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君と過ごした日々 ー新大統領の茶道の師ー  作者: shoundo
第3章 忘れえぬ日々よ
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第11・6節 別れ

翌日、デモンストレーションのリハーサルが無事終わり、1日休息した後、本番を迎えた。リハーサルと同じく、引率の先生にお願いする程度で、学生たちが良く働いた。結果、何事もなく終了した。引率の先生が帰った後、大統領は私に話しかけてきた。


大統領:「お疲れ様、先生。」


私:「お疲れさまでした、大統領。」


大統領:「さっそくなんだけど、提案があるんだ。」


私:「はい。なんでしょう。」


大統領は一呼吸おいて、話し始めた。


大統領:「正式に、僕の茶道の先生になってほしい。時期は日本伝統芸能改革が終わってからになるから、今年の秋か冬だろうけど。」


私:「私はお点前の技術ができていません。大統領に、本格的に茶道を教えるのは難しいと思います。大統領なら御家元などに、直接、指導していただけると思いますが。」


大統領:「僕は先生が良いんだ。先生と抹茶を飲んで、一緒にホッとする時間を共有したい。だめかな?」


私:「返事は、今すぐですか?」


大統領:「確かに、今すぐ決める内容ではないかもね。一度、実家に戻って、落ち着いてから返事してくれれば良いよ。先生から大統領府の総合受付に連絡をくれれば、僕に繋がるよう指示しておくから。」


私:「ありがとうございます。一生懸命考えて、必ずお返事します。」


大統領:「ああ、待っているよ、先生」


二人は立ったまま、茶道のお辞儀をして別れた。これが大統領との最後の別れであった。


私は、各施設長や寮長に挨拶を済ませ、食堂で食事をした後、用意されていたバスで上野駅まで送ってもらった。

北海道方面の電車が出るまで3時間以上あった。


私:「せっかくだから、上野の美術館を観てから帰ろうかな。」


私はタクシーに乗り、上野の美術館方面へ向かった。

そして事故が起きた。

それ以降、私の記憶はない。

誰の声も聞こえず、何も見えない空間。

ただ、ほのかに暖かさを感じた。


私:「暖かいな。そうか、抹茶を飲んでいたのか。また大統領と一緒に飲みたいな。」


タクシーの運転手が聞いたそれは、私の最後の言葉だった。


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