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30話

「親が大型出資者らしいんでね。今回はその権利を有難く使わせてもらったってわけだ」


「は?」


「いや、俺も最近知ったんだけどな。この劇場を建てる時、500万位プレゼントしてやったんだと」


「あれってお前の親だったのか」


 当時、練習場を建てる所までは普通に賄えたが、追加で劇場を作るまでの余裕は無かった。

 だから銀行に頼もうとしたものの、信用が足りなかった為借りることが出来なかったので、ファンに累計で5000万くらいの融資をしてもらった過去がある。


 その後無事に返済を済ませたのだが、一人だけ融資じゃなくて寄付をしただけだからと返済を受け付けなかった家庭があるという話は聞いていたが、まさか海翔の親だとは。


「ああ、俺はよく分からねえけどな!」


「そうか。俺からもありがとうと伝えておいてくれ」


「お、おう。で逆にお前らはここに居るんだ?」


「それは俺が以前ここの劇団員だったからだな」


 MIUに演技を教えたからという理由もあるが、別にそれが無くても入れただろうし、間違いなく面倒な事になるから黙っておく。


「あーなるほど。椎名と幼馴染だしおかしくはないな」


「そういうことだ。で、どうしてMIUが今回出るって知ったんだ?」


 いくら海翔の親に恩があるとはいっても、その情報は伝えていないはず。


「ここら辺でだらしねえ恰好した超絶美人のねえちゃん見つけたから追跡してたら、偶然練習場に入っていくMIUちゃんを見つけた」


 だらしない格好ってことは師匠か……


 気持ちは分からないでもない。しかし、


「一旦逮捕されてこい」


 ストーカー行為は犯罪だ。許されるべきことではない。


「美人だから仕方ねえじゃんか」


「それが言い訳になるわけがないだろ。今すぐ出ていけ」


 そんな危険人物をこの劇場に入れておくわけにはいかない。俺は力づくで関係者席から海翔を追い出した。


 それから2分後、普通の観客席に何事も無かったかのように海翔が居た。関係者席に入る権利で普通の観客席に座れるものな。


 正直な所外に出ていって欲しい気持ちが強いが、関係者席に居るよりはマシなので放置することにした。


「ふう」


「困った生徒も居たものだな」


「本当ですよ」


「まあ気持ちは分からんでもないがな。この間、雨宮に脚本家と撮った写真を見せてもらったが、トップモデルだと言われても疑えないレベルで美人だったしな」


「それはそうなんですけどね」


 それでも人としてのラインは最低限守って欲しい。


「おっと、そろそろ始まるぞ」


 なんてことを話していると、観客席が暗くなってきた。


「そうですね。雨宮、そろそろ止めてやってくれ」


「あっはい。分かりました」


 雨宮は幸村の腕を開放し、大人しく座った。


 まだ幸村は放心状態だが、始まるまでには間に合うだろう。




『はじめまして!花森咲です!』


 というMIUの華やかな演技から始まった劇は、終わりの時まで全ての客を魅了し、没頭させた。



『凄かったね~』


『ヤバいわ。また見に行きたい』


『分かる』


『確か七條役の人ってウチの高校の先輩だったよね』


『うん。椎名美琴先輩だよね。凄くカッコよかった』


『二宮役の人カッコよくなかった?』


『大野役の人クール系美人って感じで凄く良かった』


『MIUさんやっぱり最高っすわ』


 終了後、MIU目的で来ていた筈のウチの生徒は、MIUだけでなく他の役者への感想も言い合っていた。


「皆凄いな。作家の台本を元に、役者が作り上げるとこうも化けるのか」


「これが麗奈さんが率いる劇団なんですね。流石なみこ先生の師匠です」


「よかった……」


 そして幸村達にもかなり好評だった。分かってはいたけれどな。


「って剛くん、泣いてるじゃん」


 腕を組んで感心していると、幸村にそんなことを言われた。


「泣いているわけがないだろ」


 今回の話は笑う所はあれど泣き所は無かっただろうが。


「と自信満々に言われてもね。その顔が動かぬ証拠だ」


 そういって凪咲ちゃんに鏡を渡された。


「そんな馬鹿な」


『ヒメざかり!』が連載決定した時ですら泣かなかったというのに。


「弟子の成長は嬉しいってことだよね。早速感想を言いに行ってやりなよ」


 そう言って幸村は俺を追い出すかのように舞台裏へ向かわせた。


「あ、なみこ先生」


 舞台裏に辿り着くと、MIUが俺に真っ先に気付いて駆け寄ってきた。


「おう、MIU」


「わざわざ初回公演に来てくれたんですね」


「当然だろ。MIUが最終的にどうなったのか、俺の仕事が終わってからずっと気になっていたからな」


 網羅し忘れている事があったらどうしようかとか、網羅した所で大量の分岐を全て覚えきれるのかとか挙げればきりが無い。


「それは心配しすぎじゃねえか?」


 と言いながら肩を組んできたのは美琴。


「仕方ないだろ。普通じゃない方法を使ったんだから」


 ただの演技指導ならここまで心配することも無かっただろう。


 しかし、今回取った方法は俺どころかこの世に居る役者が誰一人として行った事が無い手段だ。心配するなというのが無理な話だ。


「でもお陰で完璧に演じ切ることが出来ました。ありがとうございます、師匠」


「師匠って」


「私に演技の指導をしてくれたじゃないですか。しかも長年悩んでいたアドリブの」


「アレは指導じゃないだろ」


「いえ、指導です」


 そう言い張りつつMIUは俺の手を取り、両手で優しく包み込んだ。


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