第12・2節 心は、あなたと共に
そして、5ケ月が過ぎた。
大統領:「この度、7回に渡り開催した日本伝統芸能改革を通し学んだこと、それは日本人の心でした。皆様、第1回の入社式で私が語った、千利休が行った最後の茶会の話を、覚えておいででしょうか。現在まで脈々と受け継がれているわび茶を大成した千利休。彼が豊臣秀吉に切腹を言い渡され、最後に催す茶会での話です。利休は、弟子たちに茶道具の形見分けをします。そして、自分が口を付けた茶碗だけ、手元に残しこう言います。
不幸な者の唇によって汚された茶碗を、他人に使わせてはならない。
利休はその茶碗を粉々に砕きます。私ははじめ、切腹を前にした潔い行為だと思いました。ですが、本当は違ったのです。」
大統領は会場全体を見渡し、少し間を開けてから語りだした。
大統領:「砕くという行為自体が大事ではなく、弟子達を自分と同じ目に合わせたくないという心が大事だったのです。ご存じの方も多いと思いますが、本日、私は父親になりました。息子の名は宗和。日本人の心として、茶道のわび茶の心を受け継がせます。人を敬い、謙虚であると同時に、媚びることのない心を受け継がせたいのです。私は毎週、文部科学大臣と抹茶を飲み、互いにわび茶の心を語らいました。新しい日本に必要なこの心は、文部科学大臣の共感を生み、1つの事実を浮かび上がらせたのです。」
大統領は、水を一口飲み、演説を続けた。
大統領:「私の茶道の師は、今も病院で眠り続けています。この事故がなぜ起こったのか。私はこの5ケ月で真相を突き止めました。それが副大統領の指示で起きた事件であると。」
副大統領は立ち上がり、こう叫んだ。
副大統領:「大統領、何を言っているのでしょう。根拠も何もない話を、記者会見で言うなど、いい加減にしていただきたい。」
大統領:「文部科学大臣にも同じことが言えますか。あなたが直接指示をした文部科学大臣にも。」
副大統領:「何を言って・・・。」
副大統領は文部科学大臣の笑顔を見て愕然とし、再び座ってしまった。
その後、大量のフラッシュがたかれ、会場は騒然となった。
大統領:「先生、かたきは取りましたよ。」
同時刻、病院で一人の命が失われた。
享年45歳。
死に顔はとても穏やかだったという。