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第三話 〜今後の方針について考えてみました〜


通信機が光る。俺、ノア・カーティスは時計を見る。時刻は深夜2時15分。

たまたま読書が興に乗って起きてはいたが、人に連絡を取るような時間ではない。


無視しようか、という思いがよぎるが、そうもいくまい。つい先日、不敬を働いたばかりだ。


「はい、どうしましたーー、レオ皇子」

「やっほーノア、夜更かしはあまり感心しないなぁ、健康に良くないよ、健康に」

「だったら通信なんかしてこないでください」


通信機は、『電気』の魔法を使うアルマイア一族が、最近実用化に漕ぎつけた機械である。彼らは概ね、『電気』を操る能力があるだけでなく、発明の才能にも恵まれている。この国の技術分野を支え、魔法使い以外の生活を向上させる一族は、国民の尊敬を一身に集めている。そのため、この国の皇帝一族への支持率は、他国に類を見ない高水準なのだ。


「まぁまぁ、ちょっとだけ話そうよ。この間オリビアが変なこと言い出したのってさーー、何が原因なんだろう?」


「さぁ、なんなんでしょうね」


一応、オリビアから話は聞いているものの、まさか『前世が』だの『魔王が』だの言うわけにもいくまい。


「……何か隠してるんだろうけど、まぁいいや。もしかして『魔法使い狩り』が絡んでるんだとしたら、カーティス家にもなんらか援助しないといけないかなと思ったけど」


「魔法使い狩り、ですか。最近どうも激化しているみたいですね」


「令嬢達の間でもだいぶ話題みたいだからね。こと皇族と繋がりのある人たちは狙われるようだしーー、それで怖くなったのかなとか、思ってね。学園は結界で守られてるとはいえ、家にいる時のように常時護衛がつくわけでもないから」


オリビアがそれを気にしているとは思わないが、確かに最近の激化傾向は気になるところだ。俺も、自身の能力ーー、あまり使わない『闇』のほうで、オリビアの護衛をこっそり強化している。


俺の『闇』魔法はーー、この世に滞留している、かつて生きた魂の類に力を借りて行使する。俺は彼ら彼女らに、その力をオリビアの周囲に滞留させてもらっている。オリビアが危険な目に遭わないように。

基本的に、魂は生きている人間に影響力をもたないが、俺の魔力を捧げることで、彼らは自由に動き、時に人々に話しかけたり、悪戯したり、攻撃したりすることができるようになる。


(あまり力を与えすぎると、彼らが自由になりすぎて、かえって危険なことをされることもあるけどーー)


長年の特訓で、能力をコントロールできるようになった俺は、今のところ彼らとうまくやっているつもりだ。


「もちろん君が個人的に彼女を守ってるのは知ってるんだけどね、ノア。ただ僕もできるなら君たちの力になりたいんだよ。いくら君でも、高度な闇魔法を休みなく使い続けるのは身体にくるだろうからね。それに、どうせ自分のことには手が回ってないだろう」


「俺については、ご心配なく」


自分の魔法が周囲からーー、それこそ『魔法使い狩り』以外からも様々な形で狙われることには慣れている。


「そういうわけにもいかないよ。君たちはーー、僕の『恩人』なんだから」


◆◆◆


『聖女アイリスの数奇な運命』のプロローグで、オリビア・カーティスは、レオ皇子に尋ねる。


「レオ様、本当に私はレオ様の婚約者でよいのでしょうか」


オリビアは不安を感じていた。

7歳の時から婚約者であり、10年その関係が続いているにも関わらず、オリビアとレオ・アルマイアの間には、いつも業務的なやりとりしかなかったからだ。


2人の間に睦まじい空気がないために、『オリビアは愛されていない』というのが周囲の共通認識で、社交界の噂の種にもなっていた。

その度に、オリビアのプライドは引き裂かれていた。

下級貴族のなかには、娘を側室にーー、ひいては跡継ぎを産ませようと目論んでいる者もいるらしかった。



俯き、決死の思いで尋ねたオリビアに、レオは淡々と答える。


「今のところ、婚約を解消する気はありませんよ」


オリビアの胸が痛む。

『今のところーー』それはつまり、何かあればすぐにでも解消していいと思っている、そういう意味だからだ。


レオが自分に特段の感情を抱いていないことを、オリビアはわかっている。それでも彼のために着飾り、今日こそは優しくされるのではないだろうか、今日こそは美しいと褒めてくれるのではないだろうか、などと、どこかで期待してしまうのだ。


それを責められる人がどこにいるだろう。彼女はただ、恋する17歳の女の子なのだ。


「ただわかってください、オリビア」


「はい、何でしょう」


嘘でもいい。

少しだけでもいい。前向きなセリフが聞きたかった。

自分は自分でいいのだと、思うだけの材料が欲しかった。


「結婚したとしても、愛、なんてものはーー、僕に期待はしないでください」


レオは、淡々と告げた。


一番残酷だったのは、その時、彼がいつもどおりの微笑みを浮かべていたことだろう。




◆◆◆




入学前に家で過ごす最後の夜。

私とノアは、明日から2日かけて、学園の寮に移動することになる。両親はどうにも寂しいようで、晩餐中も啜り泣いていた。



結局、プロローグについては、大筋を変えることはできなかったように思う。

ゲームでも、あの時点ではレオは婚約を解消しようとはしていなかったし、私もそのように告げられてしまった。


尋ね方の問題で、愛云々については特に言及されなかったけれど、心のうちはさして変わらないはずだ。


入学して、アイリスに出会ってしまえばーー



「今のところ、だもんね」


彼は私との婚約を破棄したがることになるはずだ。

ゲームのオリビアの気持ちを思うと、切ない。



気を取り直して、私、オリビア・カーティスは寝室で、学園生活で留意すべきことをピックアップすることにする。


義弟、ノア・カーティスの『魔王ルート』を防ぐために、最低限守りたい点は3つ。


①聖女アイリスとノア・カーティスの恋を成就させること

②オリビア・カーティスが聖女アイリスをいびらないこと

③聖女アイリスを『魔法使い狩り』から守ること



文字にすると割とシンプルである。

②については、自分の行動次第なのでさして問題ではないだろう。

①については、幸いにして、序盤のイベントについては覚えているので、取りこぼしのないよう、ノアを誘導すればいい。ノアの他、レオ皇子とーー、あと3人の攻略対象がいるから、彼らの動きについても把握できる環境作りは必要だろう。



問題は、③ーー。



各ルートで、好感度が一定に満たないなどの特定の条件が重なると、アイリスが『魔法使い狩り』に遭い、『光』の魔法を奪われて、学園から出ていかなくてはいけなくなる、というバットエンドを迎えることがある。

その場合、ノアのルートだろうがそうじゃなかろうが、『光』を悪用する『魔法使い狩り』に対抗するため『闇』の魔法を行使し続けたノアが疲弊し、自身の能力の暴走の結果、『魔王』になってしまう、という展開になる。



基本的に、『聖女アイリスの数奇な運命』は、乙女ゲームとしては難易度が低いので、普通にプレイしていればこのような展開になることは滅多にないのだが、それでも注意はしておくべきだろう。



「私の水の能力は頼りないけどーー」



そこそこ能力があるほうではあるが、いざと言う時アイリスを守れるほどか、というと自信はない。

これについては、要努力だ。



「さて……①〜③をクリアするにはどうしたらいいかな……」



逡巡するが、やはり。



(アイリス・エアハートと仲良くなるしかない)




ゲームのシナリオに逆らうのであれば、その反対を行けばいい。

私はベッドに倒れ込み、見慣れた天井に向かって、大きくガッツポーズをした。

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