プロローグ
運命とはいつも唐突である。
そして大体、なんの気配もないものだ。
私、オリビア・カーティス12歳ーー、この国の侯爵家の一人娘だーー、は、今日も今日とてのんびり自宅付近を歩いていた。
隣には、ノア・カーティス10歳ーー、私の可愛い、だけどだいぶ口うるさい義理の弟がいる。
「姉さん、ちゃんと前見て歩きなよ」
「大丈夫大丈夫、それなりに運動神経いいから」
段々と春めいてきた景色。侯爵家自慢の庭園は、色とりどりの花々で彩られ、目を、心を楽しませてくれる。私は春が大好きだ。
暖かくて、綺麗で、なんの不幸も起きないーー、そんな雰囲気が立ち込めているから。
「あ、見て、ノア!あっち、すごく綺麗!!」
柔らかな水色の空と、優しく染まった黄色の花々が視線の先に見えた。私の髪と同じ色。嬉しくなって、思い切り駆け出したその時。
ゴリッ。
「姉さん!!」
ノアの必死の呼びかけ空しく、私の身体は宙を舞う。
私は思い切り転び、先先代侯爵夫人の彫刻に思い切り頭を突っ込んだ。
彫刻は大理石でできていて、とにかく硬い。
痛いとか痛くないとかそういう次元を超えていたため、私はすぐに気を失った。それはある意味幸運だったのかもしれない。
意識が遠のいていく。
ノアの叫び声が、段々小さくなっていく。
そこで私は思い出す。
あまりにもはっきりと、嘘みたいに鮮明に。
私、オリビア・カーティスはーー、
前世の私がプレイしていたゲーム『聖女アイリスの数奇な運命』の悪役令嬢であり、
そのゲームで8割5分がた『魔王』になるノア・カーティスの義理の姉だ、ということを。