前編
前後編です。
前編ではまだスッキリできませんが、読んでみてください〜
先に感想欄を読んでしまうと、展開読めてしまうかもしれないので、そちらは後編を読み終わるまでは見ないことをおすすめします。
「リタ・リエイト! トラッシュから身を引いて!」
学園卒業間近の昼休み。群れるのが好きではない私は、裏庭の定位置でお弁当を食べていた。
卒業後は、同い年の婚約者である公爵家嫡男と婚姻を結ぶ予定である。
完全なる政略結婚。二人の間に愛情など露ほどもない。愛情どころか、情という言葉に当てはまるものなど微塵もなかった。
婚約者のトラッシュ・ジャークとは、昔から合わなかった。婚約したのは、学園に入る少し前。わりと綺麗な顔をしていた彼は、幼い頃から周りにチヤホヤと育てられ、顔合わせの段階で既に本性をあらわしていた。一目で嫌いになったのだけれど、伯爵家の私から断ることなど出来ない。それが顔に出ていたのだろう、その日から、事あるごとに虐められた。
学園に入ってからは、いま私の目の前で獲物を狙う肉食獣のような顔をしている男爵令嬢が、婚約者と常に一緒にいた。それはもう、ベタベタイチャイチャ、目を逸らしたくなるほどに。もう、そちらのご令嬢と婚約し直せばよいんじゃないかしらと何度お伝えしたことか。それを全て私からの嫌味と受け取り、更に酷い態度を取ってくるのだ。心底面倒くさい。
食事くらいゆっくりしたい。昼休みは、私の気が休まる唯一の時間。そう思っていたのだけれど、単体でやってきた男爵令嬢、シーフキャット・シェイムレスは、許してくれなかった。
「はあ、呼び捨て、ですか」
「なに? 悪い?」
「学園内は身分は不問というのは他の学校のことで、我が校は身分制度が撤廃されてはいませんよ?」
「そうやって身分を振りかざすのね! なんて酷い女かしら! トラッシュ可哀想。こんな女が婚約者だなんて」
話が通じる気がしない。きっとどれだけ説明しても、この図々しい令嬢には理解されないことだろう。
「可哀想だと思うなら、シェイムレス男爵令嬢があのかたのご両親を説得してさしあげればよろしいんじゃなくて?」
「それができないから、あんたに言ってるんでしょ! ホントに性格の悪い女ね! スキルも持っていないクズ令嬢のくせに!」
「あっ」
頭の上から泥が降ってきた。シェイムレス男爵令嬢のスキル『泥』だ。光の速さで、お弁当に蓋をする。食べ物に対する執着は誰にも負けない。
「いい気味! とにかく、トラッシュは渡さないから! 私達の前からとっとと消えてよね!」
シェイムレス男爵令嬢は、下品に笑って去って行った。小柄でふわふわな髪の毛、可愛らしい顔立ちをしているのに、その表情ときたら悪魔も裸足で逃げ出しそう。もっとも、あんな顔は私の前ぐらいでしかしないのだろうけれど。
「スキル持ちが偉いと思ってるみたいだけど、意地悪で泥を他人に落とすぐらいしか使えてないじゃない。あれはレベル1ってところね。何事も鍛錬だというのに、実に嘆かわしいこと」
泥だらけで文句を垂れる。前髪から泥をポタポタたらしながら、弁当を見下ろした。中身は大丈夫。だが、食べる私が泥だらけだ。蓋を開けた途端に泥が落ちてしまいそう。どうする、どうやる。
悩んでいると、たまたま茂みの奥で昼寝をしていた知人が、便利なスキルを使って泥を排除してくれた。持つべきものは、一定の距離を保った知人である。御礼がわりにポケットから飴をひとつ差し上げた。飴ちゃんは、いつでも持ち歩いている。
◆ ◆ ◆
「リタ・リエイト! 貴様、昨日俺のシーフキャットを虐めたそうだな!」
翌日の昼休みは、婚約者が一人で現れた。何故一度に来ないのか。そんなに私の昼休みを邪魔したいのか。もう少しで舌打ちしそうになった。とにかくこの婚約者が嫌いなのだ。
「どちらかというと、虐められたのは私ですが」
「嘘をつくな! 彼女は俺に泣き付いてきたんだ! お前からひどい言葉を投げかけられ、泥をかけられ!」
「いやそれ寧ろ私が」
「黙れ! スキル無しのゴミのくせに生意気な! いつ喋っていいと言った!」
「スキル無しのゴミ」
スキル『ゴミ』を持っている相手から『スキル無しのゴミ』と罵倒される。考えてみたら、まるで奇跡だ。面白くなって、ふんと笑うと、馬鹿にされたと思ったのか、婚約者は私の頭の上からドサドサとゴミを落とした。昨日の男爵令嬢と同じで、普段からスキルを磨く訓練をしていないものだから、レベルが低い。ゴミを他人の頭にかけるぐらいのことしか出来ないのだ。
トラッシュ・ジャークは、凶悪犯のような顔をして去って行った。相変わらず、本性があらわれた醜悪な顔だ。あれで学年で一二を争う美形だというのだから、人の好みはよくわからない。もっとも、私の前でしかあのような顔はしないのだろうけれど。
「今日も、お昼は死守できたわ」
生ゴミを被った状態で弁当を食べるかどうか途方に暮れていると、またも偶然、茂みの向こうで昼寝をキメていた知人が顔を出して綺麗にしてくれた。どうやら飴目当てらしい。今日も飴がもらえるかと思ってスタンバイしていたのだろう。
そう言いながらポケットから飴を二つ渡した。ちょっと微妙な顔をしていた。
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