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君と過ごした日々 ー新大統領の茶道の師ー  作者: shoundo
第3章 忘れえぬ日々よ
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第11・5節 最後の茶会の真意

第8週5日目、大統領は少し早めにやってきた。


大統領:「先生、少し早かったけど大丈夫かな?」


私:「はい、準備万端、整っています。」


大統領は席に着き、私は薄茶の平点前を始めた。


大統領:「じゃあ、昨日の続きをお願いね。」


私:「はい。人は見た目で判断することが多々あります。ですが、その人の考えや人間性は見た目や行動だけではわかりません。大統領、茶の湯は心を伝えるものです。行為そのものを見るのではなく、心を見てください。『利休百首』にこんな一首があります。


茶の湯とは ただ湯をわかし 茶をたてて

のむばかりなる 事と知るべし


茶道というのは、ただ湯を沸かして茶を点てて、飲むだけのものだという意味です。」


大統領:「それだけ?」


私:「行為だけを見れば、それだけです。ですが、一期一会を踏まえてみれば、単純であればある程、おもてなしできる範囲が狭く、厳しいものになります。」


大統領:「そうか、ただ茶を飲ませただけで、客を満足させないといけないからか。」


私は大統領に干菓子を勧めた。


私:「昨日、私は、利休を親、弟子を子に例え、茶碗を割る行為が親心だと言いました。親は何の見返りも求めず子供を育てます。この見返りを求めない行為だけでは、茶道でいう一座建立にはなりません。そこで一座建立を成立させるための行為、弟子たちに形見分けをさせないという見返りが必要だったと思います。」


大統領:「もし茶碗を割らなければ、結局、弟子たちの形見になるから、ただの奉仕ということか。茶碗を失わせることで、親心を伝え、茶道としての振る舞いも見せたということだね。」


私:「お見事です。最後の茶会が終わり、弟子たちは涙ながらにその場を後にします。利休の親心を受け取り、次の世代へ利休の茶の湯を伝える為に、弟子たちは、最高の一座建立を演出したのです。」


私は茶碗を出し、大統領は薄茶を飲んだ。


大統領:「これは、最高級な薄茶だね。」


私:「はい、最後の授業くらい、私も飲みたいと思いまして、最高級な薄茶をお出ししました。デモンストレーション本番まで、あと3日です。何服か練習して、おいしく飲みましょう。」


大統領:「そうだね。」


大統領が茶碗を返したので、私は茶碗を取り込んだ。


大統領:「おしまいにしてください。」


私:「おしまいにさせていただきます。では、点前のしまいつけが終わり次第、すぐ薄茶を点てる練習をしましょう。」


その後、二人は二服ずつ薄茶を飲み、大統領は満足して帰っていった。


私:「この和室も今日で最後か。さて、道具を片付けよう。」


茶道具を片付けた後、各施設長に御礼をした。皆一様に別れを惜しむ言葉を掛けてくれた。私は翌日のリハーサルに向け、今日は早めに眠ることにした。


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