実戦{6}
「……ありえない。」
ヘルタが呆然と見上げたそこには
5対の羽を宿した悪魔が現れていた。
「悪魔の召喚などできてはいけないはず……。」
慌てたようにヘルタがつぶやく姿が現に現れているのだから可能なのだろう。
まぁ、代償はあるだろうが。
【魔輪炎】
すべてを飲み込む終焉の炎が円輪となり、ヘルタに襲いかかる。
隠していた魔力を全力で出し、抵抗するヘルタだったが格の違いは歴然だった。
【闇よ飲み込め】
スキルではない何かが、悪魔を宿したルファーの口からこぼれ落ちる。
闇が集まり群れをなし広がる。
全能力を再生に回して生き延びたヘルタだったがそこに漂う純粋な闇をみて絶望を浮かべた。
「何?何なのそれは?」
「祝福だよ。」
「何が祝福だ」
アレッタと対峙していたときの威厳はすでにない。
【爪鋏刃】
ルファーの指が黒塗りの鋼鉄で覆われ刃となる。
誰にも感知されることなく後ずさるヘルタに肉薄すると、後ろ足で蹴り上げる。
そのまま腹を貫くが、さすがは【神子】。
驚異の再生能力により傷が癒えていく。
その後、何十回も斬撃を加えたところでこれ以上は意味がないと判断したのか、爪を解除し、攻撃が殴打へと変化する。
傷が癒えようとも、残る疲労までは回復しないとの見通しだろう。
痛みを直接脳内に送り込んでもいるな。
それは数秒だろうか、はたまた数時間だっただろうか、しばらく経ちルファーが殴打をやめた。
床に転がるヘルタはもちろん、魔法陣の針も折れ曲がっていた。
しかし、まだ、…まだ…諦めてはいなかった。
全身に残る苦痛に顔をしかめ、地を這ってもなお、諦めていなかったのだ。
それは高貴なる天使ではない。泥臭くこの世界を生きる一人の姿だ。
「良い目だ。」
ルファーだろうか、それともアレッタか。
沈黙の中に感嘆の声が響く。
【泥天之王】
天啓が降り、形質が変化する。
フラフラになりながらも立ち上がったヘカテは驚愕する。
その眼に写っていたのはアレッタのみ。
格下と認識していたその男の力量に気がついたのだった。
下手をすればルファーと同格の存在感を醸し出すその男に汗が流れ出る。
だが、戦いは起きなかった。
ヘカテが揺らいだと認識した直後、消え去っていたのだ。
数秒後、ルファーの元から悪魔が去り全員の緊張が溶ける。
「そこの君ももう大丈夫だよ。
ルファーが優しく思念で伝えたのはベネットであった。
片時も目を離すことなくヘルタを狙い続けていたのだった。
そして、気になっていたルファーの外見は伯父さんそっくりであった。
「は?」
思わず声が溢れる。
「天羽蓮と言う名に覚えは?」
急いで思念を送った。
「覚えと言うか俺の甥だが…ん!?」
「蓮なのか?」
「えぇ。蓮です。」
目に涙を浮かべると、両手を広げてルファーは蓮を抱きしめた。
周りが驚くがルファーが気にした様子はない。
「…死んだかと思っていたぞ。生きていたとは!」
抱きしめながらルファーは言葉を吐き出す。
「力になれなくてすまなかった…。」
「伯父さんのせいじゃないだろ。」
「だが……。」
「もうその件は俺の中で決着がついた話だ。もう良いよ、ありがとう」
「…そうか。」
「というかこっちも驚きだ。なんで伯父さんが【暁の魔王】なんかやってるの。」
「まぁ、色々あってな。」
二人で話していると周りに支えられながらクトがやってきた。
「失礼ですが、ルファー様。アレッタとどのような関係が?」
「俺の伯父だ。」
「……え?」
「こいつは俺の甥だよ。」
「本当ですか?」
「本当だな。」
周りが驚く中、メランがやってきた。
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