第①・3節 面接本番
小一時間ほど経ち、私の番が来た。
執事風の人:「では8番の方どうぞ。」
私:「はい。」
執事風の人:「こちらです。お入りください。」
私:「はい。失礼いたします。」
部屋には3人の面接官がいた。中央に大統領、右に副大統領、左に大統領夫人である。部屋の中央あたりに、パイプ椅子が1つ置いてあった。私は誰かの指示があるまでその場で立っていた。はじめに声をかけてきたのは、20代前半ぐらいの大統領夫人だった。
大統領夫人:「どうぞ、おかけください。」
私:「はい、ありがとうございます。」
大統領夫人:「では、自己紹介からお願いいたします。」
私:「はい。曽我宗和、45歳、仕事はパソコン塾とパソコンの修理をしています。この度は、大統領に茶道を指導するため、くじに当選して、ここに来ました。」
大統領夫人:「茶道の指導者ですね。では今回の抽選がどのような目的で行われたか知っていますか?」
私:「確か、文科省が中心となって、日本伝統芸能を活性化させるために大統領自ら体験し、宣伝するというものだったと理解しています。」
大統領夫人:「なるほど。では、大統領の茶道の師はどのような基準で選ばれたかご存じですか?」
私:「わかりません。裏千家に淡交会費を払っているだけで、特に抽選に応募した覚えもないです。」
大統領夫人:「そうですか。私からは以上です。副大統領、お願いします。」
私は副大統領の方をじっと見つめた。60歳は越えているだろうか、けっこう渋めのおじさんだ。
副大統領:「あなたが知る、茶道とは何かを教えてください。」
私:「様々な人に、できるだけおいしい抹茶と静かな時間、楽しいひと時を提供するための芸道だと思っています。」
副大統領:「具体的には、何を教えるものですか?」
私:「普通は茶道の道学実を一通り勉強すると思います。道は道徳で、おもてなしの心を学びます。学は学問、茶道に関連する知識を学びます。実は実技で、客に抹茶を出すまでの所作を学びます。」
副大統領:「あなたには何が教えられますか?」
私:「道徳も実技も人に教えられるほどのものはないと思いますが、茶聖・千利休については多少勉強しています。」
副大統領:「わかりました。私からは以上です。大統領、お願いします。」
私は大統領の方に目を移した。30代だというが、まだ20代前半と言ってもいいくらい幼い顔の美青年だ。
大統領:「では、何か話したいことがあれば聞こう。」
少し考えた私は、岡倉天心著『茶の本』にある「最後の茶会」の話を思い出せる範囲で話すことにした。
私:「では、岡倉天心という人が書いた『茶の本』から、千利休が最後に開いた茶会の話をさせていただこうかと思います。」
大統領:「いいね。それで行こう。」
私:「はい。」