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25話

「そろそろ帰ろうと思うのですが、この人が泥酔していたので流石に放置は出来ないなと思いまして」


 正直に面倒だから頼むと咲良さんに言ってしまうと殺されてしまうので、師匠の事を心配しているフリをした。


「ん?」


 普段なら師匠に気付かれるが、泥酔している今であれば何を言っても大丈夫だ。


「ありがとう。私に全て任せて。麗奈ちゃん!!!!!!」


「うおっ!何をするんだ咲良!」


「可愛いので」


 俺の言う事を信じた咲良さんはそのまま師匠に抱き着き、頭を撫でていた。


 師匠は離せ離せと叫んでいるが、泥酔していて力が入らないらしく、振りほどけないでいた。


「じゃあ帰るぞ」


「わ、分かりました」


 そんな光景を見ていた雨宮と共に練習場を出て、電車に乗って帰宅した。



 それから一週間後の昼休み、


「あのMIUちゃんがテレビ番組に出なくなるって本当なのか!?!?」


「マジらしい。事務所を辞めたって公式に発表があった」


「絶望じゃん……」


 ネットか何かでMIUが事務所を辞めたと発表があったらしく、クラスメイトの人たちは何故か絶望していた。


「そこまでの事なのか?ただ事務所を辞めただけだろ」


 それを見ていた俺は若干呆れていた。


 別に芸能界を引退すると公表したわけでも、演劇を辞めると言ったわけでもないだろうに。


 どうしてそこまで悲しめるんだ。


「辞めた事務所が事務所だからね」


「辞めた事務所?どこも同じだろ」


 何か光る物があれば売れるんだから、MIUがどこに居ようが関係ないだろ。


「漫画と違って、面白ければ売れるわけじゃないんだよ」


「違うのか?」


「うん。ある程度の魅力は流石に必要だけど、芸能界は事務所の力ってのが大きな割合を占めているんだ」


「そうなのか」


「で、MIUが居た事務所はファイアープロダクションって言う日本最大手の事務所で、そこの事務所に所属出来たは全員大スターになることで有名なんだ」


「それは凄いな」


 日本一の漫画雑誌であるジャ〇プに連載出来た漫画でも、アニメ化まで到達できる作品は2割も無い。


 なのにファイアープロダクションは10割大成功。


 芸能界は漫画とは仕組みが違うが、それでも恐ろしすぎる話だ。


「別にそれだけなら良いんだけどね。入れば大スターになれるだけだし」


「確かにそうだ」


 一度人気を博したスターであれば、事務所から離れても引っ張りだこだろう。


「だけどね、ファイアープロダクションを抜けた人は事情とか一切関係なく、二度とテレビに出られなくなるって話なんだ」


「二度と?」


「うん、事務所が圧力をかけてるってのが専らの噂だね。だから表向きには大スター養成事務所で通っているんだけど、ネットとかではタレントの火葬場って言われているんだ」


「怖い話だな……」


 それなのにMIUは事務所を辞めたのか。本当に強い意志と覚悟をもってやってきたんだな。


 そしてクラスメイトが絶望しているのもなんとなく頷ける。


「ま、あくまでも噂だから本当の所は分からないよ。気になるんだったら直接聞いたら?」


「流石にまだ聞く気にはなれないな」


 まだ2,3回位しか会ったこと無いのにそんな突っ込んだ話題聞けるわけがない。


「それもそうだね。で、上手く行ってるの?」


「どうだろうな……」


 上手く進んでいないというわけではないが、上手くいっていると言うにはかなり微妙な状況なのだ。



 そう結論付けるに至ったのは4日前の話。


「成長はしていると思うぞ。素が抜けてきた」


 俺は色々と試行錯誤を重ね、MIUがアドリブに少しずつ対応できるようにと練習メニューを与え、順調に改善されていっていた。


 しかし4日前の練習の最中、


「なみこ先生。非常に申し訳ないんですけど、完全にアドリブの対応をするのは無理だと思います」


 とMIUが突然結論付けてしまったのだ。


「今の所上手くいっていると思うんだが、何故そう思ったんだ?」


 現状のペースで行けば本番までには見せられる域に達すると思っていた俺は、意味が分からなかったため理由を聞いてみた。


「私の演技は事前に台本を読みこんで、どう演じるかを事前に決めてしまっているからです」


「普通そういうものじゃないか?」


 台本を読んで、事前にどんな風に動くか決めるのが練習なんだから。役に入り込んでいるここの劇団員ですらある程度はそうしているぞ。


「普通なら、ですね。ただ私の場合このセリフの時に腕の角度は何度か。足は何cm開くのか。声量は収録現場の環境的に何㏈が適切なのか。等々様々な項目に分けて調整しています。私はそれのお陰でここまで演技力を評価されるようになりました」


「よく分からないけど凄いな」


「ありがとうございます。で、何故アドリブ対応が不可なのかと言いますと、私の場合アドリブを振られた瞬間にセリフを考えるだけではなく、先程の調整までしなければ前後との演技力の差を埋められないからです」


「差を埋められない」


「はい。ずっとそうしてきたので慣れてはいるのですが、それでも調整には5秒は必要なんですよね」


「なるほどな」


 今のまま練習を重ねていってもある程度の完成度は実現できるが、思考速度の都合上女優MIUの演技力に到達することは出来ないってことらしい。


「ですので、私がアドリブ対応出来るようになるためには、今の状況を鑑みるに最低でも2年は必要です。」


「2年か……」


 という話になって結局アドリブ対応の訓練をするだけ無駄という話になってしまった。


 これだけならただ上手くいっていない、失敗で終わるのだが、とある方法が見つかってしまった。


 それは、事前に共演する役者がMIUの前で行うアドリブを全て想定し、事前に対応を台本として用意するというもの。


 あまりに無謀かと思われた案だったが、師匠の弟子であり漫画家である俺と、師匠の大ファンであり、日本トップの女優であるMIUが協力することにより、何故か上手くいってしまったのだ。


 代償として、俺の時間が尋常ではないレベルで削られることが確定してしまったのだが。


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