第十四話 〜とりあえずチュートリアルをこなしました?〜
レオはノアの横に並ぶ。私の前に、2人が立っている状態だ。こんな状況なのに、レオはひらひらと私に手を振ってみせる。
「さてノア、ちょっとだけ隙を作ってもらえるかな? 」
視界の端で、エリオットが『声』を強く使って混乱した生徒たちを収め、少しずつ避難を誘導している。先程はうまく指示が通っていなかったが、どうやらジェイドが混乱する人たちを風で動かし、少し落ち着いて動けるようになったらしい。
そして私たちの前にはアルバートがついていた。振動で飛んでくる物品を払い、守ってくれている。
エリオットはすぐに高位の魔法使いを呼ぶ手配をしてくれた。あと2、3分で到着するだろう。
「皇子じゃなかったら無視してますよ」
ノアは身体の前で両手を組み、目を閉じて小さく何かを唱えた。するとあたりに黒い魔法陣が浮かび上がる。ノアから魔力の波動が出ているのがわかる。
闇魔法ーー。死した魂を媒介にする力。
魔法陣から黒い矢のようなものが飛び出して、蛇と男子生徒を繋ぐ部分に突き刺さっていく。
「さすがだね、ノア」
「結構きついんですけどね、これ。絶対逃げたほうがいい……」
「そう言わずに。いいとこ見せたくないの? 」
黒い蛇はだんだんと揺れていき、形を崩していく。とうとう形を保てなくなった黒いもやは、勢いよくこちらに向かってくる。
「ありがと」
レオは小さな銃を取り出して、もやに向かって放つ。
発射音はさほどでもないが、次の瞬間、耳をつん裂くような音がした。雷鳴。
もやは紐状になった雷に捕らえられる。火花が散る音がする。白と青からなる閃光が、少しずつもやの勢いを減らしていく。
アルマイア帝国の要は、王族の技術力ーー。
ゲームでは、レオの銃は後半にやっと登場する。魔法と機械技術を組み合わせた特殊な物で、自然の雷と同じ威力の電気がレオの望んだ形で発射されるというものだ。
人間に直接当たると当然黒焦げになるが、魔法で効果対象を制限できるため、大勢の人がいる中でも安全に使用できる。
「うん、なかなかいい感じ」
レオは普段より楽しそうだ。
段々と力がなくなり、地に落ちたもやーー、もはや小さな黒い塊を、レオは思い切り踏み潰した。
すると黒い砂のようなものに形状が変わり、やがて小さな赤い宝石がそこに残った。
黒い蛇と繋がれていた男子生徒は朦朧としていたが、意識も息もあった。顔色もそこまで悪くなく、私はホッとする。
「レオ皇子、これーー」
「うん、『魔法使い狩り』だね。面白いことに、結界が破れた様子はないのに、入り込んでるみたいだ」
肩で息をしている男子生徒の首筋に、少しずつ赤いあざが浮かび上がる。
黒い十字に片翼の紋章。『魔法使い狩り』が好んで使用する印がそこにあった。