紫の瞳をした少女がそこにいた。
「一体、どうなって……?」
外見は15から16歳頃といったところか。
ただし人間と違う点としては、頭の横らへんから伸びる美しい二本の角とドラゴンの尻尾(本来のものよりも小さい)が生えているという点である。
……てか、やっぱり雌だったのか、コイツ。
「何を惚けてあるのじゃ?」
「いや、……お前そんな姿にもなれたんだなと思ってな」
「妾もそれなりに長く生きてあるから、これぐらいの人化も覚えるのじゃ。この姿だったらあのドラゴンの姿の時よりも量を少なくすれば、妾も満足しやすくなるというものじゃ」
こっそりと鑑定してみたが、種族名は『王古代龍』のままになっていた。
姿が変わっても種族はそのままなんだな。
「約束じゃ、もっと妾にちょこれーとをよこさんか!」
……コイツ、最初はあんなにも威厳があったのに今は威厳もまったくないな。
チョコはあげるが、その前に……。
「とりあえずこれ着てくれるか?正直言って目のやり場に困る」
そう言ってとりあえず、俺の服を投げつける。
ドラゴンは基本的に全裸の状態だ。人型種のように服を身につけてはいない。
よって人化したからといって服を着ている状態というわけではないのだ。
それに外見的には、少しあれだがもう少し成長した姿だったらちょっとヤバかったかもしれない。
「お主、何か妾に失礼なことを思わなかったか?」
そう言ってドラゴンがジト目で見てくる。意外と鋭いやつだな。
と思っていたが、長く生きているだけあってこちらを挑発するようにニヤッと笑みを浮かべる。
「まぁ、仕方ないのう。妾の身体にどこの誰かが欲情して襲い掛かってこられてもたまらんしの。これを着る代わりに先程のを……」
「わかった、わかったから!頼むからさっさと着てくれ!!」
「仕方ないやつじゃな。ほれ、着たのじゃ」
「そうか。とりあえず俺のダンジョンに来てくれるか?今ある残りは、そこで食わせてやるから」
「む、しょうがないのう。ほれ、さっさと行くのじゃ!」
そう言ってドラゴンは俺の腕を引っ張り俺の家……ダンジョンへと向かった。
……てか、引っ張る力強すぎないかコイツ!?
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