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第八話 〜四人目の攻略対象に接近してみました〜

ちょっと仕事がパタパタしており更新ペース落ちてしまいました。ゆるゆるやっていきます!

「さて、というわけで今日も出会いイベントを少しでも変えようと思います」


「うんうん、心意気はいいね、姉さん。ところでーー」


私の隣でニコニコしているノアの声は少し冷たい。


「なんでこいつがいるの?」

「あー! とうとうこいつって言った!!」


私にもわからない。なぜ、アルバートがここにいるのかはーー。



◆◆◆



エリオット・ルーカスは、ルーカス公爵家ーー、アルマイア帝国では代々宰相を務める家柄の長男である。次代の宰相として名高く、その銀色の美しい髪と、紺色の涼しげな瞳は、とにかく『美しい』の一言に尽きる。ノアやレオーー、ついでにアルバートも整った顔立ちではあるものの、エリオットは攻略対象の中ではとりわけて美形である。


そのうえ、模範的優等生で、何をやらせても人並み以上。少し規律に厳しくはあるものの、下の立場の人々にも優しく公平で、拗らせたファンは、彼に叱ってもらいたくてちょっとした規律違反をすることもあるらしい。


彼にはちょっとした『秘密』があるのだがーー、それが明らかになるのは、彼のルートの中盤以降なので、今日は問題ないだろう。


彼とアイリスの出会いの場所は、職員室前の廊下だ。人の良いアイリスは教師に頼まれて資料整理の手伝いを終えたところ、エリオットと遭遇し、うっかりぶつかってしまう。

謝るアイリスの手をエリオットは優しく取り、美しく微笑み、「すまない。ーー進んで人助けをするなんて、感心だな」と言う。

という展開である。


アイリスとエリオットは先輩後輩なので、クラスメイトにこそならないが、彼は監督生として後輩の面倒を見る立場にあるため、平民クラスが合流する際も教室に立ち会うことになる。



というわけで流れを変えるべく、私とノアはアイリスに資料整理を頼む予定の教師に、先手を打って手伝いを申し出た。すると、なぜかアルバートもついてきたのである。


「暇だったし、お前と話したくて。でまぁ、なんか手伝うーーとか言ってるから、俺もやってやろうと思ったわけだ」


「……マーガレットと過ごす時間にしなくていいわけ?」


「それはーー、まぁ、適度に時間は取ってるよ。ていうかそのことで感謝してんだ、だから俺も一緒に手伝おーと思ったわけ。悪いかよ」


照れるアルバートは可愛らしいが、自由に動きづらくなるので、悪いといえば悪い。


「でも今日はちょっとやりたいことがあってーだから話せないと思うんだけど」


「まぁまぁ、気にすんなって」


ずっと黙っているノアが、ちょっと怖い。



史学の資料整理は、なかなか煩雑だった。細かい作業が苦ではないノアは淡々とこなしているが、私とアルバートには不向きな作業である。ゲームでアイリスは大した手間でもなさそうにしていた印象だが、さすがヒロインだ。(アイリスは大方のことはできる)


バラバラになった羊皮紙を、種類別に区分し、時系列に並べて、括る。前世のことがなければら自分からは絶対にやりたくない仕事だ。


やっと終わりが見えてきたところで、ドアの向こうから、可愛らしい声が聞こえて来る。

「先生、ありがとうございました!」

「エアハート君、いつでもまた相談に乗るよ」


私が手伝いを引き受ければ、アイリスは職員室に用がなくなるだろうーー、と思っていたが、どうやらそうもいかないらしい。


このままでは、アイリスとエリオットがぶつかって、二人が出会ってしまう。


私は勢いよく廊下に出る。なんとかアイリスに話しかけて、違う場所に誘導ーー。

と思うと、何か硬いものにぶつかり、私は思い切り尻餅をついた。いろんなものにぶつかる人生である。



「いたたたた……」

「大丈夫か?」


顔を上げると、エリオット・ルーカスの美しい顔があった。近くで見るとますますーー、美人である。まつ毛は長いし、肌は白いし、唇の形すら、整っている。


視界の端で、アイリスが廊下を進んでいくのが見える。教室に戻るらしい。可愛らしい桃色のふわふわが、揺れている。



「も、申し訳ありません!」

動転した私はかなりお腹から声を出してしまう。


エリオットは軽く息をつき、私に手を差し伸べる。


「すまないな。ーーだが、いきなり廊下に飛び出すなんて、感心しないな。オリビア・カーティス」


ゲームでアイリスに向けられた言葉と意味合い的には逆のことを言いつつも、紳士的な動作はやはり様になっている。

私はエリオットと何度か会ったことがあるので、お互い顔見知りだが、こんなに近寄ったのは初めてである。


「ははは……」

気の利いた言い訳も思いつかないので、とりあえず笑ってしまう。


「姉さん! 大丈夫!? 結構な音がしたけどーー」


慌てた様子でノアが出てくる。


「大丈夫よ。むしろルーカス様にぶつかってしまったわ。ーー改めて、申し訳ございませんでした」


「いや、俺も悪かった。注意していれば避けられたはずだーー。どこも痛くはないか?」


エリオットの顔がさらに近づき、私は動揺する。


「だ、大丈夫です!」

声が少し裏返ってしまった。


ノアはそんな私にムッとしたのか、少し顔を歪める。

そしてエリオットに慇懃に礼をする。

「ありがとうございます。ルーカス様。姉が失礼いたしました」

「いや、謝罪は不要だ。ーー悪いが、少し急ぐ。また授業で会おう、カーティス姉弟」


エリオットは膝を折り、早歩きでその場を去っていった。私はその後ろ姿をぼうっと眺めてしまう。

ひとまずは、アイリスとの出会いイベントを変更することができただろう。


なぜかーー、アイリスと同じことをしていたはずなのに、褒めてもらえなかったけど。


「なんだオリビア、あぁいうのがタイプなわけ? 熱心に見つめて……レオ皇子に言いつけるぞ?」


「ち、違うよ!」

「つまらないことを言わないでください、アルバート様」


私よりもノアが強い語気で返事をする。

アルバートはニヤニヤしていて、ノアはまたそれにイラついている。この2人はどうにもこうにも、相性が悪いらしい。



まぁ、ああいうのがタイプなのか、と言われるとーー。たしかに私も『聖女アイリスの数奇な運命』を初プレイした時は、ビジュアルでエリオットルートを選んだ。が、中盤の展開でーー、少々人を選ぶ『秘密』ゆえに、戸惑った記憶がある。


カーネルティア学園では、職員室の近くに監督生に与えられた個室があるのだが、そこで彼はーー。


「オリビア、さっきの綺麗な奴監督生なんだな?いま入っていったけどちょっとドア開いてるーー 個室、どんなんなのか覗こうぜ!」


「あ、やめて! アルバート!!」


アルバートは少しだけ開いた隙間から、エリオットの個室を覗く。



やばい。とっさに思うが、身体が動かない。少なくとも私は『見なかった』ことにしなければ。


私はノアを引っ張って職員室に戻り、ドアを閉めた。


ごめんね、アルバート。

見捨てるけどーー、強く、生きてください。




◇◇◇


オリビアが乗ってこないので、少しつまらないが、監督生の個室には興味があった。おそらく俺には縁遠いものだろうし(マーガレットが監督生になる可能性はあるが)、見る機会もそうそうないはずだ。ちょっとしたミーハー心である。


一瞬、不自然な眩しさに目が眩む。

エリオットの背中がその中にあった。少し息を荒げている。


筋力トレーニングが……?と思いドアをもう少し開く。


「……なんだ」


鬼気迫る声。何を言っているんだろう。

もう少し、もう少し近くで、と思い、もう半分部屋に入ってしまう。


するとそこは、壁中に大きな鏡が貼られておりーー、照明も何個も置かれた、特殊な空間だった。


(え……)



「あぁ、なんて美しすぎるんだ、俺はーー」


エリオットの彫刻のように美しい顔が上気している。

あ、見ない方がよかったやつだ、と判断し、部屋を出て行こうとするも、鏡の中でエリオットと目が合ってしまう。


「ーーアルバート・スプリングフィールド」

「は、はい……よ、よくお名前ご存知で……」


学園最高の剣術の使い手であるはずの俺だが、最近縮こまるようなことばかりである。



「君、見たね」


鏡の中の、美しいーー、それはそれは美しい笑顔が、あまりにも、怖かった。


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